ユナイトしようぜ! お前スコアな!

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作者:ジェード
読了時間目安:16分
 そう自信満々に言っていたゼラオラ君は、2分を切ってもサンダーピットに戻って来ませんでした。相手ゴールがガラ空きだったそうです。
 ボクはその時に「あっこの競技ってヤバいんだ〜」と悟ることができたので、今は感謝しているのでした。
 拝啓、エオス島へ来る前のボクへ。地獄です。カロスに帰って。


 ◆


 テレレテッテテテレレテレレ~レ~!(陽気なセレクト画面の音)
 
 ああ、今日もポケモンユナイト、ならびに集団エゴイズムサンダーゲーミングが始まる。
 ボクはゲッコウガ。このエオス島で毎日、サンダーとカジリガメをボコっているんだ。
 そのサンダーはこの前、試合の合間に「もういやだ戦いたくない」「金の珠が怖い」「剣盾で強すぎたからってひどい」とか言ってたけど、今日もど真ん中に配置されてるんだから関係ないね。
 
 まあそれはどうでもいいや。
 それで今は、5匹は顔を合わせてこの試合の為に、簡単な打ち合わせをするっていう時間なんだけど、ちなみにこの競技、上下と中央にそれぞれ経験値となる哀れな野生ポケモンがいる。で、中央が一番経験値が多くて、成長しやすいってわけだね。だから5匹は上手くどのルートに行くか相談する。
 ちなみになぜかこのエオスでは、毎回進化した後に、試合開始時にはまた退化させられる呪いがかかってるよ。ここのリン博士という畜生をみんな恨んだ方がいいと思う。
 
「あ、僕は下レーンに行きます!」

 元気よくボクや他3匹に対して、真っ先に挙手したポケモン。遠隔アタックタイプのジュナイパーだった。
 
「中央いいですよ、ゲッコウガさん!」
「えっ」
「僕は下でも生きてけますんで!」

 いやいやいや君がレーン行ったらどうなるか知ってる? 同じ下レーンの相手にキュッとひねられて、カラっと揚がるからね? しかも下レーンなんて、熟練のルカリオ料理人やアマージョシェフが、普通にいる可能性あるんだよ?

「上に行くバリ~」
「じゃ、私も上で」

 続けざまに「上レーン」宣言が上がる。キュウコンとバリヤードのものだった。
 あー、もうこれ完全に匙投げてるよ。「ひよこの面倒なんか見たくないバリね」という考えがもうね、ビシビシと伝わってくる。そうだよねえ。モクローは最終進化するまでぴよぴよ幼稚園児だもんねえ。
 ていうか上レーンがやたら強いんだけど……それはそれで不安だ。

「えー、あー……下かあ」

 一歩出遅れて「下レーン」と宣言したのはフシギバナ。やっぱり若干、同じレーンの相方を見てため息を吐いていた。フシギバナは適正ルートだけど、戦いに負け続けると進化が遅くなるポケモン代表格だ。うーん、あのもくもくモクローが悪さをしなければいいけどなあ。

「中央行きまーす……」

 やばい。お前が何とかしろよって感じの、周りからの視線がめっちゃ痛い。中央レーンってそれがつらいよね。まあ確かにボクもレーンに行くと、筋肉マエストロ達に調理される貧弱ポケモンだけどさ。

「頑張ろう!」
「えっ、うん」
「最後まであきらめずにね!」
 
 ジュナイパーがみんなに笑顔で言って回る。
 あ、コイツッ! 多分わかってないだけのイイ奴だ! 今ちょっと不穏な原因は君なのに、やめろよそういう……一番こうなんも言えなくなる胸糞悪いヤツさあ!
 とにもかくにも、今回の10分間のサンダーボコし合い祭りは、こうして幕を開けたのだった。


 ◇

 開始直前、相手のチームメンバーも開示された。
 
「リザードン、ワタシラガ、ニンフィア、アブソルにヨクバリスか……」

 相性は結構悪いなあってのが、正直な感想。
 多分、上手くやらないと、ほぼ全員アブソルに転がされる。弱いものいじめポケモンのアブソルは、こっちのフシギバナやジュナイパーに滅法強いからね。ていうかお相手さん、編成のバランスいいなあ。
 
 さてさて試合開始直後のボクは、迅速に中央の野生ポケモンを狩って、上か下の加勢に行かねばならない。
 残りタイム8:50で起こる最初の激突は、両チームに大きな影響を与える。丁度お互いのエース格・中央レーンが経験値を取り終えるのが、それくらいって覚えてくれればいいや。
 つまりボクらは、ゲコガシラになった状態で誰か相手チームをKOできれば……まあ一番都合はいいけど、どうだろうか。

「進化して『えんまく』覚えたっと。で、上だな~」

 まあ残念だけど、今回は下レーンを完全に見捨てる形になる。優勢なレーンに行ってぬくぬくと育つ方が大事だからね。そうボクらは発酵待ちのパンと同じなんだよね。という訳で、今回はバリヤードとキュウコンのいる上レーンに加勢するとしよう。

「ん……? あれ……?」

 おかしい。自陣の上ゴールには、回復しているキュウコンしかいない。バリヤードは? この時間帯、最強格のサポートポケモンはどこに行ったんだ?

「バーリーぃ~」
 
 あーーーー!!! アイツっ! 眼鏡をしているッ! 
 しかも3つも、もはや何が見えているんだその視界には! 相手の死兆星か?
 『進撃メガネ』で火力特化しまくって、相手を全員挽き殺す気だ、あの殺人ピエロ。サポートを忘れ、KOする時の快楽物質に憑りつかれてる。あー関わっちゃいけないヤツだ。そりゃ自陣にいないよ。相手ゴールへポイポイ点入れに行くことしか頭にないんだもん。玉入れ大会楽しんでるんだもの。

「ってヤバい、ビークイン戦だ!」

 8:50の死闘、ビークインの群れ。大きな経験値である奴らは両チームの真ん中に出現する。つまりは、壮絶な経験値の奪い合い、いやそれだけではない!

「くらえくらえー!」
「きゃー、ゲッコウガだわ!」

 まだ進化していないヒメンカに『えんまく』からの『あわ』を浴びせる。後ろには、まだリザードが遠そうなヒトカゲも。なるほどな、相手のエース格はアブソルだろう。じりじりと相手は後退していく。これはいい流れだ。
 そう、この時間のビークインは囮でしかない。ここで真に狙い打つのは相手チームの弱いヤツだッ!

「ふぃあーーーーーーーーッ!」
「ウワーーッ!?」

 その瞬間、煙幕の切れたボクに攻撃が襲い掛かった。あまりに強烈……そして一方的な攻撃だった。
 たまらずダウンし、自陣のスタートエリアに戻されていた。な、何があったんだ……?

「ちゅ、中央ニンフィア……だと……」

 ボクを撃退したのは、まさかのバフ持ちニンフィアだった。
 え? 相手チームには進化の遅いリザードンがいるし、まあアブソルも中央の適正はある。だからてっきりリザードンから中央をぶんどったアブソルだと、そう思ってたのに……。え……?

「そ、それより、早くゲッコウガにならなきゃ」

 第一次蜂取り合戦で負けた者に慈悲はない。
 レベルアップが非常にしんどくなるので、早いところゲッコウガに進化しなくては、次の7:20でのスーパーカジリガメ大戦に間に合わなくなってしまう。
 だが憐れなルンパッパ、ヘイガニをササっと養分にしたところで、ボクは恐ろしい事実に気が付いてしまった。

「う、やられてる!?」

 ここにいるはずの高級牛・バッフロンが消えていたのである。これではボクは、ゲッコウガのレベルに到達できない。誰かが意図的に強奪したという事実だけが判明している。
 この「第二バッフロン盗難事件」の犯人には心当たりがある。相手のチームメンバーを見た時点で、これをさっさと警戒しておくべきだった……!

「あっ、進化しましたよ!」

 そこにいたのはヨクバ……いや、赤い強化バフを持った笑顔のジュナイパーだった。
 お前かーーーい! 
 いつか、いつかやりそうだと思ってたけどさあ! そりゃ進化できないよなあ、だってフシギバナと下レーンモクローだもん。絶対アブソル君に可愛がられてたでしょ。この盗人! お前はイイ奴なんかじゃなかった!!!

「おいなんだよ……もう牛いねえじゃん。しけてんなぁ」

 そこに現れたのは、きのみを落としながらボクらを荒らしにきた、本物のヨクバリス。
 前言撤回! カウンタージャングル対策最高! 君ってやつはこれを見越して……いや絶対にそんなことないな。多分なんも考えてないよあの子。だって学習装置の電球光ってるし。かわいいねえ。まあ結果的にヨシ!
 
 ヨクバリスの侵入を奇跡的に防いだところで、先のスーパーカジリガメ大戦が迫っていた。7:20に下レーン地帯に出現するカジリガメは、倒したチームになんと、大量の経験値としばらくのシールド効果が付く。なので「学校最強大会に小判ニンフィア」ってくらいユナイトでは定石の一つだ。
 ちなみに同時刻に、上レーンにはロトムが出てくる。まあでもアイツはかわいいだけで、特にすぐに有利にはならないから、基本的に取ってはいけない。カジリガメを倒しに来ないヤツは「浦島太郎」と呼ばれているらしい。都市伝説だと思ってるけど。

『助けて!』

 え、何だ……? 上レーンから、誰かがずっとチャットを鳴らしている。いや、それより早くこっちに来たほうがいいよ? えー、とりあえず『集合』で合図送ろうか。

「集ご……」
『助けて!』

 ずっと自陣ゴールで『助けて!』を鳴らしていたのは、相手のリザードと蜂取り合戦をしているアロキュウ君でした。
 いやいたよ浦島太郎! こんなにも身近にさあ、知りたくなかった!!!
 とか言ってたら相手は下に集まり始めてる。ずっとこっちにちくちく嫌がらせしてくるワタシラガに、さっきの中央ニンフィア。まずいな、はやいトコ集まらないと……。

「死ねアブ~」
「あ」

 刹那、不意打ちを喰らったボクはさっくりと転がされてしまった。フシギバナはまだフシギソウで、『ギガドレイン』だけじゃ何もできず、そのまま2連続KO。ジュナイパー君は逃げてたけど多分追い付かれる。

「バーリーぃ~」
 
 あー、玉入れ楽しいねえバリヤードちゃん! お気に入りのマジシャンスタイルで、決めてきてよかったねえ~!

『助けて!』

 いやむしろコッチが助けてほしい。見てアロキュウ君、味方はだれもそこにいないんだ! みんなそこを死守することに興味がないんだ! ちなみにそのリザードも謎バリア(とつげきチョッキ)付けてるから、多分マトモじゃないよ!!!

【降参投票:○】

 あー! 遂に、きちゃったよこれ、誰かが萎えちゃってるよ! 絶対経験値狩りしてるフシギバナだよこれ! 
 気持ちはわかる。これじゃカジリガメは絶対に取れないし、この後もアブソルとレベルの差が開き続ける。でも流石にまだ早すぎる。
 
【相手チームがカジリガメをKO】

 ですよねー。
 アブソルはオブジェクトポケモンを倒すのが早いし、あっちにはニンフィアのユナイト技もあるからなあ。

【降参投票:○●●】

 いや降参投票の反対だけめちゃ早いんだけど!? それより早く下レーンに来てよ! その反応速度を戦闘に活かしてよ、お願いだからさー。上レーンのフラグが回収されてしまった。

『助けて!』
『どんどん行こう!』
『助けて!』
『どんどん行こう!』

 またあのジュナイパーが励ましてる! 上のキュウコンとの掛け合いみたいになっちゃってるよ!? 
 あの、いいけど、そんなことしてる場合じゃないかも。そっか~、根はイイ奴なんだねえ、うんうん。諦めたくないよね、はあ。

 ◇
 
 そのまま下ゴールを割られたボクらは、ずるずると苦戦を強いられていった。ヨクバリスに荒らされるしで、辛うじてレベルは上がっても集団戦に勝てないままに、遂に2分のサンダータイム直前を迎える。
 そう何せ、ここからがポケモンユナイト。タイムが2分を切ってからは「全ての得点が倍になる」というトンデモやけくそ仕様なのである。しかもサンダーは取られたチームのゴールを全破壊。
 早い話が、サンダーを取った方が勝つゲームなのだ。

「今回は全員中央で待機してるけど……勝てるのかなあ」
『どんどん行こう!』
「そっかあ」

 やはりジュナイパーはどこまでも前向きだった。
 事前に『集合!』を合図していたおかげで、多分初めて5匹全員が同じ場所に揃っていた。やればできるんだって思った。降参投票も成立せずには済んでいるので、最後のチャンスがあるならここしかない。不安だが、やるだけやってみるしかないのだ。

「来た……いくぞおおみんなあーーーーー!!!」

 サンダーが出現し、相手のヨクバリスが突進してくるのが見えた。開戦の合図だ!

「おっ空いてるじゃーん」

 あーーーーー!!!!!
 終わりだ。まさかのここに来て、キュウコンは相手ゴールへの空き巣ゴール……。これではどうあがいても4対5。集団戦で勝てるはずがない。『一緒にサンダーをKOしよう!』とボクがいくら伝えたところで無駄だったんだ。そっか、これが最初から詰んでるってやつか。そっかあ。
 そうしてボクがまた、在りし日のゼラオラ君に想いを馳せていた時だった。

 
「踊ってない夜を知らない♪ 踊ってない夜が気に入らない♪」
「何してんだ、早くサンダーを削れ!」

 バリヤードは踊り、舞っていたフシギバナがぶっきらぼうにボクに告げる。
 呆気に取られていたが、よくよく見ると……なんと相手チームの3匹が既にKOされていた。え、何が起きたんだ?

「そうか『バリヤードが踊った』んだ!」

 通常攻撃を続けつつ、ボクは気が付いた。
 あのバリヤードは、サポの名を騙るイカレ進撃メガネだった。それで限界まで上がり切ったとくこうに、広範囲ユナイト技が組み合わさるとどうなるか。答えがこれだ。相手はバリヤードの手により、あわや死と踊っちまったってことか!

「それに……相手もここには1匹しかいない!」

 あのキュウコンの狂気的バックドアが、なんと相手のリザードンをゴールに引き寄せていた。やっぱりあのリザそういうことだった! キュウコンがなんか上手い具合に陽動してくれちゃった! 
 これは確かに、かつてない勝機だ。相手はひ弱なワタシラガのみで、サンダーのHPは残りわずか。いける、これはいけるぞ!

「うおお! 特大水手裏剣!」

 ここで、サンダーをユナイト技で仕留め切るッ!

「いたいっ」
「あ」

 わ、ワタシラガにユナイトが……え、刺さって……。そんな、狙いがソッチに行った……?
 じゃ、じゃあ死にかけかけのサンダーはどうなったんだ!?

【味方チームがサンダーをKO】

 と、取ってる! あ、良かったーーー! 大戦犯になるところだったッ! でもいったい誰が、ラストヒットを取ったんだ? フシギバナかな?

『どんどん行こう!』

 意外! それはジュナイパー! 彼の初めて正しい『どんどん行こう!』を見た! 
 そうか、なんか見ないなって思ってたらずーっと草むらに隠れてたんだ。そして最後に『かげぬい』でサンダーを取ろうと……そっかー。はあーー。まあ、今回は本当に助かったよ。

『ありがとう!』
『いいね!』
『どんどん行こう!』
『助けて!』
『ありがとう!』

 初めてチームのチャットが温かく感じる。ここまで諦めなくて、本当に良かった。
 こうして、ボクらのチームは後半200点という大量得点により、無事逆転を果たしたのだった。

 
 ◇

 試合終了後、戦闘から解放されたボク達。
 ユナイト、やっぱりこういう部分があるからやめられないんだよね。うん、最後はいい雰囲気で良かったな。なんだかんだチームの皆にも、最後にお礼を言っておこう。

「ありがとう! またチームになったらよろ……」
「ところで、その持ち物は何バリぃ~? マジありえねーバリぃ~」
「え?」

 バリヤードの指したのは、ボクの持つバトルアイテムだった。
 それは、試合では使いどころのないままに『カチカチカチ……』と虚しく加速していったのだった。


 
――ルールを守って楽しくユナイト! 真の地雷はキミかもしれない!

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