たからさがし ~兄貴の無口なヤミラミ~

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兄貴のヤミラミは何も言わない。話しかけるといつもこちらを見つめていて、不気味だと思う人もいたかもしれない。でも兄貴はいつも連れまわしていて、大事にしていた。
どこから連れてきたかわからない。幼いながらのいつもの放浪癖の内に手を引いてきた。
兄貴は暗闇が苦手だったけど、まるで人が変わったように探窟家になった。きっとヤミラミに魂を取られたのかもしれない。
でも兄貴がそれで楽しいならそれでもいいのかもしれないと思っていたんだ。
 兄貴はとにかく好奇心旺盛だった。幼少期の頃からハイスクールに上がるまでずっと。
勉強なぞそっちのけ、交友関係もなるようになれといったかんじ。

暗闇が苦手なくせに時間も忘れて気の赴くまま、どこへでもほっつき歩いた。
野生のポケモンがいる危うさも知らずに、どんな草むらでも飛び込む。
母に怒られることも厭わず、興味の向くままになんでも持ち帰った。
何に使うか想像もつかないへんな形のガラス瓶、見たこともない異国の刺繍が施された布きれ、名前も知らないポケモンの抜け殻、大きなダイヤモンドがふたつ顔に並んだヤミラミ。

 初めてポケモンを連れ帰ったとき、兄貴は母にこっぴどく叱られた。数時間に及ぶ正座や説教、ついには夕飯を抜かれても、それでも兄貴は一緒にいることを選んだ。
それからというもの兄貴は学校をも放り出すように放浪し、特に洞窟探検に明け暮れた。ろくな道具も持たずに入っていくもんだから、最初の内は擦り傷やら打ち身やらをラジオ体操のスタンプのように持ち帰った。
母はびしょ濡れになった兄貴のシャツを洗濯槽につっこみながら呆れるような顔をしていたが、やはり心配だったのかサポーターやら探窟家に合わせた道具を買い込んできた。父と離婚したばかりで我が家は経済的に苦しかったから、今思えば母からの愛情や応援のカタチだと思わされる。

 兄貴の生傷が目に見えて減り、なんだか肉体的な成長を横目に感じ始めた頃、ある日から母の期待に応えるように……というよりは、欲望のまま・体力の残る限り兄貴は宝石を含む鉱石を持ち帰るようになった。それは最初こそ小さかったが、時が過ぎるほど大きさや色の種類も増えていく。
兄貴は若くしてトレジャーハンターになったのだ。まず誇らしかった。当時彼は十六歳で、周りの同年代に誰もそんな野心を抱いて冒険をしようという者はいなかった。それに加えて大人も顔負けの戦利品を掲げていたのだ。
しかしその異様な活力を陰で心配していた。その栄華の横にはいつも兄貴のヤミラミが大きな瞳を光輝させていたからだ。
あまり信用はしていなかった。いつも表情は見えず物静かで、兄貴を人知れず操っているのではないかと疑っていた。
でもそれを感じさせないくらいに兄貴は朗らかで、大らかで、優しくて、これ以上ないくらいに僕の兄だった。母の息子であった。

 地元のニュースにも乗るような成果を上げた兄貴だったが、ある日突然なにかが取り憑いたかのように勉強に明け暮れた。急な変化に周りも母も僕も驚いた。
悪い病に罹ったのか、あるいはヤミラミの洗脳が解けたのかとさえ思っていたが、ハイスクールを卒業する頃になると、彼は今まで平凡な暮らしを夢見てきたかのようにごく一般的なお役所仕事に努めた。
僕と母がいよいよ彼が本人かどうか疑おうかという話をし始めた頃になると、兄貴はこれまた突然トレジャーハンターに戻った。数年単位での出来事とはいえ母と僕が目を丸くしていると、「資金と社会勉強のためだ」と我慢し続けた積年の探検欲を、押し寄せる潮波よりも激しく僕らに話し始めた。とてもじゃないがそのすべては覚えきれないほどに、溢れかえるほどに情熱に満ちていた。ヤミラミはその間、兄貴がまくし立てるように舌を回す様をらんらんと期待の眼差しで見つめていたようだった。
ヤミラミはきっと偶然の出会いで、偶然気があったんだろう・邪な下心もないのだろうと、なんとなく溜飲が下りて、僕も母よろしく専ら応援する立場へ変わることにした。

 それからの兄貴は凄まじかった。今まで抱えていたものを爆発させるように多くの宝石や鉱石に留まらず、未知の組成から成る鉱石や歴史的価値のある遺物を掘り起こしてはたびたびニュースになった。中には『地底空間に輝く超新星』などと持て囃した記事もある。
彼はこんな田舎の片隅で収まる器ではなかったのだと、なによりも尊く誇らしかった。兄貴の名が国中に轟こうという時には僕も仕事をし始めていて、弟だと触れられるたびに少しプレッシャーもあったが、何より兄貴の戦果を知る人がたくさんいることが嬉しかった。
 半年に一度、そして僕の誕生日には欠かさず兄貴から手紙が届いた。旅先でも相変わらず奔放で、なんでも持ち帰っているようだ。僕はそんな手紙から彼の思い出を預かるような気持ちで、ひとつひとつを心待ちにして彼の活躍に思いを馳せた。
気づけば母は気の合うパートナーに出会えたようで、僕は母と兄貴の帰る場所を守るために実家に残ることに決めた。でも、手紙のおかげで寂しさを感じることはない。


 数年経ったある日、雨季の強い雨が家を叩くその日。手紙は届かず、兄貴のヤミラミだけが帰ってきた。隣に兄貴の姿はない。
連れ帰ってくれたジュンサーさん曰く、兄貴は遭難扱いらしい。
言葉が出なかった。相変わらずヤミラミはひと鳴きとてせず、ただ力なく兄貴の部屋の扉を開く。
とても食事という気持ちにもなれなかった。ヤミラミの持ち帰った荷物には毎度の土産と同じく僕の知らない宝石があるが、今はどれも濁って見える。この石ころが兄貴の人生を奪ったのかと憎みたくなるような気持ちさえ過ぎってしまう。
古びた家族写真を胸に抱きしめる。……なにかに縋るわけでもないが。
呆然とした夜が僕に覆いかぶさる。暑く寝苦しいというわけもでもないのに、どこにも心の置き場がない。兄貴もこの明かりのないどこかの闇に囚われているのだろうか。
じわりと目頭が熱くなり涙が込み上げてきたころ、ポウ、と大きな青白い明かりがぺたぺたと歩み寄る。
ふたつの大きなダイヤモンドの瞳、兄貴のヤミラミだった。
「……兄貴、暗いところが怖くてさ、すぐ泣いてたんだ」
纏わりつく寂しさを紛らわせるように思い出に浸る。薄明かりを頼りに、両の手で彼の頭を撫でた。
もしかして兄貴のときもこうしてコイツが現れたもんで、こうして慰めてもらったから連れ帰ったんじゃないかな。
ヤミラミが小さな手で僕の両手を握る。それは少しぬるいが、優しくて温かな手だった。
あとがき
不安な書き出しにはなりますが、あとがきも何を残せば良いものかわからないので、(解釈を阻むこともあるかと思いますが)描写していないところをひとまず。

ゴーストといえば悪役に回りがちだとは思うのですが、ふとイメージした中で彼は優しい子でした。
このヤミラミは人間が大好きです。それを自覚したのはお兄ちゃんに出会ってからですが。
最初は環境ストレスからか好奇心爆発してただけの彼ですが、ヤミラミに触れて温もり(らしいもの)を知ります。不器用ながらも相棒や家族を喜ばせようと、相棒頼りにトレジャーハンターへ。
身に余る情熱を宿した結果この結末になってしまったのですが、その後は僕も知りません。
そのうち僕の頭にお手紙が届くと思うので、また続きを書かせてもらえればと思います。

初めてで拙い文章になったかと思います、読み辛いところがあれば申し訳ないです。
短い文章でしたが、楽しめましたでしょうか? 僕は書いていて楽しかったです。
同じように少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。そうでなかったなら、また別の作品でご縁があればと。

お互いに楽しいポケモンライフを送れるようお祈りしております。

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