絡んで始まる

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作者:仙桃 朱鷺
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読了時間目安:6分
こちらをじっと観察するような眼差し。目を合わせるとじっと見つめるが、相手が少しでも動くと飛び跳ねて逃げていく。
まだ羽が育っていないので飛べないが、ジャンプ力は抜群。大人の背丈以上のある高い木の枝に飛び上がり、新しい木の芽を好んでついばむ。

図鑑で説明を読んだことがあるポケモンが、木の上に居たので登ってみた。
目が合った。
春だ。芽吹きの時期。好物があちらこちらにあるので楽しんでいたら木の上に人の子が現れた。
目が合った。観察されているようだ。見つめ返すことにする。見つめ続けている。見つめ続けている。見つめ続けている。
昇りかけだった太陽が沈みだすころまで見つめ合っていた。目の前の人の子より小さな人の子が呼ぶ声で絡んでいた視線は解けてしまった。残念に思う。
いつもなら目が逸れてしまったらすぐ退散することにしている。だが、人の子が気に入ったので一緒に行くことにする。
自分が好むオーラでも出しているのか、とても心地の良い人の子の名前はアキラと言った。自分はアキラの仲間になった。

アキラの頭の上。この場所が自分の定置だ。ボールに納まっているよりも居心地がいいので自分のとどまる場所はここだ。とても落ち着く。ここに継続して居続けるために自分は進化をしないことに決めた。
アキラは人に鳥と呼ばれているポケモンに、魅かれる良い気配を出している。旅を始めたアキラの仲間には次々と鳥ポケモンと呼ばれる種族が集まってきた。
オニスズメにヤミカラス。ヒノヤコマとオドリドリだ。途中、空飛ぶ大型のポケモンと何度か接触し、遇ったその鳥たちは皆、アキラに羽を1枚渡して去っていった。
せっかくもらった奇麗な羽根だからと、アキラはそれらを髪に飾った。目立ちすぎる気がするので、自分の力で少々他人から見たときの印象をぼかさせてもらう。
アキラと一緒に過ごすことが大事であるので、注目なんてされなくていい。
あるとき、泥だらけの人に出会った。
作業着姿で砂っぽい。洞窟から少し離れたところにテントを張り、広げた敷物の上に洞窟で採掘したのであろう物を広げている。
その中に、羽のような模様のがあるものが見えた。アキラが気になっていることがわかる。視線をそちらに向けている。
敷物の上に座り込み広げたものを順番に点検していた人が顔をあげ、目が合った。

自分はアキラの頭に乗ったままバトルを観戦した。ヤミカラスVSネイティオだ。
ボールから飛び出して、バトルするための体制をとるまでの動きが遅いな。あのネイティオあまりやる気が無さそうだ。ヤミカラス相手だと相性も悪い。これは勝てるな。
技同士をぶつけ合うのを見ても、うん。ヤミカラスが早い。
アキラはヤミカラスがやる気になっているのを感じてボールを投げたみたいだが、これはこれは。うん。背後に回り込んでふいうち急所。ネイティオが倒れた。
これはヤミカラス不完全燃焼では?後で、挑まれないといいのだが。自分以外の誰かを誘ってくれればいいが。
などと考えていたら枝が入った籠を背負ったメブキジカとトロピウスに木の実などを入れた籠を持っているフライゴンとジャローダが現れた。どうやら、相手の仲間のようだ。
「おっ、ちょうど帰ってきたな。それはそれとしてだ、アンタの勝ちだ。さっきオイラの収集品を見てたんだろ?何が気になったんだ」
「羽が、」
「羽ってーと、これか、はねのカセキ。これを見てたのか。オイラとの勝負に買ったし、良ければ持っていくか?いくつかあるし」
「ありがとう」
アキラは置いてある、はねのカセキを手に取って見ている。人はその間に帰ってきたポケモンたちから物を受け取り、ボールからランクルスを出してエスパー技で枝と木の実を分けていた。手持ちエスパーしか居なかったのか。どっちが出てきていてもこれはヤミカラスの勝ちだな。
人がネイティオの回復を終えたタイミングで、アキラの選択も決まったようだ。
「これを」
「それな、どーぞ。そのカセキなら研究所の持っていけばよみがえらせてくれるとこがあるから、その気があれば持ってけよ。どこでもいいけど、この地方ならネフリティスの紹介だって言えばまたかって顔されるぞ。」
「ネフリティス」
「オイラの名前な。大体ネフトって呼ばれてる。アンタは何て名前だ?」
「ぼくは、 キラ。」
「すまん聞き取りずらい。キラ?」
「アキラ。アキラ、けど、キラ、でいい」
「わかった。アキラのキラな。オイラもネフトでいいぞ。ところでキラ、オイラは石とかを探すのが趣味なんだ。どこかいい採掘場所は知らないか?」
「詳しくない」
「そうか残念だ。何かおすすめの場所とかあるか?」
「ジョウトの、エンジュ」
「ジョウト地方は興味があるけど、まだ行ってないんだよな。行った時は寄らせてもらうわ。エンジュシティに何があるんだ?」
「妹が、店を、やってる」
「身内の宣伝か。なんて店だ?オススメは?」
「ひだまりねこ、炭火焼サンド、モーモーミルクプリン、おちゃ」
「食事ができるところなんだな。ジョウトに行ったら食べに行く。」
「ぜひ」
アキラがこんなにたくさん言葉を出したのは久しぶりだ。基本短くしか話さないから、すぐに会話が終わるのに。気にしないこのネフトという人は凄いな。
いつもは賞金の受け渡しで終了だ。
「キラの視線は強いな。いつもならオイラは作業中にわざわざ手を止めて、だれが見てるかなんて確認しないんだ。用があれば相手は話しかけてくるしな。でも、凄い視線を感じて思わず作業を中断だ。キラは多く話さないけど、その力のある眼差しに訴えかけられる。目は口程に物を言うってこういうことだな。」
アキラがネフトの話から逸らすようにもらったはねのカセキに視線を下げる。目を向けると耳が少々赤い。照れているのか。愛想が悪いなんて声は何度か聞いたが、こんなに朗らかにアキラの有り様を語られると自分は嬉しいな。凄いトレーナーだろうアキラは。
目は口程に物を言う。か、そうだな。
懐かしい、自分とアキラもあの時たくさん話した。ポケモンと人、言語は違えども、自分たちは視線を交わし、あの日あの時確かに語り合っていた。
それが自分とアキラの始まりだ。

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