ポケダン世界のタブー

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作者:逆行
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読了時間目安:14分
「どうきときいとはきいけう」
 不意に聞こえた言葉の意味を、目を瞑ったまま暫し考えていた。
 すこし前まで、自分は気絶していた。そして、たった今目が覚めた。けれども、気絶している振りをした。意識が戻ってから一番始めに聞こえた声が、何を言っているのかてんで分からなかった。分かってから、目を開けようと思った。
 "どうき"とは、"動悸"のことだろうか。動悸があるのか確認しているのか。"とき"はたぶん"時"で、"いと"は"意図"。いや"糸"かもしれない。うーん難しい。
「かいすうきすたせた」
 考えるのを止めた。答えが出る前に、次なる意味不明が耳に運ばれてきたから。
 僕は潔く瞼を開けた。しかし、すぐにまた閉じた。
「わっちゃうせてたぐまは」
 眼前で訳の分からないことをさっきから言っているのは、ポケモンのワニノコだった。
 衝撃過ぎて、驚くことができなかった。今は冷静だけれども、後から来るパターンだろうこれは。
 説明しないので、ワニノコを知らない人は適当に、wikipediaとかで調べてほしい。それより自分は、なぜ自分がここにいるのか調べたい。再度目を開けて、ワニノコからは目を逸らして、横になっていた体を起こして、辺りを見回してみた。
「そっちうすといすうとたいきとうい」
 海が、振り向いたら存在した。自分が倒れていたのは海岸だった。自分は海で溺れて流されてきたのだろうか。
「とすすうとめいきはか」
 流されて、ポケモンがいる世界に来たのか。じゃあ、泳いでいけば帰れるのでは。どこまで泳げばいいのか、全く定かでないけど。
「すうといときといきすう」
 途中で体力が、尽きたらどうしよう。
「はすうすときめきた」
後、海の中にもポケモンがいそうだ。襲われるかもしれない。
「けちいきめかめうめめね」
 ……うるさい。
 自分のことを心配しているのかもしれないが、集中できないから静かにしてほしい。
 ここは違う世界。ポケモンがいる世界。だから、日本語でも英語でもない言語を喋っているのは、至極当然だ。宇宙人の話しみたいに、意味が分からないのは当然だ。
「そいきたきすう」
 しかし、意味不明過ぎていらいらしてくる。ポケモンならポケモンらしく、「ワニワニ」とか鳴いていればいいのに。この世界のポケモンは言葉を喋るらしくて鬱陶しい。
 等と、心の中で文句を言いつつ。僕は、海の中にポケモンがいそうか確認しようとして、海面を覗きこんでみた。すると当然、そこに映った自分の顔を見ることになる。そう、僕は見てしまったのだ。自分の変わり果てた姿を。

 そのときの衝撃は

「すうきはかとときはふきめすね」

 これから一生

「いきいけうめす」

 忘れることはないだろう。

「めけすうきはきとた」

「うるさいなちょっと黙れ!」
 思わず声が出た。ワニノコは驚きの表情を浮かべ束の間黙ったがまたすぐに、
「たそすきう」
 意味不明なことを言い始める。そりゃあそうだ。日本語は通じない。
 せっかく驚こうとしたのに、驚けなくなってしまった。ポケモンで例えるなら、進化の最中にBボタンを押された感じだろうか。たぶんこの衝撃も後から来るだろう。「驚きの借金」がどんどん増えていく。
 とりあえず、自分は何について驚こうとしていたのか、言っておこう。なんと僕は、ヒノアラシになっていたのだ! (なんて今更書いたところで、誰にも衝撃が走らない)
 さて、これからどうしよう。帰ろうにも、この姿のままで良い筈がない。
「すうめすめうきとはとねめすそうねめねめとけうめすねうけそいそ」
 そもそも、炎タイプはたぶん泳げない。
「うどどどすすきそききそすじいいすんういきいそね」
 じゃあまずは、元に戻る方法を探すしかないか。
「そすうそそねめそかいうすうめめねめねめねそめねめす」
「だからちょっと黙って!」
 やっぱりうるさい。しかも、さっきより全体的に長くなった。本当に、言葉が通じないとは不便なものだ。これから人間に戻る方法を探すにも、言葉が分からないんじゃ誰にも聞けない。
「いそすうかそいすちめというとすすか」
「そきいげげげか」
「かいすそけてて」
「なんだこの状況は!」
 思わず叫んだ。叫ばずにはいられない状況だこれは。なんだこれは。どうしたらいいんだ。
 ふと閃いた。言葉が通じないなら、ジェスチャーはどうだろう。
「すうとめすすす」
 僕は人差し指を口に当てて、「しー」のジャスチャーをした。するとワニノコは、
「らまっせ!」
 そのように言った後、完全に喋らなくなった。どうやら動作でなら、なんとか伝えることができると判明した。ついでに、"らまっせ"が"分かった"という意味であることも恐らく確定した。
 けれども、ジェスチャーが使えた所で、人間に戻る方法を尋ねるのは難しいかもしれない。などと考えていたら、僕が今向いている方角から、二匹のポケモンが突然やってきた。
「たそいうすた」
 確か、こいつらはズバットとドガースだ。二匹は、ワニノコの方に用があるらしい。自分のことを誰こいつという目で睨んだ後、そっちに向かってずっと喋った。
「すそうすう」
「すそうすうすそうすう!」
 すそうすうの意味はなんだろう。ワニノコは、明らかに怖がっていた。脅しの言葉かなんかだろうか。
「すそうすう」
「すそうすうすそうすうすそうすうすそうすうすそうすうすそうすうすそうすう!」
 脅しの言葉っぽいのを、ドガースがやたらと繰り返す。
「いとすそきうた」
 ワニノコが、何かよく分からない石を持っていることに今更気づいた。その石を、ズバットが翼で突付いている。
「らまっせ……」
"分かった"って言いながら、ワニノコはそれをズバットに渡した。いいのか渡しちゃって。これって喝上げみたいなあれじゃ。
「つつつつづーし」
 彼らはそう言って(どう言ってだよ)、ワニノコの私物を持ったまま帰ってしまった。あんな高価そうでもない石を盗ってどうするのだろう。
「とくめすう……」
 石を盗られたワニノコは、酷く落ち込んでいるようだった。自分には、どうすることもできない。正直、それどころじゃない。早く人間に戻る方法を。
「ときすうか! すういそきい! とときはとすきいうはくちらちはすきへ!」
 ワニノコはパニックになって、さっきよりも遥かにうるさい。本当に適当な単語を羅列しているんじゃないか、という感じだった。
 ワニノコは喚きながら、僕をチラチラ見ていた。洞窟の方を指差していた。ズバットとドガースが向かった先だ。君も一緒に取り返して欲しいと目配せしている。
 仕方がない。どうせこの後、何をすればいいのか分からない。という訳で、ついて行って上げることにした。


 しかし数分後、僕はそれを後悔した。
「すうめすそうくかといと!」
「すそうねそめそか!」
「きとそいきすう!」
 洞窟に侵入すると、あちらこちらからポケモンたちが、(おそらく技名)を叫びながら攻撃してきた。ポケモンになったばかりの自分は技なんか繰り出せない。ワニノコが守ってはくれるものの、敵の数が多いときは攻撃を喰らってしまった。
「けとうさば?」
 痛みを堪えている自分を見て、ワニノコは心配そうな表情で言った。「大丈夫?」とでも言っているのだと思うけど、全然大丈夫じゃない。
「ゅをけうけう」
 もう引き返してもいいかな。結構深くまできたけど、二匹はどこにいるのか。後、そろそろこの世界に来たことと、ポケモンになったことについて驚愕したいのだけど。戦ってばかりで、驚く余裕が全くない。驚きの借金を返すのが、どんどん後になっていく。利息がつかないか心配だ。
 とか思っていたら、丁度きたようだ。驚くタイミングがきた。自分の体に震えが発生。汗をだらだらとかき始める。さあいよいよだ。自分の身に起きたことについて、驚くぞ。
「とはすとはうきとははとす」
 が、またしても邪魔された。
 自分のストレスの溜まり具合は、半端なかった。傷口はズキズキと痛むし。 
 だからなのか僕は、自分でもあほだということをやってみた。
「けうすめうめすうそけうそす」
 適当な音を並べて、これまで聞こえた感じの抑揚で喋ってみたのだ。そしたらワニノコは、
「らまっせ!」
(通じただと!?)
 ちょっと待て。今自分はなんて言ったんだ。分かったって返されたのだから、ええと。
 僕はもう一度、さっきの言葉を言ってみることにした。
「けうすめうめすうそけうそす」
「……すそうすう!」
(脅された!?)
 何で何で"けうすめうめすうそけうそす"を二回言うと脅された。っていうか、ワニノコが脅しの言葉なんかいうとは思えない。一体どういうことだ。
 

 という、一幕があったりしながら、僕達は先へと進み、いよいよ二匹のいる元へとたどり着いた。 
「すうそきめはめきとめた」
「すそうすう」
「は、はすきい!」
 さきほどと違って、ワニノコは強気にいってる。ような感じだ。
「すそうすうすそうすそう」
 ドガースが"すそうすう"を繰り返す。結局"すそうすう"ってなんなのだろう。僕が意味を把握している言葉は"らまっせ"と"けとうさば"だけ。
「すそうすう♪ すそうすう♪ すそっそっそっそっすそすそすう♪」
 なんで急に歌い始めたし。後どうでもいいけど、さっきからドガースは"すそうすう"しか言っていない。
 いつの間にか戦闘が始まった。これまでと同じように、自分は戦わないで、ワニノコだけが戦った。ワニノコは本気になったので、かなり強かった。ズバットとドガースはあっという間に倒れてしまった。というか、この二匹が強すぎるのかもしれない。
「ときすうめめ」
「……らまっせ」
「すうそめね」
 ズバットは、さっき盗んだ石をワニノコに返した。これにて一件落着だ。一件しか落着してないけど。


 さっさと危険な洞窟から出た。これからどうしようと考えようとしたとき、ワニノコがこっちにこいと手招きした。どうやらワニノコも言葉が通じない相手には、動きで伝えればいいことを学習したらしい。
 僕は、とりあえずワニノコについて行った。ついていったら、また危ない所に行きそうだという考えが過ぎったが、右も左も分からない状況では誰かの背中を追う他ない。
 ワニノコが向かった先は、プクリンの形をした建物だった。
「すめときうはきと! といといすと! はとすきはうそめ!」
 下から急に声が聞こえたのでビクッとした。ワニノコに至っては腰が抜けていた。なぜ僕より驚くのか。
「すうめと」
 建物の扉が開いた。
 中には、多数のポケモンがいた。バラエティに営んだポケモン達だ。キマワリとかビッパとか。
「そきいすとうきかすうすうかうけうすうかうそけうね!」
 緊張しながらも、ワニノコは大きな声で堂々と話す。
「めとめとすう」
「すめうとへか」
「そきといきうす」
「そきそすうかうはめそめ」
「すめうとめねかめうねめそねめ」
「どぞどすう」
「げすうどぎかかかか」
「そすうそきとかはめ」
「すうすうねすめきとかはうきとそろをね」
「おきといきと」
 いっせいに彼らは騒ぎ始めた。なにやら、祝福しているような、そんな雰囲気だ。
「とすうきすう」
 そういいながら(どう言いながらだ)ワニノコは頭を下げた。自分も、つられて頭を下げた。下げてしまった。後から分かったことだが、この状況で頭を下げてしまうことは、組織に加わるという決意を示すことだった。ここは、探検隊という組織で、所属したポケモンは、さっきのような危険な場所になんども出向くことになる。だからここは、引き返すべきだったのだ。
 頭を下げた瞬間、歓声が沸き起こった。
「とあういきすう!」
「とあういきすう!」
「とあういきすう!」
「たそすういと!」
「んいきといたそかかかか」
「そとうぬう♪ そとうぬう♪ そとうぬとっとっとっと、とととととー♪」
「ふぁー♪」
「そとうぬう♪ そとうぬう♪ そとうぬとっとっとっと、とととととー♪」
「ふぁー♪」
 自分の今の気持ちは、逃げ出したい、その一点のみだった。急にポケモンになって、こんな言葉の通じない連中にあって。自分はこれから、どうなるのだろう。この意味不明な言語を、理解できる日はくるのか。後良い加減、ポケモンになってことについて驚かせてほしい。
 

 三年後……。

「すうかめ!」
「すうきめきめ」
「をぽおあああ」
「そきという」
 あっと言う間に三年が過ぎた。自分はこの世界の言葉を、ほとんど完全に喋れるようになっていた。喋れないと命にかかわるなら、案外いけるものだ。
 人間に戻る方法は、未だに掴めない。けれども、こっちの世界の暮らしが楽しいので、正直戻らなくてもいいような気がしてきた。怖がっていたバトルも、一度勇気を振り絞ってしまえば意外となんとかなるものだ。
 それになんだか、元の世界で使っていた言語を、最近忘れてきてしまった。全く、使う機会がないと記憶が抜けるものだ。この間も"おげうきめすへか"を日本語でなんていうのか、一分近く考えてやっと"机"のことたと思い出せた。
 まあうん、それはいいや。忘れたって特に支障ないし。それよりも、今日も探検隊の仕事で忙しい。ここ最近狙っていたお尋ね物を、今回で確実に捕まえる予定なのだ。はりきっていこう。
「けうめすうめ」
「へとへめすう」
「めとめすうすふうめすう」
 それでは探検隊出動!


 十年後……。

 とはすうかめうねめねうはけうきとかうきはへへすうすめうきめめきとめとすはうきとめへかうはへはへめはすきとうめとかはめうきすうめそねかはうとはけうとすうそめねかめねそうめすとうめねうめねめけねうすめうねはそかへうそぃろうときすういとかめうけうとすういめそけういきすうそ。
 すうめねうすめうとけういう。
 すうめそねめめすうねめねはきはかうすうめそねめねそめう。
「めすうすうかう」
「けうめそすう」
「らまっせ!」
 とはすすうときといきといきけそうそめねそめすねうけはうねとめねそめすうとすういそねほめそすうめね。
 けうすめうそ!
※適当にタイピングしてるだけです。規則性はありません。

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