この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
お待たせしました。第九話です。
[第九話 ガブリアスの真意]
バシィッ!
ガブリアスの紺藍の腕とハヤテの黒色の脚が空中で激突した。相殺された力はお互いに反発力だけを返し、2匹は互いに間を取りながら着地した。
「ガブリアス、何故お前がツンベアーと共に悪事を働いているんだ!里にはお前のことを思うポケモンもいるのだぞ!」
「ほう、ハハコモリからでも聞いたのか。」
ハヤテの叫びにガブリアスは静かに答えた。
「確かにハハコモリは俺の幼馴染だが…昔の話だ。俺にはやはりこのような生活が合っている。」
「ガブリアスっ…!」
「お前には悪いが、俺も負けるわけにはいかないんだ……。」
ガブリアスは「俊足の種」を食べ、素早くハヤテの胸元に移動した。そしてハヤテが声をあげるより先に、ガブリアスはハヤテを突き飛ばし離れた。
「ぐっ……」
ハヤテは波導を解放し、ガブリアスを威嚇しつつ、説得する。
「考え直せ、ガブリアス!彼女はお前が盗賊団にいることを知っていながら、それでも尚、お前のことを心配していたんだぞ!」
それでもガブリアスの返答は変わらない。
「なんど説かれても俺の答えは変わらない。もうあの里に対する思い入れはない。」
「そうか……なら……」
ハヤテは体勢を低くし、攻撃の構えをとり、そして2匹は同時に飛び出した。
「力ずくでつれ戻す!」
「出来るものならな!」
ドォン!
力のぶつかり合う、強い衝突音が響き渡った。
◆◆◆
ズシ…ズシ……
一方、その頃ツンベアーは洞窟の中を歩いていた。静かな洞窟に、ツンベアーの足音が鳴り響く。
ズシ…ズシ…ズン………
やがて、ツンベアーは洞窟の奥まで来て足を止めた。
「よう、調子はどうだ?」
「…………」
ツンベアーはそこにある小さな檻に向かって声をかけた。だが、檻からは返答がない。
「おいおい、シカトすんなよ。お前には色々と話を聞かせてもらいたいんだよ。なぁ、ヒノアラシ?」
「…気安く…わたしの名前を呼ばないで下さい…!」
その少女、ヒノアラシは檻の中で顔を伏せながら、それでも苛立ちのこもった声を絞り出した。
「そう怒んなって。これからお前と俺たちはしばらく同じ行動を取るんだからよ。」
「あなたなんかと一緒だなんて考えたくない…!」
ヒノアラシは顔を上げ、ツンベアーを睨みつけた。
「ハハッ、言うねぇ。俺そういうの好きだぜ。」
ツンベアーは愉快そうに笑っている。
「あなたなんてすぐにハヤテさんたちに倒されるだけです!」
ヒノアラシは目に涙を浮かべながらそう叫んだ。そしてまた、俯いた。
「んっ、おっと、そうだった。そのハヤテが今来てるんだよ。それをお前にも見せてやろうと思ってな。」
「…えっ!」
少女は驚き、顔を上げた。
「…本当なんですか?」
「嘘なんかつく必要ないだろ。」
ツンベアーは素っ気なく答えた。
(ハヤテさんが来ている…?)
ヒノアラシの表情はハヤテが助けに来ていることから、少し嬉しそうにも見える。だが内心、複雑な気持ちでもあった。
(あの時、ハヤテさんもツバサさんも酷いダメージを受けていた……あれから1日ぐらいしか経っていないのに、ハヤテさんはもう…私のために……)
ヒノアラシは自分のためにハヤテが体を張り、怪我をすることが嫌だった。だから、ハヤテには来てほしくないという気持ちが、ヒノアラシの気づかない心の奥にあったのかもしれない。
「何ボーッとしてるんだ?今からお前の好きなハヤテに会いに行くってのに。」
いつの間にかツンベアーは、檻を抱え、外へと歩き出していた。
◆◆◆
「はあっ!」
「おらっ!」
バキィッ!
外ではハヤテとガブリアスの激しい戦いが続いていた。両者とも一歩も引かず、勝負は全くの互角だった。
「おお〜、やってるな♪」
ツンベアーが下の洞窟から出てきた。側には檻に入れられたヒノアラシもいる。
ハヤテがヒノアラシに気づいた。
「ヒノちゃん!大丈夫か!?」
「ハヤテさん!」
ハヤテはヒノアラシの元へ駆け寄ろうとしたが、
「待てよ、まだ戦いの途中だろ。」
その目の前にツンベアーが立ちふさがった。
「くっ……」
「ハヤテさん!わたしはいいので2匹を倒して下さい!でも、危なくなったら逃げて!」
檻の中からヒノアラシが必死に叫ぶ。
「危なくなったら逃げろ…か。」
ツンベアーはそう呟くと、ヒノアラシを睨みつけた。ヒノアラシはツンベアーに睨まれてビクビクしている。
「さて、ハヤテ、ここからは二対一だ。明らかにお前が不利だが…まぁ、精々頑張りな。」
そう言い終わるとツンベアーは、ハヤテに向かって《冷凍ビーム》を放った。
ハヤテはそれを軽く避けると《神速》で加速し、棍棒を横向きに構え、ツンベアーの目の前でジャンプし、彼の首元を狙う。
ツンベアーは素早く目の前に氷塊を作り出した。
バリィン!!
ガラスの割れるような音が響き、砕け散った氷の欠片が光に反射しキラキラと光る。ハヤテはその中を突っ切ると、再びジャンプし、ツンベアーめがけ棍棒を横向きに振り抜いた。
「よっと……」
ツンベアーはそれを屈んで避け、棍棒が自身の頭上を通過したのを確認すると、空中のハヤテに向かって強烈なパンチを打ち込んだ。ハヤテは空中で体勢を変え、握りしめたツンベアーの拳に足をかける。
「ふっ……」
そのままパンチの勢いで後方に飛ばされ、ハヤテは空中で回転しながら着地した。
すると、ツンベアーの後ろから、素早くガブリアスが飛び出し、ハヤテに向かって《ドラゴンテール》を繰り出した。
ズドン!
ハヤテは後退して辛うじて避け、《ドラゴンテール》は目の前の地面を陥没させた。
ガブリアスは土煙から飛び出し、鋭いツメでハヤテに連続攻撃を仕掛ける。ハヤテはそれをうまく避けつつ、ガブリアスに回し蹴りをする。ガブリアスはそれを腕で受け、後ろへ退いた。
「ははははっ!やっぱ楽しいぜ!」
ツンベアーは楽しそうに笑いつつ、その大きな手を握りしめた。
「だが、お前との戦いをずっと続けてられる程、俺たちには余裕がないんでな、アレの準備もしなければならねぇしな。」
…アレ…?…準備…?
ハヤテはツンベアーの言葉が気にかかった。
「おい、『アレ』とはなんだ?」
ハヤテはツンベアーを睨みつつ、そう聞いた。ツンベアーはしまった、というような顔をしたが、すぐに表情を元に戻すと、怪しげな笑みを浮かべた。
「いや、気にすんな。お前は知る必要のないことだ。」
「まだ何かするつもりなのか…!?」
「ん〜……知りたきゃ俺に勝ってみろ、よっ!」
言い終わると同時にツンベアーは素早く飛び出し、ハヤテに向かって強烈なパンチを叩き込んだ。
「なっ!しまっ……」
た、と言う前にツンベアーの拳がハヤテの左頬を直撃する。ツンベアーの心情を読むため、再び波導を解放しようとしていたハヤテは、それをまともに受け弾き飛ばされてしまった。
「がああっ!」
さらにツンベアーは倒れたハヤテを掴み、羽交い締めにした。
「ガブリアス!止めはお前に任せるぜ!」
ツンベアーの呼びかけに応じ、ガブリアスは前屈みの体勢をとった。
「ツンベアー、しっかり押さえておけ!動くなよ!」
叫ぶと同時にガブリアスが飛び出す。
(まずい、このままでは……)
ハヤテはツンベアーから抜け出そうとしたが、ツンベアーの怪力の前には無意味だった。
「ハヤテさん!」
檻の中からヒノアラシが必死に叫ぶ。
「ドラゴンクロー!」
ガブリアスが突撃し、そして、
バキィッ!!ドサッ……
鈍い音、倒れる音が響いた。
◆◆◆
「があああっ!!」
叫び声が上がる。倒れたのは……
「うごぉっ、てめっ、ガブリアス!」
…ツンベアーだった。顔面を押さえて地面をゴロゴロと転がっている。
「ナイスタイミングだ!ガブリアス!」
「ああ、上手くいった!」
ハヤテとガブリアスはお互いに手を合わせ喜んでいる。
「ガブリアス!裏切ったのか!?」
ツンベアーが鼻を押さえつつ、怒りの形相でガブリアスを睨みつける。
「仲間だと…思っていたのか…?」
ガブリアスは立ち上がりツンベアーを見下ろす。
「お前と仲間など…考えたくもない…!」
ガブリアスはツンベアーを強く睨みつけながら言った。
「もし、仲間があるとするならば……」
ハヤテも立ち上がり、ガブリアスと並ぶ。
「「それは、俺たちのことだ!!」」
2匹は同時に叫んだ。
◆◆◆
[盗賊団 ブラックウォール メンバー]
ツンベアー
盗賊団「ブラックウォール」リーダー。年齢不詳。
自身の欲望のために緑の里を襲ったポケモン。戦闘を好んでおり、強いポケモンと戦えることを喜ぶが、負けそうになると卑怯な手を使うこともいとわない。自身もまた、高い実力を持つ。
ガブリアス
盗賊団「ブラックウォール」メンバー。44歳。
かつてハハコモリやリザードンとは幼馴染だった。現在はツンベアーと共に行動しているが、その真意は不明。戦闘の実力はあるが、ツンベアーには劣る。
いかがでしたでしょうか。盗賊団「ブラックウォール」、その名を見るたびに「マジでダサい」と思ってしまいます。ダサいのは事実ですし。