未来を見る氷竜

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作者:草猫
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読了時間目安:11分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

※ポケダンマグナゲートのネタバレを含みます。 未プレイ勢はご注意ください!










 氷というのは美しいものだ。 自分がそれを司る伝説であるからだろうか。

 氷は堅くはあるが、衝撃を加えればすぐに砕ける。 温度を上げれば、それはすぐに流体と化す。 因果がはっきりした、とてもわかりやすいものだ。

 そして、氷は透明だ。 私が未来を見透せる能力を持ったのも、きっとそのためだ。

 我は全てを知っている。 世界の流れは予定調和。 行く先は最初から決まっている。

 神の見えざる手が、世界をあるべき方向へと向かわせる。 愚か者達の行く先を指し示す。

 森羅万象。 天地万物。 有象無象。 呼び方は様々だが、それが示す「世界」とやらは愚かに違いない。

 我は全てを知っている。 世界はすぐに滅びゆく。


 ──我らが、この世界を殺すのだ。


















 ──昔は、未来を覗くことが小さな趣味であったりもしたのだ。

 「なんと静かな」

 冷たい風が吹き下ろす。
 我が降り立ったその場所は、1つの町の遺骸であった。 普通の町であったなら、ポケモン達の悲鳴も聞こえてきただろう。 しかし、驚く程何も無かった。 屋根から雪が滑り落ちる音がするくらいで、何もない。 本当に、何もない。 全てのポケモンが姿を消したと伝え聞いたのは、確か1年前であったか。 ダンジョン化の脅威は、こんな小さな町にもその根を下ろしていたのだ。
 
 ここもいずれ飲み込まれるのではないか。 そんな不安が蔓延る町にいたいと願う者が、この世界にどれだけいるのだろうか。 勿論ここに留まりたいという者もいたであろう。 特に無垢な子供は。 しかし、それを許す者も多くはないはず。 引きずってでも連れて行かれた者もいただろう。 しかしその選択は結果的に正しかった。 誰もいなくなった街はすぐに廃れていき、そこを突くかのようにダンジョンの歪みは広がっていった。 すぐにでも、この遺構は歪みの中に消えていく。
 すると、額に入れられた1枚の家族写真が、ふと目に映った。 脱出の際に落としていったものなのだろうか。 その写真に映った家族は、青空の下で優しそうに笑っていた。


 我は、それを冷たい目で見つめていた。 見てしまったことを、頭の片隅で後悔していた。

 












 それから少し経った後。 遠くの町で火柱が上った。 本来ならばそこまで行く義理など無かった。 だが、今回だけは。 そう思って我は足を運んでしまった。 暇であったのはそうだが、あの家族写真を見てしまったのが運のつきであった。
 ──我ながら悪趣味だ。 心からそう思う。

 「勝手に入り込んだ奴らが、俺達のモノを全て奪い取るのか!」
 「うるさい! 貴様らも腫れ物を見るような目しやがって!」

 ポケモン達が戦っていた。 それも、ダンジョンのポケモンとではない。 ......丁度、その町に元々住んでいたポケモンと。
 前自分が行った町から、逃亡してきたポケモン達。

 丁度、前から住んでいたポケモンの一部が火を放ったとのことだった。 町の隅の方。 逃亡ポケモンが身を寄せていた、最早家とは呼べないであろう粗末な住処に。 夜であったためか、そこでは多くのポケモンが眠りについていた。 子供も含めて。 それに激怒したポケモン達が反撃にかかった。 そして、互いの不満が爆発したのだ。

 炎が辺りを包んでいく。 高火力の技が飛び交う。 巻き添えになったポケモンの悲鳴が所々で聞こえている。 老若男女問わずだ。
 来るのではなかったと後悔した。 まさに、予知した景色のままであった。

 長く居座るのも忍びない。 それに、強大な力を持つ者は、特に未来を覗き見ることが出来る者は、この光景に干渉していいものではない。 そう思って離れようとした時。

 「助けて!!」

 甲高い子供の声。 つんざくような叫びは、何故かこちらを引き付ける。 ......1匹ぐらいはいいのではないだろうか。 そんな考えもあったかもしれない。 声に抗うこともできないまま、我はまた地獄に近づいてしまう。

 丁度、叫び声のあった場所まで来た。 そこにいたのは、助けを求める子供......
 だった、ものだった。

 「子供のくせに、許して貰えると思うなよ」

 1匹のポケモンが、血と共に倒れたその子を憤怒の籠もった目で見下ろしていた。 その時、何故我があの叫びに引き寄せられたのかも分かった。

 その子は、あの家族写真に映っていたポケモンそのものだった。 写真の真ん中で、屈託のない笑いを見せている。 最期の顔が絶望に溢れたものになるなんて、当時のあの子は考えていただろうか。 答えは否である。

 「......おい、見ろよ」
 「っ!? あれは」

 思わず、我はそこまで移動し飛び降りた。 倒れたポケモンは、その轟音にもびくともしない。 恐らく、もう事切れている。

 「......ああ、あなたは、もしや北の大氷河に住まうという!?」
 「えっ......キュレム? まさか、こんなところに来るなど」

 急にその声に敬意がこもる。

 「ああ、聴いてくださいよ伝説のポケモン様。 丁度半年前でしたでしょうか。 自分達の町にダンジョンの歪みが近づいてきたと言って、見知らぬポケモンがぞろぞろとやってきたんです。 この町も豊かではないのに、ダンジョンを避けながら行くことが出来た町はここしかないのだと言って、なんと彼らは居座ってしまったのですよ! 冬のために溜めてきた食糧も、そろそろ底をついてしまいそうなのです。
 お願いです。 あなた様からも言って追い出していただけますか。 もう私たちは限界なのです」

 媚びるような声がする。 こちらの神経を逆なでする声に、心底嫌気がした。

 「追い出す気ならば何故、そのポケモンを切り捨てた」

  ポケモン達は後ろを振り向く。 少し気まずそうな表情を見せた後に、「抵抗されたから」とだけ言った。 少し、棒読みにも聞こえた。 その子の血の感触は、彼らにとってはどのようなものだったのだろうか。

 「──屑め」

 冷気が辺りを包んだ。

 「我をそんな言葉で懐柔できるとでも思ったか」
 
 更に冷気を強める。 ポケモン達の歯ががちがちと震える音がした。

 「貴様らの凶暴な欲を満たしただけだろう」

 ち、がう。 そう言いたげに口は動いたが、声が出ることはなかった。
 氷の刃が周囲に浮かぶ。

 「に......げ、ろ」

 それだけポケモンは言う。 誰かの命を奪っておいて、自らの命が奪われる覚悟もこの者達は出来なかったのだ。

 嗚呼、愚かなものだ。
 1つの町が地図から消える。 予知で見た景色の理由の一端を担ったのは......我でもあったのだ。




 
 ──凍える世界。














 そして、我は大氷河に戻ってきた。 そこまで遠距離移動はしてないはずなのだが、不快が募ったばかりに帰路は随分長く感じてしまった。

 そして、似た経験がそこからも起こらないわけではなかった。 その度に嫌な感覚がつきまとい、未来を覗くのも億劫になった。 なにせ、負の感情がこもった光景ばかりがどんどん増えていくのだ。 仲違いの予知など、日常茶飯事だった。

 グレッシャーパレスの最上部に負を纏った氷の結晶が見えたのは、暫く経った後だった。
 



 我の感情がこれほど昂ぶったことが、今までにあっただろうか。















 答えなど決まっていた。 我には未来が見えるのだ。 この結晶の側に近寄ると、真っ暗な景色が見える。 つまり、世界はやがて無になるのだ。 それが分かった瞬間に、安堵と興奮が心の中で渦巻いていた。 長すぎる伝説のポケモンとしての生。 これで終わると思うと、我ながら奇妙なもので喜びすらも感じてしまう。

 変えようとしたところで、未来など変わらない。

 見えたものに干渉したところで、碌な事は起こらない。 嫌な感情が引き起こされるだけだ。

 だから我はこれを守った。

 世界を滅ぼす力を持つ大結晶の成長を、側で見届けることに決めた。

 世界に絶望したポケモン達に協力も求めた。 彼らは歪んだ希望を顔に浮かべて、二つ返事で承諾してくれた。

 大結晶──この頃ぐらいから氷触体と呼ぶようになった──が育ってきた頃、命の声というものが異世界から人間を呼び出した。 奴らはあのポケモン達と本質的には同じだ。死ぬことがわかっていたとしても、足掻き続ける愚かな者達だ。 他の命が死んでいったとしても、世界が保たれれば、自分達さえ生きていればよいと考える愚かな連中。 我は協力を仰いだポケモン達に、人間の討伐を依頼した。 手強いと言われた人間は我が直接出向き叩き潰した。

 その中で、氷触体はどんどん肥大化していく。 それに比例して、ポケモン達の心の底にある不安も強まっていった。 流れとしては予知通り。 このままいけば、あの真っ暗な風景が訪れる。 あと少しだと、黒い瘴気を放つ奥の間を見ながら我は呟いた。
 
 我は全てを知っている。 世界の流れは予定調和。 行く先は最初から決まっている。

 神の見えざる手が、世界をあるべき方向へと向かわせる。 愚か者達の行く先を指し示す。

 森羅万象。 天地万物。 有象無象。 呼び方は様々だが、それが示す「世界」とやらは愚かに違いない。

 我は全てを知っている。 世界はすぐに滅び行く。 我らが、この世界を殺す──



 「誤差が重なれば大きな運命も変わる!奇跡という名前に変わる!!」



 ──はずだった。

















 ふっと、常にあった頭痛が消えていった。

 幻覚かもしれない。 だが、虹が見えた。

 ──真っ暗な景色が、青空にかかる虹に変わった。
 











 「......崩、れる」

 氷が、音を立てて割れていく。 体を包む浮遊感が消え去ったのを考えると、砕かれたのだ。 氷触体は。
 運命は、変えられた。 本当に、やってのけた。


 「我は、無力だな」

 そう呟く。 痛めつけられた身体では、呟くことしか出来なかった。
 見ているだけだった。 未来に干渉することを恐れ、何も出来なかった。 否、何も行動しなかった。 氷河の奥に立てこもり、嫌な未来が見えた場所に足を運んでも何もしない。 あの惨禍も、あの殺戮も、みな。
 大層な能力を持ちながら、たった1匹の子供すら救わなかった。
 誤差を生み出すのを恐れた、ただの臆病者である。
 
 
 あの2匹は出てこない。 きっと、力尽きているのだろう。 このままでは、共に崩れて死ぬのみだ。 運命に従うのなら、きっとそうなのだろう。 運命を変えた勇気あるポケモンは、このまま氷と共に消えゆくのだ。 未来を覗かずとも予想は出来る。世界から与えられた、彼らの責務は終わったのだから。

 ──でも、我も。
 我も、それに抗えるのならば。
 この力を、何かのために使えるのならば。

 我にも、出来ることがあるならば。










 ──グオオオオオッッッ!!!!

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