第六話 少女の叫び

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

お待たせしました。第六話です。
[第六話 少女の叫び]

ヒュオオオッ……

《絶対零度》の冷気がツバサに迫る中、ツバサはほとんど意識を失っていた。出血量が多すぎたからだ。

「すぐに楽にしてやるよ……」

冷気がツバサまであと少しまで来たその時、

ドゴオオーン!

辺りに轟音が鳴り響く。冷気が放射状に広がり、ゆっくりと消えた。

「俺の『絶対零度』を…止めたのか…?」

ツンベアーは若干驚きながらもそこに立つ者を見て不敵に笑みを浮かべている。

「クハハハ…今度はお前が相手か……」

そこには青く透きとおったガラスのような壁とそれを構える1匹のポケモンが立っていた。

「はあ…何とか間に合った……」

「ガブリアスと戦っていたんじゃないのか、ハヤテ?」

そのポケモン、ハヤテは全身に青いオーラを纏いながらツバサの状態を確認する。

(酷い傷だ、出血量も多い。すぐに傷を塞がねば危険だな……)

ハヤテはツバサを抱えると、傷口に波導を纏った手を当てた。すると傷口は緑色の光に包まれ、少しずつ塞がっていった。

「ほう、ルカリオ特有の波導治癒能力か……便利な力だ……」

「さらにそれは他者の心をも見透かすようだ、それが奴の強さの大きな要因になっているがな。」

後ろからガブリアスがやって来た。

「ガブリアス、ハヤテとやりあってたんじゃないのか?」

「戦闘中にいきなりいなくなるのでな、後をつけてみた訳だ。しかし奴は波導使いとしてかなり完全なようだ。俺の『砂嵐』での戦法を波導を使って初めて破ったからな。あの青いオーラは奴の波導使いとしての力が相当なものだということを示している。」

2匹が話しているうちに、ツバサの傷は塞がり、ツバサの呼吸も落ち着いてきた。続いてハヤテはバッグから取り出したオレンの実をすり潰し、溢れた果汁をツバサの口に流し込んだ。

(傷は…塞がったか……もう大丈夫だろう……しかしツバサがここまでやられるとは……あのツンベアー、相当厄介な敵らしいな……。)

ツバサの頭を静かに寝かせると、ハヤテはゆっくりと立ち上がった。

「さて、続きをやるか、と思ったがお前やけにきつそうだな。ふらついているぞ。」

「ぐうっ……」

確かにガブリアスの言う通りだった。先程と比べ、ハヤテの息は上がっている。

(はあ…はあ……やはり波導を使いすぎてしまった……体力がもう……)

ルカリオの使う波導での治癒は効果は大きいが、その分使用者にかかる負担は相当なものとなる。それは傷が大きければ大きいほど、負担も大きくなるのだ。今回ツバサはかなりの重傷を負っていたが故に、応急処置程度ではなく、傷を完全に塞がねば命の危険があった。そのためハヤテも、かなりの波導を使ってしまったのだ。

「まあ、お前の体力が少ないということなど、私には関係ないが。」

ガブリアスはゆっくりと前屈みの体勢になると、頭部に力を込めた。そしてそのままの体勢で飛び出した。

「砕けろ…アイアンヘッド!」

ズウゥン!

「がはっ……」

フラフラのハヤテは立っているだけで精一杯であり、ガブリアスの攻撃を避ける体力は残されていなかった。たちまちハヤテは吹き飛ばされ、意識はあるが倒れたまま立ち上がれなくなってしまった。

「もう終わりのようだな。まあ、俺としては十分楽しめたよ。」

ガブリアスがゆっくりとハヤテに近づいてきた。

「お前たちの冒険はここまでだ。あとはゆっくりと休むがいい。」

ガブリアスはハヤテを掴み、持ち上げた。

「うぐっ……」

「一気に首を切り裂く。苦痛を感じる必要はないさ。」

ガブリアスはバッグより「鉄のトゲ」を取り出すと、それを持ったまま腕を高く上げた。

「安らかに眠れ……」

ガブリアスはそれをハヤテの首めがけ振り下ろした。その瞬間、

「待って!!」

突如辺りに大きな声が響いた。ガブリアスはその声を聞き、手を止めた。ハヤテが声のした方を見ると、

「ヒノ…ちゃん…!?」

そこにはあのヒノアラシがいた。ずっと走ってきたのだろう、荒い息をしている。

「へぇ、お前はあの時おれが殴った……どうしてここへ?」

「凄い音がしてハヤテさんたちが心配になったの!ハヤテさんと、ツバサさんを離して!」

「ほぉ……こいつらと知り合いか……だが嬢ちゃん、残念だがそいつは無理だ。邪魔な存在は早めに消しておかないとな。」

不敵な笑みのツンベアーのその回答に、少女は一瞬何かを考えるそぶりを見せると、再び大声を張り上げた。

「だったら…だったら、代わりにわたしを連れてって!」

「へぇ、こいつらをかばってお前が捕まりたいと、いいのか?俺たちはお前に何するかわからんぞ?」

ニヤニヤと凍えるような笑みを浮かべるツンベアーに、少女は一切物怖じせずに叫び続ける。

「わたしはどうなってもいいから、ハヤテさんたちを助けて!」

「ガハハッ、自分を犠牲に仲間を助ける…か。いいだろう、お望み通り、あいつらは助けてやろう。」

ガブリアスが無言でハヤテを投げ降ろす。
ヒノアラシはハヤテの方へ向き直った。

「ハヤテさん……わたしたちのために戦ってくれて嬉しかったです。わたしは行きます。みんなを守るために……」

「ダメだ!行っちゃいけない!」

ハヤテは何とか立とうとしたが、

「おっと、助けてやるんだから大人しくしとけ、」

ツンベアーに足蹴りされて倒されてしまった。

「ぐうっ、ヒノちゃん…!」

「ハヤテさん…ごめんなさい……」

申し訳なさそうに少女は頰に涙の筋を作った。

「おい、さっさと行くぞ。」

「ああ、お前もさっさと来い。」

ガブリアスとツンベアーは先に歩いていく。少女は一瞬だけ2匹に目をやると、急いでハヤテの元に走り、2匹には聞こえない声でハヤテに言葉を送った。

「あの2匹はとても強い……敵う相手ではないみたいです。だから……」











「必ず…助けに…来てくださいね……」










「おい!何してんだ!行くぞ!」

ツンベアーの怒鳴り声を聞き、少女は急いで走っていった。

「うう…ダメだ……意識が…遠く……」

ぼやける視界の中に、辛うじて少女の姿が見える。だが、それも、少しずつ暗くなり、やがて全てが消えてしまった。

「ヒノ…ちゃん……」

ハヤテの意識は…そこで途絶えた……
いかがでしたでしょうか?ハヤテとツバサがやけに弱いのは初期設定。これからどんどん強くなっていきます。

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