43話 復讐者から父親へ

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

アジト内でヴェレーノと一対一の戦闘をしていたシャルル、自然の力を駆使し戦況をこちらへと傾ける中、ヴェレーノがコードの負荷に耐えきれず、意思を持ったまま不可解な暴走をはじめてしまう。
〜ヴェレーノアジト外〜

ヴェレーノ「コロス…コロス…コ、コロ…。」

自身の放った衝撃でアジトが崩れていく中、ヴェレーノは背後など気にせずに目を赤く血染めながら前へと進んでいた、もう全てがどうでも良くなっていた…どんな結果になろうとも、最終的にシャルルを殺せれば…とヴェレーノの頭の中はシャルルの殺し方で一杯だった、今までの状態ならきっと「効率が悪い」で手を引けたはず…しかし今のヴェレーノはそんな判断力さえも捨て、最低限の意思で己の(力)へと変換していた。


ヴェレーノ「ミツケタ…!」

岩場で辛そうに汗を流しながら座り込んでいるポケモンを目に捉え、思わず不気味に笑う…触手は既に構えられていた…血を欲していた…恐怖という快楽を心の底から求めていた…。







デンリュウ「…ケホッ…つっ…!」

イーブイ「ブイ…。」

デンリュウ「ご、ごめん…私は大丈夫…君だけでも先にここから…。」

イーブイ「ブイ!」

デンリュウの言葉に首を振り、シャルルに丸ごと手渡されたバックの中に戻るイーブイ…デンリュウもそれを見ると重い身体に鞭を撃ちゆっくりと立ち上がった。

デンリュウ「同じ運命を行きたいの…強いんだね…。」

ビュンッ!!

デンリュウ「なっ…!!」

後ろからの殺気と同時に一本の触手が飛んでくる…反射でバックを持って飛び、躱した時には先程もたれ掛かっていた岩は既に派手な音を立てて無くなっていた。


ヴェレーノ「ヨケタ…?」

デンリュウ「ヴェレーノ…!?、だとしたらボスゴドラは…!」


ズガアアアアァァァァン!!


デンリュウ「嘘…でしょ…!」

イーブイ「……?」

目の前に起きる現実がデンリュウには受け入れられない…ヴェレーノの背中に見えたアジトは遂に全壊して形を失った…。

ヴェレーノ「クククッ…アイツ八ドウナッタロウナ…シンダカナ…!!」

デンリュウ「黙れ…!あの子は貴様にやられる程弱い信念は持っていない…!!」

ヴェレーノ「サァ…ドウダカ…モシイキテイタトシテモイマカラオコルゲンジツニタエレルカ…。」

聞き取りにくい片言を機械のように綴るヴェレーノ、そして今の一言にはデンリュウも恐怖を超えて怒りを覚えていた…。



デンリュウ「言わせておけば…!」

イーブイが入ったカバンを安全な所へ軽く放り投げると両手に雷を纏わせる、両者が見つめ合う中…デンリュウは歯を食いしばりながら歪んていく視界を捉えていた。


デンリュウ(毒…縄にでも仕込まれていたか…でもボスゴドラがやられたなんて…信じたくない…この子(イーブイ)だって…きっとそれは同じ…!!)

デンリュウ「ハアァァ!!」

弱ってるとは思えない速さで迫り、ヴェレーノに一発を与える…だがヴェレーノも負けてはおらず触手を3本手刀のように重ね、しっかりと防いでいた。

ヴェレーノ「ククッ…。」

デンリュウ「チッ…!!」

普段のおだやかな性格とは一転、舌打ちと同時に闘争心を剥き出しにしてヴェレーノを睨む。


デンリュウ「こんのっ…!」

バックステップを取り、今度はアイアンテールの回転…触手を2本捌いてからコットンガードで目くらまし、そして死角をついたかみなりパンチ…流れるような攻撃のリズムは崩されることなく、しっかりと攻めている…それなのにヴェレーノの笑みは消えない…寧ろ余裕があるようで余計に見てて不快だった。


ヴェレーノ「ココマデカ…。」

デンリュウ「なんだと……ッ!!」

瞬間足の感覚がなくなりその場でガクリと糸が切れたあやつり人形のように崩れ落ちる…喉の奥からは血の味がし、咳き込んだら吐き出してしまいそうだった…毒の影響だ…とうとうデンリュウの身体にも限界が来てしまっていた。

デンリュウ(そういう…ことか…!私はコイツに遊ばれていた…!毒でどのみち私はもう…倒れるから…。)

もう一度立ち上がろうとするが力が全く入らない…拳を握りしめることがやっとだった…そんなデンリュウにヴェレーノは近づき…。


ドンッ…!!

デンリュウ「かはっ…!?」

デンリュウの身体に重い一刺しをくらわせる、衝撃に耐えられないデンリュウの身体はそのまま勢いに任せるかのように吹き飛ばされ、岩場に叩きつけられる事でようやく止まった…グシャッと音を立てて地面に落ち、痛みは内側の毒だけでなく、外からも出血として与えられる。


デンリュウ「し………か…!」

ヴェレーノ「ム…?」

それでもデンリュウはまだ立ち上がろうとしていた…既に足だけでなく、腕の感覚もピリピリと痺れているがその目の眼光はまだ刃物のように鋭い…。

デンリュウ「まだ…死ねるか…!!」

岩に手をつきながら立ち上がる…食いしばった歯からは血が出ているが痛みは毒のせいで感覚がイカレているためない…それに何方にせよ喉からも出ていたためデンリュウは気にする事はなかった…。

デンリュウ(耐えろ…耐えろ…耐えろ…!!勝機はまだある…!ボスゴドラの言ってることが正しければ今キングドラが村長と呼んでるポケモンを連れてここに来るはずなんだ…それまで…それまでは私が…時間を稼がなきゃ…!)



ヴェレーノ「ムダナアガキヲ…ドウセオマエハ(ヒトジチ)トシテノドウグ…。」

捕らえようと飛んでくる触手を紙一重でなんとか避ける、だが感覚も体力もほぼ無いに等しいデンリュウからしたらもはや避けることも苦痛だった…既に身体は身を落とせ…倒れろと叫んでいるがヴェレーノの言葉が耳から離れず、デンリュウに戦い続ける意志を与えた…。


デンリュウ(人質って言った…ってことはまだボスゴドラは生きてる…。だとしたらコイツの目的は私を捕まえること…遊ばれたのも納得出来る…でも今のコイツは多分…いや絶対に両方を殺す…!どのみち私が足掻くしかない…!)

触手のリーチ(範囲)から抜け出し、辺りを見渡すが二つの崖に挟まれたこの一方通行な場所でもボスゴドラの姿は見えない…キングドラの助けも中身が壊れたコイツ(ヴェレーノ)が相手だと勝てるかどうかも分からない…。


イーブイ「ブイ!」

ヴェレーノ「ム…?」

デンリュウ「えっ…!?」

互いが睨み合う中、第三者の可愛らしい場違いな鳴き声が響く…ヴェレーノはイーブイの方向を見て触手の動きを一度止めた。


ヴェレーノ「アノカバン…ククッ…ソウイウコトカ…。」

イーブイ「イブー!」

イーブイはヴェレーノに向かって勇敢に走り出す、力の差は明らかに歴然だった…まだ小さいイーブイでは(恐れ)という言葉をまだ知らず、その行動は愚かとしか言いようがなかった。


ヴェレーノ「…シネ…。」

デンリュウ「……あぁ…!」

ヴェレーノの攻撃を止めようとするが身体はもうピクリとも動かせない…代わりに呆けたような間抜けな声だけが口から出てしまう、見ていることしかできなかった…悪魔が飛ばす鋭い触手は小さな天使に向かって真っ直ぐと飛び…。



シャルル「…斬れ…!」



ヒュオォ……。

デンリュウ「……えっ…?」


突如上から飛び降りてきたボスゴドラが囁いた言葉と同時に一瞬柔らかい風が吹く…普段ならこんな風はただのそよ風として受け流されていくだろう…しかし今の風は全く違った…引きつけるような風だった…その心地よい風に動きが止まった…その優しい風に目をつぶりかけた…その暖かい風に安心した…そして…。



…その優しい風は天使に刺さるはずだった触手を真っ二つに切り落とした…。





イーブイ「………ブイ!!」


シャルルの風に動きを止めていたイーブイは自分の役割を思い出すと親のシャルル…ではなくデンリュウに向かって必死に駆け出す、息を切らしながら口に咥えていたものは「かいふくのくすり」だった、イーブイははじめからヴェレーノとは戦おうとはせず、デンリュウを助けることにその小さな命を投げだしていた。


デンリュウ「えっと…イーブイ…痛い…。」

イーブイ「…?」

だがその先のことは考えていなかったらしい…きのみならまだ食べさせるだけで済むものの持ってきたものは回復道具…使い方がわからずにとりあえずデンリュウの口にいれようと必死になっていた。


シャルル「イーブイよくやった!それを貸してくれ!」

イーブイ「ブイ!」

触手を斬られてから動かなくなったヴェレーノに警戒しつつ、イーブイからかいふくのくすりを受け取って代わりにデンリュウに使用する、プシューというスプレー音と共にデンリュウの傷は少しずつ塞がっていった。



デンリュウ「……!!」


シャルル「しっかりしろデンリュウ!俺が誰か分かるか!?」

冷たい身体に揺さぶられ、少しずつ元に戻る視界には必死になって私を見ているギルドの仲間がうっすらと映っていた…。


デンリュウ「………。」

どんどん楽になっていく身体は次第に立ち上がれるまで回復する、自力で立ち上がり隣で安堵するボスゴドラ…ん?いや…ボスゴドラじゃない…?



デンリュウ「……誰…?」

シャルル「は!?」


ビュンッ!!

デンリュウ&シャルル(!!)

空気を引き裂くような音に俊敏に対応し、二人はヴェレーノの触手を避ける、イーブイも既にシャルルの肩に乗っており、ガルル…とヴェレーノに向かって威嚇をしていた。

デンリュウ「…ボスゴドラ…なの?」

再度距離をとって余裕を作り、今のうちに会話を進める、デンリュウは今ヴェレーノだけでなくシャルルに対しても驚いていた…妙に煌びやかに今までより白く光り、更には濃ゆすぎる緑の目…性格は問題なかったが雰囲気が変わってしまっており、今までに知るボスゴドラの姿はほとんど当てはまらないに近かった…あと風が変な動きで意思持ってるみたいにクルクル回ってて気持ち悪い…。

シャルル「そうだが…あぁこれか…!ちょっとした事情があってな…今さっき使えるようになった新しい力ってやつだ。」

デンリュウ「ふーん…まぁ無事なら良かった…後で詳しくそれ教えて。」

シャルル「勝てたら…な、お前もありがとな、流石俺の自慢の娘だぜ!」

イーブイ「ブイ!」

ヴェレーノ「イキテイタ…イキテイタ…!」

シャルル「おっと…今はこっちに集中しなくちゃな…ヴェレーノ…俺の大切なものを傷つけた罪は重いぞ…。」

ヴェレーノ「ククッ…ソウコナクテハ…ソレデコソコロシガイガアル…!」

シャルル「救えねぇ奴だ…そこまで力に墜ちたか…。」

触手についたいくつかの禍々しいコードに哀れみの目を向ける…コードを取ればどうにか…と思っていたが既に主の本人がやられてしまっていた。

デンリュウ「…やれる…?(殺せる?)」

シャルル「…やるしかないだろ…?ここで終わりだ…!勝って俺はこれから先も新しい役割を果たす!復讐者からこの可愛い娘の父親にな!」

シャルルの趣旨が少し外れた回答にデンリュウはクスッと微笑を零す、面白い子…と思いながら左手を肩掛けの探検隊バックに手を添えつつ戦闘体制をとった。

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