怪鳥カタ・クリコ

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作者:水のミドリ
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読了時間目安:24分
この作品は、某ポケモン小説投稿サイトにてお題『かた』の短編小説大会に参加したときの作品です。

登場ポケモン

タイレーツ
 兵長
 兵A
 兵B
 兵C
 兵D
 兵E

ネイティ

(タイレーツがいないのならば、ほかの種族6体での演技も可。その場合、いずれも羽をもっていない、兵士然としていること。ネイティも同様、小柄な鳥ポケモンであればよい。台詞は適宜変更のこと)










暗転下。この世のものとは思えない、おぞましい鳥の鳴き声が鋭く響く。
明転。舞台後方にアーチ状の門がある。その手前には1辺50センチ程の木箱が、口を上にしてひとつ。他は何もない。

兵A、あたりを警戒しながら現れる。

兵A なんだ、誰も戻っていないじゃないか……。
兵B おうい、出してくれ……。
兵A どこだ、声だけがする。
兵B ここだ……ここだよう。
兵A (木箱を傾けながら)なんだ、お前か……。驚かすんじゃあない、いるならちゃんと声をかけろ。
兵B 出してくれ、って声をかけたじゃないか。
兵A あんなうめき声じゃ幽霊かどうか判別もつかないさ。(兵Bを助け出す)お前、本当は幽霊じゃないだろうな?
兵B 違うよ……その証拠に、全身が凝り固まってら。
兵A ふん……。しかし、木箱に顔から突っこんで、何をやっていたんだ?
兵B こいつを調べていたら、いきなり向こうへ倒れてさ……。
兵A ははあ……。きっとそいつはね、お前に悪意を持っていたんだ。
兵B 木箱がか?
兵A 違うよ馬鹿。この木箱をここに置いといた奴さ。そいつはね、お前の体がちょうとすっぽりはまる大きさの木箱を置いて、お前を困らせようと企んでいたんだ。
兵B そうかな……?
兵A そうだよ。誰だい、こんなことをしやがったのは。
兵B この木箱をここに置いといた奴か?
兵A そうさあ。そいつのせいなんだぞ、お前がはまったのは。
兵B 誰かと言われたらそれは……俺なんだけどもね。
兵A お前がか?
兵B うん……。
兵A お前がこれをここに運んできたのか?
兵B そうなんだよ。
兵A そうか……そうなんだよ。お前は、無意識のうちに、常日頃お前のことを嫌な奴だと思っているんだ……。
兵B 俺が、俺のことをか?
兵A よくあることさ。俺も同じように思っている。
兵B お前も、お前のことが嫌いなのか。
兵A 違うよ。俺も、常日頃お前のことを嫌な奴だと思っているんだ。
兵B ああ、そっちか……。
兵A つまりだよ。お前は、怪鳥カタ・クリコの鳴き声を聞いて、兵長が「探してこい!」と命じたにもかかわらず、木箱に隠れようとした。それが恥ずかしくなって、お前は木箱に隠れたんだろう。
兵B それは、どこがどう違うんだ?
兵A まるきり違うじゃないか。怪鳥カタ・クリコが怖くて木箱に隠れることと、自分が恥ずかしくて木箱に隠れることは、全く別のものだよ。
兵B ち、違うよ。俺は怪鳥カタ・クリコなんか怖くないさ。
兵A ほらみろ、違うじゃないか。
兵B あれ、ほんとうだ。
兵A そう気に病むことはないよ。お前は我々の中でも一番弱っちい性格をしているからな。
兵B 俺もお前も、いじっぱりな性格じゃないか。
兵A そうだ。そうなんだけど、違うんだよ。わかるか、俺が果敢にも怪鳥カタ・クリコに挑んでいた間、お前は無様に木箱へはまり、見つけた者に嘲笑されるのを待っていただけなんだからな。
兵B 嘲笑される? 俺が?
兵A 木箱に頭から突っこんでいるなんて、どこからどう見ても笑い者じゃないか。
兵B そうか、あれは笑っていたんだな……。
兵A なんだい?
兵B いやね、俺が木箱にはまっている時、近くから鳥のさえずりが聞こえた気がしたんだよ。そうかあ、あの澄んだ声は怪鳥カタ・クリコが笑っていたのか。きれいな声だったなあ。
兵A 馬鹿……。あの怪鳥カタ・クリコがそんな声を出すわけないだろう。もし本当に奴がそこにいたとしたら、動けないお前の尻をつっつき回して、おわりさ。
兵B まるで怪鳥カタ・クリコがどんな奴なのか知っているような口ぶりじゃないか。
兵A ま、まあな。俺は戦ってきたんだから……。
兵B どんなだった。
兵A ……え?
兵B だから、怪鳥カタ・クリコはどんなだったんだって、聞いているんじゃないか……。ああ、ひと目見ておきたかったなぁ!
兵A 気色悪いことを言うな馬鹿。あんなおぞましい鳴き声をがなりたてる怪鳥カタ・クリコなんて、きっと赤黒く燃える炎のような羽で身を包み、くちばしは邪悪な笑みで歪んでいるに決まってる。見ないでもわかるよ……。
兵B ……本当は戦っていないのか?
兵A いや、戦ってはいるんだけどね……。

兵B 横置きの木箱へ背中を収める。
兵C、松葉杖を両脇にかかえ、片足を引きずりながら、現れる。

兵C やあ、どうだい。
兵A どうってお前、その足はどうしたんだ?
兵C 具合を尋ねているのは俺なんだけどな……。
兵A それどころじゃないよ。お前は、怪我をしてしまっているじゃないか! もしや怪鳥カタ・クリコにやられたのか……?(涙ぐむ)
兵C ああ、これね……。そうなんだ、俺がこうしているとね、たいていのポケモンはビックリして、足をどうかしたんですか、って訊いてくるんだよ。怪鳥カタ・クリコなんて、「雷よりも速く走れる俺の脚と交換してやりたいくらいだ」って泣きそうになってさ。お前もそうだったようにな。
兵A な……、泣きそうになんかなってないけど。
兵C そう意固地になるなって、目の下が濡れているぞ。ところが、いいかい、聞いて驚くんじゃないぞ。この足はね……、実は、なんともないんだ。
兵A な、なんともないのかい!? よかったじゃないか!(泣く)
兵C そうなんだよ、なんともないのはいいことだ。腫れてもいなければ、折れてもない。右足を出して次に左足を出せば、前に進むことだってできる。それもごく自然にね。だから俺は、足をどうかしたのかって訊かれるたび、いやいやなんともないんですよって答える。そうするとね……いいかい、ここからがとても大切なところなんだけれど、みんなもっとビックリするんだ。
兵A もっと……?
兵C もっとさ。つまり、足を怪我したのかなって思った時より、それがなんともないってわかった時の方が、驚きが大きいんだよ。しかもみんな喜んでね、ほとんど感動してくれるって言ってもいいくらいなのさ。だって、みんなの頭の中では俺の足は折れているのに、それが一瞬で治ってしまうんだからね。
兵A なんだ、騙しているだけじゃないか、馬鹿らしい。
兵C いやいや、これは大変なことなんだよ。お前の足もなんともないけど、誰もそこに感動してくれやしないぜ。ちょっとものの見方を変えるだけで、なんともないのに感動するんだ。
兵A 俺は、俺の足なんかに感動してほしくないよ……。
兵C (兵Bに)お前はどうだ?
兵B ……。
兵C 木箱に飾られたみたいに動かないけど、ずっと何をやってるんだ。
兵B 俺がこうやって木箱にはまっていれば、またあの声が聞こえるんじゃないかって、(兵Aを指して)あいつがそう教えてくれたんだ……。
兵A 違うよ馬鹿……。
兵C あの声? あの声って、怪鳥カタ・クリコの声か?
兵B そうさあ。お前はあのだみ声しか知らないだろうけどね、怪鳥カタ・クリコは、それはもう美しい声で鳴くこともできるんだ。俺がこうしているとね……。
兵C ふぅん……、面白そうだな。俺も聞いてみたくなった。よしお前、代わってくれ。(兵Bを引きずり出そうとする)
兵B よせよおい、これは俺の木箱だぞ! それに誰が入っていたって一緒じゃないか。
兵C 何言ってんだ、俺に向かって送られたさえずりと、お前に向かって送られたさえずりじゃ、ぜんぜん違うじゃないか。
兵A やめろよみっともない、兵長が帰ってきたら、どうするつもりだ!

兵Dが、5枚程度の羽とともに天井から落ちてくる。
兵Bと兵Cが木箱を奪い合う傍ら、兵Aが兵Dを介抱する。

兵A おいどうした、もしや怪鳥カタ・クリコの羽に打ちのめされたのかい? よく逃げられたな、全身羽まみれじゃないか。
兵D 早合点をするな。俺は逃げてきたんじゃあない、遠くからじっと偵察していたのさ。黒い仮面をつけた怪鳥カタ・クリコが、羽ばたきもせずスイーっと去ってゆくのをな……。それで、その場所にこいつが残されていたんだ。

兵Dが羽を掲げると、兵Bと兵Cもつられて集まってくる。

兵A そんなもん集めて、何になるってのさ。
兵D これはきれいな羽だ。だがただのきれいな羽ではない。使うと我々の能力が上昇する、不思議な羽さ。たとえばこの2枚は、筋力の羽というやつだ。介抱してくれたお前にやろう。
兵A いいのかい……?
兵D いいぞ。使ってみるといい。
兵A 使うって……、どうやって?
兵C お前、知らないのか……?
兵A いや、知っているよ。この羽を使えばいいってのは知っている。けどだよ、こいつをどう使えば、攻撃が上がったりするんだ?
兵C ははん、お前は羽の使い方を知らないんだな。(兵Aから羽を受け取って)ええと、こうだよ。こうやって、両手で持って、(木箱によじ登って、飛び降りながら)思いきり羽ばたくのさ。はあはあ、これで攻撃が増したはずだぜ。
兵D そんなはずないだろ馬鹿。(兵Cから羽を取り返す)いいか、こいつはな、こうやって使うんだ。(兵Bに)ちょっとお前、顔を貸してくれ。
兵B なんだい?
兵D こうやって、顔の真ん中あたりをサワサワってやるとだな……。
兵B うわ、なんだ、なんだかムズムズしてきて……へっくし! へっぐ! へーちょ!
兵C うわっ汚い。くしゃみをするときくらい手で塞げよな。
兵A (兵Dに)お前、おちょくるんじゃないよ。こんなことしてくだらない。こいつにくしゃみさせたところで、筋力がつくわけないじゃないか!
兵D 待て待て、お前はすぐに早合点するな。ちょっとは考えてみろよ。こいつがくしゃみするとどうなる?
兵A どうって……、現にどうにもなってないよ。
兵D 想像力を働かせるんだ。俺が筋力の羽を使うと、こいつがくしゃみしただろう。こいつがくしゃみをすると、それを遠くで聞いていたメッソンが驚いて泣きだす。泣きだしたメッソンの親のインテレオンが、近所のヒバニーにいじめられたと勘違いして、その親のエースバーンに文句を言う。エースバーンは真に受けて、お詫びにインテレオンへモーモーミルクを送るのさ。だけれど送り先を間違えてそれは我々の元へ届く。モーモーミルクにはタンパク質が多く含まれているから、それを飲んだこいつは筋肉がついて攻撃力があがる、と。こういう寸法だ。
兵B なるほどね。じゃあ俺は前より強くなったわけだな。
兵C 早合点するな。まだモーモーミルクが届いてないぜ!
兵D ミルクの到着を待つ間に、知力の羽の使い方もご覧入れよう。こいつを使えば、特攻が上がって賢くなるぞ。そりゃ!(兵Bの脇の下をくすぐる)
兵B うわはははははっ!
兵A 今度はどうなるんだ……?
兵D 俺が知力の羽を使うと、こいつがくすぐったくて笑ったろう。こいつが笑うと、それを遠くで聞いたヒバニーが出どころを探そうとして、道に迷ってしまう。親のエースバーンは丸1日探すも自分の子が見つからない。藁にもすがる思いでインテレオンのところを訪ねても、冷たく追い払われる。なぜって、インテレオンはお詫びのモーモーミルクなんか受け取っていないわけだからね。モーモーミルクを送って仲直りしたと思いこんでいたエースバーンは、お詫びの品じゃあ満足しなかったインテレオンがヒバニーを誘拐したんだって早合点してしまうのさ。それで憎悪に駆られて親子を殺してしまう。メッソンとインテレオン、お前より賢かったポケモンが2匹いなくなったのだから、お前は相対的に賢くなったといえるだろう。……こういう寸法さ。
兵B なんだかいたたまれない話だなあ……。
兵C お前がくしゃみしたり笑ったりしたせいじゃないか!
兵B (兵Dに)お前が羽なんか使うからだろう!
兵D 2匹の犠牲を無駄にはしない……。(涙ぐんで)その上でいい考えがあるんだ。
兵A いい考え? なんだいそれは。
兵D ヒバニーがいなくなったエースバーンは、必死になって自分の子を探し回っただろう。自分の羽を落とした怪鳥カタ・クリコも、今ごろあの目から氷のビームを出すくらい必死になって探し回っているはずさ。
兵C なるほど、それを逆手にとって、捕まえてやろうってわけか?
兵D 木箱と羽と松葉杖を使って、あっさりとな。
兵B 俺には羽を使わせてくれないのかい……?
兵D さんざん使ってやっただろう。それよりもっとすごい使い方なんだからな、今からすることは……。

兵士たち、協力して罠を作る。兵AとBが木箱を持ち上げ、その隙間に兵Cが松葉杖の片一方を差し挟み、できた空間に兵Dが残りの羽を無造作に置く。
兵士たち、門の奥から木箱を見守る。
冒頭と同じ奇妙な鳴き声が、さらに輪をかけた大きさであたりに響き渡る。
緊張が走り、それからしばらくの間……。

兵E、あたりを伺いながら現れる。
羽に気づくと、身をかがめて、木箱に潜りこむ。
支えの松葉杖を自ら蹴っとばして、木箱に閉じこめられる。

兵E うわっなんだ、急に夜になった!
兵D そらみろ、かかったぞ!

兵士たち、木箱に飛びつき兵Eを取り押さえる。

兵C よし、しっかり押さえたぞ……って、なんだ、お前じゃないか。
兵E や、やめろお前ら! この羽は俺が先に見つけたんだ。ひとつだってやるもんか!
兵A やっぱり怪鳥カタ・クリコはこんな木箱じゃあ捕まえられないんだよ。
兵E お前たちじゃあ何も捕まえられないんだよ!
兵D お前がかかったじゃないか。
兵E 誰もかかりやしないから俺がかかってやったんじゃないか!
兵B この羽をしかけて、お前が捕まった。ということは、やっぱりお前がこの羽を落としたのか……?
兵E ……そうだよ? だからこっちに寄越せって言ってるだろう……。
兵B わかったよ、はいどうぞ……。
兵C 待て待て、(兵Eに)お前には羽が生えていないんだから、お前が落とすわけがないじゃないか。嘘をつくんじゃないよ馬鹿。
兵E 嘘を嘘だと分からない奴が馬鹿なんだよな!
兵B でもどうして羽が欲しいんだ?
兵E これを兵長に差し出せば、俺が兵士たちの中で1番有能だって示せるからだぜ。それくらい分からないのか馬鹿。
兵D よせって。(兵Bを指して)こいつの頭が回らないのはよくあることじゃないか。
兵E こいつの頭が回らないのはよくないことじゃないか!
兵A そうムキになるなって。これで全員揃った、あとは兵長を待っていればいいんだよ……。
兵E 待ってるだけじゃ兵長にはなれないんだよ!

ネイティ、跳ねるようにして門から現れる。

小鳥(ネイティ) こんにちは、兵士さんたち。
兵E こんにちは……。
小鳥 いいお天気ですね。
兵E そうです、ええ……このまま晴れるかもしれませんし、雨が降るかもしれません。
小鳥 ここで何をしていらっしゃるの?
兵E 我々はこの門を見張ることが任務ですので……。
小鳥 あら、気がつかなかったわ。それではこの門をくぐってはいけなかったのね。
兵E いえ、怪しい者でなければ通るのは自由ですから……。
小鳥 次からは飛んで超えることにしますわ。
兵E はあ……、構いませんけれど……。

ネイティ、木箱に腰掛けて兵士たちを見下ろす。
兵士たち、こわごわとネイティに向かって密集陣形をとる。

兵A あの、つかぬことをお伺いするのですが、赤黒く燃える炎のような羽や、邪悪な笑みで歪むくちばしをお持ちではないですよね……?
小鳥 ええ、ご覧の通りですの。ご期待に添えず申し訳ありませんわ。
兵A いえいえ、ああ、よかった……。
兵C では、雷のように速く大地を走り回る健脚は携えていますか……?
小鳥 いいえ、それも持ち合わせておりませんの。ごめんなさいね。
兵C ああいえ、どうぞお気になさらず……。
兵D で、では、目から凍てつくビームは……?
小鳥 ちょっと、さっきから何なのですか? ひとを怪鳥みたいに。
兵D お気に障ったのなら謝ります、こちらの話でして……。
兵B それでは美しく歌うこともできませんよね……。
小鳥 あら、喉は自慢ですのよ。ちょっと歌ってみせてさしあげましょうか?
兵B ぜひ1曲……。
兵E やめろよ馬鹿。みっともないぞ。
小鳥 仲がいいんですね。みなさんお友達かしら?
兵E いえ、そういうこともないんですけど、そのようなものです。もっとも、我々ひとりひとりはそうは思ってないんですけどね、全部合わせるとそんな感じですよ。
小鳥 まあ、複雑なのね。
兵E そうなんです、複雑なんですよ。これがもう腹立たしいくらいに……。(ふくれる兵Bを小突く)
小鳥 まるで私の羽みたい。
兵A ……どういうことです?
小鳥 抜けた羽は1枚1枚同じように見えるけれど、それぞれに機能があるの。使えば攻撃が上がったり、防御があがったりね。それがひとつに寄り集まって、私は初めて空を飛ぶことができる。ちょっと抜けすぎると、途端に飛べなくなってしまうわ。そのくせすぐに抜けるんだから……、まあ腹立たしいこと!
兵A はあ。
兵E あの、抜けた羽は捨ててしまうのですか?
小鳥 まあ、そうね、こんなもの持っていても、しようがないもの。
兵E それじゃあ、私にひとつ羽を分けていただけませんか。
兵B あっ、ずるいぞ!
小鳥 あら、いいわよ。
兵E へへへ……。
小鳥 はいどうぞ。(片方の翼を差し出す)
兵E え、ええと。羽というのはですね、あなたの羽全部という意味ではなく、そこから抜け落ちた1枚をいただきたいという意味なのですけど……。
小鳥 ここから好きなだけ毟ってちょうだい。羽が数本抜けたところで、すぐに生えてきますからね。
兵E い……いえいえ、とんでもない。その、私が直接引き抜くのは、どうなんでしょう……。
小鳥 いいのよ、遠慮はしないで。それとも何です、あれだけ不躾な質問をした上に、私の好意を拒むつもりですの!?
兵D そんなつもりは……。あの、よくないですよ、それは……ね? 落ち着きましょう。
兵C (兵Bに)おい、お前はどうなんだ。お前も欲しがっていたじゃないか。
兵B い、いいんだよ俺も。そういうんじゃないんだから……。
小鳥 あら、あなたも欲しかったのね。ならあなたには(もう片方の翼を差し出す)こちらの羽を差し上げるわ。
兵B いえいえ、いいんですよ私も。本当に、そういうのでは、ありませんから……。
小鳥 ほかの方は、もう少し待っていてくださいね。羽が生え替わるまで、1週間ほどかかりますから。
兵C 1週間ずっとこちらにいらっしゃるんですか……?
小鳥 羽のないネイティなんて怪しいですもの。怪しい者は、あなたたちがこの門から通してくれないのでしょう?
兵C いえ、そういうわけでもないですけど……。ちょっとものの見方を変えたならば、羽のないネイティってのも、案外ふつうなのかもしれません……。
小鳥 それなら心配なんてなんにもありませんわ。(翼を差し出して)ほら、ひと思いにやってくださいな。
兵C いやいや、やめましょう、それは……ね? 私はそんなに、欲しがってもいませんし……。

兵長、悠々と現れる。
それに気づいた兵士たち、兵長の後ろにまごまごと集まる。

兵長 やや、これはこれはお嬢さん。ご機嫌いかがですかな?
小鳥 こんにちは兵長さん。兵士さんたちから慕われているんですね。
兵長 いやはは、そうでもないんですな。どいつもこいつもちゃんと仕事をしているか、胡散臭い奴ばっかりで……。
兵E 兵長は足が臭いばっかりで……。
兵長 お前、許可してないのに喋るんじゃない! (小鳥に向かって)……おほん、私がいない間、兵士たちが失礼を働いてはおりませんでしたか?
小鳥 私の好意を受け取ってくれませんの。
兵長 なんですと! それはどの兵士ですかな?
小鳥 ええと……、どの方だったかしら?
兵長 はっは、こやつら、顔が同じように見えますからな。もっとも、私は完全に見分けがついておるのですが……。よろしい、整列!

兵士たち、兵長の後ろで一列に並ぶ。
小鳥、その最後尾について並ぶ。

兵長 番号!
兵A 1!
兵B 2!
兵C 3!
兵D 4!
兵E 5!
小鳥 6!
兵長 むむっ! どういうことだ? (兵士たちを引き連れてあたりを歩きながら)我々は常に6匹でひとつのチームだというのに、私を含めて7匹いるではないか。(止まって)番号!
兵E 1!
兵D 2!
兵C 3!
小鳥 4!
兵B 5!
兵A 6!
兵長 やはり同じ……。まことに残念なことだが、我々は常に6匹でひとつ。最も無能な兵士を辞めさせねばなるまい。もっとも無能な兵士は、怪鳥カタ・クリコを探さなかった奴にしよう。(兵士たちに向かって)お前たちは奴の特徴を1人ずつ言っていくんだ。はじめに3度、同じことが言われればそれが怪鳥カタ・クリコの特徴とする。皆と意見を異ならせた奴は、クビだ!
兵A 怪鳥カタ・クリコは赤黒い炎の羽を持ち、邪悪な笑みでくちばしを歪めます!
兵長 それは恐ろしい……。いや、私が恐れているわけじゃあないがな。
兵B とても美しい声で歌います!
兵長 それが鳥ポケモンというやつだ。お前は何を探していたんだ馬鹿!
兵C 雷よりも速く大地を駆け巡ります!
兵長 おい、同じ意見が出てこないじゃないか。全く……。
兵D 目からビームが出ます! 目からビームが出ます! 目からビームが出ます!
兵長 ほう、同じ意見が3度言われた。怪鳥カタ・クリコを探しに行った実に優秀な兵士が、3匹もいることになる。目覚ましい働きだぞ諸君。
兵E 目を覚ますのは兵長です。最後まで意見を聞かないなんて、おかしいじゃないか。ほらこれが奴の羽で……。
兵長 兵長がおかしいことを言うはずがないだろう。もう同じ特徴が3度言われたのだ。クビになりたいのかお前は! ……おほん、つまり、怪鳥カタ・クリコの特徴は……。

突如、ネイティが羽ばたき、みなの注目の中おぞましい鳴き声を轟かす。
前の2回と同じ鳴き声、その3度目に兵士たちは茫然と立ち尽くす。
ネイティ、舞台を縦横無尽に飛び回り、あるいは走り、兵士たちと兵長を追い回す。羽で打ちすえ、脚で蹴りつけ、可能ならば目から光線を出し、あらゆる演出も交え考えうる攻撃方法すべてを用いて兵士たちを蹂躙する。

兵A 炎の羽が!
兵C 雷の鋭い脚が!
兵D 氷のビームが!
兵E 尖ったくちばしが!
兵B 歌声が!

兵士たち、上記のような台詞を口々に逃げ惑う。

兵長 ギャアアアアア!!

兵長、その場で倒れピクリとも動かない。
ネイティ、門のアーチに止まって、沈黙……。
辺りが鎮まってから、兵士たち、兵長を取り囲む。

兵A ……死んでる。
兵B そんな……。
兵C どうしよう……。
兵D 兵長がいないと、俺たち……。
兵E いつかはこうなると、思ってたんだ……。
兵A どうする。
兵B 何を?
兵D こいつをさ……。
兵C 隠しちゃおう……。
兵E どこへ……?
兵C 木箱の中へさ。見えなくなれば、我々もこいつのことを忘れられると思うんだ。
兵E それがいい……。
兵A そうだな、それじゃあツノの方を持ってくれ。

兵Aと兵E、兵長を運び、兵Bが持ち上げた木箱の中へと隠す。
兵C、松葉杖の片一方を屋根に刺す。
兵D、散らばった羽を集めて供える。

ややあって、ネイティ、舞台中央に移動。

小鳥 整列! (兵士たちが一列に並んでから)番号!
兵A 1!
兵B 2!
兵C 3!
兵D 4!
兵E 5!
兵B ……ちょうどだね。
兵D なんだか収まりがいいや。
兵C あれだけ競っていたのが嘘みたいだな。
兵E でも……あれ、何かおかしいような……。
兵A おかしくなんかないさ。我々は6匹でひとつ。そうだろう?

ネイティ、とても美しいさえずりを披露しながら、翼を左右に振り隊列の先頭に立ってあたりを歩き回る。
兵Aを先頭に兵士たちは一列にその後ろへついていく。
さえずりがひと段落して、落ち着いたハミングに変わる。

兵B 俺が木箱にはまっていたとき、笑っていたのは兵長だったのか。あんな美しい声を出せるなんて、知らなかった……。
兵C 兵長が、怪鳥カタ・クリコを探してこいと命じたのは、こういうことだったんだな……。
兵D 今ならなんだか、空も飛べそうな気がしてきたさ……。
兵E (兵Aに)おうい、お前はどうだい?
兵A (ネイティの頭の上から目を覗かせて)……ああ、なんだか世界の見方が変わったような気分だよ。





暗転

 

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