入道雲に会いにゆこう
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https://youtu.be/L2rP2l1f0IU
こちらのオリジナル曲を元にした小説となります。
こちらのオリジナル曲を元にした小説となります。
――あの向こうにある、入道雲に会いにゆこう。
青い空に浮かぶ、白い大きなあの雲に――。
︎︎︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
僕はタツベイの“クラウド”。僕はこの名前をとても気に入っている。そう、クラウド。雲っていう意味だ。
僕のあこがれ、入道雲。そう、あの日。あの夏の日、きらきらと輝いていたあの光景が、いつも、いつも頭に思い浮かぶんだ。
――
――――
――――――
あの日――数年前、ジリジリ暑い、夏のとある日。僕は1匹で、海辺で遊んでいたんだ。
『あははっ、わぁーっ!』
ぴちゃぴちゃと波打ち際でいったりきたり遊ぶ僕。しばらく遊んで疲れ、飽きた僕は砂浜で寝転がっていた。そして、とあるものがふと目に入る。それは、大きなヤシの木だった。好奇心旺盛だった僕は、目を輝かせ、それに向かっていた。そして、その木によじ登り出した。
『よいしょ、よいしょ……』
よじりよじりとどんどん木の上の方まで登っていく僕。やっとてっぺんの葉が生えているところまで登ったぞ! やったー! と思ったその時だった。
『ぬぅぅぁああっすぃいいいい!!』
『えっ!?』
ぶんぶんと木の幹が揺れ始める。その木――木だと思っていたものは、なんと、アローラナッシーだったのだ。
『わああああああっ、助けてぇぇぇぇ!!』
このままじゃ振り落とされてしまう、この高さから落ちたら、溜まったもんじゃない。どうしよう、誰か、助けて――!
僕が諦め半分で目をぎゅっと閉じたその時。
シュバッ!
『クラウドッ!!』
『……んぇ……?』
よく聞きなれた声が聞こえる。僕はおそるおそる目を開けた。僕はナッシーから離れ、その代わりボーマンダの背中の上に座っていた。そのボーマンダは。
『父さん!!』
『全く、危ないことしちゃダメだぞ!』
『ご、ごめんなさい……』
『わかればいいんだ』
父さんは強く、でも優しく僕のことを叱ってくれた。そして、僕にある提案をした。
『そうだ、このまま散歩へ行かないか?』
『散歩……! えっ、いいの!?』
『ああ! ……いくぞ!空の旅へ!』
そこからは、僕にとって本当に夢心地だった。父さんの背中に乗って、海の上、大空を飛んでいた。
『クラウド、見えるか。あれが入道雲だ』
『にゅうどう……ぐも……! おっきい、すごい!』
『だろ?』
そんな僕にとっていちばん目に止まったのは、青々とした空にもくもくと浮かぶ、真っ白な入道雲だった。
その日から、僕は入道雲にあこがれはじめたのだった――。
――
――――
――――――
――さあ、手を広げ。ほら、羽ばたいて。
いざ、あの空へ、出発だ――!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
それから、僕はもう無我夢中だった。必死に、あの空を飛ぼうと特訓を始めた。
近くにある崖に、助走をつけて、手を大きく羽ばたかせて、飛ぶ――!
……が、そんなすぐに上手くいくはずもなく。
どんっ!
「いてっ!」
頭から、真っ逆さまに落ちる僕。でも大丈夫、僕の頭はいしあたまだから。でも、あきらめない。
僕は、また崖の上に登り、また同じようにとんだ。
――そうやって続けること、もう数ヶ月。季節ももうとっくに夏を過ぎ、ぶるぶる寒い冬になっていた。
その頃には僕の見た目も変わり、冬ごもりという言葉が似合うような姿になっていた。
そして、僕の心は……外の気温のように冷たく、氷のように凍っていた。
「僕……やっぱり飛べないのかな……」
僕は、だんだんと自信がなくなり、空を飛ぶことをあきらめかけていた。
もう、やめてしまおうか、そう思った時だった。ふと、頭に父さんの姿が浮かぶ。――僕の大好きな父さんは、数週間前、天に昇ってしまった。空を飛ぶのをあきらめかけていたのは、その悲しみからというのもあった。
でも、この時、父さんが最期に言ってくれた言葉を思い出したんだ。
『――クラウド。いつでも、自分に自信を持つんだ。自分ならできる、自分ならできると言い聞かせるんだ。そうしたら、いつかそれは叶う。あきらめないこと、それがいちばん大事なことだ』
『と、父さん……! ……わかったよ』
なんで大事なことを忘れてしまっていたのだろう。そうだ、あきらめちゃいけない。何があっても――。
僕の心にへばりついていた何かが全部取れた気がした。心の氷も全て溶けた。
僕は会いに行くんだ、あのあこがれの入道雲に……!!
僕は、コモルーの身体でも特訓を再開した。何度も何度も崖から落ちて、落ちて、落ちて。でも、あきらめなかった。
冬が終わり、春が来て、それも過ぎていって、そして、夏に――。
そんな、ある日の事だった。いつものように崖から助走をつけて、駆け出し、飛ぶ。その瞬間だった。
僕の身体が輝き出した。光が僕を包み込む。そして――。
僕は、地面に落ちることなく、その場にとどまっていた。……そう、僕は空を飛んでいた。背中に生えた、大きな羽で。
僕は、進化したんだ、ボーマンダに……!!
「~~っ!! やったあああああっ!!」
僕はとても喜んだ。でも、これで終わりじゃない。夢を、思い焦がれた夢を叶えるんだ……!!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
――いくぞ! 広いこの真夏の空を飛んで!
行こう! さあ、青い海泳ぐように――!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
僕は、あの日と同じ海に来ていた。そして、その向こうを見据える。そこには、あのあこがれの白くて大きな入道雲がたたずんでいた。
僕は、背中の羽を羽ばたかせる。身体がふわっと浮かび上がり、そして――。
入道雲に向かって、まっすぐ進んで行った。手を伸ばして、あこがれをつかむために――。
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
――見える、大きいあの入道雲に向かって。
ほら、手を伸ばして掴むんだ――!!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
見える、どんどん近づいてくる、僕のあこがれが。ぐんぐんと進んでいく僕。胸がドキドキする。ついに、夢が、叶う……!!
ああ、目の前だ、あこがれが――!!
僕は、手をめいっぱい伸ばした。そして、あこがれの入道雲をつかみとった。
僕の胸は、いっぱいになる。つかみとったあこがれを、僕はぎゅっと握りしめる。
握りしめた幸せ。僕はこの光景を、思いを、一生忘れない。
僕は今、とっても幸せだ――!!
青い空に浮かぶ、白い大きなあの雲に――。
︎︎︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
僕はタツベイの“クラウド”。僕はこの名前をとても気に入っている。そう、クラウド。雲っていう意味だ。
僕のあこがれ、入道雲。そう、あの日。あの夏の日、きらきらと輝いていたあの光景が、いつも、いつも頭に思い浮かぶんだ。
――
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――――――
あの日――数年前、ジリジリ暑い、夏のとある日。僕は1匹で、海辺で遊んでいたんだ。
『あははっ、わぁーっ!』
ぴちゃぴちゃと波打ち際でいったりきたり遊ぶ僕。しばらく遊んで疲れ、飽きた僕は砂浜で寝転がっていた。そして、とあるものがふと目に入る。それは、大きなヤシの木だった。好奇心旺盛だった僕は、目を輝かせ、それに向かっていた。そして、その木によじ登り出した。
『よいしょ、よいしょ……』
よじりよじりとどんどん木の上の方まで登っていく僕。やっとてっぺんの葉が生えているところまで登ったぞ! やったー! と思ったその時だった。
『ぬぅぅぁああっすぃいいいい!!』
『えっ!?』
ぶんぶんと木の幹が揺れ始める。その木――木だと思っていたものは、なんと、アローラナッシーだったのだ。
『わああああああっ、助けてぇぇぇぇ!!』
このままじゃ振り落とされてしまう、この高さから落ちたら、溜まったもんじゃない。どうしよう、誰か、助けて――!
僕が諦め半分で目をぎゅっと閉じたその時。
シュバッ!
『クラウドッ!!』
『……んぇ……?』
よく聞きなれた声が聞こえる。僕はおそるおそる目を開けた。僕はナッシーから離れ、その代わりボーマンダの背中の上に座っていた。そのボーマンダは。
『父さん!!』
『全く、危ないことしちゃダメだぞ!』
『ご、ごめんなさい……』
『わかればいいんだ』
父さんは強く、でも優しく僕のことを叱ってくれた。そして、僕にある提案をした。
『そうだ、このまま散歩へ行かないか?』
『散歩……! えっ、いいの!?』
『ああ! ……いくぞ!空の旅へ!』
そこからは、僕にとって本当に夢心地だった。父さんの背中に乗って、海の上、大空を飛んでいた。
『クラウド、見えるか。あれが入道雲だ』
『にゅうどう……ぐも……! おっきい、すごい!』
『だろ?』
そんな僕にとっていちばん目に止まったのは、青々とした空にもくもくと浮かぶ、真っ白な入道雲だった。
その日から、僕は入道雲にあこがれはじめたのだった――。
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――――――
――さあ、手を広げ。ほら、羽ばたいて。
いざ、あの空へ、出発だ――!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
それから、僕はもう無我夢中だった。必死に、あの空を飛ぼうと特訓を始めた。
近くにある崖に、助走をつけて、手を大きく羽ばたかせて、飛ぶ――!
……が、そんなすぐに上手くいくはずもなく。
どんっ!
「いてっ!」
頭から、真っ逆さまに落ちる僕。でも大丈夫、僕の頭はいしあたまだから。でも、あきらめない。
僕は、また崖の上に登り、また同じようにとんだ。
――そうやって続けること、もう数ヶ月。季節ももうとっくに夏を過ぎ、ぶるぶる寒い冬になっていた。
その頃には僕の見た目も変わり、冬ごもりという言葉が似合うような姿になっていた。
そして、僕の心は……外の気温のように冷たく、氷のように凍っていた。
「僕……やっぱり飛べないのかな……」
僕は、だんだんと自信がなくなり、空を飛ぶことをあきらめかけていた。
もう、やめてしまおうか、そう思った時だった。ふと、頭に父さんの姿が浮かぶ。――僕の大好きな父さんは、数週間前、天に昇ってしまった。空を飛ぶのをあきらめかけていたのは、その悲しみからというのもあった。
でも、この時、父さんが最期に言ってくれた言葉を思い出したんだ。
『――クラウド。いつでも、自分に自信を持つんだ。自分ならできる、自分ならできると言い聞かせるんだ。そうしたら、いつかそれは叶う。あきらめないこと、それがいちばん大事なことだ』
『と、父さん……! ……わかったよ』
なんで大事なことを忘れてしまっていたのだろう。そうだ、あきらめちゃいけない。何があっても――。
僕の心にへばりついていた何かが全部取れた気がした。心の氷も全て溶けた。
僕は会いに行くんだ、あのあこがれの入道雲に……!!
僕は、コモルーの身体でも特訓を再開した。何度も何度も崖から落ちて、落ちて、落ちて。でも、あきらめなかった。
冬が終わり、春が来て、それも過ぎていって、そして、夏に――。
そんな、ある日の事だった。いつものように崖から助走をつけて、駆け出し、飛ぶ。その瞬間だった。
僕の身体が輝き出した。光が僕を包み込む。そして――。
僕は、地面に落ちることなく、その場にとどまっていた。……そう、僕は空を飛んでいた。背中に生えた、大きな羽で。
僕は、進化したんだ、ボーマンダに……!!
「~~っ!! やったあああああっ!!」
僕はとても喜んだ。でも、これで終わりじゃない。夢を、思い焦がれた夢を叶えるんだ……!!
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――いくぞ! 広いこの真夏の空を飛んで!
行こう! さあ、青い海泳ぐように――!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
僕は、あの日と同じ海に来ていた。そして、その向こうを見据える。そこには、あのあこがれの白くて大きな入道雲がたたずんでいた。
僕は、背中の羽を羽ばたかせる。身体がふわっと浮かび上がり、そして――。
入道雲に向かって、まっすぐ進んで行った。手を伸ばして、あこがれをつかむために――。
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
――見える、大きいあの入道雲に向かって。
ほら、手を伸ばして掴むんだ――!!
︎︎☁︎ ☁︎ ☁︎
見える、どんどん近づいてくる、僕のあこがれが。ぐんぐんと進んでいく僕。胸がドキドキする。ついに、夢が、叶う……!!
ああ、目の前だ、あこがれが――!!
僕は、手をめいっぱい伸ばした。そして、あこがれの入道雲をつかみとった。
僕の胸は、いっぱいになる。つかみとったあこがれを、僕はぎゅっと握りしめる。
握りしめた幸せ。僕はこの光景を、思いを、一生忘れない。
僕は今、とっても幸せだ――!!
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