過去から未来へ、贈り物です。

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作者:草猫
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読了時間目安:10分
※この作品はポケモンレジェンズアルセウスの内容を含みます。 ゲーム本編の物語の後半にあるような根幹に関わるネタバレは存在しませんが、最序盤に関しては自重してません。 未プレイ勢の方はご注意ください。









  「シェイミ、ありがとう、本当にありがとう!!」

 ......感謝の、声がする。 心の芯から響く、暖かい声がする。
 私はこの声を聴くと、目覚めずにはいられない。













 私はシェイミ。 感謝の気持ちに呼応して現れるポケモンである。 それ以外でも、道に迷い困った者がいれば現れることもある。ニンゲンという生き物はポケモンを極度に恐れるようで、基本的にここには大人しか訪れない。 しかし、子供が稀に迷い込み泣き喚くこともある。 赤い目をもつポケモンの闘気を引き寄せるにも関わらず。 だから私は助けるのだ。 子供が原野の真ん中で野垂れ死ぬのを黙って見ることは出来ない。
 

 ......今回は、その私の気紛れで助けられた者が来たようだった。 時間の流れというのは早いものだ。 あんなに小さかった子供が、こんなに成長するだなんて。
 いや待て。 その隣に誰かがいる。
 
 (......2人目?)

 この者も私に感謝を言いに来たのか。 だがしかし、私はこの者から何も思い出すことは出来ない。 感じることとすれば、他の人間と一線を隠す何かがあるかもしれないこと。 そして。

 (あれは......ぼんぐり? いや、ポケモンの気配がする)

 この者は、きっと強者であるということ。
















 予感は当たっていたようで、私はあっけなくこのニンゲンに捕まった。
 力試しとして挑んでみたのが悪かったようで、私の身体はしゅるりとあの黄色と黒の鉄を帯びたぼんぐりに吸い込まれてしまった。 悪い者ではないというのは分かるが、一生の不覚である。
 だが、面白いこともあった。 このぼんぐり(ニンゲン達は「もんすたあぼおる」と言っていた)に入っていると、別のポケモンの会話も漏れて聞こえてくるのだ。 ジュナイパーに、レントラーに、フワライドに......。 他にも色々なポケモンと話した。 ジュナイパーにはエアスラッシュをずっと撃ってきたことに対して文句を言われたけれど、それ以外では別に何の恨言もなかった。 私は実に順調にポケモン達に馴染んでいった。 そして色々このニンゲンの話を聞いていく中で、分かっていったことがあった。
 


 1つ。 このニンゲン、この世界に故郷を持たないらしい。
 他のニンゲンから空から落ちてきた面白い奴と言われ、苦笑いをしているのをよくボールの中から聞くものだ。 天才と呼ばれ周りからは持て囃されている。 彼らにとってこのニンゲンは天から現れた救世主とも言うべきだろうか。 そしてこのニンゲンは生来のお人好しなのか、よく村の者の悩みに応じて答えている。 そして意図せずとも、ニンゲン達からポケモンへの恐怖心を拭い取っているのだ。 いつも何かしらで感謝され、期待されている。

 2つ。 このニンゲンはポケモンを一切恐れないらしい。 確かにあの時、お礼を言いに来たニンゲンは私をまた見ることができた衝撃でとても震えていたが、このニンゲンは違った。 驚いた表情は見せど、未知の存在に恐れ慄かない。 寧ろ、心を昂らせているように見えた。 だからなのだろう。 そのニンゲンに対して、ポケモン達が好感を抱くのは。 赤い目を持っていたであろう巨大なポケモンですら、ポケモン捌きに対し称賛の念を抱いている。 その者は、ポケモン達からも感謝され、慕われている。

 要するに、このニンゲンの周りには多くの感謝が溢れている。 こういうニンゲンに捕まるというのも、また運命なのだろう。
 けれども、1つ私の中には疑問があった。


 ──このニンゲンは、喜びの顔より困り顔を浮かべることが多いように思う。













 ある日のことだ。 私達は何日かを他の土地のベースキャンプで過ごしたのち、やっとのことでこのニンゲンの拠点である宿舎へと帰ってきた。 起こったことといえばそれはもう散々。 時空の歪みとやらに巻き込まれ多くのポケモンに襲われるわ、赤い目のポケモンに多く怯まされるわ。 私もそれの被害を受け、2回程瀕死へ追い込まれた。 私はあまり戦いに向かないと言うのを分かっているのか、ニンゲンはそこまで私を繰り出すことがなかった。 それなのに引き摺り出されて傷を負わなければならないという状況なのだった。

 幸い大事はないものの、その「ぽおち」とやらに入っている回復道具は瞬く間に消えていったし、このニンゲン自体も傷や疲れがない訳ではない。 ニンゲンはふらふらと布団に向かって歩き倒れ込む。 落ち着いたのか息を吐く音が聞こえるが、やはり少し心配になる。 仕方ない。 私は元々こういう者なのだ。 ぼんぐり......ではなかった、もんすたあぼおるからの一時的な脱出を図る。しばらく格闘した上に、ポンと音を立て外に出ることができた。 倒れたニンゲンの元に駆け寄る。

 「......シェイミ......」

 ニンゲンの顔を見るに、半分夢心地といったところだろうか。 擦り傷が目立つ手に額をつける。 私は癒しの波動のような回復技を持たぬゆえ、こういうことしかできないのが悔しく思うが。
 するとだ。

 (......! お前たち、なぜ......?)

 続々と、他の手持ちのポケモン達もボールから抜け出す。 勿論このポケモン達もニンゲンを直接助けることができない。 相手を回復させる技を持つなど、1つの油断が命取りになる村の外では出来っこないことだから。 だが、それぞれ工夫を凝らしニンゲンのことを癒そうとする。 はねやすめで出た羽根を撒いてみたり、肉球でマッサージをしてみたり、はたまたさっさと寝られるように催眠術をかけようとしたり。 ニンゲンはぼーっとした顔でこちらを見つめる。 その頬には一筋の涙が伝った。
 ぎょっとした私とポケモン達はその涙を見つめる。 ニンゲンは急にはっと驚き、腕でそれを拭おうとする。 けれども、それは止まらなくて。 ずっとボロボロ、溢れ続けて。

 「あれ......待って、止まらないな......はは......なんでかな......嬉しいのに、なんでかなぁ......」

 何かの我慢が切れたのか、ニンゲンの目から涙は出続ける。 ......ニンゲンと最初に相棒になったというジュナイパーから話を聞くと、どうやらこのニンゲンは様々な受難を背負ったらしい。 荒ぶるポケモンを鎮める希望とされた。 ポケモン図鑑を完成させる使命を背負った。 背負わなければ、生きていけなかった。 この広大な地方で野垂れ死ぬばかりだった。
 このニンゲンに向けられる感謝や期待は、これからも今日のような苦難を追うことを強いるものでもある。 だからなのかもしれないと、私は理解した。 このニンゲンは、感謝を受けたところで、張り詰めた気持ちをほぐすなんてことは出来なかった。 寧ろより気合を入れねばならなかった。 失望されないように。
 ......なんと等身大で、小さい生き物なことだろう。
 私は寄り添った。 ずっとそうだった。 迷子を助けるのにも、まずは安心させてやる必要がある。 だから、その手段として私は寄り添うのだ。 もっとも、私がやらずとも、他のポケモンもそうしているのだけれど。 早く寝ろと、ピィと私は鳴き声を発した。

 「......ありがとう」

 優しい、たった1つの感謝。
 急に力の抜けた身体の側で、私も少し眠りにつく。 フワライドは起きているらしいから、もしもの時も大丈夫だろう。
 今くらいは、このニンゲンにとって安心出来る時であって欲しい。 そう願ってやまなかった。









 翌朝。 ニンゲンは昨日のぐったりした姿が嘘のように、畑の確認や「くらふと」、そして依頼に勤しんだ。 違いといえば、商人から長い時間悩んだ末に色々な食材を買ったことくらいか。
 何をするのだ、昨日あんなに辛そうだったくせに......と思っていると、急にぼおるから引き摺り出される。 私だけじゃない。 他のポケモンも全員だ。

 (何だ......?)
 「みんな、昨日はごめんね」

 そのニンゲンは、昨日と似た優しい顔でこちらに語りかける。 突然のことにぽかんとしていると、目の前に何かが置かれる。 きらきらミツ。 私がよく食べていた、思い出の味だ。 他の者も、各々喜びながら食べ物を受け取っている。

 「助けられちゃったから、これはお礼。 美味しく食べて、明日からもまた頑張ろう。 ......自分も、頑張るから!」

 そのニンゲンは気合充分な表情を見せてくる。 また突っ込み過ぎて怪我しても知らんぞと思いながら、私はそのミツを吸う。 ......懐かしく、優しい甘味。 そして、どこかいつもと違う暖かみもあった。








 
 

 
 

 

 

  
 はてさて、あれからどれだけ時間が経ったろうか。
 お互いへの感謝に満ちた日々は、長いようで短くて。 でも楽しくて。
 この故郷に帰るのが、もの寂しいくらいに。

 (......感謝、か......)

 私は感謝ポケモン。 周りへと感謝を運ぶポケモン。 その長い長い生の中で、誰かに感謝の意味を伝える者。
 暫くは、私を愛したあの者に、共に歩んだポケモンに、感謝の思いを抱いていたい。 この美しい花畑のもとで。









 
 ポケモンとニンゲンは、互いに助け合ってきた。 互いにモノを、心を贈りあってきた。
 
 ──私は思う。 きっと、変わることはないのだろうと。 今も昔も、ずっと、ずっと。
 例え彼らが、この身が、朽ち果てたとしても。
 そしてこの話は、きっと1つの例に過ぎぬ。 あのニンゲンが繋いだニンゲンとポケモンの縁は無限に広がっていき、それぞれのかたちを成していく。

 その事実は、2つの種族が共存する恵まれた世界からの贈り物。 過去から未来へ受け継がれていく、終わりのない物語。
 



 
 そして、海割れの道の向こう側で。 花弁の舞う虹色の世界で。
 
 
 「......ピュイ?」
 「っ! 見たことない子......ねぇ、君」
 「ピュ......?」
 「君、なんていうの?」
 
 もう1つの命との出会いが、いつかきっと起こるのだろう。








 



 どうも、草猫です。 大分久々の短編となりましたが、この作品については軽く語りたいことがあるのでよければお付き合いください。
 さて、創作活動を再開していく上で、やはり1番最初に浮かぶのって処女作なんですよね。( 私は思い出だし残していたいけどもう直視はできないなーとなっていますが)
 その処女作で中心になったのがシェイミなんです。 だったら、短編復帰作で触れるのはシェイミしかないであろう......という結論に達しました。 アルセウスもまだ発売からそこまで経っていない訳ですから読者絞られるなとは思ったのですが、やはりここは書きたかったのです。(結構短めなのは処女作リスペクトだと思ってください)
 あと処女作がポケダンだったので、ここは本編系列で......というのも考えたりしました。
 感謝って、やっぱり大事です。 ほんの些細なものでいいんです。 それが大きな支えにもなるから。 創作を続けられることであったり、色々なことに対する感謝だけは忘れずに生きてゆきたいものです。
 長くなりましたが以上になります。 ここまでお読み頂いた方、ありがとうございました。

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