第109話 ポケモンリーグ・シロガネ大会 前夜
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「わああっポケモンリーグおっきーい!」
「ったくよォ~、明日になりゃ大会当日だろ? どうしてこんな時間に様子見に来るんだよ……」
大会前日、四月三十日。こんな時間とは夜の十時。いつものワカバタウンなら静まりかえる時間帯なのだが、大会前日となると話は別。
リーグ関係者、カメラ、マイク照明など大荷物を抱えた報道陣やら、はたまた明日から行われる戦いに目をギラつかせた挑戦者達やら。ライトで照らされたポケモンリーグは神々しく輝いているように見えたが、この場にいる全員にポケモンリーグ全体が見えたわけではない。
ワカバタウンの東郊外、住宅街などがあまり密集していない地区でマイは白色の、ゴールドは黒色の色違いのパジャマ姿で大会の様子を見に来ていた。まだリーグ内には入れずに警備員とヨルノズクが鋭い眼光で辺りを警備していた。
「ほえ~人がいっぱぁい。すごいねー。なんだか暑いや!」
「なーんか抜けてんなぁ……。今からそんな様子で大丈夫かよお前。でも、まァ明日は予選だしな。気楽に、と言いたい所だけどよ気合入れて行けよ!」
「うん! とりあえずがんばるよ!」
「…………それが心配なんだよなあ……」
それぞれの熱気がリーグ会場外に溢れ出ていて、普段は鈍感なマイでも感じとれていた。額にはうっすらと汗がにじみ出ていてゴールドがパジャマの袖口で荒くふき取ってから背中を叩いてやる。それに応えようと両手の拳をグーにして掲げながらマイは声を少しだけ大きく出した。
「じゃっ今日は帰って寝るとしよー!」
「お前が連れて来たんだろ? 寝坊するわけにも行かないし、さっさと寝るぞ!」
「おーっ!」
回れ右をして家に帰る二人。ゴールドの家の裏口から母親にバレないように出てきたので、マイは「帰って見つかったら怒られちゃうかなぁ。でも冒険みたいで楽しいね」と星の散りばめられた夜空を仰ぎ見ながら呑気に言った。
◆◆◆
同時刻、コウとアヤノはポケモン塾の一室でお互いに黙って布団に潜っていた。
寝ている訳ではない。お互いに起きているし、それにお互いは気がついている。夜はあまりにも暗い考えが浮かんでしまう。
「…………」
「…………」
コウは布団の中に頭の先まですっぽりと被るように、誰にも見られたくないように息を潜めて。反対にアヤノは顔だけ出して真っすぐ天井を見つめて強い意志が見れた。
「ねえ、コウ」
「……ん、どうし、た?」
呼びかけに少しの間が空いて、不安で潰れそうなか弱い声が戻ってきた。アヤノは布団から出るとコウの布団に近寄る。隣同士で寝ている為、気配で察したコウが布団の中で動いたのだろう大きく布団が揺れた。
アヤノはその布団をめくる訳でもなく、布団のふくらみから頭の位置が何となく分かり何度も何度も撫でてやる。
「私ね、こんな感覚始めて」
「緊張してるって事か?」
ゆっくりと壊れ物を扱うように撫でられて落ち着いたコウが平静を取り戻す。ひょっこり顔まで出した。
「いえ、バブみを感じているわ」
「ば、ばぶ? ばぶみ?」
「なんでもないわ! 忘れてちょうだい」
アヤノは時々知らない単語を使って話してくる、と不安から逆転して先に大人になってしまったようなアヤノに嫉妬する。
「おやすみ!」
「ええ、おやすみなさい」
目を閉じると聞こえてくるのは、時計の秒針の音。ちくたく、ちくたく。普段なら何とも思わない、むしろうっとうしくも思うこの音に今夜だけは鼓動に合わせてもらって優しく眠りにつく。
◆◆◆
(明日からポケモンリーグ。俺はバッジを集める力もないし、ポケモンを完璧に指示出来る力もない)
たった一人でソラはワカバタウン、ポケモンセンターの宿部屋で一人掛けのソファーに座り、テレビを見つめていた。それは前回のポケモンリーグの映像で、自分がどのようなバトルをするのかイメージを固めていた。
(だけど、だけど)
赤い帽子を被った黒髪の少年と髪をツンツン逆立てた茶髪の少年の戦いを見ながらソラは悶々と自分と戦う。
テレビ画面には赤い帽子の少年が勝利を収め、バトル相手と握手を交わしていた。最後まで戦い抜いたフシギバナは嬉しそうに両触手で赤い帽子の少年の頭を撫でまわしている。対戦相手の少年は最後の最後まで力を抜かずに戦いきったリザードンに声をかけていた。
(俺にはポケモンと心を通わせることが出来る。このポケモン達と一緒なら俺だって戦えるさ)
考えがまとまったのか、ソラは座って居た合皮のソファーから立ち上がりテレビの電源を消すとモンスターボールをテーブルに並べて満足げな顔をし、にこっと言う効果音がぴったりな笑顔を相棒たちに見せた。
それぞれの想いがあるが、全員気持ちは同じ――
『ポケモンリーグ・シロガネ大会で優勝すること』
リーグ開催まであと十四時間!