ピカチュウのぬいぐるみ

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作者:のむさん
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読了時間目安:6分
突然だが、僕の家にはピカチュウのぬいぐるみがある。
お腹を押すと、「ピッピカチュウ!」と、元気よくお腹を押されたことに抗議してくる、僕の少ない友達の一人だ。
小さい頃も僕はやはり友達が少なく、幼稚園に行くのがどうしても嫌だった。
彼は、母が僕のご機嫌を取るために、ダンボールで送られてきた大親友だ。



それから段々幼稚園に通うようになった。
いじわる子もいたけど、「でもこいつはピカチュウ飼ってないよね」と心の中でマウントを取ることで、少し心が楽になった。

小学生になった僕は、何かピカチュウにお礼がしたくて。
ピカチュウの漫画を書くことにしたのだ。

内容は、「最強最悪宇宙最強」と書いたバンダナを巻いた僕と、1億万ボルトを使える相棒のピカチュウが、サトシをボコボコにする話だった。

俺は書いてる間すごく楽しくって、将来漫画家になろうかな、なんて考えた。



いや、どういうことやねん。
残念ながら、あなた方と同じように、まだ心が未熟なはずのクラスメイト達にも、僕の漫画が異常なことが理解出来てしまった。

死ぬほど笑われたし、そのことを今でも時々友達にもイジられる。
その日以来僕は二度と漫画を書いていない。

それを聞いた後だと意外に思うかもしれないが、僕は成績が飛び抜けて良かった。
地頭の問題ではなく、恐怖の象徴である母親に、毎日勉強しないと怒られたからだ。
小学校でも中学校でも、学内で常に一桁の順位だった。

親は、俺を医者にしたがっていた。

でも勉強があまり好きでなかった僕は、高校になって今度は小説を書きまくった。
漫画はダメだったかもしれないが、コンテストに応募したり、ネットにアップしてウケれば、小説家になれるかもしれない。

頭が良いのか悪いのか、僕には、失敗の原因が絵にあると考えたのだ。

最初は練習がてら、やはりピカチュウの短編を書いた。
今度はバトルなしで、友情をテーマにして、心温まる系の方向で。
ぐちゃぐちゃの文章のままネットに放った。

☆1つの評価を見るまでは、実に楽しかった。



それからもめげずに書き続けた。
運命に抗うために、色んなものを書いた。

推理もの、異世界転生もの、追放もの、悪役令嬢もの、SFもの、恋愛にホラー...もうとにかく書いて書いて、コンテストに応募した。
そして、ことごとく落選した。

僕は応募できるほぼ全てのコンテストを、落選で制覇したとおもう。
僕は、書いた話の、タイトルとあらすじとキャラクターを全て今も覚えている。
そのどれもが面白いと信じて、勉強の合間を縫って、寝る間を惜しんで、何ヶ月も悩んで書いたものだからだ。

だからこそ、落選の二文字を見る度に、途方もなく落ち込んだ。

俺の話は、面白くなかったんだ。

俺には、本当に何の才能も無いんだなあ、と、ピカチュウのぬいぐるみを抱きしめてボロボロに泣いていた。
190cmのガタイのいい兄ちゃんがそうしているのだから、笑い草だ。
大げさじゃなく、生きるのが嫌になった。

小説を書くのに傾倒しすぎて、高校の成績がかなり落ちていたからだ。
後戻りできない、と覚悟を決めて書いた作品ですら、落選していたからだ。
僕はもう、小説を書くのも、学校にいくことすらやめてしまった。



塞ぎ込んで、家に引きこもり、布団で耳を塞ぎ、社会からの叱咤を恐れて震えていた。
僕がいつものように、親が寝静まった深夜に冷蔵庫を漁りに行ったときだった。



リビングのテーブルの上に、なんだか見覚えのあるノートがあった。



バンダナを巻いた僕が、ジャンプでビルを飛び越え、なぜか空中の飛行機にライダーキックをカマして爆破して。
ピカチュウが、なぜかこの世全てのピーマンを憎んでいて、ピーマン農家を襲撃して。
サトシが、なぜか死刑になっていて、かつ牢屋から脱獄した極悪人に闇堕ちしていた。

今読んでみると、笑っちまうような話だけれど、僕は涙が止まらなかった。
僕がゴミ箱に捨てたはずの、あのノートが、そこにあったんだ。
それだけじゃない。
落選して、ぐっちゃぐちゃにして捨てた原稿用紙の全てが、そこにあった。

ページをめくる度に、忘れていたことを思い出した。
小説を書くのも、漫画を書くのも、好きだ。
そして、僕は、一生懸命考えた、自分の話が好きだ。

才能があるとかないとか、面白いとか面白くないとか、最早どうでもよかった。

ファンは一人いればいい。

僕は、また部屋に戻って、ペンを取った。

大親友と、また大冒険に出かけた。















僕は今、小説家としての仕事の合間に、手紙を書いている。
自分が魂を賭けた何かを、誰かに否定され、深い絶望の中にいる君へ。
その絶望は、少し前も見えなくなるくらい暗くて、抜け出せなくなるほど深いことは、理解している。

そんなときには、ピカチュウを飼うんだ。
でも、もし君が動物アレルギーか何かで、ピカチュウを飼えない状況なら、どうかこの手紙を思い出して欲しい。


創作という活動は、何より素敵で、楽しいんだ。

下手っぴでもいい。

また、君の相棒を、冒険に連れて行ってやるんだ。

君の作ったキャラクターたちは、今でも君を待っているんだよ。

今からでも、決して遅くない。決して遅くなんかない。

まだ大した小説家先生ではないけれど、これだけは断言する。

一生懸命に書いたなら、光る何かがそこに必ずある。

創作、しようよ。

もし笑われるのが怖いなら、僕らに任せてくれ!
バンダナを巻いた僕とピカチュウが、君をすぐに助けに行くさ。

「ピッピカチュウ!」

ほら、ピカチュウもそう言ってるだろう?
実体験ではありません。

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