松明の火

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:13分
今日も聖火に火が灯る。
 この村では、毎晩聖火に火が灯る。そしてたいようポケモン・ウルガモスは神として祀られている。
 しかし、この村の人々はメラルバがウルガモスの進化前ということを知らないのだ。だからメラルバは火を運ぶポケモンとして村の人々にいいように使われていた。メラルバたちは村の人々からの過酷な要求にも必死に応えようと頑張っていた。
 この物語は、この村の大きな祭のために奮闘したメラルバたちの物語—
—松明の火—
ある村から少し離れた山。そこにメラルバたちは住み着いていた。その山は火山で、そこに人間がやってきては火を持ってくるように命令され、それに従う。それを基本的には毎日繰り返すのだ。人間たちは神出鬼没。いつ来るかわからない。働いた一時間後に再びやってきたかと思えば、三日間こないこともある。
これだけならまだいい。人間たちはメラルバたちが苦手な岩タイプのポケモン、ダンゴロを使って脅してくる。実際反抗してダンゴロの【ロックブラスト】を喰らってしまったメラルバもいた。だからメラルバたちは黙々と命令通りに動く。それしかできないのだ。せめて、メラルバがウルガモスに進化することを村の人々が知っていれば—
「お父さん... …僕… …もう疲れたよ。」
「駄目だ!目を閉じるな!」
メラルバの親子である。父親がメールィ、子供がメ—リィという。彼らは親子で仕事をしていて、今日も仕事から帰ってきたところだった。子供にはあまりに過酷なほどに働かされたので、メ—リィの体力が底を尽き、危うく他界しかけたのだった。
「そうだね。今寝たらまずいね。… …ねえお父さん。僕たちはずうっとこんな生活なのかなあ。」
「そのことなんだけど、明日の夜明け頃にメルーから話があるらしいんだ。とりあえず今日は早めに寝て、明日早起きしよう。」

翌朝。まだ日が昇りきらない頃、山のふもとにメラルバたちは集まった。総勢40匹ほどのメラルバ。山のふもとの気温は急激に上昇している。メールィが昨夜、メ—リィに話していたメルーが前に出てきて話を始めた。
「今日みんなに集まってもらったのは、ほかでもない。次の祭で、人間たちを襲撃しようという提案をしようと思った。」
メラルバたちはざわめいた。今まで服従させられ続けてきた人間たちにとうとうは向かうのか、と。中には憶測を立てる者もいた。みんなで攻めれば人間ごとき…と戦いに賛成の者、というより、大概は賛成だった。そして意見もまとまりだし、襲撃がほぼ決まりかけたとき、メールィが前に出た。
 「ちょっと待った。俺は反対だ。」 
 何故だ、とメルーは言った。そのままメールィは続ける。
 「そんなことをしなくても、人間たちが俺たちの本当の姿をわかる方法はある。」
 「俺たちの本当の姿だと?なんのことだ?」
 「人間たちは、俺たちメラルバの進化形、ウルガモスを祀っている。だが人間たちは俺たちメラルバがウルガモスの進化形ということを知らない。だからそれを教えてやればいいんだ。」
 「教えてやる?そんなことができるのか?俺たちは人間と会話なんかできない。」
 メルーはメールィの意見を全否定する方向で話を聞いていた。
 「ひとつだけ方法があるんだ。俺らのだれかが人間の目の前でウルガモスに進化すればいい。簡単な話さ。」
 「簡単ってお前、そんなにうまいこといくか?見せるタイミングにしても、ただ仕事しているだけじゃ進化なんてできっこない。」
 「妙な噂を聞いたんだ。近所のパオップから聞いたんだけどよ。」
 「妙な噂だと?」
メルーはこの話には関心を持っていた。メルーだって、確実な打開策ならわざわざ反対はしない。しかし、大失敗を恐れているため、慎重になっているだけなのだ。
 「実はな、今度の祭の日に、北からワルビアルの大群が攻めてくるらしいんだ。そこ俺たちがそいつらの侵攻を食い止める。その時、誰かが進化すれば作戦成功だ。」
 「そうか!それならたとえ進化できなくても人間たちからはなにかしら恩恵を受ける!」
 メルーはようやく納得した。メルーに続いて仲間のみんなも賛同した。
 「もうつらい生活とはおさらばだ!」
 みんなの歓声を遮るように、メールィは口を開く。
 「ただし、ワルビアルに負ければ今の生活の脱出どころか、この世からの脱出になってしまう。だから、しっかり作戦を練って、トレーニングを重ねていかないと。」
 「そうだな。よし!今日からは働きに行っているやつ以外は全員トレーニングと作戦会議だ!祭の日は十日後。しっかり準備しよう!」
 「おう!」

 メラルバたちは再び寝どころへ戻った。そしてまた、一時間後には人間が仕事の催促に来た。駆り出されたのはメールィとメルー。今日の仕事は祭のための木材を運ぶこと。二匹は森へと向かった。
 「よし、祭が決行できないと意味がない。今は仕事をしっかりとこなそう。」
 メールィの言葉を聞いて、メルーは少し頷いた。そして空を見上げた。
 「俺たちって、いまだに両親にあったことがないんだよな… …」
 二匹は孤児だった。物覚えついたころから両親は彼らのそばにいなかった。だから、自分の親がウルガモスとして大空を舞う姿なんて一度も見たことがない。それがどれほど美しいか、二匹にはわからない。そんな話をしながら、二匹は森の奥深くへとはいって行った。いつのまにか、あたりは暗闇に包まれていた。
 「もう夜なんだな… …」
とメルーが呟いた直後、メールィの動きが止まった。
 「どうした?メールィ。」
 メールィは何も言わず、ただその場から降下した。メルーは不思議に思ったが、とりあえずメールィについていくことにした。
 「いきなりどうしたんだよ?ん?墓だな、これ。名前は… …」
メルーも黙り込んだ。そして、両手を合わせ、黙祷した。メールィは既に目を閉じていた。この墓の中には、メールィの両親、そしてメルーの両親が眠っていたからだ—


 「メルー、落ち着いた?」
 メールィが顔を上げ、メルーに聞いた。
 「ああ。もう大丈夫だ。そうか、行方不明じゃなかったのか。既に亡くなっていたんだな。俺たちの両親は。」
 「うん。でも、この文章をよく見てくれないか。」
 メールィは墓石の端に記された文章を指差した。
 「えーと、【この四匹を永久に称える。彼らは命をかけてこの森を守った。彼らは迫りくるワルビアルに対し勇敢に立ち向かい、命と引き換えにこの森を守った。彼らの勇気と清き心を永遠にここに残す。】。俺たちの両親の時代にもワルビアルが来たのか… …」
 「しかも両親はウルガモス。俺たちはメラルバ。ウルガモスで命を失うのなら、俺たちメラルバじゃ… …」
 メールィは体の震えを止めることができなかった。
 「落ち着けって。メールィ。両親のときは四匹だったみたいだけど、俺たちは五十も仲間がいる。連係プレーで村を守ろうじゃねえか。」
 「ああ… …」
 メールィはしばらく泣きじゃくった。


また二日ほどたち、みんなの都合が合う時間帯があったので、作戦会議を行うことになった。
 「よし、俺が提案するぞ。まず、祭の日に仕事がないのが確実な奴はどれくらいいる?」
 十人ほどが手を挙げた。
 「うん。じゃあお前たちは、村の入り口のところどころに身を潜めてくれ。そして、ワルビアルの影が見えたら、俺か、メールィに連絡に来てくれ。そこで、俺たちは仕事から離れ、ワルビアルとの臨戦態勢に入る。いいか、やられそうになったらすぐにワルビアルから離れるんだ。離れ方は急上昇が一番効果的だと思うから。」
 「最終的な目標は誰かがウルガモスに進化することだが、ワルビアルは強敵だ。とにかく奴らを倒すことが先決。効果的な虫の技を使っていこう。」
 メールィがメルーの後に続いて話す。
 「よし、いよいよ祭は明日だ。必ず作戦を成功させようぜ。そして、決して誰も失いたくない。みんな、自分の命を大切にな!」
 「おう!」

 そして、夜もふけ、また朝がやってきた。早朝からメルーとメールィは仕事に出かけていた。祭がはじまるのは正午。おそらくこの時に合わせてワルビアルはやってくるとメールィは踏んでいた。しかし、ワルビアルが何故こんなことをしようとするかがメールィは理解できなかった。

 正午前、作戦通りに仲間が物陰に隠れたのをメルーは確認した。
 「おい!そこのメラルバ!早く木を運べ!」
 人間から罵声が飛んだため、メールィはあわてて荷物を持とうとした。しかし、その行動はすぐにストップした。物陰に隠れていた、息子であるメ—リィが懸命に飛んできたのだ。
 「お父さん… …あいつらが、来た!」
 「ついに来たのか。」
 本当に来たんだ、とメールィは思う。メラルバは一斉に臨戦態勢に入った。人間の中には動揺が生まれた。
 「おいお前らなにしている!仕事もしないで—」
 その人間が言葉を言い切る前に、ワルビアルの群れがやってきた。十匹くらいだった。メラルバ軍団は先頭のワルビアルに【むしくい】を連続で仕掛けていった。不意打ちにあった一匹目のワルビアルは、あえなく倒れた。
 「よし、まずは上手くいった。みんな散れ!」
 攻撃を決めたメラルバが、次々にその場から離れていく。ワルビアルと人間は、何が起こったかわかっていない、同じような表情をしていた。
 「どうしてワルビアルが?まさかまたウルガモスを狙いに来たのか?しかし私たちはもう戦えない!無理だ!」

 メラルバたちはあわてない。続けて連係プレーを喰らわせる。何度か【ニトロチャージ】を使って素早くなった後、ワルビアルと素早さが互角になれば攻撃を決めていく。その作戦がかなり功を奏していた。ただ、ワルビアルも状況を把握し、反撃を開始した。先頭にたったワルビアルが【じしん】を使ってメラルバたちを警戒させ、そのすきに別の仲間が【あなをほる】でメラルバを狩っていく。またワルビアルは地で素早いため、ものすごいスピードで、戦えるメラルバを半分以下まで減らした。
 「邪魔をしないでくれるか。俺らは目的があってここに来た。」
 「目的だって?」
 ワルビアル二匹と、メルー、メールィが対峙した。
 「俺たちの両親はここのウルガモスに負けて死んだ。だからそのかたき討ちに来たんだ。」
 「今お前らのしていることがかたき討ちなのか?ただ、村を破壊することが。」
 メールィが緊張して出ない声を振り絞って問う。
 「たとえこれが正しい形でなくとも!俺たちは先祖の仇を討ちたいんだ!うおおおおおおおお!」
 ワルビアルが同時にメルーとメールィに向かって突っ込んできた。ドラゴンタイプの技、【げきりん】だった。
 「メールィ!!ここは力を合わせるぞ!」
 「ああ!もうそれしか勝ち目がないぜ!」
 二匹は【ニトロチャージ】で突っ込んでいった—
 はずだった。
 しかし二匹からは【ねっぷう】が放たれ、ワルビアルたちは近寄ることすらできなかった。そして炎から姿を現したのは、二匹のウルガモスだった—
 「メラルバがウルガモスに… …どういうことだ!!?」
 人間たちが驚いていた。でも、メルーとメールィも驚いていた。そして、メールィが美しい舞を始めた。【ちょうのまい】だ。それからの、【むしのさざめき】。ワルビアル二匹は、その場にばたりと倒れた。
 「俺たちはとどめは刺さない。」
 メルーが言った。
 「どうしてだ… …?なんの罪もない人々、そして君たちメラルバをただの恨みで虐殺しようとした我々に、どうしてとどめを刺さない?」
 「俺は殺せない。それに、お前らの根本的な願いは決して間違ってないからね。」
 メールィが言い、メルーも続く。
 「お前らの両親と戦って相打ちになったのは、俺たちの両親なんだ。ごめんな。俺たちから謝っておくよ。」
 「ごめんな。」
 「ごめんな。」
二人は謝った。そしてワルビアルたちも頭を下げた。両者ともに、立場は同じだった。
 「さあ、早く帰りなよ。」
 「え… …?」
 「早く、お前らの仲間に報告してくれよ。【同じ悲しみを抱えた奴があの村にもいた。そいつらはそれでも村のために力を尽くしていた。お互い頑張ろうって伝えていた】ってね。」
 メルーがほほ笑んだ。ワルビアルは涙を流した。そして群れを引きつれてかえるべき里、ふるさとに帰って行った。

 「メラルバがウルガモスの進化前だったなんて… …私たちはなんて失礼なことを今までしていたんだ!本当に申し訳ない!どうか許してくだされ!」
 人間たちは一斉に謝った。メラルバと、二匹のウルガモスは、少しだけ笑顔を見せ、メルーとメールィの二匹が、ゆっくりと松明に火を灯した。

 その火は、まさに聖火そのものであった。

おしまい

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想