金より重い(軽い)命の話

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作者:T・P・R
読了時間目安:16分
さて、早速ですが『やどとき』コンボの説明をいたしましょう。
『やどみが』ではなく、『やどとき』です。
ここ間違えないように。
まず用意するのはヤドンです。
『やどとき』の『やど』とはヤドンのことですね。
はい、まぬけポケモンのあのヤドンですよ~宿り木じゃないんですよ~
次に用意するのは人間のトキワの治癒能力者です。
この2つの要素が揃えばコンボの準備は完了・・・あ、待って!帰らないで!最後まで話を聞いて!
胡散臭い?
トキワの治癒能力者とか揃えられない?
まあまあ!その辺の事情はひとまず脇に置いておいて私の話を聞いてくださいよ。
聞くだけならタダですよタダ。
無料(タダ)!今お金に困っている貴方にこそ響く言葉ですよね?これはもはや聞くしかない!
何?タダより高いものはない?そりゃそうですよね~上手い話にゃ裏があるってのは有史以来不変の真理ですもんね!・・・ってあああ、ごめんなさい冗談ですウソです騙そうとなんかしてないです!裏なんか無いです。
ホントです。
そりゃ、確かに私は趣味と実益を兼ねて情報屋なんかやってますけど!
これはあくまで日常会話と世間話の延長線上ですから!商品(情報)じゃありませんから!
趣味ですから!趣味ですから!大事なことなので2回言いますよ、必要とあらば何度でも!
神に誓って、それで情報料と称してお金取ったりしませんから!
私が喋りたいだけなんですぶっちゃけ暇なんですよ~信じてくださいよぅ~
まあ、金にならない世間話(情報)とかある意味余計に信用できないかもですが、そこはそれ、玉石混合ってやつです。
どうでも良いゴミみたいな与太話の中にも有益情報が混じっているかもしれませんよ?~
ああ、聞く気になってくれました?本当に?ありがとうございます毎度あり~!あ、冗談冗談です!何度も言いますがお金は要りませんって!

さて、話がそれましたが『やどとき』の具体的な方法はと言うと、まずは兎にも角にもヤドンの尻尾を切り落とします。
そこですかさずトキワの治癒能力者がヤドンの切れた尻尾を超速再生!
そして再生した尻尾を再び切り落として・・・

「・・・以下ルゥゥゥプ!ね?簡単でしょう?これぞ無限の富を生み出す現代の錬金術!禁断の高級珍味『ヤドンのしっぽ』を元手ゼロで大量生産する秘儀。通称『やどとき』コンボッッ!!」

「出来るかあああ!!」

それまでは黙って聞いていた俺だったが、流石にこれ以上無言を貫き通すことは出来なかった。
全く、聞いて損した。

「え~?何でですか?あ、ひょっとして成功例とか気にする口です?それなら無問題ですよ!なにせ昔、悪の秘密結社として名高いロケット団が資金稼ぎにやってたくらいですから!」

なおのこと出来るわけがない。
思いっきり犯罪じゃないか。

「といってもロケット団はトキワの治癒能力者までは用意できなかったみたいなので無限コンボとはいかなかったようですが・・・」

「そんなことわざわざ教えられんでも知って・・・ってそうじゃねえ、そんな心配なんかしてねえ!」

「似たようなパターンとして、カラカラの被ってる頭蓋骨を片っ端からはぎ取ってみたりとかもしたらしいですね。意外に買うと高いんですよあの頭蓋骨。相場で『きちょうなほね』の数倍はしたような・・・最近だとデスカ―ンを捕まえて溶鉱炉でドロドロに溶かして、純度の高い金塊をがっぽがっぽしようとした人もいたらしいですよ?もっとも、出来あがった金塊は手にした人に不幸をもたらす呪い満点のあらゆる意味で汚れた金だったらしいですけど。その人が今どうなったか聞きたいですか?聞きたいですか!?」

「聞きたくねえよ!おっかねえ。確かに俺は金に困ってるとは言ったが、そんな卑怯ことをつもりはねえ!金もうけの手段としては下策中の下策じゃねえか」

「ちゃあんと成果と実益の出る下策のことを奇策って言うんですよぅ。というかね、『楽して富を得る方法』が犯罪紛いにならないわけがないじゃないですかぁ~」

「・・・それは」

正論である。

「なんだったら、博打にでも手を染めてみますか?もっとも、この手段は正真正銘貴方様の言うところの下策中の下策ですけど?いえ、染めた結果がその様なんでしたねすみません」

ひっきりなしに喋り倒しながら、その少女・・・女店主はケラケラと笑う。
この店に来たのは失敗だったと、客の男は思う。


ジョインアベニューは、誰でも好きな店を開くことができる街である。
責任者に認められ、店を開くことを許されさえすればどんな店を開こうが個人の自由。
どんな店でも自由に開くことができると言えば、多種多様な店が乱立してさぞかし混沌とした街になりそうだが、実際そうならないのは、店を開くのは自由でもその店が繁盛するかどうかはお客のニーズによるところが大きいからだ。
結局つぶれずに残るのは美容院、レストラン、保育所と言った、安定して需要のある定番の店に落ち着くのである。
しかし、物事には例外がつきものであるわけで。

お金に困ってるならと紹介されたこの店・・・「情報屋」はまさしくその例外であった。

情報屋。
読んで字のごとく情報を取り扱う店である。

未開地の地図、強力なポケモンの対処法、あるいは珍しいポケモンの生息地および捕獲法、さらには社会情勢や個人レベルのプライバシーに至るまで。
ゲームの攻略本ではないが、そういう情報を求める人間は少なからずいるだろう。

何せ俺もその1人だ。

最初は『くじ引き屋』や『掘り出し物屋』で一攫千金を狙うつもりだった。
いや、狙ったのだ。
結果はものの見事に惨敗。

ほぼ全財産をなげうって、残ったのは何の価値もない「かたいいし」数十個。
絶望しきっていたところ、偶然通りかかった親切な通行人に情報屋(ここ)を勧められ・・・現在に至る。

「・・・もっと有益な情報はないのか?専門店だろ?」

「有益な情報(商品)はすべからく有料ですあしからず。元手ゼロでお渡しできる情報に有用な価値とか求めちゃいけませんよ旦那?そこにあるのは純度100パーセントのロマンです!」

「だったらせめてもう少し使える情報はないか?金になりそうなポケモンの生息地とか高価なアイテムが出土するスポットとか・・・」

「ん~シンオウの地下に潜れば化石やら石やらがそれなりに出ると思いますけど・・・イッシュではそういう金脈の情報はありませんね~。あったとしてもタダじゃ売りませんけど。珍しいポケモンの情報も以下略です。あったとしてもタダじゃ売れんのですよ」

「そこを何とか!」

俺は誠心誠意頭を下げた。
もう、いろいろ後には引けないとこまで来てしまってるのだ。

「・・・1つ質問しても?ってこれがすでに質問でしたねはい。まあいいか金のない奴とか客じゃないしってことで遠慮なく聞きますけど?貴方様は一体なぜそんなにお金を欲しているのですか?」

「・・・それは・・・聞かないでくれって言うのはナシか?」

「ナシですね。そちらの情報を明かさず、こちらの情報だけかすめ取ろうなんていくらなんでもムシが良すぎるというものですよ~」

「それは、そうだよな・・・」

「商品ほしいなら金か、それと同等以上の価値ある何かを提示してください。もっとも、貴方様のその切羽詰まった事情が有益かどうかはこちらで判断させていただきますが?あ、もちろん公平であることは保証しますよ本当ですよ?」

いちいちセリフの長い奴だ。
そんなことを考えつつ俺は腹を決めてポケットから1つのボールを取り出す。
その取り出されたボールを見た女店主の顔が固まった。

お、余裕の笑みが消えたな、ちょっと良い気味だ。

「な、マスターボールですと?貴方様は一体どこでそんな・・・いやそもそもそんなものが手に入ったのならそれを元手にすればお金なんてどうとでも」

「いや、これはすでに使用済みだ。中にポケモンが入ってる」

「あ、そうなんですかじゃあ、つい先ほど立ち寄った福引屋で当てたものではないのですね、換金もできないわけで・・・」

「問題は中身だ」

躊躇いは一瞬。
俺はマスターボールの開閉スイッチを、押した。

七色に光り輝く雄大な翼が店いっぱいに広がった。

今度こそ女店主はフリーズした。
言葉も出ないくらいに。

「・・・おい、何か言うことはないのか?」

「プ、プレッシャーがパないですねとしか言いようが・・・言葉もないとはこのことです」

黙ってくれるなら好都合だ。
これならゆっくりとこちらの事情を説明することができる。

さて、どこから話したものか・・・よし決めた。
ひとまずは、とある事情で手に入れてしまったこのポケモン、ホウオウとの出会いについてだろう。

俺は元々、とある組織に所属しており、その組織はやや・・・いやかなり非合法な方法でこのポケモン、ホウオウを捕獲したが、その時いろいろあってホウオウを盗んで組織を脱走、めぐりめぐってイッシュに渡る。
現在、その組織に追われる身であるが故に逃走資金としてとにかく金が必要なのである・・・

「・・・というわけだ」

「何が「というわけだ」ですか!ドヤ顔になるほど中身のある話じゃねえし!肝心なところは結局はぐらかしたままじゃないですか!」

女店主は慌てた様子でまくしたてる。

「俺が言えるのはここまでが限界だ。これ以上話すとアンタを巻きこんじまう」

「もうとっくに巻きこまれてるから慌ててるんじゃないですかぁ~。久方ぶりに変な人が来たと思ったら、まさかの元ロケット団員とは・・・」

「おい!ちょっと待て何で俺が元ロケット団員だって解った!?俺はとある組織としか・・・」

「最初にロケット団の金稼ぎの所業を話した時に、貴方様は「そんなことは言われなくても知っている」と自分で言ったじゃありませんか!その情報を知ってるのは私みたいなスキモノを除けばその関係者だけです!仮にも情報屋が聞き逃すなんてヘマをすると思うなよ!それに、最近ロケット団がジョウトで何をしていたかの情報も仕入れ済みなのです!『せいなるはい』を基に死者の蘇生・・・いや冥界の門を開くんでしたっけ?そんな感じでいろんな意味でこの世のものとは思えないような悪魔じみた超々ポケモンを大召喚しようとしたんでしたっけ?」

こうしちゃいられません、と女店主は店の奥に引っ込み、家財道具を片っ端からカバンに詰め込んでいく。

「何してるんだ?」

「決まってるじゃありませんか逃げるんですよ~捕獲したホウオウ盗んで姿をくらました団員がこの辺りに潜伏していることは知ってましたが・・・まさかそれが貴方様で、よりにもよって私のところに来ちゃうなんて・・・」

トホホですよ~と女店主。
だが待て。

「いくらなんでも慌て過ぎじゃねえか?そんなに早く追っ手は来ないだろ?完璧とはいかないまでも足跡はそれなりに消してきたし・・・」

「いえ。すぐ来ますよ~だって」

貴方様が来る少し前に、貴方様がこの辺りにいると言う商品(情報)を売ったばかりですから。

今度は俺が絶句する番だった。

「ちょっ、おま・・・」

「しかも買い取り手は件のロケット団さん達だけではないんですよう~ホウオウに眼がくらんだレアポケハンターとか、コレクションが趣味の大富豪とか、そいつらを取り締まる正義の警察とか。兎にも角にもいろんなお客様がこぞってお求めになられたんです~。誇っていいですよ?ホウオウさまさまの付加価値とはいえ貴方様の情報は人気商品でした!」

「嬉しくねえよ!良い奴も悪い奴も全部まとめて俺を追ってくるってことじゃねえか!ってか、事情は解ったが、何故それでお前まで逃げなくちゃならないんだ?無関係だろ?」

「そうなんですがそうはいかないんですよこれが。何せその無関係を証明する手立てがありませんので。何よりホウオウを見ちゃったので・・・ロケット団の皆さんに今後の計画の根幹を知っている『かもしれない』って思われた時点で立派に口封じの対象なんですよぉ~」

「マジか・・・」

「ま、先ほど言った通り実際ロケット団の計画は知ってるんですけどね!私はこう見えてもやり手の情報屋ですから。最初にホウオウを燃やして灰にするとか聞いた時は「伝説の鳥を花咲じいさんの犬扱いかよ」と大笑いしたものです。まあ実際、召喚の儀式なんて大それたことしなくても、燃やして灰にするというのは一考の価値ありなんですが。金銭的価値ならホウオウそのものよりも、ホウオウ1羽を燃やして生成される『せいなるはい』の方が上なのですよ~」

「笑い事じゃねえよ!いばるな!つうかそこまで知った上でロケット団に情報売ったのかよ!」

「力そのものよりも癒しの薬の方が価値が高いってなかなかどうして素敵じゃないですか?実際、ホウオウそのものよりもそっちを狙ってる人も多いでしょうし。万能薬ですからね~。精製の方法次第によっては不老不死の一歩手前くらいは実現できるかもですよ~?」

「ったく、命をなんだと思ってやがる!」

「大切に思ってるからこそじゃないですか?実際金儲け以外の割と「美しい目的」で『せいなるはい』を求めてる方々もいるようですし。まあ根柢がどうであれ実際の行動が欲の皮の突っ張った連中と大差ないというのは皮肉以外の何物でもありませんが」

どの道、このまま捕まったらホウオウに未来はない。
命を大切にしない奴はもとより、命を大切に思う奴からもホウオウ(せいなるはい)は狙われるのだから。

「難儀ですねぇ~」

「人ごとじゃねえだろお前が無作為に情報ばら撒いたせいだろこの人でなしが!」

「そうなんです私結構人でなしなんですよ~故に警察関係者に踏みいられるもマズイんですよね。もし叩かれたら出て来た埃でテンガン山ができちゃいます。てへっ」

「てへっ、じゃねええええええ!」

と、店の前がにわかに騒がしくなっていた。
いよいよもって本格的にタイムリミットらしい。

「来たか・・・どうする?ホウオウに乗って飛んで逃げるか?」

「バカですか貴方様は。そんなド派手な翼を広げて呑気に空なんか飛んだら目立って目立って仕方がありません・・・あ?ひょっとして囮になってくれるんですか?それならどうぞご自由に。その間に私は店の地下から脱出ですよ~って、あ、こらなんでついてくるんですか仲間と思われちゃうじゃないですか!」

「我慢しやがれ!こちとら元とはいえロケット団だからな。悪党が悪党に細やかな気遣いができると思うなよ!」

「図々しいにもほどがありますよこの野郎!ってか、貴方様は今後どうするおつもりで?これだけの多くの敵を抱え込んだ状態だと逃げているだけではとても収集がつきません」

「いっそホウオウで蹴散らすとか・・・」

「論外ですね。プラズマ団の失敗を知らないんですか?いくら伝説のポケモンが強くても1匹だけじゃどうしようもないんですよ~世界はそこまで甘くないです。てか、実際に捕獲されてますし」

「捕獲・・・それだ!戦力を増やすんだ。伝説のポケモンを捕まえて戦力に!あるんだろそういう情報!」

「ありますけど、それって単に獲物としてのさらなる付加価値が追加されるだけでは・・・ってか、いつの間に私たちは一連卓上状態に?」

『っ!?こんなところに隠し扉が!?いたぞあいつらだ!』

「うげっ!?もう気付かれた!?」

「もしや貴方様扉を開けっぱなしにしてきましたね!?隠れてない隠し扉とかもはやただの面白ギミックじゃないですか!」

「こんな時にいちいち戸締りとか気にしてられるかよ!」

「こんな時こそ痕跡を残さないでほしいものです!」



そんなこんなで、ホウオウ(せいなるはい)を巡る争いはイッシュ全土を巻き込み、多くの命が失われたのだが、紛争終結後の最終的な死傷者は人もポケモンも含めて誰もいなかったという。

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