玉座に臥する

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作者:綴蓋あこぎ
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読了時間目安:7分
剣盾の短い二次創作です。この時空の主人公はユウリで、本編のストーリーの終わったあとです。
 ここまでやれば、と思った。
 技を変えた。作戦を変えた。相手の試合映像を観て学習し、メディアにも気づかれぬところでひたすら鍛錬を積み重ねた。実際に実力はついていて、他の試合では快勝続きだった。ポケモンたちのコンディションも万全。言い訳はしない。あれが、正真正銘、自分の最高だった。

 助走して思いっきり跳んで伸ばし切ったその指先を、彼女は見下ろしていた。

 試合の流れを変えたのは中盤だ。最悪1−1交換に持っていくつもりだったクチートの一撃を、ストリンダーに耐えられたところだったと思う。そこまではまだ拮抗していたと思いたい。あの場面から後手に回ることが多くなって、次第に余裕の差は増大し、周回遅れになったところで決着がついた。
 もうすでに勝敗はひっくり返らない。そうわかっていながらもキョダイマックスさせたブリムオンを、インテレオンが撃ち抜いて試合は終わった。

 彼女と戦っているときはいつも、まるで自分が世界の脇役になったような心地がする。
 全ての因果が彼女に集まっているかのように、奇跡が起こるのだ。彼女のポケモンたちはここぞというところで絶対に耐えられない攻撃を耐えたり、いいところで攻撃を急所に当てたりする。強いのはポケモンだけじゃない。彼女のポケモンの状態を見抜く眼の精度はずば抜けていて、こちらの能力が下がった隙を見逃さない。運がいいだけじゃ、耐えることを見越して指示をしたりなんかしないのだ。

 いつだったか、ホップが言っていた。ダンデも同じだったと。
 階段を下る足が止まる。
 そんなわけがあるか。そんな現実があってたまるか。

 それじゃあ、チャンピオンになれる人間となれない人間がいるみたいじゃないか。


「あ、ビートくんだ。どうしたの?そんなとこで」

 当の「新生・無敗の女王」は、気の抜けた顔でジュースを飲んでいた。

「……考え事を」
「階段の途中でしなくたって」
「わかりましたよ。そんなに言うんだったら降りてあげましょう」
「いつもどおりだな〜!」

 ちょうど喉も乾いていたところだったので、自販機でサイコソーダを買った。

「ね、いい試合だったね」
「……いい試合?どこが?あのあと夢でも見たんですか?」
「楽しかったんだよ」
「勝てた試合なら、そりゃ楽しいでしょう」
「ん〜……それだけじゃなくて」

 飲み終わったらしいミックスオレの缶を下ろして、ユウリは考え事をするように呟いた。

「見たことない戦法だったし……技も変わってたよね、ギャロップ以外。あとなんかすごく行動を読まれたなって。けっこう追い詰められちゃった」
「……そうですね」

 頑張りを認められて悔しいことがあるのだな、と思った。
 それと同時に、次はどうする?という焦りも心の中に生まれた。これだけやって「けっこう追い詰められちゃった」止まりなら、どうすれば勝てる?

「……次の」
「ん?」

 缶をゴミ箱に捨てたユウリが振り返った。スタジアムではちょうど別の試合が始まるところで、割れんばかりの歓声がここまで届いている。

「次の試合、いつでしたっけ。世間話ですが」
「次〜?来月くらいじゃない?ビートくんが上がってこればだけど」
「まるでぼくが上がってこれない可能性があるみたいな言い方をしますね」
「ゼロではないじゃん!」

 来月。あとひと月中にあれ以上にならなければいけない。まずは作戦を考えるとして、あれより彼女に刺さる戦法があるのか?どこかから着想を得なければならない。バアさんにそれとなく聞いてみるか?それとも彼女をよく知るホップ……それは癪だが。

「……なんですか、その目は?」
「え?いや〜……なんかさ、変わったねえ、ビートくん。前は委員長のために勝つ!ってカンジだったのに」

 気まずくなって目をそらした。あの頃を思い出すとどうしても苛立たしい。

「……昔の話はしないでもらえますか?」
「ごめんごめん」
「今のぼくは……人のためじゃなく、自分の実力を示したいがために戦っているんです。もちろんバアさんのためでもなくね」

 本人のいないとこでバアさんって呼ぶのやめなよ、という言葉を聞き流し、飲み終わったサイコソーダのビンを捨てた。ここでこうしていても時間の無駄だ。帰ろうとしたところで、そういえば、と思い出した。

「あなたは、なんのためにここまで来たんですか?」
「あ、わたし?チャンピオンになった理由ってこと?」
「そうです。そういえば、聞いたことがないと思って」

 こんなことどうでもいい話だとも思ったが、一度聞いてみたかった。倒したい相手のことを知るのも悪くない。

「え〜……?最初はホップに誘われて、そしたら応援してくれるファンもできたし、あとチャンピオンってかっこいいと思って……いや、今のナシ」

 ユウリは指折り数えていた手を下ろした。

「ビートくんなら、ちゃんとドン引きしてくれる?」
「え?」
「初めてさ、テレビでチャンピオンリーグを観たときに、思ったの」
「あそこはわたしの場所なのに、なんで他の人がいるんだろうって」
「……は?」

 彼女の表情は至極真面目だった。

「絶対おかしいって、わたしの場所を取り戻したいって、ずっと思ってて……そこで誘われたから旅に出て、そしたら一緒に戦ってくれるポケモンが集まってきた」
「だから、今はこの場所にいられて満ち足りてる……ってカンジかな!」

 予想だにしない答えが帰ってきて、怪訝な顔のまま盛大にため息を吐いた。

「幻覚ですよ、気のせい。たまたまそういう勘違いをしてる人が優勝してしまっただけです」
「そうかな?」
「その場所はあなたのじゃない。ぼくのです」

 ユウリは笑った。気の抜けた笑い顔でなく、バトル中のそれに近い笑みだった。

「ふふ、よかった。多分ホップやマリィだったら真剣に心配してくれるだろうから、言わないんだ」
「大概失礼ですね。ぼくに人の心がないとでも?」
「ちゃんとドン引きしてくれたじゃん」

 そう言ってユウリは背を向けた。帰るつもりらしい。

「それじゃもう帰ろうかな。また!」
「……ではぼくも付け足します」
「ん?」

 ユウリは少し体を傾けて、振り向いた。

「ぼくが戦う理由……あなたに負けたのが悔しかったから、もあります。いつかその幻覚、ちゃんと治してあげますよ」
「……あははは!」
「また、会いに来てよ!誰も来ないのは、さみしいからね」


 飛び去る王の影を尻目に、自分もタクシーを呼んだ。すぐに来月のエキシビションマッチに向けての準備を始めなければ。まずは作戦。気が進まないが、まずはホップを訪ねることにしよう。
 玉座に住まう王を倒し、いつかその場所を我が物にするのは、他の誰でもない。自分だけなのだから。

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