千年に一度の願い

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作者:レーネ
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読了時間目安:14分
千年に一度、誰かが嘆き、誰かが歓喜し、誰かが苦しみ、誰かが争いました。

これは千年に一度目覚め、願いを叶えるというポケモンのお話。



―――…



ある時ジラーチが目覚めると、そこは緑豊かな森でした。

そこではポケモン達が自由に、そして幸せに暮らしていました。ただ、ある種族を除いて。

初めにジラーチと出会ったのは、その種族のポケモンでした。ある種族はほかの種族とは違って『知恵』を持っていました。しかし、それ以外についての能力はなく、ほかの種族にいつも追われて生きているのでした。

もちろんそのポケモンも同じ。ジラーチが出会った時も、そのポケモンは傷ついていました。そして、ジラーチはその傷を治し、二匹は束の間の親友となったのです。

二匹は毎日毎日遊び続けました。そのポケモンは生まれて初めて幸せを感じました。七日間という日々は永遠でした。強いポケモンはジラーチが追い払いました。同じ種族のポケモン達とも仲良くなりました。しかし、やはり刻限は来るものです。そんな二匹にもついにやってきました。

最後の夜。ジラーチは願いを問いました。そのポケモンはひとしきり考え、そして、願いました。

そのポケモンの願いは『知恵』でした。そのポケモンは力など望んでいませんでした。ただ、ほかのポケモン達にはない素晴らしい知恵を自らの種族に欲したのです。

ジラーチは悲しみながらその願いを叶えました。そして、再び千年の眠りにつきました。

その後、その種族が『ニンゲン』という種族へと変わっていくというのは、ジラーチも予想していたのでしょうか。


―――…



ある時、ジラーチが目覚めると、そこは巨大な宮殿の玉座でした。

ジラーチの目の前には、いかにも偉そうな男が座っていました。その男はどうやら人間の王のようです。いつかの種族は素晴らしい進化を遂げていました。知恵のないポケモン達はその知恵の前に屈し、なすすべなく住処を追われていったのです。

王はジラーチを見るなり感嘆の叫びをあげました。近くにいた側近たちもまたそうでした。

そして、王はそれからずっとジラーチを側に置いていました。食べもしない豪華な料理や楽しくもない宴が毎日のように続きましたが、ジラーチはそれらに全てこたえました。

ある時、王は自分の国の歴史を自慢げにジラーチに話しました。その国は昔、ある一人の少年から始まったのだそうでした。ジラーチはなんだかその少年をとても鮮明に知っているような気がしました。

最後の夜。ジラーチは願いを問いました。王は、待っていたとばかりに大声で叫び願いました。

王の願いは『富と名声』でした。王はその時のままでは飽き足りず、それ以上の富と名声を求めたのです。もちろん自分だけのために。

ジラーチは悲しみながらその願いを叶えました。そして、再び千年の眠りにつきました。

しかしそのあとすぐ、国は滅びてしまいました。王の欲望は自らの民の怒りを買ってしまったのです。その富と名声は、王と共に土へ還ってしまいました。



―――…



ある時、ジラーチが目覚めると、そこは孤島でした。

そこでは人間から逃れてきたポケモン達がひっそりと暮らしていました。100を超える種族や強弱に関わらず、彼らは助け合い、そして平等に生きていました。

ジラーチは人間と話せることを伝えると、そこで敬い恐れられました。助け合い生きてゆく中で、ポケモン達はようやく多少の知恵を得ることができたようでした。しかし人間には到底及ぶことはなくそのように暮らすことを余儀なくされているようでした。だからジラーチは特別なポケモンと認識されたのです。

島のポケモン達はジラーチにできる限りのもてなしをしました。ジラーチは嬉しくはありませんでしたが、それらをすべて受け取りました。

最後の夜、人間たちがその島に攻めてきました。ジラーチがいることを知ったのです。人間たちはその知恵で作った武器を使い、ポケモン達を圧倒しました。

次々とポケモン達が倒れていく中、ジラーチは願いを問いました。戦うポケモン達は皆そろって願いました。

ポケモンたちの願いは『力』でした。ポケモン達は人間の力に立ち向かうために、そして生き残るためにジラーチを最後に頼ったのでした。

ジラーチは悲しみながらその願いを叶えました。そして再び千年の眠りにつきました。

ポケモン達はそれぞれ17に分かれた力を手に入れました。そして、長い長い争いを繰り広げていくことになるのです。



―――…



ある時ジラーチが目覚めると、そこは荒廃した土地でした。

生命の息吹はなく、ただ乾いた岩と建物の跡が延々と続いていました。しかし、ジラーチはこの光景を見たことがある気がしました。

ジラーチは何とも会うことなく彷徨いました。ポケモンも人間ももう世界からいなくなってしまったかのようでした。 そんななかで、ジラーチはようやく一人の少女を見つけました。

その少女は人気のない遺跡に住んでいました。食べ物は遠くの場所になる果実だけで、水もほとんど飲むことはできませんでした。

少女はジラーチを見つけると、何かが切れたかのように泣きました。その中で、少女はため込んでいた悲しみを吐き出したのです。

少女が語ったのは戦争でした。ポケモンと人間の戦争、そして人間と人間の戦争。その世界はもうすべて戦争で埋め尽くされていたのです。少女も近く親も兄弟も失っていました。そして、逃げ、この遺跡に隠れて住んでいたのです。

ジラーチのおかげで心は安らいだようです。でも、楽しく遊ぶような無邪気な心はもう死んでいました。少女はもう自らの命の限界まで感じていました。

最後の夜、ジラーチは願いを問いました。少女は初めて笑顔を浮かべて願いました。

少女の願いは『平和』でした。ポケモンも人間も一緒に楽しく暮らせる世界を少女は欲したのです。

ジラーチは悲しみながら願いを叶えました。そして再び千年の眠りにつきました。

少女の笑顔はそれからもう二度と消えませんでした。

ですが、世界は本当に平和になりました。その地に雨が降ったのです。それはすべてを洗い流し、海を広げ、陸と争い、そして空によっておさめられました。人間とポケモンは争う理由も余裕もなくしてしまったのです。もちろんたった一人の少女が世界を変えたなど誰一人として知ることはありませんでした。



―――…



ある時ジラーチが目覚めると、そこは星降る丘でした。

ジラーチは旅をする少年たちと一緒にいました。そこはもう平和な世界で、ポケモンと人間は争いをやめていました。

ジラーチはその少年たちのなかで、一番年下の子と仲良くなりました。他の子たちも、ジラーチとその子を取り囲み、束の間の時間を過ごそうとしました。ジラーチは凍った心の奥で少しだけ楽しく思えました。

ですが、とある一人の人間が、ジラーチの力を狙っていたのです。

最後の夜、その人間は少年たちを騙し、ジラーチを捕まえました。そして、自らの復讐に利用しようとしました。

その復讐とは伝説のポケモンを復活させることであり、最後には世界全てを支配しようというものでした。ジラーチはもうそんなことには飽きていました。でも、ジラーチは何も抵抗しませんでした。

結局、それは失敗しました。ジラーチの力だけでは、伝説のポケモンは不完全に復活してしまったのです。不完全な伝説のポケモンは、生命を食い荒らし、自らの糧にしようとしました。

自分の過ちにようやく気付いたその人間は、少年たちと協力し、またジラーチの力で伝説のポケモンを封印しようと決意しました。

彼らの活躍により、伝説のポケモンは封印されました。その人間は、心を改めました。少年たちは、また旅へと立とうとしました。

ジラーチは願いを叶えることはしませんでした。もう力は残っていなかったのです。そして、再び千年の眠りにつきました。

少年たちは長い月日を経て、その世界で伝説となっていきました。それは、ジラーチとは関係があったのでしょうか。



―――…



ある時、ジラーチが目覚めると、そこは怪しげなカプセルの中でした。

その分厚いガラスの向こうにいたのは、真っ白な髪の科学者でした。彼は着ているものまで真っ白でした。

その科学者は、ジラーチについてすべてを知ろうとしました。七日間の間、ジラーチはずっとカプセルの中にいました。ジラーチは窮屈でなりませんでしたが、そこから出ようとも思いませんでした。

その科学者は、ジラーチに質問をしたりしました。でも、その程度では何もわかることはありませんでした。

ですが七日間の研究の結果、ついにその科学者はジラーチについての真実を知りました。

ジラーチは、人間の起源であり、戦争の根源であり、平和の神であり、そして、強大な力を持つ破壊の象徴だったのです。

科学者はその力をほしがりました。しかし、もう時間がありませんでした。

最後の夜、ジラーチは願いを問いました。科学者は焦った末に、願いました。

科学者の願いは、『全て』でした。科学者は、この世のあらゆることを知ろうとしました。そうすれば、ジラーチの強大な力も手に入るとずる賢く考えたのです。

ジラーチは悲しみながらその願いを叶えました。そして、再び千年の眠りにつきました。

科学者は世界の全てをその頭に書き込まれました。そして、できる限りそれを保存すると、科学者は狂い自ら命を絶ってしまいました。世界の全ては人間一人では負いきれなかったのです。その分散された記憶は、また争いを引き起こしました。もう、平和は保てなくなってしまったのでした。世界はもう何度目かもわからない滅亡へと、突き進んでゆくのです…



―――…



ある時ジラーチが目覚めると、そこはどこまでも続く平原でした。

人間は全てを知ってしまいました。ポケモンはもうどこかへ行ってしまいました。人間はポケモンを限りなく減らし、その過ちによって自らももう絶滅する寸前になっていました。ジラーチは、もうこの有様を何度見たことでしょうか。

でも、その平原にはあるポケモンが一匹だけいました。ずっと一匹で暮らしているようでした。彼は、ジラーチを見て驚き拒否しました。でも、すぐになじんでしまいました。

広い平原はちょうどよい丈の草が生えていました。二匹はその上で寝転がって、走って、飛んで。何も考えず、何も恐れず、ただただ遊び続けました。

二匹はある夜、並んで星を見ていました。その星はジラーチにとって最も美しく煌めいていました。

ジラーチはそのポケモンに自分の記憶を話しました。人間を産み出したこと、ポケモンに力を与えたこと、それに続く無限なる記憶を、単調な声でずっと、ずっと。そのポケモンはずっと黙って聞いていました。

そのポケモンは、途中で立ち上がりました。その顔は真剣そのものでした。風に向かって、凛々しく顔を上げていました。そのポケモンは、すべてを決めたのでした。

そのポケモンは語りました。自分がかつて人間であったことを。

全てを知った人間たちがポケモンになることなど容易でした。そのポケモンは自分が人間であることを恨み、逃げてきたのです。でも、もとは人間だけあって、寿命はどうしても短いものなのでした。

ジラーチは、初めて願いを持ちました。今まで叶えてきた願いなどすべて忘れ、その一つに支配されました。ようやくジラーチは何かをしたいという感覚にさいなまれました。でも、自分で自分の願いを叶えることはできませんでした。

七日目の夜、ジラーチは願いを問いました。そのポケモンは、迷わず、ジラーチに一直線に視線を向けていました。

そのポケモンは何も願いませんでした。

そのポケモンはジラーチの願いを叶えようとしたのです。ジラーチの願いは『そのポケモンと幸せに暮らす』ことでした。ジラーチは悲しくありませんでした。そして、自分の願いを叶えるため、眠りにつくことはしませんでした。

二匹は本当に幸せでした。そのポケモンは進化し、すこしだけ強くなりました。でも、何もないこの平原では関係のない話でした。

二匹は時々山へ行きました。そこでは、たくさんの木の実と雄大な景色がありました。ジラーチは、初めて感動という感情を知りました。

二匹は時々海へ行きました。そこには、沈む夕日の美しさと、見たこともないような透明な水がありました。ジラーチは初めて溜息をつきました。

こうして季節は何度も過ぎていきました。そのポケモンは成長し、老いていきました。ジラーチも、千年分の力をちょっとずつ使っていきました。

ジラーチは永遠にこの時が続くことを願いたいと思いました。でも、その願いを叶えるポケモンはいないのです。

ある朝、ジラーチが目を覚ますと、そのポケモンはぐっすりと眠っていました。そして、ジラーチが遊びに誘っても、海へ誘っても、山へ誘っても、決して目覚めませんでした。

ジラーチは初めて泣きました。本当の哀しさを感じました。ジラーチは泣き続けました。まるでそれは千年などとうに超えていたようにも思われました。

泣いて泣いて、そしてある夕方になって、ジラーチは泣き止みました。ジラーチは心地よい草のじゅうたんに横たわりました。ジラーチの願いは叶えられませんでした。ジラーチはいままで叶えてきた願いを思い出しました。でもそれは人間にもポケモンにも不幸ばかりを与えてしまいました。でももうジラーチは悲しくなどありませんでした。そして、静かに再び眠りにつきました。最後の願いのために―――

それから千年経っても一万年経っても、終わりゆく世界の中でジラーチが目覚めることは永遠にありませんでした。


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感想

お名前:円山翔さん
こんにちは。そしてはじめまして(でしょうか)。円山翔です。
絵本のような優しい語り口で、願いをかなえる力を持つポケモンの喜びや悲しみが豊かに表現されていたと思います。
人間もポケモンも、欲を持ちます。でも、欲を含んだ願いがもたらすものは、ほんの少しの幸せと、そのあとに待っている悲しい現実であるということが、この物語を読んでいてよくわかります。自分の願いを叶えられないというのも、なんだか可哀そうな気がしました。これが摂理を曲げた者への断罪なのだと思うと、悲しいと思う反面仕方のないことなのかとも思ってしまいます。映画の内容もうまく反映させていると思いました。
分からないのは、少女が平和を望んだ時に、ジラーチはなぜ「悲しみながら」願いを叶えたのか。そして、ジラーチは本当に幸せだったのか。答えがあるかどうかも分からないこの問いの答えを考えながら、深いところが読み取れるよう読み返してみたいと思います。
書いた日:2015年08月26日