クラフト狂騒曲~ぼくわたしのかんがえたさいきょうのぼーる~

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作者:夏十字
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読了時間目安:23分
「いっけええーーー!!」

 ムネキは振りかぶって投げた。投げたという手ごたえは感じなかった。その青いボールはぐんぐんと、何か動力でも付いているかのように上空へと真っ直ぐ弾道を伸ばしてゆく。そして大空を舞うムクバードの翼にぶつかるや否や、ぱかりと開いた内側から放たれた光もろとも、その姿を瞬時に飲み込んだ。

 自由落下。質量を感じさせず校庭へと落ちてきたボールは、ムネキら三人の見守るなか一度大きく跳ねあがったのち、パンッと頭に空いた穴から小さな花火を打ち上げた。歓声が上がる。

「フェザーボール、クラフト成功!」

   〇

 今年高校生になったムネキがクラフト同好会などというマイナーな集団に属したのには二つの理由があった。一つは器用だから。もう一つは不器用だから。

 ムネキは昔から手先が器用で、小学校中学年の頃には木材でちょっとした椅子や棚などを作るのはお手のものだった。どんどん作って作りまくって、その椅子を親戚の叔父さんが勝手に知り合いに売りつけて回っていたこともあったぐらいだ。その件でムネキの両親が叔父さんを問い詰めたら、「このままじゃあ、お前らん家は椅子だらけになって家なのか椅子なのかわかんなくなるぜ」と悪びれもしなかった。そう言うくせ幼いムネキを上手く乗せて椅子を大量に作らせていたのは叔父さん張本人だったのだが。これには叔父さんが連れているスカンプーもあきれ顔だった。ムネキの叔父さんの話はもういい。

 反面、ムネキは不器用だった。先程のエピソードでムネキが両親の悲鳴もお構いなしに家じゅうを椅子まみれにしていたのは紛れもない事実で、屋根にまでズラリと積み上げられた椅子を野生のニャルマーが住み処にしてしまったり、観光客らがアートと勘違いして写真を撮りまくっていたりもした。
 一度のめり込むと周りが見えなくなる、人の言うことも聞こえなくなる。幼い頃からそんな感じで、高校生になった今も変わっていない。そういう自覚がムネキ自身ずっとあるから、あまり多くの人とは関わりたくなかった。

 その点クラフト同好会は彼にとって都合がよかった。色々なおもしろいものを作れるし、何しろ人が居ない。今年の同好会のメンバーはムネキの他にはクラスメイトの女子が一人と、三年生の女会長だけだった。

「まあ、ぶっちゃけ、存続が危ういんだが」
「ぶっちゃけなくても分かります。常に肌で感じているので」
「あはは、言うねー。スズカちゃんは」

 会議机を挟んで会長のツユサと一年生のスズカが喋っている。ツユサはぐでんと頬杖をつき、本人曰くスタイリッシュな黒眼鏡が鼻からずり落ちかけている。スズカは対照的に背筋を伸ばして座り、一切姿勢も表情も崩さない。

「この部室もねえ。なんか今年新しく出来た同好会に使わせたいってチクチク言われてんのよ。来月、夏休みに入るまでにはってさー」
「ポケモンバトル研究同好会、略してポバ研ですね。もう三十人ほどメンバーが居るようです」
「いやいや三十人じゃ絶対この部室入らないでしょう」

 少し離れて座って二人の様子を見ていたムネキが思わず突っ込んだ。この広さじゃあ、今使っている真ん中の会議机を取っ払ったって十人で使えればいいところだ。

「『とりあえず出てけ』ってメッセージを感じるねー、はあ。折角キミら優秀な一年が入ってくれたのになあ」
「私とムネキ君が入るまで、同好会としての実績がろくに無かったのが問題なのでは」
「うっ……。でも仕方ないのよ、昔のクラフトを再現するなんて簡単じゃないし。もともと先々代の、初代会長の人望だけで成り立ってたようなもんだったからさあ。皆キミ達みたいに頭が良かったり器用だったりってわけじゃなかったんだよ」

 かつて、このシンオウ地方がまだ別の名で呼ばれていた頃。ほとんど手つかずの自然のままだったこの地を開拓してゆくため、人々は採集した鉱石や草花、木の実などを加工し、道具として利用していた。今は店で買うのが当たり前のキズぐすりやモンスターボールなども、多くは各自でクラフトして使っていたらしい。

 クラフト同好会の目的は、その当時のクラフトを再現することにあった。
 当時のレシピをもとに素材を集め、実際に作ってみる。こう言えば単純なのだが、いざ試みてみるとツユサの言った通り簡単なことではない。当時の素材がそのまま今も手に入るとは限らないし、そもそも今ではもうクラフトのレシピの大半が失われてしまっていた。

「成績優秀で古い文献なんかをあたるのが得意なスズカちゃんのお陰でやっと色んなレシピが分かってきて、ムネキくんの類まれなる器用さのお陰でそれを再現できてー……ってこれ、わたし要らなくない!?」
「素材の代用についてのアイデアは、主に会長のデタラメな発想の賜物ですから」
「いつもながら言い方最悪だな……すみません、ツユサ先輩」
「あっはは、何だかんだ言って付き合ってくれるからスズカちゃんもいい子だよ。……そんでさ。わたしとしては今のうちに皆で一矢報いときたいわけよ」
「一矢?」
「そう! フェザーボールのクラフトにも成功したんだし、ここらでクラフト同好会ここにありって、でかいことをズガドーーーンってね!」

 机から飛び上がらん勢いのツユサに対して、残り二人は怪訝な顔をしている。

「会長、具体的には」

 ツユサは不敵に微笑んだ。

「モンスターボールをクラフトする。どんなポケモンでも絶対に捕まえられるボールを」

   〇

 家に帰って、ムネキは自分の部屋で頭を抱えていた。

「おかしいだろ……」

 同好会の存続のために一矢報いたい。まあわかる。
 だからでかいことをやろう。これもわかる。

 なのでどんなポケモンでも絶対に捕まえられるボールを作りましょう??

「でかすぎるだろ、話が」

 無論ムネキはツユサにすぐ突っ込んだ。正確には「話がでかすぎませんか?」と丁重に突っ込んだ。

 でも、ツユサは豪快に笑うばかりだった。

「わたしは言うことがでっかいよー。モンスターボールは人の叡智の結晶、その最高のやつをクラフトするのさ。大丈夫、我々のノウハウと結束を持ってすれば」
「メンバーの三分の二が数ヶ月前に入ったばかりなんですが」
「会長、やりましょう。私達ならやれる気がします」
「しないぞ??」

 何故かスズカまで乗り気になってしまったので、ムネキはそれ以上異論を唱えようがなかった。スズカは高校受験の時、全教科百点満点のところをオール二百点取って合格したと噂されるぐらい頭が良い。それ故の得体の知れなさ、取りつく島のなさをムネキはしばしば感じることがあった。

 ただ、到底まともな考えとは思えない。
 というかこれはクラフト同好会の活動の範疇なのだろうかと、ムネキは大いに疑問だった。

 クラフト同好会の目的というのは、昔行われていたクラフトのレシピを再現することにあるはず。ムネキが同好会に入って数ヶ月、ボールの他にはポケモンの力を高める食べ物や捕獲の時に身を隠す煙幕のようなものなど様々なものをクラフトしてきたが、間違いなく昔のレシピありきで活動してきた。

 でも今回ツユサが言い出したことはそうじゃない。どんなポケモンでも絶対に捕まえられるモンスターボール。ひょっとするとそんなクラフトのレシピもかつては存在したのかもしれないが、少なくともムネキはそんなものを知らないし、それはツユサも同じ様子だった。
 つまり、全く新しいものをクラフトしようというのだ。しかもぶっ飛んだ性能の。ぶっ飛びすぎてフェザーボールから一足飛びという次元ではない。もし、万が一そんなものを本当に作りあげてしまったら、せっかく人の居ない同好会に尋常じゃない数の人が押し寄せて……いや何を考えているんだ。ムネキは首を横に振る。

「もちろんわたしだってそこまで無茶言わないし無謀じゃないって。他のレシピの再現も続けつつ、時間かけてやってくよ。……部室のことはまあ、何とかなるって」

 無茶だし無謀だし何ともならないです。部室でのツユサの言葉をぶんぶんと打ち消す。

 そうしたら不意に寂しさに襲われた。覚えのある寂しさだった。

 それはそう。小学生の頃、おじさんの企みが発覚した時の寂しさと同じ。もう椅子をたくさん作らなくて良くなって、家の屋根は綺麗さっぱり片づけられて、住み着いていたニャルマーも居なくなって。「良かったね」と両親に言われた時の寂しさ。

「……はは」

 やっぱり自分は「そっち側」なんだ。
 ムネキは理解して心を決めた。

   〇

 翌日の放課後から、ムネキ達三人は「どんなポケモンでも絶対に捕まえられるモンスターボールをクラフトしよう計画」について、話し合いをスタートさせた。

「会長、ムネキ君。まずはボールの名前から決めなければいけませんね」
「なんで?」
「さすがスズカちゃん。隙がないねえ」
「そうなの?」
「はい。私は『ポ絶ボール』もしくは『絶ポボール』しか有り得ないと思っていますが」
「どうなの?」

 名前についてはちょっと話が長くなりそうなので一旦保留。時間をかけて取り組むとは言ってもツユサは今年度で卒業してしまうし受験もある。ぼやぼやしているうちに同好会自体が無くなってしまわないとも限らない。
 もうひと月すれば訪れる夏休み。ここをどれだけ上手く活用できるかが計画のカギとなりそうだ。ということで、一同は当面の方針について考えることにした。

「最優先すべきはレシピの確立です。他にありません」
「でないと俺の出る幕がないからね」

 まずはボールの名前からと言った口があまりにしれっと別のことを言い出すので、ムネキは突っ込む気も起きなかった。

「そうだなあ。今までクラフトしたモンスターボールのレシピにヒントがあるかもしれないし。うん、そのへん改めて見直してみるのは大事かもねー」

 ツユサが自分の考えを整理するように、時折目線を宙に向けながら意見を紡いでいく。

「あと、ひとくちにポケモンって言ったって滅茶苦茶いっぱいいるからねえ。全部を絶対に捕まえられるようにと考えると、ボール側だけじゃなくてポケモン側のリサーチも大事だよね。皆で手分けして野生のポケモンをあれこれ捕まえて……」
「嫌です」
「およ。スズカちゃん、どうして?」
「ポケモンが怖いので」
「怖いのかあ」
「はい。小さいの一匹二匹くらいなら大丈夫ですけど、それがギリです」
「ギリかあ」
「それに私、運動関係もクソザコなので」
「クソザコかーあ」

 目の前の会話にムネキが突っ込みたくてうずうずしていると、ツユサはスズカの肩にぽん、と手を置いた。

「じゃ、スズカちゃんにはレシピのヒントになりそうな文献を徹底的にあたってもらお。ムネキくんも作業する側の立場から一緒に見てあげてよ」
「ムネキ君も? ポケモンの捕獲はどうされるんですか?」

 スズカが尋ねると、ツユサはフフンと得意げに胸を張った。

「任せなさい。わたし、経験者なもんで」
「はい?」
「結構がっつりトレーナーやってたってこと」

 ムネキとスズカは思わず目を見合わせた。

 軽く一呼吸して、ツユサは語った。彼女は小学生の頃、しばらく学校を休んでシンオウ各地をめぐっていたことがあったそうだ。イーブイを相棒に連れて、野生のポケモンを捕まえて、育てて、ポケモン勝負をして……いわゆるポケモントレーナーとしての旅をしていたらしい。

「ほら、これ見てよ」

 ツユサが自分のスクールバッグから取り出したのは、マスキッパの描かれたきんちゃく袋。何か球状のものが入っているようだ。

「一度凶暴な野生のポケモンに囲まれちゃってねえ。もう駄目だって思った時に颯爽と現れて助けてくれた人が居たんだ。その人がくれたんだよ、『もしもの時は使いなさい』ってさー」
「会長、この袋の中身は?」
「ひみつ! 肌身離さず持ち歩いてる大切なお守りだよ。あの人、また会えないかなぁ。ああ、会いたいと言えば……」

 堰を切ってしまったツユサの思い出話は日が暮れても延々続き、ムネキが気付いた時にはもうスズカは帰ってしまっていた。

   〇

 ムネキ達はこんな調子のうちに期末テストを迎え、「テストなど『ノー勉』で大丈夫です」と言い放ち部活禁止期間にも関わらず集まろうとするスズカをかわしながらテストを終え、終業式前日に部室を無事追い出され、そのまま夏休みに突入した。
 ムネキのもとに親戚の叔父さんが新しいビジネスを持ちかけてきたり、スズカの家に黒塗りの車が大挙して押し掛けてきたり、ツユサの父親が実の父親でないことが判明しつつも父子の絆は本物だという話になったり、夏休みらしいイベントを各々経験しつつも三人は小まめに連携を取り合い、それぞれ分担した役割をこなしながら計画を進めていった。

 彼らは誰ひとり同好会の外の人間へは計画を口外することはなかったが、もし誰かが話を聞いていたところで誰も本気で相手にはしなかっただろう。幸運を与えると言われるポケモン、トゲチックですらこの計画を聞いたならば「いや無理でしょ」と匙をぶん投げたかもしれない。
 
 しかし匙がぶん投げられることはなかった。それどころかまさにその匙を握る者が、彼らに奇跡とも言える状況をもたらしたのだった。

「いやあ。まさか捕まえたフーディンが全面協力してくれるなんてね。知能指数五千は伊達じゃないよね」
「ポケモンは苦手ですが、彼は元人間だったそうで。実に満足なディスカッションができました。お陰様で、ほら」

 新学期、放課後の体育館裏。スズカがムネキに一冊のノートを手渡す。乱雑な字で様々なクラフトのレシピが書き込まれたそのノートの最後にあったのは、

『ポ絶ボールのレシピ』

 最後のバトンが渡された。

   〇

 が。

「無理っす」
「えー。そこをなんとかしてよ、一応顧問でしょうが」
「無理なものは無理っす。部室すら追い出された同好会が急に予算の上乗せしろって。しかもそんなべらぼうな額、通るワケないっす」

 すげなく手で追い払われ、仕方なく三人は職員室を出た。ムネキとスズカにとっては初めて会う顧問。そして多分もう会うことはないだろうなと、そう感じさせられるファーストインプレッションだった。やたらとジャージが光沢のある緑色で気になった。
 
「なんてことだ、血も涙もない!」
「うーん……スズカ、なにか他の安い素材で代用できたりは……」
「無理です」
「はあ……」

 ツユサとムネキは揃って大きなため息をついた。ボールのレシピは完成し、あとはクラフトするだけ……そう思っていたのだが。

「超高級な素材が三つもねえ……盲点だった。さすがのわたしもあれの代わりは考えつかないよ」

 クラフトに必要な素材は幸いどれも手に入らないことはないものだった。だが不幸にも、そのいくつかは風前の灯火の同好会に与えられた予算で賄えるものではなかったのだ。メンバーのポケットマネーから捻出しようにも、高校生のお小遣いでなんとかなる額とは多少桁が異なっていた。

「あー! なんか逆風が吹き始めたよ。ここから色んな邪魔が入りそうな気がしてきたぞー」
「ククク……ざまあないですね。ツユサさん」

 ぐちゃぐちゃに頭を掻きむしるツユサを嘲笑うように、銀縁眼鏡の痩せた男が現れた。ツユサはその姿見るなりキッと鋭く睨みつける。

「……オミナエ。何の用さ」
「職員室での話、聞いていましたよ。惨めに断られて……ククク、悔しいですねえ」
「お前!」
「ああ、本当に悔しい……歯がゆい。幼馴染というだけの僕には何も力になれず……。ククク、まあ健闘を祈りますからせいぜい頑張ってください……うちの母も『またご飯食べに来てね』と言っていました……」

 オミナエと呼ばれた男はそれだけ言うと、ふらりとした足取りで去って行った。ツユサはその背中が見えなくなるまで、じっと睨んだままだった。

「なんて嫌味なやつ!」
「俺が思うに、言い方以外は何も嫌味じゃなかったですけどね」
「だってさあ……あいつ勉強できるもん」
「会長。それ、私は大丈夫なんでしょうか?」
「ギリ平気」
「ギリですか」
「冗談。なんたってキミらは愛すべき後輩……」

 不意にツユサが言葉を止めて。しばらく考え込む仕草をしたかと思うと、いそいそと肩に掛けたスクールバッグからマスキッパの描かれたきんちゃく袋を取り出した。そうして深く一呼吸。意を決したように、中にあるものを掴み取る。

 それは、赤と白に塗り分けられたボールだった。
 
「モンスターボール……?」
「いいや。これは道具の入ったアイテムボール。そしてその中身は……」

 ツユサの声のトーンが急激に落ちる。

「……特大の、きんのたまだよ。一抱えほどある、ね」

 その瞬間、一切表情は変えないままスズカの顔が真っ赤になった。

「これを売ればお金は足りるだろうね。いや間違いなく足りる」
「!? けどそれはツユサ先輩の思い出の……」
「そうだよ。わたしの命を助けてくれた白馬の王子様……きんのたまおじさんがくれたんだ。そよ風みたいな声で『おじさんのきんのたまだからね』って。掛け替えない、大切な品だよ」
「じゃあ……」
「だからこそ今使うんだ。大切な後輩のためだもん」
「ツユサ先輩……俺は……!」
「いいんだ。これはおじさんのきんのたま。でも今はわたしの……」

 ツユサはカッと目を見開いた。

「わたしの! きんのたまなんだあああああ!!」

 職員室前に轟いた叫びのでかさにムネキが我に返ると、周囲の生徒達の痛い視線とざわめきが一斉に突き刺さってきた。もちろんスズカの姿はもう何処にも無かった。ちなみにきんのたまおじさんの正体はツユサの本当の父親なのだが、それをツユサは知らず、今その話は特に関係ない。

   〇

「出来た!」

 ムネキが声を上げるなり、ツユサは座椅子から身を乗り出し、スズカも一瞬眉をピクリとさせた。
 部室が無いのでクラフト作業は日曜日にムネキの家に集まって行った。何時間にも及ぶ作業ののち出来上がったそれは、今まさにムネキの手にすっぽりと納まっている。

 驚くほど何の変哲もない紫と木目のツートンカラーのモンスターボール。ただそれだけ。だがしかしその何の変哲もなさこそが、「それ」がここにあるという強いリアリティを放っているようでもあった。

「さささ、早速試してみ……みみ、みなきゃ」
「ところで会長、ずっと思っていたのですが」

 気分が高揚しすぎてろくに喋れないツユサに対し、スズカは普段通りの涼しげな視線を投げかける。

「どんなポケモンでも絶対に捕獲できるというのはどうやって証明するんです?」
「え?」
「これだけ苦労をして一つ作って、テストをしたらそれで終わりになってしまうのですが」

 ムネキも虚を突かれたという顔になった。ツユサの捨て身の切り札まで使ってようやく一個完成したボールだ。二個も三個も続けて作る余裕なんてあるはずがない。
 しかしそれでは「絶対に捕まえられる」という証明ができない。今ある一個でポケモンの捕獲に成功したとして、それは何度やっても必ず成功するという証拠にはならないのだ。

「だよね……まあ例えば、伝説や幻のポケモンと呼ばれるような相手に使えば、とても凄いボールだって証明ぐらいは可能かもしれない、けど」
「そんなものに出会える確率など一生に一度あるかどうかですね」
「……うん」
「ええ……じゃあこのボールの凄さ、誰にも分かってもらえないじゃんかー!」

 身体全体でうなだれるツユサ。でもすぐに、勢いよく顔を上げる。

「でも、でもさ! こんなものを作れたのは事実だし! スズカちゃんとムネキくんが居れば今後のクラフト同好会は安泰……」
「私、来年度は居ないですよ?」
「へ?」

 ツユサとムネキの目が点になる。

「来春に家族でアローラへ移ることになりました。親の仕事の都合と、私もそれを手伝うことになったので」

 極めてざっくりとスズカが説明したところによると、彼女の両親はポケモンの生態について調べている研究者らしい。その研究内容について夏休みに悪い人達から難癖を付けられる一悶着があったのだけれど、それをスズカが見事解決したことでそういう運びになったそうだ。

「……それ、今言う?」
「待って待って。ご両親がポケモンの研究をしてるんだったら、上手くすればこのボールの凄さも理解してもらえるんじゃ……!?」

 見えた希望に縋り付くツユサに、スズカは苦虫を噛み潰した表情になった。

「え、嫌です。だってモンスターボールって人のエゴの結晶じゃないですか」
「に゛ゃああああああああああああああああ!!」

 ツユサはとうとう全身の骨を打ち砕かれたかのようにぐんにゃりと崩れ落ちてしまったのだった。

「今言う……?」

   〇

 翌年、二年生になったムネキはクラフト同好会会長の座をツユサから継いだ。
 正直すぐに終わってしまうものと当初ムネキは考えていたが、そうはならなかった。昨年度にツユサが報いようとした一矢は思うようにいかなかったものの、いくつものレシピの復元とその再現に成功した地道な功績はきちんと周囲の耳目に届いていたのだ。お陰で新入生が三人、ムネキと同じ二年生が一人メンバーに加わり、クラフト同好会は一時ムネキが想像しなかった盛り上がりを見せた。

 だがしかしスズカの抜けた穴は大きかった。レシピを見てのクラフト作業はムネキを中心に行えても、古い文献を調べてのレシピの復元はやはり誰にでも出来ることではなかった。頭脳担当としてツユサがフーディンを置いて行ってはくれたのだが、知能指数の高すぎるフーディンの言葉をきちんと理解しやり取りをするのは、そもそもスズカのような器でなければどだい無理だった。そのスズカがアローラへと移る間際に「これを私だと思って」と渡してくれたプレミアボールも、ムネキが後で確認したら中身は空っぽだったのでちょっとよく分からなかった。

 そうして空いた穴を埋めきれないまま再びだんだんと火を失ってゆき、結局クラフト同好会はムネキの卒業をもって解散となった。

「出来ればもっとメンバーを集めて盛り上げてもみたかった」

 解散が決まった時、ムネキは確かにそう思ったのだった。

   〇

 一方、ムネキ達が作りあげた紫と木目のボール。この存在がのちのち外へと知れ渡り、革命的なモンスターボール「マスターボール」の開発へと繋がってゆくのだが、それはまた別のお話である。
覆面作家企画11に参加するつもりで「クラフト」を題材に執筆しましたが ギリギリ締め切りに間に合いませんでした 残念
でもこれが書けたのは間違いなく企画のお陰です ありがとうございます…!

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