虚夢SELECTION
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目覚めた時、ボクは、ポケモン達の世界に居た。
「あ、キミ? 大丈夫!? 怪我とかない……?」
「う、うん……」
これは、ボクはもしかして、ポケモンの世界に転生してしまったのだろうか。
……しかし。この姿は。
………
……
…
このポケモンから世界のあらましを聞く。
この世界に流れ着いた生物は、皆、『何者でもない』のだという。
鏡で自身の姿を見ると、正に平凡だった。何のポケモンだとも、言えなかった。
目つきも、姿形も、声色も、それ程までに特徴がなかった。特徴がない事が特徴とも言えた。
「キミはつまり今、真っ白なマサラ色なの。なんにでもなれる存在。この世界で他のポケモンを見て、関わり合って、その内に何かのポケモンになれるよ」
「そうなんだ……」
ボクの心を、不安が襲った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
それから、いくらか月日が経った。
あのポケモンから、当然といえば当然の疑問を受ける。
「キミ、どこから来たの?」
「……」
「思い出せないの?」
「……うん」
ここに来る以前の記憶がないのだ。
だから、なのだろうか? ボクは未だに、何のポケモンにもなれないでいる。
努力はしてきた。
かくとうポケモンたちと地面を鳴らしたり、ほのおポケモンたちと火を使って料理をしたり、エスパーポケモンたちと超能力の特訓もした。
しかし、何の感情も沸かない。心は空虚に、僕の姿は平凡なままなのだ。
(……なんで、なんだろう)
焦りや劣等感が芽生えてくる……と、言いたいのだが。
(まぁ、いいか……)
そんな現状に、ボクは、安堵していたのだ。
………
……
…
ある時。
「キミ、どうしてここに来たの?」
「どうしてって……。どうしてって……」
「皆、強い思いを持ってここに来るの。理由は人それぞれだけど、『ポケモンになりたい』って……。そう願い続けたら、ここに来れるのよ」
「さぁ……」
思いだしたくもないことだったのだろう。
まるで、思いだせないのだから。
………
……
…
さらに月日が経った……ような気がする。
僕は依然として何者にも慣れていないが、この生活に甘んじて、漠然と過ごしていた。
そんな、ある日。
「う、うぅ……」
「! キ、キミ……大丈夫!?」
あのポケモンが、うずくまっていた。
ーーーーーーーーーー
「ありがとう……」
ポケモンの看病をする。
が、このコの状態は芳しくない。
「ここに来たら、ポケモンの世界に来たら、病気が治るかなーって思ってたけど……。そんなに、甘くなかったみたい……」
「キミ、病気なのか? だけど、あんまり弱気なこと言わない方がいいよ……。ボクだって、この世界に来た時……」
(……来た、時……)
……あ。
…………思い、だした。
《ポケモンになりたい……。ポケモンになって、『この』現実から逃げたいよ……》
《キミ、あんまり弱気なこと言わないで! 男の子なんでしょ!》
あの、励ましてくれたコのことも……。
ーーーーーーーーーー
「ボクは……生まれた時から……」
外に出たことがなかった。ずっとずっと病気がちで、病院のベッドで過ごしていた。
いつからか、隣のベッドに同じ年頃のコが移ってきた。そのコも体は弱かったが、気が強かった。
ある時、そのコにポケモンの人形を貰った。
「アタシの人形あげるから、一緒に、元気になろうね」
その貰った人形だけが、心の拠り所だったんだ。
それで、夢を持った。
いつか、本当のポケモンを持って、元気な体で旅をしたい……って。
そしたらある時、お医者さんに言われたんだ。
「手術をしたら、病気が良くなるかもしれない。外に出られるかもしれないぞ!」って。
「……でも、怖かった」
ポケモンに打ち明ける。
「ボクは……ポケモンになりたいって、ポケモンになって……なんていうか、それだけでよかったんだ。……それだけで……手術が怖かったから、外にも出なくていいやって……」
「……そうだったんだね」
「でも、結局は、この世界でも選択から逃げることはできなかったよ。僕は、怖がりの、ダメなコなんだ……」
「でもさ、ほら、キミの姿を見てごらんよ」
「……? ……あ!」
あの人形の姿に。
ピッピの姿になっていた。
「あなたの大事なお人形の姿でしょ? キミは今、変わったのよ。アタシに打ち明けてくれて……」
「……キミは」
「アタシ、思うの。君には、その手術を受ける権利がある。ポケモントレーナーになるっていう夢もある。だったら、躊躇するのはもったいないよ!」
「……そう……だね。……ありがとう」
「コホッ、ゴホッ……。アタシも、もし、病気が治ったら、したいことがあるの……」
「き、聞かせてよ! キミのしたいことって……?」
「アタシ、○△タウンに住んでるの……。あの町で、アタシは……」
………
……
…
****
目覚めた時、ボクは、現実の世界に居た。
(……夢、だったのか……?)
しかし……。
傍らのピッピ人形が、なくなっていた。
ーーーーーーーーーー
それから、ボクは手術を受けた。
以上が数ヶ月前の話だ。今は車椅子を漕ぎながら、歩くためのリバビリに励んでいる。
そして今日来たのは……○△タウン。
《アタシ、○△タウンに住んでるの》
おそらくあのコは、隣のベッドのコだったんだ。お医者さんに聞くと、病気が良くなったから○△タウンに戻ったのだとか。
(あのコがしたい事……聞く前に、意識が飛んでしまった。あのコは今、どうしているのだろうか)
(……)
(元気でいるのなら、それでいいかな。帰ろう……か)
その時。
「 バ ァ ! ! ! 」
「うわぁ!! オバケ!!?」
「オバケじゃない!!」
いや、目の前に居たのはあのコだった。
どうやら……病気はすっかり良くなったらしい。
「キミに会いたかったんだ! ……これも返したかったし」
「あ、ボクのピッピ人形……やっぱりキミが」
「アタシのポケモンのスリープちゃんを使って、キミとアタシは夢を見てたんだよ! キミにハッパかけて、手術、受けてほしかったから」
「そうだったんだ……」
「ホントに、良くなって……よかった……」
「?」
彼女は、泣いていたようだ。
****
しばらくして。
「ほら、車椅子押したげるからさ! 今からちょっと、冒険に行こうよ!」
「え、うん……。あ、そうだキミさ」
「ん〜?」
「結局、やりたいことって、なんだったの?」
「……フフフ」
「え……???」
「い・ま・!!」
よくわからなかったけど。
パワフルなこのコとなら、どこへでも冒険できそうな気がした。
「あ、キミ? 大丈夫!? 怪我とかない……?」
「う、うん……」
これは、ボクはもしかして、ポケモンの世界に転生してしまったのだろうか。
……しかし。この姿は。
………
……
…
このポケモンから世界のあらましを聞く。
この世界に流れ着いた生物は、皆、『何者でもない』のだという。
鏡で自身の姿を見ると、正に平凡だった。何のポケモンだとも、言えなかった。
目つきも、姿形も、声色も、それ程までに特徴がなかった。特徴がない事が特徴とも言えた。
「キミはつまり今、真っ白なマサラ色なの。なんにでもなれる存在。この世界で他のポケモンを見て、関わり合って、その内に何かのポケモンになれるよ」
「そうなんだ……」
ボクの心を、不安が襲った。
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それから、いくらか月日が経った。
あのポケモンから、当然といえば当然の疑問を受ける。
「キミ、どこから来たの?」
「……」
「思い出せないの?」
「……うん」
ここに来る以前の記憶がないのだ。
だから、なのだろうか? ボクは未だに、何のポケモンにもなれないでいる。
努力はしてきた。
かくとうポケモンたちと地面を鳴らしたり、ほのおポケモンたちと火を使って料理をしたり、エスパーポケモンたちと超能力の特訓もした。
しかし、何の感情も沸かない。心は空虚に、僕の姿は平凡なままなのだ。
(……なんで、なんだろう)
焦りや劣等感が芽生えてくる……と、言いたいのだが。
(まぁ、いいか……)
そんな現状に、ボクは、安堵していたのだ。
………
……
…
ある時。
「キミ、どうしてここに来たの?」
「どうしてって……。どうしてって……」
「皆、強い思いを持ってここに来るの。理由は人それぞれだけど、『ポケモンになりたい』って……。そう願い続けたら、ここに来れるのよ」
「さぁ……」
思いだしたくもないことだったのだろう。
まるで、思いだせないのだから。
………
……
…
さらに月日が経った……ような気がする。
僕は依然として何者にも慣れていないが、この生活に甘んじて、漠然と過ごしていた。
そんな、ある日。
「う、うぅ……」
「! キ、キミ……大丈夫!?」
あのポケモンが、うずくまっていた。
ーーーーーーーーーー
「ありがとう……」
ポケモンの看病をする。
が、このコの状態は芳しくない。
「ここに来たら、ポケモンの世界に来たら、病気が治るかなーって思ってたけど……。そんなに、甘くなかったみたい……」
「キミ、病気なのか? だけど、あんまり弱気なこと言わない方がいいよ……。ボクだって、この世界に来た時……」
(……来た、時……)
……あ。
…………思い、だした。
《ポケモンになりたい……。ポケモンになって、『この』現実から逃げたいよ……》
《キミ、あんまり弱気なこと言わないで! 男の子なんでしょ!》
あの、励ましてくれたコのことも……。
ーーーーーーーーーー
「ボクは……生まれた時から……」
外に出たことがなかった。ずっとずっと病気がちで、病院のベッドで過ごしていた。
いつからか、隣のベッドに同じ年頃のコが移ってきた。そのコも体は弱かったが、気が強かった。
ある時、そのコにポケモンの人形を貰った。
「アタシの人形あげるから、一緒に、元気になろうね」
その貰った人形だけが、心の拠り所だったんだ。
それで、夢を持った。
いつか、本当のポケモンを持って、元気な体で旅をしたい……って。
そしたらある時、お医者さんに言われたんだ。
「手術をしたら、病気が良くなるかもしれない。外に出られるかもしれないぞ!」って。
「……でも、怖かった」
ポケモンに打ち明ける。
「ボクは……ポケモンになりたいって、ポケモンになって……なんていうか、それだけでよかったんだ。……それだけで……手術が怖かったから、外にも出なくていいやって……」
「……そうだったんだね」
「でも、結局は、この世界でも選択から逃げることはできなかったよ。僕は、怖がりの、ダメなコなんだ……」
「でもさ、ほら、キミの姿を見てごらんよ」
「……? ……あ!」
あの人形の姿に。
ピッピの姿になっていた。
「あなたの大事なお人形の姿でしょ? キミは今、変わったのよ。アタシに打ち明けてくれて……」
「……キミは」
「アタシ、思うの。君には、その手術を受ける権利がある。ポケモントレーナーになるっていう夢もある。だったら、躊躇するのはもったいないよ!」
「……そう……だね。……ありがとう」
「コホッ、ゴホッ……。アタシも、もし、病気が治ったら、したいことがあるの……」
「き、聞かせてよ! キミのしたいことって……?」
「アタシ、○△タウンに住んでるの……。あの町で、アタシは……」
………
……
…
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目覚めた時、ボクは、現実の世界に居た。
(……夢、だったのか……?)
しかし……。
傍らのピッピ人形が、なくなっていた。
ーーーーーーーーーー
それから、ボクは手術を受けた。
以上が数ヶ月前の話だ。今は車椅子を漕ぎながら、歩くためのリバビリに励んでいる。
そして今日来たのは……○△タウン。
《アタシ、○△タウンに住んでるの》
おそらくあのコは、隣のベッドのコだったんだ。お医者さんに聞くと、病気が良くなったから○△タウンに戻ったのだとか。
(あのコがしたい事……聞く前に、意識が飛んでしまった。あのコは今、どうしているのだろうか)
(……)
(元気でいるのなら、それでいいかな。帰ろう……か)
その時。
「 バ ァ ! ! ! 」
「うわぁ!! オバケ!!?」
「オバケじゃない!!」
いや、目の前に居たのはあのコだった。
どうやら……病気はすっかり良くなったらしい。
「キミに会いたかったんだ! ……これも返したかったし」
「あ、ボクのピッピ人形……やっぱりキミが」
「アタシのポケモンのスリープちゃんを使って、キミとアタシは夢を見てたんだよ! キミにハッパかけて、手術、受けてほしかったから」
「そうだったんだ……」
「ホントに、良くなって……よかった……」
「?」
彼女は、泣いていたようだ。
****
しばらくして。
「ほら、車椅子押したげるからさ! 今からちょっと、冒険に行こうよ!」
「え、うん……。あ、そうだキミさ」
「ん〜?」
「結局、やりたいことって、なんだったの?」
「……フフフ」
「え……???」
「い・ま・!!」
よくわからなかったけど。
パワフルなこのコとなら、どこへでも冒険できそうな気がした。