帰り道

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作者:円山翔
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読了時間目安:3分
たまには、こんな日があってもいいじゃないか。
「今日はここでいいのかい?」
「うん。ここからは歩いていくよ」
「そうかい。じゃあ、気を付けて」
 日に日に短くなっていく、タクシーに乗る時間。アーマーガアを巧みに操るおっちゃんは、何も聞かない。客に余計な詮索をしてはならないという、暗黙のルールがあるんだそうな。
 さくさくと土を踏みしめて歩く。その足音だけでご飯三杯は行けそうな気分。本当はそんなに食べられやしないけれど、歩くと不思議とお腹が空く。
「今日もダメだったなあ」
 モンスターボールを掲げて言った。歩きスマホはやめましょうと言われる時代に、歩きモンスターボールなんて流行らない。夕日を通して赤も白もわからない見える窓から覗く、しょんぼりした相棒の顔。
「ごめんなあ、勝たせてやれなくてさあ」
 ボールを投げて背中でキャッチ。握り様にボタンを押せば、飛び出す不機嫌な顔の相棒。彼は彼なりに責任を感じているらしい。というよりも、人一倍正義感の強い奴だから、他人のせいにされるのが嫌なだけかもしれない。
「お前だけのせいじゃないって言ってんの。お互い頑張ろうな」
 手のひらを差し出せば、柔い手が勢いよくハイタッチ。適当に勢いを殺してやらなけりゃ、腕が吹っ飛んでしまいそう。
 たまには家に顔を見せないと、というのは口実だった。負けが続いて嫌になったら、ハロンタウンの実家に帰る。母は余計なことを言ったり言わなかったりして、温かく迎えてくれる。これも後何度続くだろうと思いつつ、お手製のカレーを二人と一匹で食べる。期限なんてあってないようなもの。それでも結果を出さなければ先はない。知ってか知らずか、母の声は努めて明るい。

「今日は乗ってかないのかい」
「うん。いつもありがとね」
「いいってことよ。また乗りたくなったら声かけてくんな」
 タクシーのおっちゃんは相変わらずだ。正直救われる。
 実家までの長い道を、今日は歩いて帰る。
 感傷を振り切るには、タクシーは時間がかからなすぎるのだ。
ただ、なんとなくさ。歩きたくなったんだよ。

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