ポケモンユナイト外伝 〜がんばれラッキーズ〜

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:ヨコシマ
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:111分
よう。面白そうな場所じゃねぇか。一枚噛ませろよ。

ポケモン二次創作を書くのが趣味なんだが、こんなところに同志のたまり場があったなんてな!
俺も混ぜろー!
ポケモンユナイト外伝 〜がんばれラッキーズ〜

『ポケモンユナイトォォーーーーッ!!

さぁ始まりましたビギナーランク・ランクマッチ戦! ラッキーズ対ファイヤーズ! 全選手、スタート地点に立ちました。退化が完了して、未進化状態の姿になります。レディ……ゴー! 一斉に飛び出した!
互いに野生ポケモンに攻撃を加えていく! 中央ラインで両者激突! ああーっ、下レーンでリザ選手がゴールを狙って駆け抜けた! しかし2人がかりで阻止! あえなくKO! ルカ選手がフォローに入るも間に合わず! ルカ選手もKOされた! 続くアビー選手も敵わず撤退! ファイヤーズがゴールを……決めたーっ! 先制点! ファイヤーズのヤミー選手とマーフ選手が次々と決めた! アロー選手が中央から攻める! ヤーン選手逃げる! ああっ、追いつかれた! KOです! 復帰したルカ選手とアーロン選手がレーンをかける! しかし、2チームのそれぞれの選手のレベル差は無視できないほど開いているぞ! ファイヤーズの選手が次々とゴールを決める! 下レーンラッキーズ側フロントゴールが……破壊されたー! ファイヤーズ圧倒的優勢! ラッキーズ手も足も出ないーーっ!! ラッキーズ、上レーンフロントゴールも破壊された! ファイヤーズ次々とKOとゴールが決まる! どうするラッキーズーー!!』

「……降参投票〜〜〜!!!!!」
「アタシ賛成〜」
「賛成だね、クールじゃない」
「うぉーっ! まだゴールし足りねェー! 反対っ!」
「賛成だど……」
【過半数の降参が受理されました】

『ここでラッキーズ降参! 試合時間6分12秒! 0対212! ラッキーズの降参で試合終了です!』

両チームがスタジアム中心に整列する。
「ファイヤーズの勝利! 双方、礼!」
「「ありがとうございました!」」

ラッキーズのリーダー、ルカリオのルカ選手とファイヤーズリーダー、ファイアローのアロー選手が握手を交わす。そしてアローがルカの耳元で囁く。
「ザーコ」
「ぐっ……」

「6分か。今日は早かったな」
「どうせ負けるんだから8分とか粘られるよりマシだろ」
「ラッキーズの試合、時間まで保ったことあったっけ」
「ない」
「まぁラッキーズだもんな」

客席のエテボースが頭を抱えた。
「ちくしょう! またラッキーズに賭けて負けた!」
隣のシザリガーが呆れた顔をする。
「お前、ラッキーズが勝つわけ無いだろ」
「大穴狙ってんだよ! ラッキーズ勝ったら配当100倍だぜ!」
「いや、だからって……」
「ああ、先月の給料が全部パーだ……」
「お前全部つぎ込んだのか!? それは賭け過ぎだろ」
「バレたら妻に殺される……これじゃアンラッキーズだ!」

観客の声がやけに耳に響く。
ルカ達ラッキーズは肩を落としながら控室へ下がっていった。

ーーーー

エオス島。海の秘境と呼ばれる島。その島だけに存在するエオスエナジーを集めるスポーツ、ポケモンユナイト。
ポケモンの進化だけでなく退化もコントロールする未知のエネルギー。選手ポケモンを一時的に退化させ、スタジアム内の野生ポケモンを倒してレベルを上げていき、進化していくのがユナイトバトルだ。
ポケモンが競い合えば競い合う程に増していくエオスエナジーを集めるためにエオス島のスタジアムでは日々ポケモン達がユナイトバトルを繰り広げている。

そんなユナイトチームの一つがラッキーズ。
対戦したら確実に勝てるからラッキー。それがラッキーズの評判だ。
最強のチームはどこか? と聞かれたら様々なチームの名が上がり、白熱した議論が交わされること間違いなしだが、最弱はどこか? と聞かれたら皆口を揃えて「ラッキーズ」と答えるだろう。
連戦連敗、弱小チームラッキーズ。

リーダーのルカリオ、ルカは控室でタオルを投げた。
「……ちくしょう! 負けた!」
「いつものことじゃなぁい?」
アブソルのアビーがスポーツドリンクを啜りながらスマホロトムをいじる。
「ゴールできなかったぁ! うおお! 俺はまだ続けたかった!」
リザードンのリザが不満げにじだんだを踏む。衝撃でボロいロッカーの扉が倒れて落ちた。
「ま、あれ以上続けてもクールじゃないね」
アローラキュウコンのアーロンが手鏡で自分の顔を眺めながら前髪を櫛で整えて呟く。
「……運動したら腹減ったど」
ヤドランのヤーンが腹を押さえた。ぐーっ、と大きな音がなる。
ルカがテーブルに両手をつく。
「反省会! 反省会だ!」
「アタシ、パス。このあと友達と飲み会あるから。おっつ〜」
「おいアビー!」
アビーがさっさと控室から出ていった。
「僕もデートなんだ。上がらせてもらうよ」
「アーロンまで!」
アーロンも続く。
リザとヤーンが顔を見合わせる。
ルカがため息をついた。
「……3人でやろう。まずリザ! お前はゴールを狙いすぎだ! まずは相手を倒してから……」
「ゴール! ゴールしたいんだ俺はぁ!」
「ヤーンも! 君が前に出てみんなを守らないと! ディフェンダーだろ!」
「そんなこと言ったって怖いんだど〜!」
「これじゃあいつまで経っても弱小チームとバカにされたままだ! 特訓だ特訓!」
「特訓って、どうせランニングするだけだろ!」
「ご飯食べたいど……」
「……もういい! 俺一人でやる!」

ルカは河川敷を駆け抜ける。
こんなことしてて勝てるんだろうか? 疑問を振り払う。やらないよりマシだ。
ジッとしてると余計なことを考えてしまいそうだ。
一通りランニングを終えて街へ繰り出す。なんだか飲みたい気分だ。
恋人のサナでも誘おう。スマホロトムを取り出して電話する。
数コールの後、愛しいサーナイトのサナの声が聞こえた。
「ハーイ、ルカ」
「やぁサナ」
「試合どうだった?」
「負けちゃったよ、アハハ……ねぇ、これからご飯でも食べない?」
「うーん、今日はちょっと友達と用事があるからまた明日にでも」
明日はオフだ。丁度いい。
「うん、じゃあ明日に!」
「楽しみにしてるね」
「愛してるよサナ」
「私もよ、ルカ」
通話が切れる。どんなに落ち込んでいてもサナの声を聞いたら元気が出てくる。ルカはウキウキとしながら歩いて、街のレストランに入っていく。どこにでもあるファミリーレストランだ。
一番安い適当なセットを注文する。
料理を食べていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。どんなに遠くても聞き間違えるはずがない。愛しいサナの声。
振り返るとサナが見知らぬオスのエースバーンと一緒に来店していた。
「……サナ……?」
なんだか楽しそうに話しているじゃないか。誰だその男。
ルカリオはバレないようにこっそり耳をそばだてた。
ユナイトの話で随分盛り上がっている。ルカもサナと付き合いたての頃はあれくらい盛り上がって話したものだ。二人はユナイト好き同士で繋がった。
一時間ほど話をして、会計を済ませて二人は立ち去った。
さっき言ってた友達ってあのエースバーンのこと……?

サナに限って浮気なんてありえない。そんなことするわけない。するわけないんだけど。
「誰だあの男……!」

ーーーー

「ルカ、聞いてる?」
「えっ」
「やっぱり聞いてない……」
翌日、ルカの家で二人は会っていた。ボロボロの安アパートだ。
ルカにお金がないのでおうちデートにしたのだ。
ルカはサナに昨日の事を問いただせずにいた。
しかしやっぱり気になってしまい上の空になってしまう。
「ごめん、なんだっけ」
「もう……ルカ、この先どうするの? ずっとユナイトでは食べていけないでしょ?」
「ああ、その話か……」
最近のサナは将来の話ばっかりだ。確かに今のルカはユナイトで食っていけてるとは言えない。

ユナイトバトルはエオスエナジーを大量に生み出す。戦いが昂ぶれば昂ぶる程に多く生み出される。
そのエナジーを研究所が回収した分の報酬が選手たちの手に入る。
が、ビギナーランクのエオスエナジー回収量などたかが知れている。スーパーランク、ハイパーランクと昇格し、マスターランクになればプロと認められる。スポンサーもつく。そうなれば暮らしていけるだけの報酬が支払われるだろう。伴侶を養ってまだ余り有るだけの報酬が。
ルカの目標はプロユナイト選手だ。マスターランクだ。
だが、現実のルカリオはビギナーランク最底辺にいる。
ユナイトバトルをしつつバイトの収入で食いつなぐのが精一杯だ。デートの費用も昼飯を抜いて捻り出してる。

「私ね、ルカが心配。このままユナイト続けてプー太郎になっちゃうんじゃないかって。私、ヒモを養うのは嫌よ?」
「そっ、そんなことさせない! 絶対プロになるよ!」
「でも、昨日も負けたんでしょ?」
「うっ」
「……ユナイト、趣味じゃだめなの? ちゃんと真面目に働いて、地道に生きよう?」
「そ、それは……」

ルカとサナは付き合ってもう随分経つ。将来を考え始めなければいけない。サナの貴重な若くて美しい時間を、限りある儚く短い時間を、叶いもしない夢を追ってまともに働きもしない男に費やすのはあまりにも勿体ない。

「……俺にはユナイトしかできないんだよ……」
「……そう」
「ご、ごめんよ……でも必ずマスターランクに行ってみせるから!」
「……はぁ、もういいわ」
「サナ……」

ーーちょっと今日はサナの機嫌が悪いな。

ルカはサナを抱きしめた。
サナの目をジッと見つめて、優しく頬を撫でる。
唇と唇が触れ合いそうになる……。

「いや」
「えっ」
サナはルカの顔を手の平で押し返した。
「今日はそういう気分じゃないの」
「……」
ルカは耳をぺたんと伏せてシュンとした。
「……今日は帰るね」
「えっ……あっ……」
「私達の将来のこと、もう少しだけ真剣に考えてほしい」
「……うん」
「じゃあね」

サナは振り返りもせず帰ってしまった。
最近はずっとこの調子だ。
最後にキスしたのいつだっけ……。
ルカは悶々とした。なんだか日に日にサナの態度が冷たくなってるような気がするのだ。

昨日のエースバーンを思い出す。
まさか、まさか、乗り換えられるなんてないよな……?

ーーーー

更に翌日。
ルカはサナの後を着けた。やってることがちょっとストーカーっぽいけど、不安で止められなかった。
サナは妙にめかしこんでるし、ウキウキしてるし、なんだか怪しい。誰かと待ち合わせをしているみたいだ。
しばらくすると、一昨日のエースバーンがやってきた。一昨日は盗み聞きしただけでよく見えなかったが、今日は顔がよく見える。
……悔しいがイケメンだ。爽やかな笑顔が眩しい。しかし、どこかで見たような……?

二人はバーに入っていく。ユナイトバーだ。大きな画面でユナイトバトルを観戦しながら酒が飲める。
ルカとサナもここで知り合った。ルカの猛アタックと、ユナイト選手であることをアピールしてようやくお付き合いに至った経緯がある。
そんな思い出の場所を他の男と二人で訪れるなんて……!

二人はユナイトを観戦して盛り上がっている。サナのあんなキラキラした笑顔、しばらく見ていない。嫉妬心が燃え上がる。

試合が終わった。二人はグラスをぶつけて乾杯し、感想を言い合っている。

声をかけよう。二人の関係性をハッキリさせよう。ルカは近付こうとして席を立つ。

そして、聞いてしまった。

「サナちゃんっ。実は言いたいことがあるんだっ」
「なぁに? エースくん」
「キミが好きだっ!!!!!」
「ええっ!?」

それはもう、店に響き渡る大声で。
エースバーンがサナに告白した。店中の視線が二人に集まる。
「キミはオレの太陽だっ! ぜひ付き合ってほしいぜっ!」
「えっ……あっ……私達まだ知り合ったばかり……」
「関係ないっ! オレのハートはキミに会うたびはち切れそうだぜっ! いつかキミを必ずっ! マスターランクのユナイトバトルに連れて行くぜっ! 特等席を用意しているぜっ!」
「あっ、あわわ」
いい笑顔でエースバーンがサナの手を握った。サナは真っ赤だ。ルカは真っ青だ。

「すぐに答えを出してくれとは言わないぜっ! 今度聞かせてくれっ! ……明日、ハイパーランク昇格戦の試合があるんだっ! その勝利をキミに捧げるぜっ! それじゃあねっ! ハッハッハッ!」
エースバーンが走り去る。キラキラとしたオーラが後を引いてる気がする。
「あ……私、もう恋人いるの! ……行っちゃった」
最後のサナの言葉はエースバーンには聞こえてなかった。
サナが呆然としている。

「ちょっとちょっとちょっとサナ!」
後ろからブリムオンとミミロップがサナに声をかけた。サナの友達だ。
「わっ、ブリムにミミー。びっくりした。いたの? 偶然ね」
「サナがすごいイケメンと歩いてるのを見て、気になって追いかけちゃった、テヘ」
「今のエースバーン!! 『ワイルドファングス』のエース様じゃない!?」
「今、一番熱い新人チームじゃない! 結成してからすごい勢いでスーパーランクに昇格して、明日もうハイパーランク昇格戦に挑む、あの! 『ワイルドファングス』よ!? しかもチームリーダーで、その名の通りのエースアタッカー、エース様でしょ!?」
「うん、そう……私も声をかけられてびっくりしちゃった。この前、本当に偶然このバーで声をかけられたのよ」
「で、どうするのよサナ!」
「今の恋人、あのラッキーズのルカでしょ?」
「顔はまあ良いほうだけど、弱くてショボいラッキーズのルカでしょ?」
「方や将来性抜群、マスターランクまっしぐらなエース様でしょ?」
「しかも向こうから惚れられてるときたもんだ」
「乗り換えるなら今よ!! 今がチャンス!!」
「この前、ルカが真面目に働いてくれないし将来についても考えてくれないって愚痴ってたばかりじゃない!」
「捨てちゃえ捨てちゃえそんな男!」
「プロユナイト選手の奥さんとかマジで玉の輿じゃん! 私ならさっさと乗り換えるね!」
「で、どうすんのよ!」
「……うーーーーん」

ルカの心臓がバクバクと動く。首の後ろのほうがジリジリと焼けるみたいだ。魂を直接ヤスリがけされてるような不安感。

嘘だろサナ。俺のこと愛してるって言ってくれたじゃないか。サナ。

「……まぁ、ちょっと考えちゃうわよね……」



ちょっと考えちゃうわよね



その言葉がルカの頭の奥底に響いた。



ルカはその後の記憶があまりない。気付いたら路地裏のうらぶれたバーにいて酒を飲んでいた。ちらつくネオンが物寂しい。古臭いジュークボックスがジャズミュージックを流してる。
明日はバイトだった気がするけど知ったこっちゃない。飲まずにやってられっか。
「グズッ……ううっ……サナ……サナがいないと俺はだめだ……サナ……」
グイッと酒を煽る。喉が熱い。咳き込んだ。ルカは酒が弱い。

ノイズが走る小さなテレビから歓声が聞こえた。ユナイトの試合をやっているのだ。
何ランクだろう? 大きなスタジアムだからハイパーかな? いいなぁ、俺もあんな風に大舞台でユナイトしたい……。

「……なんだ下手くそめ。どうしてそこで下レーンに下がらねぇ……。ああっ、深追いしすぎだ……見てらんねぇな」
隣の酔っぱらいが酒のグラスを傾けながらブツブツと試合に難癖をつけている。
年老いたフシギバナだ。どこか見覚えがある気がする。
知り合いとかじゃないんだけど、なんだか見覚えがある。
そう、昔。子供の頃ずっと見ていたような。
テレビの中で。ポスターで。ポテトチップスのおまけのトレーディングカードで。

「俺が若い時ゃ、あんくらいの窮地切り抜けてた……ああ、KOされた。情けねぇな最近の選手は。『だっしゅつボタン』持ってねぇのかよ」
その横顔が、幼い頃の記憶に重なった。
「思い出した……バーナー選手?」
「ああん?」
振り向いた顔は……大分老いてはいるが、かつての面影があった。
「十年前! ユナイトバトルマスターランクで大暴れしてた『チーム・ストライダーズ』のフシギバナのバーナー選手だろ!? 『ソーラービーム』撃たせたら右に出るものはいないバーナー! 『はなびらのまい』で鋭く敵陣に切り込むバーナー! 遠距離も近距離もどっちも熟す凄腕アタッカー! バーナー・ザ・ストライカー! 第3シーズン最多MVP獲得選手! バーナー選手だろ!? 大っファンだ!! 握手してくれ!! うわあ、本物だー!!」
「……十年も昔のことよく覚えてるな。そう。そして、大怪我をして引退して落ちぶれた、バーナーだ」
「ああっ! もうその件は本当に残念だったよ。惜しい選手を失ったって。俺もすごく悲しかったよ」
「はん。『ストライダーズ』は俺がいなくても普通に回ってる。優秀な選手なんて後からいくらでも湧いてくるさ」
「そうかもしれないけど! 俺にとってはヒーローだったんだよ! マスターランク第3シーズン春の公式大会準決勝、ラストスパートでソーラービームぶっ放して3人同時KO決めた試合は最高に熱かった! テレビの前で大はしゃぎさ! あの夜は眠れなかった! 俺だって覚えられるならソーラービーム撃ちたかったよ!」
「……昔の話だ。今じゃはっぱカッターも撃てねぇよ」
「俺もユナイト選手なんだ! まだビギナーランクだけど、いつかはマスターランクに行きたいと思ってる!」
「……へぇ。よくあんなつまんねぇスポーツにお熱をあげられるな」
「なんだって?」
「ユナイトバトルなんてくだらねぇ!」
バーナーがグラスをテーブルに叩きつけた。中のウィスキーがテーブルに飛び散る。
「あんなもんに熱くなるより、テメェのやるべきことなんていくらでもある。大事なものを見失うな」
「あんなもんって……バーナーさんだってユナイト選手だったろう? あの頃の熱いバーナーはどうしたのさ! ユナイトこそ人生! って言ってたじゃないか!」
「『ユナイトこそ人生』! ハッハッハ!」
バーナーが大笑いして酒を煽った。
「ユナイトに人生賭けるもんじゃねぇ。あんなもんで勝ったって、何も得るものはない。みんなが騒ぎ立てて煽てて調子に乗って、気持ちよくなって、そして失うだけだ。俺は怪我で積み上げたもの全部失った」
「バーナーさん……」
「……お前、仕事は?」
「……バイトしてる」
「バイトぉ? お前、まともな仕事はつかないのか」
「ユナイトで食っていきたいんだ……夢なんだ」
「やめとけやめとけ! 夢なんて見るもんじゃねぇぞ! 馬鹿なことやってねぇで真面目に働け!」
「俺は大真面目だ! 俺にはユナイトしかない!」
「知らねぇ! 俺は止めたからな! ……親父、お勘定!」
バーナーはお札をカウンターに叩きつけて立ち上がる。
ルカリオはバーナーの腕を掴んだ。
「待ってくれ! バーナーさん! ……俺を鍛えてくれ!!」
「……はぁ?」
「プロのユナイト選手になりたいんだ! 今は弱小チームなんて呼ばれてるけど! 俺は絶対マスターランクに行かなきゃならないんだ!」
「うるせぇ、離せ!」
「マスターランクに行かないと……マスターランクに行かないと……!」
ブワッ、とルカリオの目から涙が溢れ出す。
「サナに嫌われちゃうううう!!」
「誰だよサナって……」
「恋人だよおおお!! マスターランクになって養ってやりたいんだあああ!!」
「養うなら普通に働け! 仕事しろ!」
「無理だあ! バトルもダメ! コンテストもダメ! ポケジョブも全然続かない! 何をやらせてもダメダメな俺が唯一頑張れたのがユナイトなんだ! 俺にはユナイトしか残ってないんだあ! こんなダメな俺を愛してくれるのはサナだけなんだあ! サナがいなくなったら俺は生きていけないいい!! 今振られそうなんだよお! エースに乗り換えられちゃうかもしれないんだああああ!!」
「うるせえ! ギャンギャン騒ぐな! 泣くな! 鼻水をつけるな!」
「ううっ、ううう……助けてください……俺にはユナイトしかないんです……お願いします……」
「お前ユナイト何年やってんだ」
「子供の頃からだからもう8年位……」
「8年やっててずっとビギナーランク!? そりゃオメェ向いてねぇよ。諦めろ。諦めて働け」
「……どうしても助けてくれないんですか」
「ああ。俺はユナイトバトルとはもう縁を切ったんだ」
「……うわああああああ!!!」
ルカは店から飛び出して、店の目の前の川に向かって走り出す。安全柵を乗り越えようと跨ぐ。向こう側は夜の闇を吸い込むドブ川だ。
「バッカ、オメェ、何やってんだ!」
「死んでやるううう!! サナに振られてユナイトもダメじゃ、俺の人生おしまいだよおおおお!!! もう死ぬしかない!!!! 死ぬしかないんだああああ!!!!!」
バーナーがつるのムチを伸ばしてルカを引き止める。ルカはなおも暴れて飛び込もうとする。
「早まるんじゃねぇ! ユナイトなんかに命賭けんな! ろくなことにならねぇ!」
「うわあああああああん!!!!! もうダメだあああああああ!!!!! おしまいだあああああああ!!!!!」
ルカがバーナーに引きずり降ろされて道に寝っ転がる。じたばたと四肢をバタつかせて泣きわめく。そのあまりの情けなさとみっともなさに、バーナーがため息をついた。
「あーーーもう分かった分かった」
「ホント!? ユナイト教えてくれるのか!?」
「馬鹿言うな。だが、ちょっとプレイを見るだけだぞ? アドバイスしておしまいだ! それ以上は面倒見ねぇ!」
「やったああああああ!!! ありがとうバーナーさぁん!!!」
「鼻水つけるなっつってんだろ!」

ーーーー

「そういうわけで、監督になってくれるバーナー選手だ! 元プロのユナイト選手だぞ!

「ふーん……」
アビーが興味なさげにスマホロトムをいじっている。ポケスタグラムにアップする自撮りの角度を調整しているようだ。
「ちょっと待て、監督になるとは言ってねぇ。少しアドバイスするだけだって言ってんだろ」
「ルカのことだから勢いで押し切ったんだろう? クールじゃないね」
アーロンが前髪をかきあげた。
「ルカはいつも勢いだけなんだど」
ヤーンが肩をすくめる。
「ゴールの秘訣を教えてくれるのか! 俺はゴールを決めたいぞ!」
リザが興奮気味に翼をバタつかせた。

「……ルカリオ、アブソル、アローラキュウコン、ヤドラン、リザードン……。バランス型2人、アタック型1人、ディフェンス型1人、スピード型1人。まあまあ悪くないチーム編成だな。ともかく! プレイを一回見せてみろ。それで判断する。適当に[[rb:野良試合 > スタンダード]]に潜ってこい。俺は観戦する」
「よろしく頼むよバーナーさん! よしみんな行くぞ!」

…………

退化した選手たち。ヤドンとヒトカゲがラビフットとフクスローに叩きのめされている。
「怖いど〜! 痛いど〜!」
「ゴール! ゴール! うおおお!」
アブソルが全力で逃げている。後ろからゴーリキーが追いかける。
「ヤバイヤバイガン萎えなんだけど〜!」
アローラロコンがハッサムのハサミの餌食になった。KOされたアローラロコンがスタート地点に戻される。
「クールじゃないねぇ……」
ルカリオが膝をついた。
「ちくしょー! 降参投票〜〜〜!!」
「反対っ!」
「「賛成!!!」」
【過半数の降参を受理しました】

「試合終了! 0対203。チーム・フラッシュの勝利! 礼!」
「「ありがとうございました!」」

…………

「戻りました」
「……あまりに酷すぎて何から話していいんだか……」
バーナーが眉間のシワを揉んだ。
「まずお前、アーロン! コートの真ん中をフラフラすんな!」
「僕は、センターでこそ輝く……」
「アビーは前に出すぎだ! スピード型は耐久が薄いんだ!」
「萎えぽよ」
「ヤーン! お前は逆に前に出てみんなを守れ! ディフェンス型だろ!」
「怖いんだど!」
「リザはゴールに突っ込む前に敵を倒せ! 無理に決めようとするな!」
「ゴールしてぇよお!」
「そしてルカ!」
「はい!」
「お前は、諦めるな」
「ええ……」
「試合を投げるのが早すぎる。まぁ、この面子なら仕方ねぇかもしれねぇが……ともかく諦めるな。最後まで試合はわからん。制限時間が残り2分になったらスコアが倍になる。最悪な状況でもそこで逆転は可能だ。勝つための方法を今から教えてやるから、しっかり聞いておけよ」

ーーーー

「基本からやり直すぞ。おさらいだ。
制限時間は10分! バトルコートは楕円形。外周に沿うように『レーン』と呼ばれる道がある。レーン上には両チームとも5つずつゴールがある。両端にスタート地点があってスタート地点前にファイナルゴール。そこから上下にレーンが分かれて、その上にスタート地点から近い順にミドルゴール、フロントゴールがある。俺たちの目的は、相手ゴールにエオスエナジーを叩き込んでスコアを稼ぐことだ。エオスエナジーはレーン脇やコート中央にいる野生ポケモンを倒すか、エナジーを持った敵を倒して奪い取る事で手に入る。

まずは……ポジションをはっきりさせよう。
基本は2・1・2。上レーンに2人、下レーンに2人、中央に1人だ。
レーンを走るのは、レーナー。中央をジャングルと呼ぶんだが、ジャングルに行くのはジャングラーだ。アビー、お前ジャングル行け」
「アタシぃ?」
「スピード型は機動力がある。耐久はクソだが攻撃力は高い。必要に応じて上下レーンをサポートしにいけ。走り回って味方をサポートするのがジャングラーだ。お前の役割はアサシンだ。弱った相手に奇襲をかけてトドメを刺しにいけ。間違っても正面から挑むなよ!」
「[[rb:暗殺者 > アサシン]]! かっこいいじゃん! アガる〜」
「残りは全員レーナーだ。アタック型のアーロン、お前はディフェンス型のヤーンと組め。アタック型は耐久が低いかわりに遠くから敵を撃てる。ヤーンに壁役になってもらって後ろから敵を攻めろ! お前の役割はメイジだ。ヤーンはしっかりアーロンを守れ! お前の役割はタンクだ!」
「[[rb:魔道士 > メイジ]]……クールな響きだ」
「[[rb:戦車 > タンク]]? なんか強そうだど……!」
「リザとルカはファイターだ! バランス型は近距離攻撃しかできないが攻撃と防御を兼ね備えている。状況に応じて敵陣に切り込んだり、弱った仲間を庇ったりしろ」
「[[rb:戦士 > ファイター]]! 俺はファイターだ! うおお!」
「それで! それでどうしたらいいんだ!?」

「まずは、俺の言う事を守ってプレイしてみろ。お前たちには1人で野良試合に潜ってもらう」

ーーーー
スタンダードバトル。ランク上下の絡まないいわゆる野良試合。1人で出場しても良いし、2〜3人で集まってチームを組んで出てもいい。
誰と組むか分からないし、実力差がある相手と当たる可能性もあるが、気軽にバトルができるシステムだ。

集合場所には知らないポケモン達と、ルカがいた。
「よろしく〜」
「よろしく」
「うわっ、ラッキーズのルカじゃん」
「あ〜あ、この試合落としたな……」
「……」
自分の知らない人からもこんなことを言われるなんて。野良試合なんて久々だからなんだか不安だ。
メンバーは、カビゴン、エーフィ、ウッウ、ドードリオ、そしてルカリオの自分だ。
ルカは手を上げた。
「あのっ……俺は下レーンに行きます!!」
「……?」
「……お好きにどうぞ」
「あ、はい……」

(いいか? まず自分が行くレーンを宣言しろ。下か上だ。挨拶代わりみたいなもんだ。上手いやつほどレーン宣言を行う。行き先が被って全員同じレーンに行かないようにしろ)

ポケモン全員がスタート地点につく。進化をしないポケモンや、ルカリオやカビゴンのような進化条件が特殊なポケモンを除き、みなエオスエナジーの力で退化する。
ドードリオはドードーに、エーフィはイーブイに。
そして試合開始のホイッスルが鳴る!

(ルカリオの強みは序盤の強さだ。進化しない分、最初から強い。積極的に前に出ろ。まずはレーン途中のポケモンを狩っていけ。真ん中につく頃にはレベル3になっているはずだ。端っこにいるタブンネを倒してレベル4まで持ち込め)

「タブンネ……いた! うおお! 『でんこうせっか』!」

(そしたら敵と鉢合わせるはずだ。一緒のレーンの仲間と協力して戦え。倒すことより倒されないことを考えろ。倒されると相手に経験値を与えてしまう上に数の戦いで不利になる。自陣のゴールの中で戦えばシールドが手に入るから、最悪そこに逃げ込め。しばらく持ちこたえろ。すると……残り時間8分50秒で敵との合流地点にミツハニーとビークインが出現する! 全力で狩れ! 相手に奪わせるなよ!)

「ほんとに出た、ビークイン! うおりゃあああ!!」

今まで何が残り何分に出てくるかなんて考えたこともなかった! ミツハニーとビークインを蹴散らしながらルカは確かな手応えを感じる!
レベルは5に到達した!

正面から敵ポケモンのゼニガメがやってくる!
「おっ、ルカ。いいカモだ! 経験値にしてやる!」
(レベル差は絶対だ! タイマンなら相手のレベルが1上がるだけで勝ち目は薄くなる。逆に、自分の方が高ければまず負けない! 2レベル違ったら勝負は決まったようなもんだ!)

「相手のレベルは……4! 勝てる! 自陣のゴールまで引き付けてから……『コメットパンチ』!」
「ぶべっ! ……なんだ!? ルカが強いぞ!? 勝てねぇ!」
「すごい! 戦いやすい!」
「に、逃げ……」
「『でんこうせっか』!」
「ぐわーーっ!!」

ゼニガメがKOされてボールに戻り、スタート地点に戻される。敵が持っていたエオスエナジーがバラ撒かれた!
「誰もいない……拾って、ゴールへ……!」
エオスエナジーを握りしめ、ゴールリングへ叩き込む!

『ゴォォーーール!! ルカ選手、珍しくゴールを決めたぞ!』
「……久々にゴール決めたぞ! やっぱ気持ちいいな!」

(残り7分になったら上レーン上方にロトム。下レーン下方にカジリガメが出てくる。全員下レーンに移動してカジリガメを狙え。倒すと味方に有利な[[rb:強化 > バフ]]を獲得できる。戦闘で圧倒的に有利になるぞ! 時間的に、その辺りでビークイン達が再出現するからこいつらも狩っちまえ)
(ロトムは放置でいいの?)
(ロトムを倒されると一番近いゴールが故障させられる。ゴール時のチャージタイムが短くなってしまうな。ゴールされやすくなるから確かに痛手だが、被害は限定的だ。先を見越して戦闘で有利になるカジリガメを倒した方が恩恵がでかい。敵がカジリガメに見向きもしてないなら、狙っちまっても良いけどな)

「……集合!!」
ルカが味方チームにクイックチャットを飛ばす。カジリガメを倒すためだ。
「なんかルカが呼んでる」
「負けそうなんじゃない? ほっとけ」
「どうした?」
「一緒にカジリガメを倒そう!」

近くにいてたまたま来てくれた味方チームと共にカジリガメを倒した。
味方が全員シールドを獲得し、更に経験値も大量に手に入る!
相手チーム、フロントゴールが、大量のエオスエナジーを叩き込まれ破壊される! フロント、ミドルゴールはそれぞれ100点までゴールに耐えられるのだ。

「すごい! 押してるぞ!」

「なんだ……!? 相手強くないか!?」
「ルカがいるのに!?」
「わかんねぇ! どうなってんだ!」

(しばらくは湧いてくる野生ポケモンと戦ったり、浮いて独りでウロウロしてる相手ポケモンを狩れ。カジリガメやロトムも再出現するから、出現次第狩れ)

「レベルが9になったぞ! これでユナイト技が使える! 『フルフォースブラスト』ォォーー!!」
「「うわあーーーっ!!!」」
巨大な波動弾が敵を巻き込んで飛んでいく!

(そしてラスト2分でとうとうラストスパートだ! 得点が2倍になり、さらに……サンダーのお出ましだ!)

空から伝説のポケモン、サンダーが舞い降りてコート中央に座する。
雷撃を落として全ポケモンを威嚇する。

(このゲームはサンダーを倒した方が勝つと言っても過言じゃねぇ! サンダーを倒すと、トドメを刺した方のチーム全員にエオスエナジーが手に入り、さらに相手側チームのゴールが全て30秒間故障する! 得点2倍でゴール時のチャージタイムが短くなるのは致命的だ)

「集合! サンダーを倒すぞおぉ!!」
ルカのクイックチャットに応じた味方プレイヤーがサンダーに攻撃を加える!

(もちろん相手もサンダーを狙ってくる! トドメだけ掻っ攫われて泣きを見ると目も当てられねぇ。必殺技……ユナイト技はチャージが貯まるまで1分半から2分はかかるから、残り3分前後になってサンダー戦が近付いてきたタイミングでユナイト技は温存しろ!)

「相手が強くてサンダーに近づけねぇ!」
「ユナイト技使えよ!」
「持ってねぇよ! 使っちまった!」
「よし……相手は丸腰だ! 『フルフォースブラスト』!」
「「うわあああーーー!!」」

ルカの味方の誰かがサンダーにトドメを刺した。サンダーがKOされ、ルカたちにエオスエナジーが注ぎ込まれる!

(このタイミングなら大抵エオスエナジーMAX50点分溜まってるだろ? ラストスパートでそれをゴールに叩き込めば……2倍で100点だ! 点差がついてても逆転できる!)

「いっけええええ!」
ルカがゴールへ溜まりに溜まったエオスエナジーを叩き込む!
『ゴォォーーール!!!! ナイスゴール!!!! ルカ選手が冴えているーーー!!!!』

いつの間にかレベルも最大の15になっていた。敵ポケモンを倒した分の経験値がルカを強くした。

『ここで試合終了ーーーーー!!! ただいま得点の集計中です。……でました。結果は圧倒的!
631対158! パープルチームの勝利! さらに、個人スコアとKO数による貢献度からMVPが選出されます。本日のMVPは……なんと!? ルカだー!!!』
「嘘だろ? ラッキーズのルカ?」
「明日は台風かな?」

ルカは呆然とスコアボードを見ている。自分のスコアが信じられない。他人の結果を見ているみたいだ。
「……MVPなんて初めてとった」

「なんか今日、ルカ強くなかった?」
「思った」
「まぐれだろ、ルカだぞ?」
「いや、マジなんだって」

「……俺、強くなってる……!」

ーーーー

「どうだった?」
バーナーがラッキーズ全員を集めて尋ねる。
「……勝った」
「僕もだ」
「アタシも」
「オラも」
「俺もだあーっ!」
「当ててやろうか? MVP取ったんじゃねぇか?」
「と、取った」
「だろ? まぁビギナーランクならこんなもんだ。『分かってる』やつが一人いるだけでこれだけ試合の流れが違う。『分かってない』やつは絶対に勝てない」
「『分かってる』やつ……」

「じゃあ、『分かってる』やつ5人集めたらどうなると思う?」
バーナーがニヤリと笑った。

ーーーー

『ビギナーランク・ランクマッチ! 対戦カードはラッキーズ対グリッターズ! 絶好調連勝中のグリッターズ、5連勝決めることができるかー!?』
「相手ラッキーズか〜」
「この試合、見えたな」
「グリッターズやばいな。そろそろスーパーランク昇格するんじゃないか?」

観客席のエテボースが両手を合わせて神に祈る。
「ラッキーズ頼むよ……勝ってくれ……! 奇跡を起こしてくれ……!」
隣のシザリガーがエテボースの肩を叩く。
「やめとけ。絶対ムリだ。ラッキーズが勝つなんて宝くじに当たるようなもんだ」
エテボースは悲壮な表情でシザリガーを見た。
「娘の学費をつぎ込んだんだ。これで負けたら次はないんだ……!」
「おま……お前それはだめだろ! 考え直せ! 家族の金だろ!?」
「今までのマイナスをチャラにしねぇと……! 配当120倍なんだ……!」
「よせ! 人生メチャクチャになるぞ!」
「頼むぞラッキーズ!!!!」

ルカはラッキーズ全員と円陣を組んだ。
今日の俺たちは一味違うんだ!
「……みんな、わかってるな? まずはカジリガメ。余裕があったらロトム。そしてサンダーは確実に取る! 倒すより倒されないこと。そして仲間を倒させないこと!」
「おけまる水産〜」
「当然だね、クールに決めてやる」
「もう、怖くないど!」
「ゴールは任せろぉ!」
「「せーの、レッツゴー! ラッキーズ!! イェーー!!!」」

選手全員がスタート地点に立つ!
エオスエナジーの効果で退化するポケモンは全員退化する。

『レディ……ゴー!』

一斉に選手たちがコートを駆け抜ける! ラッキーズの布陣は2・1・2!
ヤドンになったヤーンがアローラロコンになったアーロンを庇いながら前に立つ!
敵はラッキーズの陣地まで深く入り込んでいる。いや、入り込みすぎている!
「『なまける』!」
「くそっ! 回復しやがった!」
「メイジは遠くから狙い撃つ……『こごえるかぜ』!」
「ぐわーっ!! 移動速度が落ちる!」
「うん、クールだ。畳み掛けるよ。ヤーン!」
「いくど! 『みずでっぽう』!」
「うわーーっ!」

敵ポケモンKO!
そのままガラ空きになったゴールへ!
『ゴーール!! 初ゴール!! ファーストアタックはまさかのラッキーズ!!』

反対側のレーンでは、ルカとリザが相手と接戦を繰り広げている!
既にリザはヒトカゲからリザードに進化している。
しかし、相手は3人がかりでルカとリザを迎え撃っている!
「人数差は絶対だ、無理に戦うより引くぞ!」
「うおーーっ!! 序盤のバトルは消耗戦!! 悔しいが引くぞーーーっ!!」

「やっぱちょろいなラッキーズ!」

しかし、有利はそこまでだった!
自陣ゴールに陣取ったラッキーズはHPを回復し、シールドを得ながらしぶとく戦っている!
「なんだ……? なかなか倒れねぇ!」
「だが確実に削ってるぞ! こっちもギリギリだがもう一息だ!」
「……くそっ、やられる前にミドルゴールに下がろう! KOされるよりはマシだ!」
「ルカ! お前もうHP残ってないぞーっ!」
逃げ切れない! ルカが諦めそうになったその時。

「『おいうち』!!」

「ぎゃあーっ!」
「なっ、なんだ!?」
背後からの一撃! アビーだ! 中央で戦っていたアビーがルカのレーンにフォローに入る!
「や、やば……」
「『きりさく』!」
「うぎゃーーー!!」
ルカとリザの戦いで消耗していた敵チームは一撃でKO!
3人とも全滅!

「た……助かった……」
いつもなら、このタイミングでやられていた。ジャングラーがいるだけで生存率が違う!
「ゴール」
「えっ?」
アビーが気怠げに顎をしゃくって相手ゴールを指した。
「入れちゃえばぁ?」
「……あ、ああ!」
「やっとゴールだああーーっ! うおーーっ!」
ルカとリザがゴールを決める!

『ナイスゴール! ラッキーズ何が起きた!? 次々と相手ポケモンをKOしているぞ!?』
観客たちがどよめき出す! 相手も不穏な空気を感じ取る!
人生崖っぷちのエテボースとその友人シザリガーが立ち上がった!
「ワオ、ワオワオワオワーーーオ、奇跡起こるんじゃねぇかコレ!」
「信じられねぇ……! ラッキーズが押してる!」

「行けるぞみんな! 勝てる!」

ラッキーズ全員がカジリガメに集合! 討伐! 強力な[[rb:強化 > バフ]]を得る! 出てきた野生ポケモンを次々と狩る! 相手とのレベル差が開いていく! 両レーンの相手フロントゴールが破壊される!
観客たちが歓声を上げた!

『アンビリバボー! アンビリーバボー!!! ラッキーズが圧倒的に優勢だぞーーーっ!!! 夢でも見ているのかーーー!?』

残り2分のラストスパート! サンダーが降臨した! 敵はボロボロの状態でろくにラッキーズに立ち向かえない!
「ラッキーズ! サンダーを倒せーーっ!!」
「「ラジャー!!」」
集団攻撃を受けたサンダーがついに地に落ちた!
ラッキーズ全員の体にエオスエナジーが満ちる!

「これで……決まりだぁーーーーっ!!!」
『ナイスゴール!! グリッターズの上レーンミドルゴール破壊! 同じく下レーンも破壊される! 残ったファイナルゴールへ、ルカ選手が駆け抜ける! そしてエナジーを……ゴーーーーール!!! さらにスコアに100点追加ーーーーーーー!!!!
ここでタイムアーーーーップ!!! 試合終了ーーーーーー!!! スコアは……520対132! ラッキーズ圧勝! 圧勝です! あの! ラッキーズが! 勝ちました!! 歴史的瞬間だー!!!!』
 
観客の熱狂が最高潮になる! 弱小チームと呼ばれたラッキーズ、まさかの圧勝!
人生崖っぷちのエテボースが絶叫した!!
「大穴だーー!!!!!!! 配当120倍だーーーーーー!!!!!!!! マイナスどころか今までの負けを取り返して大勝ちだぞーーーーーーー!!!!!!!! 奇跡だーーーーーーー!!!!!! 娘を大学に行かせてやれるぅーーーーーー!!!!!!」
「やったな!!! でも娘の学費はもう手を付けるなよな!」
「ありがとうラッキーズうううう!!!! お前たちは俺のラッキースターだあああああ!!!」

ーーーー

「……勝っちゃった」
「ヤバイ〜、アガる〜! ちょーエモい! ポケスタグラムにアップしよ〜っと」
「ゴールたくさん決められたぞーーっ!」
「クールだ……実にクールだよ、こういうのを待ってたんだ」
「オラ……嬉しくてちょっと泣きそうだど」

「どうだ? これがユナイトの基本だ。これだけ分かってれば大抵勝てる」
バーナーが満足げに頷いた。

「ね、ね、みんな! 自撮りしようよ、ほら写って写って! 初勝利の記念写真!」
アビーがスマホロトムを自撮りモードにして、みんなを寄せ集めた。
「お、俺も入るのか!?」
「バーナーさんもだよ! 当たり前だろ!」
「お、おいおい……」

……ラッキーズはその後、快勝を続けた!
連勝に連勝を重ね、あっという間にビギナーランクからスーパーランクの昇格戦まで辿り着く!

「……大体、わかったろ? アドバイスは十分したつもりだぞ。スーパーランクくらいまでならこれで勝てるだろ。俺の仕事は終わりだ」
控室でバーナーがルカの肩を叩く。
「頑張れ。あとは自分たちでどうにかしろ!」
「……えっ? 監督は?」
「えっ? 監督は? じゃねぇよ! 元々、ちょっとアドバイスしておしまいって話だったろ!」
「そんなぁ! せっかくここまで一緒にやってきたのに! 今いいとこなのに! せっかくだから最後まで付き合ってくれよ!」
ルカがバーナーに縋り付く。
「俺たちをマスターランクに連れてってくれ!」
「そこまで付き合ってられっか! 何年かかるか分かんねぇぞ! マスターランクなんて軽々しく言うな! プロなんだぞ! 化け物がうじゃうじゃいる! 後はせいぜい頑張れ! あばよ!」
「そんなこと言わないでよぉお!!!」
去りゆくバーナーの後ろ足に縋りついたルカがズルズルと引き摺られる。バーナーはうっとおしそうに足をバタバタさせた。
「痛ぇ! 痛ぇよ! そこは古傷なんだ!」
「お願いだよぉ!!! せめてもう一戦だけでいいからぁ!!!」
「あーーはいはいはいはいわかったわかった、後一戦だけだぞ!」

「……ヤバイねルカ。普段は諦め早いくせにこういう時だけしつこいね」
「ほんとに勢いだけなんだど」
「クールじゃないねぇ……見てられないよ」
「でも、そこがルカの良いとこなんだぞーっ!」

「スタンダードの試合で一回戦ってるところを見ておしまいだ! それで本当に最後だ! 良いか!?」
「お願いします!!! 早速試合を組もう! 誰と当たるかな〜〜」

ルカはマッチングを申請する。スタンダード試合は誰と当たるか運次第だ。
マッチング完了の通知が鳴る。

「誰とあたった?」
「えっ……嘘だろ」
「えっ? どこ?」

「わ、ワイルドファングス……」

ーーーー

スタンダード試合はある程度実力が似通ったところでマッチングされる傾向はあるが、稀にランクがかけ離れた相手と組むことになる事故が時たま起きる。
ラッキーズはワイルドファングスとスタジアムコートに向き合って立っていた。
ワイルドファングスのチーム編成は、エースバーン、ゾロアーク、カイリキー、カメックス、キュワワーだ。
ルカはエースと握手を交わした。
「な、なんでワイルドファングスがスタンダードに……ランクマッチで戦ってるんじゃなかったのか?」
「うむっ! 新メンバーが加入してなっ! 練習と調整、連携の確認がてら野良試合でもしようと思ってなっ!」
エースが後ろのキュワワーを親指で指した。
キュワワーはフワフワ浮きながら花びらを撒いている。
「それよりもっ……ラッキーズのルカっ! サナちゃんの恋人らしいなっ! キミのことは聞いてるぞっ!」
「……な、何をだよ」
「ろくな仕事もせずに、プラプラとユナイトバトルしてるそうじゃないかっ! はっきり言おうっ! キミはサナちゃんに相応しくないっ!」
「ぐうっ! なんでそんなこと言われなきゃいけないんだっ!」
「プロの世界は厳しいっ! オレたちですらハイパーランクで苦戦してるんだっ! キミたちがマスターランクなんて夢のまた夢だっ! 大人しく真面目に働けっ!」
「ま、まだわからないぞ! 俺たちだって強くなったんだ!」
「なら、分からせてあげようっ! ハイパーランクの実力を見せてやるっ!」
エースは自信と自負に満ち溢れている。
ルカは気圧された。

「あれあれぇ、万年ビギナーのラッキーズじゃねぇの〜?」
ゾロアークのゾロがニヤニヤしながら近づいてくる。後ろにはカイリキーのリキが控えている。
「新メンバーの調整に来たけど、手応えがない奴らじゃぁ練習にもならねぇなぁ? なあ、リキ!」
「ウッス」
「何こいつ! 感じ悪っ」
アビーが眉をひそめた。
「あれっ、アブソル? ……うおっ、可愛いじゃん。超タイプ。今夜試合終わったらどう? あくタイプ同士仲良くしようぜ」
「んべー! 絶対いや!」
アビーが舌を出してゾロを振った。ゾロはやれやれと肩をすくめて振り返る。
「ま、適度に頑張ってくれや。練習台くらいにはなってくれよ。……行くぞ、リキ!」
「ウッス」

「……みんな、勝つぞ!」
「ムッキー! あのゾロアーク、ギャフンと言わせてやる!」
「クールに決めてやる」
「頑張るど!」
「ゴールは任せろぉー!」
「「レッツゴー! ラッキーズ!! イェーー!!!」」

試合開始のホイッスルが鳴る!

「序盤は順調!」
セオリー通りに行こう。相手の隙を突いてゴールを決める!
その後は睨み合いが続く。消耗を避けてお互いにぶつかり合うことはない。

そして最初のミツハニーとビークインが現れる。
これを狩れば有利だ!

「やっぱり乱戦になるか!」
「カメールが硬すぎるぞぉー!」
ルカとリザはカメールの防御に苦戦していた! 『ハイドロポンプ』で突き飛ばされる!
「アビーが来てくれたら……!」

そう呟いた途端、草むらからアビーが顔を出した。まっすぐこちらに向かってくる!
「良かった、助けてくれアビー!」

しかし、アビーはルカに攻撃した! 『きりさく』がルカに直撃する!
「な、なんで……!」
アビーがニヤリと笑ったかと思うと、姿が揺らいでゾロアークに変わった! ゾロの『イリュージョン』だ!
「バカめ、騙されたな!」
「そんな! 本物のアビーは!?」
「とっくにKOしてやったぜ」

ルカはミニマップを確認する。確かにアビーはスタート地点にいる!
「これで3対2だ!」
ルカとリザはビークインを諦めて、必死でゴールに逃げようとする。しかし、ゾロの爪が鋭く光る!
「逃げる相手はスピード型の獲物だ。『つじぎり』!」
「ぐわーっ!」
リザがKOされ、ボールに入りスタート地点に戻される。
ルカも逃げ切れずにまとめてKOされた。
ペナルティタイムが終わり、再びスタート地点から走り出す!

「……ちくしょう!」
「ルカ! そろそろカジリガメが出てくるぞおー!」
「行こうリザ! 他のみんなも向かってるはずだ!」

しかし、下レーン下方、カジリガメの元に辿り着いたラッキーズが見た光景は!

「ワイルドファングスが、集まってる……!」
「これじゃ近づけないぞおー!」
「遅いよルカ、リザ。今すごくクールじゃない状態なんだ」
「あ、アタシもう無理ぃ!」
アビーがKOされる!
ワイルドファングスは3人でカジリガメを叩き、残り2人でラッキーズを追い払っている!
エースとカメックスがルカたちの前に立ちふさがる!。
「なるほどっ! セオリーを覚えてきたらしいなっ! しかしそれだけで勝てるほど甘くないぞっ!」
「お勉強だけで俺たちに敵うと思うなよ!」
「行くぞカミュっ! 『なみのり』で押し下げろっ!」
「おうよリーダー!」
荒波がラッキーズを飲み込んだ! ラッキーズはカジリガメに触れられないまま、カジリガメKOのアナウンスが流れる。ワイルドファングスの全員にシールドが与えられる!
「つ、強すぎる」
「おらが防いでる間にみんな逃げるんだど〜!」
ヤーンが『ねっとう』で応戦する! 
しかし袋叩きにされて数秒も保たなかった。

ルカたちは押されに押されて、フロントゴールを破壊されてしまった。
ロトムも奪われてゴールリングを故障させられた隙にまたゴールを決められた。
レベル差は絶望的なまでに開いた。

「ま、まだだ、サンダーを取るんだ!」

残り2分。サンダーが舞い降りる。
これさえ取れたら逆転だってできるはずだ。
サンダーの周りには既にワイルドファングスが集まっている!
「うおおおお! 『グロウパン……』」
「『シャドークロー』!」
「ぐわーーっ!」
ゾロの攻撃がグロウパンチ発動前の溜め動作を中断させる。
「『グロウパンチ』は発動前に潰す。基本だぜ?」
ゾロはルカを足蹴にした。『みだれひっかき』で追撃する。
「くっそおおおお!!! 『インファイト』!!!」
「当たらねーよ」
インファイトの射程距離から逃げるゾロ。虚しく拳が宙を切る。
「インファイトは射程距離が弱点だ。至近距離ならともかく、この距離で『どんそくスモーク』も使わずに当たるかよ、バーカ」
他のメンバーもサンダーに近づくことすら出来ない。
「トドメだ! 『かえんボール』っ!」
エースが遠距離からルカに追撃する。
ルカはKOされた。

長い長いペナルティタイム。
復帰してスタート地点から走り出したルカが見たものは。
スタート地点からリスタートするたびにファイナルゴール前で待ち構えてるワイルドファングスに襲撃を受けKOされ続ける仲間たちの姿だった。
一歩もコートに出られない仲間たち。試合と呼ぶにはあまりに一方的な蹂躙。
ルカは立ち尽くした。
「嘘だろ……こんなに差があるのか……!?」
「これがハイパークラスだっ! 覚えておけっ!」
『ここでホイッスル! 試合終了ーーーーーー!!! あまりに一方的な試合! さすがワイルドファングスだーーーっ!!! スコアを見るまでもなく圧勝! 圧勝です!!

ーーーー

スタジアム外。正門前でラッキーズとワイルドファングスは向き合っていた。
「これで分かっただろうっ? プロの世界はこれより厳しいんだっ!」
エースがルカに残酷な事実を告げる。
ルカの目はどこも見ていない。
「……オレはっ! サナちゃんの意思を尊重するっ。サナちゃんにキミと別れる気がないならそれは仕方ないことだっ。だがっ! しかしっ! サナちゃんのヒモになって負担をかけたり、サナちゃんを泣かせるような事をした時はっ! オレの渾身の『かえんボール』がキミの鼻面に飛んでいくと思えっ!」
エースはふんっ、と鼻息を荒くした。
ゾロはニタニタ笑ってアビーにちょっかいをかけている。
「アビー、また俺とユナイトやろうぜ。デートも大歓迎だ」
「ぜっったい、イヤっ」
「まぁ、やりたかったところでお前らがハイパーランクに来ることなんてあり得ないだろうがな! ハッハッハ! お前もそう思うだろ、リキ!」
「ウッス」
「こらっ! ゾロっ! キミはすぐにそうやって相手のチームに悪態をつくっ! 悪い癖だぞっ!」
「へいへい、リーダー様の言う通り」

「……ま、残念だったな」
後ろからバーナーが顔を出す。
「お前らに教えたのは基本の基本だ。プロはそのくらい確実に押さえてくるし、逆に相手にそれをさせない方法だって使ってくる。相手ポケモンに応じた作戦だって立ててくるだろう。ルカ。もう悪いことは言わねぇから、ユナイトは趣味にしておけ。真面目に働け」
「俺……俺……もうダメだ……」
ルカは悔しくて悔しくて仕方ない。絶望で次々に溢れる涙を拭った。
「……ユナイトに人生なんて賭けるな。バカを見てからじゃ遅いぞ」

「バーナー! お前何やってんだ!?」

老いたオーロットが現れた。老いてはいるが鍛えられた身体をしている。彼はバーナーの姿を認めると、目を見開いた。

「ロット!? テメェこそ何やってんだ!」
「何って、監督だよ! 俺がワイルドファングスの監督なんだよ」
「ロット? ロットって、あのロット?」
「ルカ、知ってるんだど?」
「知ってるも何も、去年引退したプロのユナイト選手さ! ゴールを守らせれば誰一人としてゴールを通さない。最強のディフェンダー。そしてバーナーの永遠のライバル! 『チーム・グランドスラム』の鉄壁の要塞、ロット・ザ・ガーディアン! 第3シーズン、春の公式大会決勝戦でバーナーさんと熾烈なゴール前争いを繰り広げたのは歴史に残る戦いだった! 引退した後、監督になってたのか! ……だからワイルドファングスは強かったんだ……!」
「お前、怪我して見なくなったと思ったら飲んだくれて遊び歩いてるそうじゃないか! オマケにこんなところで、こんな野良ポケモンみたいな奴ら集めて今更監督ごっこか!?」
「テメェにゃ関係ない! ただの成り行きだ」
「お前はいつもそうだ! 何もかも中途半端だ!」
「なんだとぉ!?」

「……ルカ、なんであの二人バチバチしてんの?」
「バーナーさんの連続ゴール記録を阻止したのがロットで、ロットの連続ゴール阻止記録を破ったのがバーナーさんなんだよ。あの二人は現役時代から犬猿の仲でライバル関係なんだ」

「遠距離も近距離も熟すファイター? どっちつかずなだけだろう! ユナイトとは縁を切った〜、とか嘯いていながら、結局未練がましくこんなところで監督ごっこか? そういうところが半端なんだ! 野良ポケモン集めてお山の大将を気取るのはさぞがし気持ちいいだろうな!」
「テメェ言わせておけば……! お前だって監督やってるじゃねぇか!」
「俺は違う。各地のスクールからよりすぐりのエリート達を集めて鍛えてきた。最強で完璧なパーティだ。お前と違って俺は徹底的に極めるタイプなんだよ。おっと、悪いがこの後別のスタジアムで練習試合があるんだ。それじゃあなラッキーズ。せいぜい頑張るといい。まぁ、バーナーが監督じゃたかが知れてるだろうがな! ハッハッハ!」
「ムッカーーーー!!! ロット! 相変わらず腹の立つ野郎だぜちくしょうめ!!!」

ロットとワイルドファングスがバスに乗って去っていく。
バーナーは額に青筋を立てて、わなわなと震えている。
「気が変わったぞラッキーズ。お前ら、ワイルドファングスをブチのめしたくないか?」
「やられっぱなしはクールじゃないね」
「アタシ、激おこぷんぷん丸! 何よ野良ポケモンって!」
「あんなに言われて黙ってられないど!」
「うおー!! あいつらからゴールをもぎ取りてぇーー!!」
「お前はどうなんだ! ルカ!」
「……で、でも、あまりにも差がありすぎて……俺には無理だ」
「簡単に勝負を投げるな! お前は諦めるのが早すぎると言っただろう!」
「……勝てるのか?」
「マスターランクまで連れて行くとはさすがに言えねぇが、ワイルドファングスをピンポイントで潰すのは不可能じゃねぇ! どんなチームにも弱点はある! まずは奴らと同じ土台に立つために、ハイパーランクまでお前らを引っ張り上げてやる! これからビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけよ! ロットの野郎に一泡吹かせてやるんだ!」
「俺は……」
「いいか! ユナイトバトルは集団戦だ! レーンの隅で一対一で戦ってるように見えても、長い目で見れば全体に影響を与えている! 一人ひとりのプレーがチームを勝利に導く! 誰か一人でも諦めたら、勝つ勝負も勝てねぇ! まずはルカ、お前の根性を鍛え直してやるぞ! ついてこい!」
「えっ、おいバーナーさん!?」
「ユナイトバトルの真髄を叩き込んでやる!」

……チーム・ラッキーズの地獄の日々が始まった!

「まずは自分を知れ! 自分の技の長所、短所! ユナイトバトル中は、4つの技から2つ選んで覚えて戦うことになる! 例えば、俺なら『ヘドロばくだん』と『ギガドレイン』のどちらかを選び、その後『ソーラービーム』と『はなびらのまい』を選ぶ。『ヘドロばくだん』と『ソーラービーム』を組み合わせて覚えれば、遠距離から相手を攻める遠距離ファイターになるし、『ギガドレイン』と『はなびらのまい』を組み合わせれば、近距離に切り込んで、受けたダメージを『ギガドレイン』で回復しつつ戦う近距離ファイターになる! 戦況やチーム編成に応じて足りない部分を補うように選択をするんだ!」
「zzz…」
「ヤーン! 寝るんじゃねぇ!」

ーーーー

「敵の動きをよく覚えろ! ワイルドファングスの最近の試合VTRをかき集めてきたぞ!」
テーブルの上には崩れそうなほど山積みのDVD! 
「こ、これ全部見るのか……?」
「アタシ目が乾きそうなんだけど」
「つべこべ言うな! 奴らの弱点を探すぞ!」

ーーーー

「ラッキーズ、ファイッ、オー! ファイッ、オー!」
「オラオラ、キリキリ走れ! 体力作りは基本中の基本だ!」
「……クールじゃない……とてもホットだ……ガクッ」
「アーローーーーン!」

ーーーー

「実戦に勝る経験はねぇ! ランクマッチで戦え!」
ラッキーズは危なげなくランクマッチを勝ち進む!!
そして……次の試合に勝てばスーパーランク昇格戦に挑める!

「敵はエースバーン……エースじゃないけど、同じ種類の相手なら何か見つけられるかもしれない!」
「うおお! 『ブレイズキック』!」
「……エースバーンは耐久が低い! ブレイズキックで接近してきたら逆にKOチャンスだ! エースなら密集した敵陣に向かってこんな雑な撃ち方はしなかった! 『インファイト』ォォ!!」
「ぐわーーっ!!?」
「ゴールチャンスだ! うおーーーっ!」
「いけ、リザ! 『しんそく』で援護する!」

『ラッキーズ勝利! まさかのラッキーズ、スーパーランク昇格戦に挑戦権を獲得です!』

客席の人生崖っぷちエテボースと友人のシザリガーがスタンディングオベーション!
「いいぞラッキーズ! おめでとうラッキーズ!」
「お前、すっかりラッキーズファンだな!」
「ラッキーズはまだ信用が無いのか、オッズが高めに設定されてるから配当が高いんだよな! その癖最近は勝率が良いからボロ儲けだ! 今日も昨日の勝ち分と給料全部つぎ込んだんだ!」
「お前いつかワイフにぶっ殺されるぞ」

ーーーー

『ロトロトロトロト……』
ルカのスマホロトムが鳴る。画面に表示された名前は……サナだ。
「……もしもし?」
「ハーイ、ルカ? 元気?」
「サナ……」
「最近、連絡無かったから心配しちゃったわ。どうしたの?」
「ずっと忙しくて……」

ルカはあれからサナと連絡を取ってない。エースとの事もあり、なんとなく気まずかったのだ。ユナイトの特訓とバイトで忙しかったのも事実だ。

「……ちょっと寂しかった。私に飽きちゃった?」
「そ、そんなことない! 愛してるよサナ」
「私もよ」
「ほんとに?」
「ええ、なんでそんなこと聞くの?」
「……エースと仲良いんだろ? ワイルドファングスの」
「…………知ってたのね」
「……うん」
「ごめんなさい、黙ってるつもりはなかったの」
「いいよ、俺も連絡しなかったし」
「私、ルカのことが好き。エースくんの告白は断ったわ。まだ猛烈にアタックされてるけど」
「そ、そうなんだ……乗り換えたりしない?」
「しないわよ! もう!」
「……ありがとう」
「で・も、ルカが真面目に働いてくれなかったら考えちゃうかもよ?」
「うっ……」
いたずらっぽくサナが言う。冗談だとは思うが、あながち嘘でもないはずだ。サナの『ちょっと考えちゃうわよね』の一言はルカの心に深く食い込んでいる。
ルカは話題を変えることにした。
「……あ、そうだ。今度試合見に来てよ。スーパーランク昇格戦なんだ」
「……昇格戦? 勝ってるの?」
「最近はね。いい監督が着いたんだ」
「そうなの? 見に行くわ! また、ルカのかっこいいところ見せてよ!」
「もちろんだ。チケット用意しておくよ」
「嬉しい! いつ?」
「一週間後。急だけどいける?」
「絶対に休みを取るわ! 頑張って!」
「ありがとう。愛してるよ、サナ」
「私もよ、ルカ」

ーーーー

スーパーランク昇格戦当日!

「「せーのっ、ブイきゅーとっ♡」」
「ハーイ、視聴者のみんな!」
「ニンフィアのニア!」
「エーフィのフィー!」
「グレイシアのレシア!」
「「3人揃って『チーム・ブイキュート』♡」」
「今日も可愛くユナイト生配信していくよ!」
「記念すべきチーム・ブイキュートのスーパーランク昇格戦!」
「あ、スパチャありがと〜! 嬉しい〜!」
「なになに? 『オタクスリーパー@ニア推し』さん。『ニアたんの使用済みタオルくんかくんかしたい』……やだぁ〜〜も〜〜! ……えっち♡ うふっ♡」
「気を取り直して……今日の相手はラッキーズでーす!」
「それじゃあ、リーダーのルカさん! 一言どうぞ!」
ルカはニアにマイクを向けられる。ルカは緊張でガチガチだ。
「よ、よろしくお願いします。負けませんっ!」
「ありがとうございまーす!」
「みんな、私達を応援してね!」
「それじゃあ今から作戦会議だから、ちょっとだけ配信切るね? チャンネルはそのままだぞっ♡」
「じゃあね〜♡ Chu♡」

…………。

「……配信停止、っと」
「おつで〜す」
「うぃ〜」
「つーか、ラッキーズかよ」
「勝ちが見えてる試合って撮れ高微妙なのよね〜」
「ま、確実に昇格できるし、いいんじゃね?」
「どうする? 昇格祝い特別配信、何やる?」
「プレゼント企画でノベルティつける? アクスタ? Tシャツ?」
「ニアの使用済みタオル」
「爆笑」
「やめろよ、マジで気持ち悪い。さっきから鳥肌止まんねぇんだよ」

一方遠くからその様子を見ていたラッキーズ。
「裏表ヤバっ」
「アイドルの裏側なんだど……」
「……ルカ、何なんだ? あのチャラチャラした奴ら」
「そうか、バーナーさんの時代は配信とか無かったもんな。最近はポケチューブで試合を配信するチームも多いんだよ」
「アイドル活動しながらユナイトもやる、スポーツ系アイドルだね。クールな……いや、ホットなトレンドだよ。僕もやろうかな……」

「……相手が誰であろうがやることは変わらねぇ。基本に忠実に。そして、自分の役割を全うしろ。相手チーム編成は、アタック型のニンフィア、エーフィ、グレイシア。ディフェンス型のヨクバリス、イワパレスだ! 超攻撃的編成だな。脆いアタック型をディフェンス型が守りつつ戦うタイプだ。何とかしてディフェンス型の防御を突破しろ!」
「OK! それじゃあ行くぞ、ラッキーズ」
「「レッツゴー! ラッキーズ!! イェーー!!!」」

『スタンバイ!! レディ……ゴー!!』
ホイッスルが高らかに鳴る!
それぞれが野生ポケモンを倒し、ゴールに向かって駆け抜ける!

「ブイキュートのディフェンダーが前に出てきたぞーっ!」
「そっちは頼むぞリザ! ディフェンダーを抜くには……ムーブ技! 『しんそく』っ!」
「うわっ、近付いてきた! おい! ちゃんと守れよ、ヨクバ!」
「うおお! ニアたんには指一本触れさせないでござるぅぅ!! ブイキュート親衛隊1号、ヨクバリスのヨクバ! 命懸けの肉壁ーー!!!」
「『ほのおのパンチ』!」
ヨクバがリザのほのおのパンチでルカに向かって突き飛ばされる!
「これだけ近ければ……『インファイト』!」
「アバーーーッ!!」
挟み撃ちでヨクバKO!
「やべっ! アイツ使えねぇな!」
「ニア! 可愛い女の子だからって容赦しないぞ!」
「残念だったな、ボクは男だ!」
「なんだってぇ!?」
「『ハイパーボイス』!」
「……! 深追いは危険だ、下がるぞ! ニンフィアのハイパーボイスは移動しながら撃てるから引き撃ちが強いんだ! あいつは付かず離れず戦う中距離アタッカーだ!」
「わかったぞおー!」
「チッ、ラッキーズの癖に妙にカンが良いな……!」

「……相手の技への対応が分かるだけで、戦いやすい! 試合のVTRを見たのは無駄じゃなかった!」

反対側のレーンでも、ヤーンとアーロンがイワパレスを打ち破った!
「無念でござるーっ! ブイキュート親衛隊2号、イワン! ここに散る!」
「嘘でしょーっ?」
「あたしら押されてない!?」

「ヤーン、聞きたまえ。エーフィの特性は『マジックミラー』、グレイシアの特性は『ゆきがくれ』だ。どちらも妨害を受けた時にそれを無効化して有利な効果を発動する。『ねっとう』や『テレキネシス』の妨害よりも、『なみのり』による突き飛ばしや、『ドわすれ』での回復による耐久戦に持ち込もうじゃないか」
「わかったど、アーロン!」
「『オーロラベール』で僕が有利な状況を作り出す。そしてここで持ち堪えていれば……」
「おまたせ!」
[[rb:草むら > ブッシュ]]に隠れていたアビーが飛び出した! 強烈なアンブッシュ!
「いやーーーーっ!」
「レシアー!」
「いいね、クールな連携だ」
「もう一匹!」
「きゃーーーーっ!」
レシア、フィー、KO!

『ゴール! ゴール! ブイキュート、フロントゴールが破壊されたー!!!』

「俺たちはワイルドファングスを倒すんだ! こんなところで手こずってなんかいられない!」

「し、信じられない、ホントにラッキーズなの!?」
「こいつら弱小チームじゃなかったの!?」
「ボクたちの昇格戦がーー! 撮れ高がーーー!!」

『ラッキーズ対ブイキュート、勝者はラッキーズ! もう弱小チームなんて言わせない! スーパーランク昇格でーーーーす!』

「……よしっ! ハイパーランクに一歩近づいたぞ!」
ラッキーズは全員でハイタッチをした!

ーーーー

「お疲れ様! スーパーランクにいっても頑張ろう!」
「ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!!! ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!!」
「どうしたアビー!?」
アビーのスマホロトムがけたたましく鳴り響いている!
通知音が鳴り止まない!
「アタシのポケスタグラムとポケッター、めっちゃフォロワー増えてる! 『いいね!』も付きまくり! スーパーランク昇格の投稿もバズってる! ブイキュートが配信してたからうちらの事も拡散されたんだ!」
「マジで!?」
「たまにブイキュートファンからのアンチ投稿も混じってるけど、軒並みみんな応援してくれてるよ! 夢のインフルエンサーだよアタシっ! テンションブチ上がってきたー!!!」
「……なんでこんなに人気出たんだ?」
「ほらほら、写真撮るよ! みんなに見せてやろうよ! バーナーも!」
「またか? なんで俺も混ざるんだよ……」
「いいからいいから! ピース!」

ーーーー

『まさかの弱小チーム、起死回生の逆転劇!』
『弱小チーム、強化の影に有名プロユナイト選手が!?』
『ラッキーズ、またもや大活躍! スーパーランクの強豪相手にダブルスコアで勝利!』
『ラッキーズブーム到来! 今一番熱いユナイトチーム!』
『ラッキーズ活躍で賭けユナイトのオッズが大荒れ! 読めない勝敗!』
「月刊ユナイトクラブです。ルカ選手、インタビューお願いします!」
「ええっ、俺に!?」

「アビー超可愛くないか!?」
「わかる! 俺ファンになっちゃった! ポケスタの投稿もイカしてる!」
「アーロン様に踏まれたい〜♡」
「ヤーンも母性本能くすぐるよね〜」
「リザはすごいポイントゲッターだ! 俺はリザを応援するぞ!」
「ルカ、顔がいい……イケメンすぎず、程よいイケメンなのが好き……」
「でも恋人いるらしいよ。インタビューで言ってたじゃん」
「マジで? いいなぁ〜」

ーーーー

「……なんか、すごい俺たちバズってるな」
「えへへへ、1000いいねついちゃった。えへへへへ」
「アビー、良かったな」
「なんかぁ〜、アタシ、最初はさ。ユナイトバトル別にそこまで好きじゃなかったんだよね〜。ダイエットになるから良いかな〜くらいに思ってたんだけど。でも……」
アビーがニヘッと笑った。
「みんなで頑張って勝つって、ちょーエモいね。アタシ、ユナイト好きかも」
「おお! アビー! 分かってくれたのか! そうだよ、ユナイトは楽しいんだよ!」
「何言ってんのよルカ。あんたが一番つまらなさそうだったじゃん?」
「え、俺が?」
「『楽しいスポーツがあるからやろう』って誘われて入ったのに、負け続けてすぐ降参して、あんたはムッツリした顔してるじゃん? 一番楽しくなさそうなんだもん。マジで萎えた。でも最近は変わったよね〜楽しそう」
「そ、そうだったかな……? まぁ、確かに今はすっごく楽しいよ」

そうか。いつの間にかすぐに諦めてしまうようになって、ユナイトを楽しむことを忘れていたのかもしれない。いや、もしかしたら
戦う前から諦めてしまってたのかもしれない。
全力で戦って全力で勝つ。確かに今のユナイトバトルは充足感がある!

「俺、今ユナイト楽しんでる!」

ーーーー

スーパーランクでも連勝を続けるラッキーズはもう誰も弱小チームだなんて呼ばなくなった。苦戦こそあれど、負けることはあまりなかった。

「『しんそく』は集団に当てれば連続で使えて、『ボーンラッシュ』と組み合わせれば凄まじい機動力を得られる……」
「ルカ、何ブツブツ呟いてるんだ?」
「あ、ユナイトで自分の技の組み合わせを覚えてて……」
「バイト中は集中しろよ。怪我するぞ」
「すいません! ……『グロウパンチ』は溜め動作が必要、『インファイト』は自分が動けなくなるから、妨害持ちの味方と組んで当てる。アーロンの氷やヤーンの拘束わざがあれば……単発の威力は高くて強いから……」
「ルカ!!」
「す、すいませんっ!!」

ーーーー

「……ゾロアークは相手を鈍足にしたり妨害する技を持ってないから、真正面から戦う……特性は『イリュージョン』で相手に化ける……ゾロアークは、わざが切れたら窮地に陥るから如何にわざを耐えきるか……」
「ルカ、またVTR見てるの? 少し休めば?」
「うわっ、君、目の隈酷いぞ? クールになりなよ……」
「うん……もう少しだけ……」

ーーーー

「ハイパーランク昇格戦だ! これに勝てばハイパーランクだぞ!」
「ワイルドファングスは目の前だぞーっ!」
「アタシらの実力を見せてやろー!」
「勝ったら祝勝会でたくさんご飯食べるど!」
「やれやれ、また僕のファンが増えてしまうな。実にクールだ」
「「レッツゴー! ラッキーズ!! イェーーー!!!」」

ラッキーズの連携は日に日に強化されている!
戦い続けた経験の蓄積が、確かに今花開こうとしていた!
かつて人生崖っぷちだったエテボースと友人のシザリガーが、ラッキーズのTシャツを着てメガホンを叩いた!
「レッツゴー、ラッキーズ! レッツゴー、ラッキーズ!」
「アビーちゃーーーんこっち向いてーー!!! あ、手振った! 今俺に手を振った!」
「今日もお前らにガッツリ賭けてるんだ! 儲けさせてくれーー!! 負けたら家のローンが払えねぇんだー!!」
「お前もうギャンブルやめろよ」

『レディーーーゴーーーッ!』

「ルカ、もちもの『もうこうダンベル』はゴールを入れるたびに攻撃力が加算される! 細かくゴールを決めるんだっ!」
「はい! バーナーさんっ!」
「アーロン! 『ふぶき』で敵を押し下げて前線をあげるんだ! ヤーンは確実にアーロンを守れ!」
「了解した……!」
「任せるどー!」
「アビー! 相手の陣地の中央野生ポケモンを掠め取れ! カウンタージャングル作戦だ!」
「アゲアゲ〜!!」
「サンダーが来たぞ! リザ! 『だいもんじ』で範囲攻撃! サンダーを取りに来た相手ポケモンをまとめて焼き払え!」
「うおおーー! ゴールもいいけどKOも気持ちいいなーっ!!!」

『ゴール! ゴール! 次々にお互いにゴールを決めるっ! 接戦です! あーっ、サンダーにラストヒットを決めたのは……リザ選手だーーーっ! ラッキーズがサンダーを取った!』
「攻めろ、ラッキーズ!」
「「うおおおお!!」」

『……試合終了!! 678対581、ラッキーズの勝利!』
「「ありがとうございました!!」」

ラッキーズ……ハイパーランク到達!

ーーーー

「ルカ!」
「サナ! 来てくれたんだ!」
控室前の廊下。サナがルカに飛びつく。二人は抱きしめ合う。
「ルカがくれたバックステージパス! 使っちゃった! 昇格おめでとう!」
「ハイパーランクだ! ワイルドファングスと同格だよ!」
「今日もかっこよかった! 最高よルカ!」
「マスターランクも夢じゃないかもしれない!」
「頑張ってね! 応援してるわ」

「……ルカのカノジョ? めっちゃ美人」
「キレイな人なんだど……」
「うおー……うらやましいぞぉー……」
「ホットなレディだ。ルカにはもったいないね」
「なんか言ったかアーロン」
「いや別に?」
「……サナ、この後空いてる? ご飯食べに行こう! ごちそうするよ!」
「素敵! 行きたい! でも、友達と来てるから話してくるね」
「……友達って、エース?」
「違うわよっ、ミミーとブリム! みんなルカのこと見直したのよ」
「そ、そうか」
「じゃあ後でね、スタジアム正面で!」
「うん! 待ってて!」
サナが投げキッスをして去っていく。ルカはデレデレして顔が緩んだ。

「……今のがお前の彼女か?」
バーナーがルカの横に立つ。遠くを見るような、何かを懐かしむような目だ。
「そう! サーナイトのサナ。可愛いし性格も良いし腰も細くてスタイルもいいし俺の理想の彼女さ。おまけに料理も上手だし……」
「結婚は?」
「考えてる。……前までは、俺に稼ぎがなかったから言い出せなかったけど……今ならできそうな気がするよ。マスターランクにいったらプロポーズするんだ」
「……ルカ。嫁さんは大事にしろよ」
「もちろんだよ」
「よく聞け。……俺には妻と子供がいた。ユナイトやってる俺に惚れたらしくてな。俺には勿体ない女だった。だが、結婚して、妻が妊娠して出産する時に、俺は彼女のそばにいてやらなかった。ユナイトの試合に出てたんだ。絶対に外せない試合だった。俺が前に出るから、妻は後ろを守るべき。俺が稼いで来る間、妻は俺の帰る家を守る。ファイターとディフェンダー。そう考えてた。俺は子供が産まれてからも、彼女にすべての世話を任せて何も手伝わなかったし、ねぎらいの言葉もかけてやらなかった。ずっとユナイトに集中してた。だから……妻は俺に愛想を尽かしてしまった……。家庭はユナイトじゃない。俺は……妻の側にいてやるべきだったんだ。離婚の時に、妻にすべての恨みを打ち明けられて俺は思い知った。『産後の恨みは一生』ってな……」
「バーナーさん……」
「妻と別れて、俺にはユナイトしか無くなっちまった。だから一生をユナイトに捧げるつもりでいた。その矢先に……この怪我だ」
バーナーの後ろ脚には痛々しい傷跡がある。未だに歩く時に脚を引きずる、重い傷跡が。
「……俺には、何も無くなっちまった。ユナイトで稼いだ大量の金を毎日酒を飲んで削るように溶かす、みっともねぇ男だけが残った……。妻はそんな俺に呆れてしまって、子供に会うことすら許してくれねぇ。もう何年も息子の顔を見てねぇ。今頃大きくなってるだろう。俺は息子に会いたいが、会わせる顔がねぇ。ユナイトに人生賭けてこのザマだ。ルカ、お前に初めて会った時に、昔の俺が重なった。ユナイトしかない、自分にはそれしかないと思ってる馬鹿な男の姿が被った。ほっとけなかった……」
「……」
「大事なものの優先順位を間違えるな。ユナイトより大事なものなんてたくさんある。彼女のそばにいてやれ。ユナイトと天秤にかけるようなことをするなよ。選手なんて代わりはいくらでもいる。でも、彼女にはお前だけだ」
「……わかったよ、バーナーさん。……バーナーさん、なんて言ったらいいのか……」
「……構いやしねぇよ。じゃあな、彼女さんによろしく言っといてくれ」
そう言って去るバーナーの背中が、ルカにはすごく小さく見えた。ルカの未熟な人生経験では、バーナーにかける言葉が見つからなかった。

ーーーー

「おまたせ、サナ」
「待ってた!」
「行こっか」
「急にご飯に連れてってくれるなんて、お金は大丈夫なの?」
「ハイパーランクの報酬がすごいんだ。もう貧乏なんて言わせないぜ!」
「そうそう、ハイパーランク到達おめでとう、ルカ! 試合、素敵だったわよ」
「うん、えへへ」
ルカとサナは手を繋ぐ。ルカが予約したレストランは、高すぎはしないが安すぎもしない、ちょっと贅沢ができるレストランだ。
ハイパーランクの報酬は、一人で生きていくには十分な額が手に入る。
ただ、伴侶を養うとなると少し足りないかもしれない。

テーブルに着いてコース料理を注文し、二人はグラスを傾ける。
「「乾杯!」」
「サナ、もう少しでマスターランクに行けそうだよ」
「すごいわルカ」
「……サナ。俺に最後のチャンスをくれないか?」
「チャンス?」
「これでマスターランクに到達したら、プロとして戦い、サナを養うよ。でも、頑張ってみて駄目だったら、今度こそ真面目に働く。ワイルドファングスと決着をつけるまではユナイトに集中させてほしい」
「ルカ……やっと将来について考えてくれたのね」
「今までごめんね。……俺にはユナイトだけじゃなくて、大事なものがたくさんあるんだ。サナとの未来とか。でも、ユナイトも大事なんだ。もしダメでも、趣味で続けていきたい。いいかな……?」
サナはうっとりとルカを見つめる。ルカはドキッとした。照れ隠しにグラスを煽った。
サナはもう酔ってるのかな?なんだか顔が赤い。
「私、ルカに養ってほしいなんて一言も言ってないわ。今の仕事好きだもの」
「えっ……」
「私ね、ルカがマスターランクに行っても行かなくてもどっちでもいいの」
「ええっ?」
「ルカがユナイトをしてる時はすごいキラキラしてた。勝っても負けても、誰よりも楽しそうで、誰よりも輝いてた。でも、ラッキーズを結成して負け続けてからなんだか曇りがちになっちゃって。試合もつまらなさそうで……私は、キラキラしてるルカのことが好きだったのに」
「そ、そうだったんだ……」
「でも、今はすごい輝いてる。昔よりもっとキラキラしてる。見てるだけでドキドキしてくるの。あなたのプレーが見られて、私幸せよ。だから、ユナイトは続けてほしい。ちゃんと働いてもほしいけどね? マスターランクに行くことはもちろん応援するわ」
「サナ……ありがとう」

二人は食事に舌鼓を打ち、程よくほろ酔いになって街に出た。お会計が思ったより高くてルカの財布が寂しくなってしまったのは、顔に出さないようにした。最後まで見栄を張りたかった。
「ルカ……」
「なんだい、サナ」
サナがルカの腕に腕を絡める。
「……今日、あなたの家泊まっていっていい?」
ルカはまたまたドキッとした。サナがめちゃくちゃ色っぽい。
それって……それって……
あんなコトやこんなコトできるんじゃないか!?
OKってことだよね!?
ホットな夜を過ごしちゃって良いんだよね!?
ルカは、どことは言えないがギンギンになった! 何故か前かがみになる! 理由は想像におまかせする!
「も、もちろん……もちろんだよ……いや、やっぱり待って!!」
「ええ?」
ルカはサナの両肩に手をおいた。サナのことをしっかり見つめる。
「……ま、マスターランクになって君を迎えに行くよ。ちゃんと責任を取れる、君に相応しい男になる! それまで、ちょっとだけ待ってて!」
「……分かったわ。うふふ、そういうとこ好きよ」
「う、うん……」
「しばらくお預けね♡」
「……うんっ!」
ちょっともったいなかったかな? と後悔したけど、ルカの決意と覚悟は本物だ。
サナはルカの頬を優しく撫でた。
「じゃあ、これで我慢して♡」
ルカとサナの唇が触れる。唇を食むような長い長いキス。通りすがりの通行人がギョッとして思わず目を逸らすほどのお熱いキス。
唇が離れた時、ルカはふにゃふにゃになり、頭から湯気が出そうになっていた。
「待ってるわ、ルカ♡」
「うん……♡」

ーーーー

ハイパーランクは厳しかったがルカ達は戦い続けた! 負けることは増えたが、決してルカ達は折れなかった!
特訓に特訓を重ねた!
エース達ワイルドファングスも同じように牙を研いでいる。試合を見に行き、観戦して徹底的に分析したし、仲間たちと激しい戦術議論を交わすこともあった。
バーナーのアドバイスは的確だったし、ルカ達は努力を怠らなかった!

「ラッキーズ。家の物置を漁ってたらこんなものを見つけたぞ」
「なにこれ」
「ちっちゃいマイク?」
「インカムだ。俺のお古で良ければ使ってくれ。現地でチーム同士で連携を取る時に使えるはずだ。監督の目線からじゃなく、お前たちが実際戦ってる目線でしか分からないこともあるだろう。クイックチャットだけじゃ不便だろ?」
「ありがとうバーナーさん!」

ラッキーズの連携が一段階強化される。
インカムによる通信は試合で早速役立った。
助けてほしい時。攻める隙ができた時。インカムによる通信はチームワークの結束を高めてくれた。

そしてついに……ワイルドファングスと戦う日がやってくる!
しかもよりによってマスターランク昇格戦で!
勝ったほうがプロだ!!

「ルカ……ついに明日ね」
「サナ、俺のことを待っててくれてありがとう。明日で決着が着く」
「応援してるわ。それと……これ」
サナは布のような物をルカに渡した。
『きあいのハチマキ』だ。サナの手によってルカの名前が刺繍してある。
「あんまり高いものは買えなかったけど……これ、お守りにして」
「サナ……! 嬉しいよ。絶対に着けて行く!」
ルカは額にきあいのハチマキを巻いた。
なんだか、心が暖かくなった。強くなった気がする。
「似合うかな」
「うん! とっても。明日、試合見に行くからね」
「ああ。……サナ、この試合が終わったら……言いたいことがあるんだ」
「わかったわ。試合が終わったら会いに行くね」
「絶対勝つよ」
「信じてる」
二人は、抱きしめあった。憂いも不安も、既に無い。
ルカは、サナに勝利を捧げることを誓った。

ーーーー

『やってまいりましたハイパーランク・ランクマッチ! マスターランク昇格戦です! 対戦カードは注目のカード! 一時は弱小チームと揶揄されていた所から返り咲き、大活躍を重ねる不死鳥『ラッキーズ』! 方や、向かうところ敵なし。強豪中の強豪チーム! エリート・オブ・エリート『ワイルドファングス』! どちらが勝ってもおかしくないぞ! 勝利の女神はどちらに微笑むのか目が離せません! 歴史に残る戦いになるでしょう!』

「お前、またラッキーズに賭けたのか?」
友人のシザリガーが人生崖っぷちエテボースに呆れた視線を向ける。
「あったりめぇよ! ラッキーズは俺のラッキースターだ!」
「今度はいくら賭けたんだ?」
「俺の預金通帳の全財産突っ込んだぞ!」
「お前バカだろ!?」
「頑張れラッキーズ! 負けたら俺は首を括らなきゃいけねぇー!!」

「……」
「ルカ! 何キョロキョロしてるんだあーっ!?」
「サナ、どこにいるかなーって……来てくれてはいるみたいなんだけど」
「こんな満席の客席から見つけるのは無理なんだど」
「そうだよなー……」
「集中したまえよ、クールにいこう」
「うん。来てくれてるのは間違いないんだ。カッコ悪いところは見せらんないぞ!」
「アゲていこう!」

ラッキーズは整列する。目の前には因縁のワイルドファングスが整列している……!
エースが立派な耳をピンと立ててこちらに向き直る。
「再び戦うことになるとはっ! 活躍は聞いてるぞっ。頑張ってるみたいじゃないかっ。以前は諦めろと言ったがっ! 前言撤回だっ! ここまで勝ち上がってくるなんて見事なものだっ!」
ゾロとリキが腕を組んでこちらを睨みつける。
「へっ、またボコされに来たらしいな。最近は調子に乗っているらしいが、ここまでだ。大恥かかせてやるぜ、雑魚ども! なぁリキ!」
「ウッス」

「もう、あの時の俺たちとは違う。決着をつけてやる!」
両者が火花を散らす。
ここに来るまで長かった。数え切れないほどのゴールを決め、KOし、KOされてきた。血の滲む特訓を重ね、夢に見るほど試合VTRを見てきた。
打倒ワイルドファングスを掲げたラッキーズはついに運命の瞬間を迎える。
両者スタート地点に待機する。
退化が完了した。
今、試合開始のホイッスルが高らかに鳴り響く!

「走れ!」
「「うおーーーっ!!」」
真ん中で激突! 消耗戦を避けて野生ポケモン討伐に集中する。
ワイルドファングス前衛がラッキーズ陣営側中央のポケモンを狩って、ジャングラーの成長を阻害させようとしてくる! カウンタージャングル!
ラッキーズも追いかけて阻止。
ルカは一人で上レーンに残り、細かくゴールを決める!
『もうこうダンベル』の効果で攻撃力を上げていく!
「序盤は敵も進化していないからパワーが低い。俺が一人で動ける今のうちに有利な状況を作らなくちゃ……!」
お互いにレベル差は互角! 戦いはカジリガメ戦に向けて下レーンに集中し、集団戦の様相を得る!
試合開始2分も経てば、未進化だったポケモンもそれぞれ進化し始める。
エースは、ヒバニーからラビフットに。ゾロはゾロアからゾロアークに。徐々に力を増していく!
だが、同時にアーロンもアローラロコンからキュウコンに、ヤーンもヤドンからヤドランに進化して、わざも更新し始める。
戦いはなんと互角だった!

「……なかなかしぶといなっ!」
「エースバーンは接近戦に弱い! 『しんそく』でディフェンダーを抜ければ!」
「そう思うだろうっ?」
「なんだと……!?」
ディフェンダーのカメールを『しんそく』で突破したルカ。
しかし、それは諸刃の剣だ。ディフェンダーを抜けるということは、アタッカーとディフェンダーに挟まれると言うこと!
「挟み撃ちでKOしてやるっ!」
「し、しまったっ!」
瞬く間にルカのHPが削られた!
エースは逃げながらルカに攻撃を飛ばしてくる! 遠距離アタッカーであり、通常攻撃も強力なエースバーン!
『しおふき』で移動速度を下げるカメール!
「だ、『だっしゅつボタン』を……!」
「遅いぞっ! 『ローキック』!」
「うわーーーっ!!!」
ルカがKOされ、ボールに戻る。スタート地点へと戻される!

「カジリガメを取られた!」
「下がれ! 退くんだーっ!」
インカムから悲痛な声が聞こえてくる!
前線が押し下げられ、ラッキーズは押され始める!
ラッキーズ
『ゴーーーール! ワイルドファングスが高得点シュートを決めたぞ! のフロントゴールが破壊!』

「どうしようルカ!」
「まずいどーっ!」
アブソルやルカリオは序盤に強いが、後半からは存在感を失い始める!
序盤に優勢を作っておき、スノーボールの様に徐々に大きく点差を開くのがラッキーズのスタイルだ。
だが、ワイルドファングスはエースバーンやカメックスなど2進化ポケモンが多い。後半になればなるほど強くなる!

「……まだだ。フロントゴールが壊されただけだ。フロントゴールが壊れると、レーン脇にタブンネが出現するようになる! それらを狩って、力をつけるんだ! まだ諦めないぞ!」

点差はジワジワ開いていく。ラッキーズは防戦一方になった! レベル差はギリギリ食らいついているが、点差を埋めることができないまま残り5分まで来てしまう!
レベル9を越してユナイトわざも解放され、戦況はさらなる混沌に陥っている!

(今まで何点入れられた? もう300点以上は入れられてる気がする……! こちらが入れたのは……150点くらいか!?)

『ラッキーズ、苦しい戦いだーっ! なんとか持ちこたえてはいるが、点差を埋められない! 一方、ワイルドファングスも攻めあぐねている! 決定打を叩き込むことができない!』

「『ブレイズ……ストライク』っ!」
「『フルフォースブラスト』ォーーッ!」
ルカとエースのユナイトわざが激突する! ユナイトわざの効果でお互いに強化がもたらされる!
どちらも引かない!
「……やっぱり強いな! エース!」
「キミたちも見違えるようだっ! 久々に手応えのある試合だぞっ!」

「……残り4分! ルカ! どうする!?」
「しんどいんだどーっ!」
「サンダーだ! サンダーを取るんだ! できるだけKOされないように立ち回るんだ! ゴールを……守りきれ! 残り2分を切ってからが本番だ!」

攻めたり退いたりを繰り返しながら両者は戦う!
膠着状態のまま試合の残り時間が減っていく!

下レーンでルカとヤーンがゴールを死守していた。カイリキーの近接攻撃をヤーンが体を張って受け止める!
「ウッス……。『インファイト』」
「ぬおおお! 『ドわすれ』ええ!!」

その時、アビーが中央から駆けつけてきた! ルカはアビーに加勢を頼もうとして……
違和感を感じた。
インカムに小声で呼びかける。
「アビー、今どこだ?」
「ごめん! ゾロにKOされてスタート地点にいる!」

ならば!
今目の前にいるアビーは!!

「『しんそく』っ!」
「ギャアっ!?」
『イリュージョン』が解除されてゾロアークが現れる! アンブッシュ失敗!
「2度も同じ手を食らうかっ!」
「ば、バカな! 俺の完璧な『イリュージョン』が……!」
「ゾロアークは正面からぶつかるべき……! アビーと戦ってHPも減っているな? 逃さないぞ!」
「ちぃっ! 『だっしゅつボタン』っ!」
「『だっしゅつボタン』!」
逃げ用の移動アイテムを、あえて追うことに使う! ルカが追いすがる!
「しつこいぞっ! 『いあいぎり』!」
ゾロが移動のためのムーブ技をルカとは反対方向に切る! 逃げの一手!
「『しんそく』っ!」
「ぐわっ!」
「さらに強化攻撃!」
「『だましうち』!」
「重ねて『しんそく』っ!」
「ウギャッ! ふ、ふざけんなちくしょうっ!」
ゾロがルカに追いつかれた!
しんそくは一度相手に当てれば再発動できるのだ!
ゾロは逃げられない! わざも2つ使ってしまってクールダウン時間だ!
「ゾロアークは……わざが使えなければ窮地に陥るんだってな……!」
「……こいつ、俺の弱点を……!」
できることが何も無い! 残されたのは、必殺技……ユナイトわざのみ!
「ゆ、ユナイトわざを……!」
ゾロは、残り時間を見て踏み止まる!
残り3分半を切っている!
ユナイトわざはチャージが貯まるまで2分弱はかかる! 今ここでユナイトわざを切ってしまえば、残り2分からのサンダー争奪戦でユナイトわざのチャージが足りず、使えない状態になってしまう!
今ここで、ユナイトわざを使って離脱するのは容易いだろう。
だが、ゾロアークのユナイトわざ『ナイトフォールバースト』は範囲攻撃だ。サンダー争奪戦のような集団戦で最も効果を発揮する。
チーム全体のことを考えた時、ここで自衛にユナイトわざを使ってしまうのは最終的に不利に働きかねない!
ゾロは……『あえて倒される』屈辱の選択を自ら選び取るしかない!
「テメェェェェェェェ!!! 覚えていやがれェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
「トドメだ! 『ボーンラッシュ』ッッッ!!!」
「ギャアアアアアアア!!!!!」
ゾロ、痛恨のKO!!

「……ッハァッ! ……ハァ……ハァ……! いつぞやの借りは返したぞ……!!」
ルカは『きあいのハチマキ』を締め直した! 敵はゾロだけではないのだ! コートを駆け抜け、レーン上の戦いに復帰する!

残り2分15秒。空に暗雲が立ち込める。
残り2分10秒。雷鳴がスタジアムに轟き始める。
残り2分5秒。神々しい雷がスタジアム中心に降り注ぐ! ラッキーズもワイルドファングスも、KOのペナルティタイム中でない者はほぼ集結している!
残り2分! 禍々しくも荒々しい雷撃を放ちながらサンダーが降臨した! 試合はラストスパートを迎える!
「「サンダーを倒せーーーっ!!」」
両チームリーダーが同時に叫ぶ!
雷の雨が降り注ぎ、両チームのユナイトわざが入り乱れた!
「『フルフォースブラスト』ォォォ!!」
「『ブレイズストライク』ッッッ!!」
わざとわざが両チームの体力を削り、サンダーの体力を削る!
「『ハイドロタイフーーーーン』!」
カメックスのカミュが水流を撒き散らす! ノックバック効果でラッキーズは突き飛ばされる!
「『ダークスラッシャーーー』!」
アビーが敵集団に向けて斬撃を解き放つ!
「『アースクラッシャーーー』!!」
リザがエースを掴んで空高く舞い上がり、地面に叩きつけた!
「ぐわーーーーっ!!!」
「エーーーース!!!」
「エースKOだ、ざまあみろーっ!」
「ルカァァァ! テメェさっきはよくもっ!! この俺を!! 吹き飛べ!! 『ナイトフォールバースト』ォォォ!!」
ゾロを中心に衝撃波が放たれる!!

「……カイリキーはどこだ?」

ルカは違和感を感じる。
敵チーム全員が集まっていない。
その答えはすぐにわかった!

【カイリキーがロトムを攻撃している!】

アナウンスが流れた! 上レーンのロトムがカイリキーのリキによって攻撃を受けている! カイリキーの力なら一人で倒しきるだろう!
ロトムがラッキーズのゴールに到達してしまえば、ロトム分の得点が入るだけでなく、ラストスパートの点数2倍時間中、ゴールが故障してしまうことになる。
ゴール下シールド効果も得られないまま守りきらねばならなくなる!

「ロトムに向かうかーーっ!?」
「クールじゃないね……! サンダー戦の人数を減らす訳にはいかないだろう!」
「でも無視もヤバイでしょ!?」
「ルカ〜! どうするんだど〜!?」

ゾロが勝ち誇ったように笑った!
「さあどうするラッキーズ! ロトムの得点は無視できないぜぇ? リキもガラ空きのゴールに得点を入れるだろうなぁ!」
ルカは……二者択一を迫られる!
全員でサンダーを取るか! サンダー争奪戦の数的不利を承知でゴールを守るか!

「……ラッキーズ!! このまま戦う!! サンダーを取れ!!!!」
「「了解!!!!」」
「信じるぜ、ルカ!」

「……マジかよッ! この揺さぶりに耐えるのか!? クソっ、計画が狂った! リキ! ゴールを決めたらすぐ戻れ!」
「ウッス」

「どうやら正解らしいな!」
「くそったれ!」
ワイルドファングスからすれば、アタッカーのエースとリキ抜きで戦うサンダー戦!
「ゾロ! 俺が食い止めるからサンダーを削り切れ!」
「頼むぞカミュ!」
カメックスが立ちはだかる! ラッキーズを近付かせない! 遥か遠方では、カイリキーがゴールを決めたアナウンスが流れる!

サンダーを取らねば確実に負ける!
サンダーの体力はもう残り僅かだ!

「うおおおお!!! 『ボーンラッシュ』!」
骨がカメックスの後ろに突き刺さる!
わざの効果で、刺した骨まで瞬間移動する!
カメックスを抜いた!
「しまった!」
「うおああああああああ!!!」
ルカのしんそくと、ゾロのいあいぎりが、同時に決まった!

サンダーが地に落ちて倒れ伏す。
その瞬間!
『ワイルドファングス側のゴールが全て故障した!』
ラッキーズ全員の手に15点分のエオスエナジー!
「ルカが取ったど!」
「すげぇぞルカーー!」

『サンダーのラストヒットを取ったのはラッキーズだあああああああ!!!! これは大きいぞーーーー!!!!! 残り時間わずか1分半を切ったーーー!!!』

「走れラッキーズーーーー!! ゴールに向かえーーーー!!!」
上レーンと下レーンに分かれてラッキーズが駆け抜ける!
「させるかあああああ!」
ゾロが爪を振り上げた!
「『やぁん?キネシス』ーー!!!」
「ぐわーーーっ!!! なんだとおおお!!!」
「みんな行くんだど〜!!!!」
ヤーンのユナイトわざがゾロに直撃する! 温存していたのだ! 相手一人を3秒間拘束するユナイトわざ! 0.1秒を争うユナイトバトルにおいてはあまりに長い3秒間!

「くそっ! 止められねぇー!」
カメックスが走るもその機動力では追いつけない!
ルカの目の前で、アーロンがゴールを決めた! 50点が2倍で100点追加! 下レーンミドルゴール破壊!
上レーンでもアビーがゴールを決めたようだ。上レーンフロントゴール破壊! 下レーンにいるルカは敵スタート地点前のファイナルゴールまで駆け抜ける!
しかし! カイリキーに追いつかれた! 『スピーダー』を使っているのか、移動速度が速い! 立ち塞がれた!
ゾロが遠くから叫ぶ!
「やれっ! リキーーー!! ルカをブッ殺せーー!!!」
「ウッス」
カイリキーと打ち合うルカ!
サンダー戦に参加していなかった分、カイリキーの方が体力は有利だ!
「け、削り切られる……! 『だっしゅつボタン』!」
カイリキーの後ろに回り込むようにだっしゅつボタンを使う! だが、ギリギリ射程から逃れられない! だっしゅつボタンは長いクールタイムを必要とする。もう残り時間的に最後の1回を使ってしまった。
「こ、ここまでか……!?」

ルカが諦めかけたその瞬間、カイリキーを遮るように高い雪の壁が積み上がってルカを守った! 
アーロンの『ゆきなだれ』だ! かつ、カイリキーは凍らされて1秒間程動けない!

「行きたまえ」
インカムからアーロンの声が届く。
「ありがとうアーロン!」
助かった。アーロンお前、今日いちクールだよ!
ルカは走る。ファイナルゴールまでが果てしなく遠く感じる。
心臓がはち切れそうだ。脚が悲鳴を上げている。限界を突破して全力疾走している。

この点数を入れたからって勝てるのか?
もう果てしなく点差は開いてるんじゃないか?
弱い心が何度も顔を覗かせる。
体力はもう残ってない。あと一発でも攻撃を受けたらKOだ。
今にも倒れそうだ。

ルカは一瞬脚を止めそうになる。

「……ルカ! ルカーーー!」
「…………サナ?」
愛しいサナの声がする。幻聴か?
いや、確かに聞こえる。

ルカが走る方向。正面。丁度ワイルドファングススタート地点近くの座席。最前列。
間違いなくサナがいた。
俺を見てる。応援してる。
そんなところにいたのか。見つからないわけだ。
ああ、サナ。
「俺……」
「頑張って! ルカーーーーーー!!!」
サナの声が聞こえるだけで、俺は頑張れるよ。
「俺……!!!」
脚に力が漲る! まだ走れる!! 『きあいのハチマキ』が俺に力をくれる!!! 歯を食いしばれ!!!

「俺っ!! この試合が終わったらサナと結婚するんだあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

勇気をくれ!!
インスタントでいい!!
その場限りの使い切りで構わない!!!
俺に諦めない勇気をくれ!!!
今この瞬間、全力で走り切る力をくれ!!!

ファイナルゴールは目の前だ!

そして、目があった。
ペナルティタイムを終えて、丁度スタート地点から飛び出したエースと。

「「!!!」」

なんてタイミングだ。
ああ、もう少しなのに! あと一息なのに!
死亡フラグなんて立てるんじゃなかった。
エースは俺の姿を見て、攻撃体勢にもう入ってる。

「うおおおおおおおおおおお!!!!」
『しんそく』を発動して距離を縮める。
ゴールに辿り着いた! ジャンプする。エオスエナジーを両手に握りしめる!
「『かえんボーーーーーーール』!!!」
エースが炎球を撃ち出した。まっすぐルカに向かってくる。
あと数センチ。ルカの周りの時間全てがスローモーションに感じる中、かえんボールだけが凄まじいスピードで迫ってくる。
あと数ミリ。かえんボールの熱気が届きそうだ。
エオスエナジーをゴールリングに振り下ろす。
かえんボールが顔面に直撃する。世界が揺れる。体力がゼロになる。ルカは吹き飛ばされてコートに落下し、大の字で倒れた。ボールに戻されて、ペナルティタイムを受ける。

どうだ! どうなった! ゴールは決まったのか……!
ボールに戻される瞬間、ルカは確かに実況の声を聞いた。



『ゴォォォォーーーーーーーーーーーーーーール!!! ゴール! ゴール! ゴール! ナイスゴォーーーーーーーーーーーーーーール!!! ルカ選手、土壇場で決めたーーーーーーーーーーーっ! 100点だーーーーーーーっ!!』

エースが地面を殴りつけた。
「くそっ、遅かったかっ!」

「やったぞルカーーっ! うおーーっ!」
「最高にクールだぞ!」
「ブチ上がる〜〜!」
「かっこいいんだど〜!」

インカムからみんなの声が聞こえる。観客の歓声も最高潮だ。
俺、やったよ。ゴール決めたよ。サナ。

KOのペナルティタイム。もう試合終了までに終わりきらない。ルカに出来ることはもう何もない。祈るだけだ。
「ラッキーズ……全力でゴールを守りきれー!!!」
「「おおおおおおおーーー!!!」」

「ワイルドファングス、全力で攻めろーーーっ!!!」
エースが指示を飛ばす。エースはエオスエナジーを持っていない。スタート地点出発から出来ることは少ない。
残りのワイルドファングスは死ぬ気でゴールを狙ってくる!
リザが、アーロンが、アビーが、ヤーンが、ゴールを死守している。
残り時間は後10秒!

アビーがKOされた。アーロンもだ。
あと5秒。
ゾロがリザと正面から戦っている。
カイリキーとカメックスがヤーンと押し合っている。
あと3秒、2、1、0。

『ゲームセットーー!!! 試合終了ーーーーー!!!』

ホイッスルが終わりを告げた。

得点が集計される。
試合終了まで得点がわからないのは本当に意地悪な仕様だ。
ルカは祈るようにスクリーンを見た。緊張の一瞬。

『ラッキーズ……521点!
ワイルドファングス……513点!
521対513、僅差でラッキーズの勝利!!! 最後の最後に大逆転だーーーー!!!』

「やったああああああ!!! ルカ! やったぞルカーーっ!! お前の最後のゴールで逆転したんだあーーっ!!!」
「マスターランクだど! プロだど!! ワイルドファングスに勝ったど〜!!」
「か、勝ったの……? ホントに勝ったのか!? 俺たちが! 勝ったのか!!?」
「勝ったんだよ!! ルカ! アンタサイコーだよ!!」
「クール……いや、最高にホットな気分だ!」

ラッキーズは抱き合い、勝利の喜びを分かち合う。
バーナーが脚を引きずりながらベンチを飛び出して駆け寄り、ルカの背中をつるのムチで叩いた。
「やったなルカ! お前最高だぜ! よくやった! ああ! 久々に手に汗握っちまった! ヒヤヒヤさせやがってこの野郎!」
「バーナーさんっ! 俺やったよ……!」
ルカの目から涙が溢れ出す。視界が涙で曇って何も見えない。
「頑張って、良かった……諦めないで良かった……!」
もし、最後の一瞬、ほんの少しでも脚を緩めていれば、エースのかえんボールが決まっていただろう。ルカは何より自分に打ち勝ったのだ。

「「ありがとうございました!」」
ラッキーズとワイルドファングスは整列して、挨拶し、握手をする。
「いやぁ、負けた負けたっ! ……ルカっ。キミは立派な男だっ! サナちゃんに相応しくないと、前に言った言葉は改めないといけないなっ! キミはすごいやつだぞっ! 先にマスターランクで待っていろっ! すぐに追いついてやるからなっ!」
「ああ! また戦おうっ!」
「あと、涙がすごいなっ! 前見えてるのかっ!」
「ざっぎがら止まらなぐでっ」

ゾロがルカに近付いてきた。顔を寄せて睨みつける。
「……ルカ、テメェの事は一生忘れねぇぞ……覚えておけっ! 今回は油断しちまったが、次は無いと思え! 絶対にブッ潰してやるっ!! テメェらは俺たち『ワイルドファングス』が叩きのめすっ!」
「望むところだっ!」
「あと鼻水拭けよ汚ねぇな」
「どまらなぐでっ」
「チッ……帰るぞリキ!」
「ウッス」
「みんなで反省会だ! ハッハッハ!」

控室に帰ると、サナが待っていた。
待ちきれないと言う様子で、ソワソワしていた。
ルカを見つけると、走って抱きついてきた。
「ルカーーー!! あなた最高よー!!」
「サナああああ俺頑張ったよおおおお」
サナがルカの頬にキスの雨を降らせる。
サナはルカの勝利の女神だ。
言うならもう今しかない! 今がその時だ!
「サナ! 俺と結婚してえええ!!!!」
「する! するわ! 愛してるわルカ!」
「うおおおおん」
止まりそうだったルカの涙がまた大量に溢れ出した。
ラッキーズから祝福を受けて、サナとルカは結ばれた。

「……おめでとう、ルカ。もう俺が教えることは何もねぇよ」
「バーナーさんっ……」
「……これで俺の役目は終わりだ」
「終わりって……まだまだこれからだよ。プロになるんだから、マスターランクでも監督してくれないと」
「元々、ワイルドファングスを倒すまでって約束だったろ?」
「そんなこと言わないでよ……バーナーさん」
「……お前のお陰で、久々に楽しかった。いい夢が見れたよ」
バーナーの笑顔は儚いものだった。つるのムチをルカの手に伸ばす。
「マスターランクになったお前たちにはスポンサーがつく。俺みたいな半端者よりいい監督を雇え。俺は元通り、飲んだくれに戻るよ」
「嫌だ!! バーナーさんが監督じゃないと嫌だ!!」
「ありがとうよ、ルカ。短かったけど、本当に楽しかった」
「嫌だバーナーさん……もっと色々教えてよぉ……」
ルカはバーナーに抱きついて離さない。
バーナーは聞き分けのない子供をあやすようにルカを撫でた。


「ラッキーズの控室ってここで合ってる?」

見知らぬフシギバナの女性が扉の前に立っていた。もう若くはないが、キレイな人だな、とルカは思った。
バーナーが息を呑む。
「ハナコ……? お前なんでここに!」
「知り合い?」
「妻だ」
「妻ぁ!?」
「元、妻よ。」
"元"を強調してハナコが答える。

「なんでって、貴方が送ってくれたんじゃない。バックステージパス」
「……来てくれたのか」
「私は来たくなかったのよ? 貴方の顔なんて今更見たくもない。けど……この子がどうしても行きたいって言うから」
ハナコの後ろから幼いフシギダネが顔を出す。バーナーにどことなく似ている。
「ダニー……ダニーなのか?」
「パパ?」
「……お前……こんなに大きくなって……!」
バーナーが涙を零して、息子を抱きしめた。
長い長い間会えなかった時間を埋めるように、バーナーは息子を固く抱きしめた。
「苦しいよ、パパ」
「ああ、ごめんな……本当にごめんな……お前のそばにいてやれなくて……」
「ねぇ! パパはラッキーズの監督なの!?」
「……まぁ、そうとも言えるな」
「すごいや! 学校で自慢できる! 僕ね、ラッキーズのファンなんだ! パパはすごいんだ!」
「……この子、やっぱり貴方の子ね。ユナイトが大好きなのよ。毎日ユナイトの試合を見るためにテレビに齧り付いてる! 血は争えないわね」
ハナコが呆れたように言う。だが、その目はどこか優しい。
「そうだ! ルカは? 僕ね、ルカの大ファンなの! 握手して! サインちょうだい!」
「俺の!? ……ファンにサインなんて初めてだ」
ルカの拙いサインは大変喜ばれた。ダニーは飛び跳ねる。
「僕ね! 僕ね! ユナイト選手になるのが夢なんだ! そしたらルカと一緒にユナイトしたい!」
「そうなのか! ユナイトは楽しいぞ! 大人になったら勝負しよう!」
「負けないよ! パパみたいな選手になるんだ! 第3シーズン、春の公式大会準決勝でソーラービーム3人抜きしたみたいな活躍するんだ!」
「おっ、知ってるのか! その試合良いよな! 俺も名試合だと思うよ!」
「ホントに!? 僕にもできるかな!」
「できるさ! スタジアムで待ってるよ!」
「やったあ!!」

「ハナコ、ダニーに会わせてくれてありがとう」
「……勘違いしないでよ。産後の恨みは一生よ。私は貴方を許してない。それに、息子に『毎日不貞腐れて飲んだくれてる父親』の姿なんて見せられるもんですか。教育に悪すぎるわ!」
「……そうだな、その通りだ」
「でも、ラッキーズの記事やポケスタグラムの投稿を見たら、貴方が写ってるじゃないの。驚いちゃった。またユナイトで頑張ってるみたいじゃない?」
「……あ、ああ」
「……少しは、マシな顔になったじゃない」
「そうかな……」
「私もバカね。ユナイトやってる貴方に惚れて、ユナイトしか見てない貴方に愛想を尽かして、またユナイトやりだした貴方を見て会いに来ちゃった」
「……ハナコ。悪かった。俺は大事なものに気付いたよ。またやり直せないか? 愛してるんだ」
「い・や! 絶対嫌よ! でも、まぁ、このままラッキーズで頑張って、飲んだくれるのをやめてくれるのなら……」
ハナコがため息混じりに笑った。

「子供に会うくらいなら、許してあげてもいいわ」

「……おお、おおおおお……」
バーナーは、泣き崩れた。ルカがバーナーを支えた。
「バーナーさん、良かったじゃないか! 子供に会いたかったんだろ!」
「ルカ……ありがとう……ありがとう……お前のお陰で息子にまた会える。本当にありがとう……!」
「ああ、バーナーさん! 俺も嬉しい!」
「いい? 子供に会うだけよ! 私は許してないんだからね!」
「一生掛けて償う……! ハナコ、ダニー、愛してるよ……!」

バーナーはもう一度、ダニーを抱きしめた。
ダニーが、ちょっとくすぐったそうに身をよじった。

「……よし! そうと決まれば、俺は監督を続けるぞ! マスターランクでもビシビシ鍛えてやるから覚悟しておけよ!」
「お願いします、バーナーさんっ!」

ーーーー

『ポケモンユナイトォォーーーーッ!!

さぁ始まりましたマスターランク・ランクマッチ戦! ラッキーズ対レッドウェイブス! 全選手、スタート地点に立ちました。退化が完了して、未進化状態の姿になります。レディ……ゴー! 一斉に飛び出した!
互いに野生ポケモンに攻撃を加えていく! 中央ラインで両者激突っ! レッドウェイブス優勢か? ゴールが決まった! レッドウェイブス先制点! 徐々に押されていくラッキーズ! 得意の速攻戦術が封じられている! フロントゴール破壊! 押されているぞラッキーズ! どうするラッキーズ! ああっとここでラッキーズがカジリガメを取った! ラッキーズが押し返す! 互いにKOを取る! どちらが勝つのか全く読めないぞ! ややレッドウェイブス優勢の状態でラストスパートにもつれ込む!
ラッキーズはここからが強い! ルカ選手走り抜ける! サンダーのラストヒットを……取ったー!! ラッキーズがサンダーを取った! どんな状況でも諦めない! まさに『ふくつのこころ』の持ち主! ルカ選手が今……決めたーー! ゴール! ナイスゴール! 100点追加! ここで試合終了! 結果はどうだ!? ……520対491!ラッキーズの逆転勝利だーー!!!』

「MVPはルカ選手! ヒーローインタビューです! ……お疲れ様でした! 今日も大活躍でしたね!」
「はい! 全力を尽くしました!」
「マスターランクになってから日が浅いですが、ラッキーズは順調に活躍してますね。今のお気持ちは?」
「俺一人の力では辿り着けませんでした。支えてくれる仲間の力あってこそです!」
「マスターランクに到達する秘訣のようなものはありますか?」
「そうですね……俺がマスターランクに来れたのは、良き出会いがあったからです。良き師に恵まれ、良き仲間に恵まれました。みなさんも出会いを大切にしてください。それが一番大事です。……あっ、あと、良き妻にも恵まれました! サナ! 見てる? 愛してるよ!」
「ありがとうございます! それでは、テレビの前のユナイトファンのみなさんになにかメッセージを!」
「俺たちはいつでも挑戦を受け付けてるぜ! マスターランク目指して駆け上がってきてくれ!」


「 次のプレイヤーは、君だ! 」

[newpage]

カーテンコール

ルカ   ルカリオ
サナ   サーナイト
バーナー フシギバナ

アビー  アブソル
アーロン アローラキュウコン
リザ   リザードン
ヤーン  ヤドラン

エース  エースバーン
ゾロ   ゾロアーク
リキ   カイリキー
カミュ  カメックス

ハナコ  フシギバナ♀
ダニー  フシギダネ

人生崖っぷちエテボース
友人のシザリガー

監督   ヨコシマ
脚本   ヨコシマ
演出   ヨコシマ

スペシャルサンクス

任天堂
ゲームフリーク
ポケットモンスター
ポケモンユナイト
pixiv



fin

アップルStoreでもGoogleプレイでもいい。ポケモンユナイトで検索するんだ。
みつけたね? さぁ、ダウンロードしようか……

俺とユナイトしようぜ……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想