迷子ちびーず とことこナギサ珍道中

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読了時間目安:21分
スヤピーヌさんの「吹雪が嗤う」とコラボしました!
フキちゃんとリリーちゃんとユキハミちゃんをナギサにお招きしました。投稿はこちらですが、文章はスヤピさんと一緒に作りました。ありがとうございます!
 ラチナ地方、港街ナギサタウン。
 新しくやって来たジムリーダー主導によって古い水路が整備され、近年発展を遂げている街だ。今日は特に賑わっており、水路側の商店街はいつにない盛況ぶりを見せている。この街の住人ではなさそうな、街を歩き慣れていない観光客も多い。
 例えば、両手いっぱいに串焼き物を掴んだ女性客などだ。

「フキちゃん、いつまで食べ続けてるのさ、そんなに沢山の魚串」
「せっかくの祭りなんだから、楽しまなきゃ損ってもんだぜ。それにだ、一つの屋台から五本しか買ってねえんだ、盛り上がる前に店仕舞いなんて事にもなってないし安心しろ」
「いやそれでも結構並んでたよね屋台! もしかして全部のお店から五つ買ってるの!?」
「いや、甘いものはそんな食ってないぜリリー」

 やいのやいのと言い争いながら歩く二人の少女。一人は背丈が大の男と変わらない、水色の髪の少女フキ。頭の上には白い餅のようなポケモン――ユキハミを乗っけている。
 隣に居並ぶのは身長が130cmほどの子供。秋麦畑のような金色髪の女の子がリリーと呼ばれていた。
 側から見ればガラの悪そうなフキの方が年上だが、げに恐ろしきは生命の悪戯で、小さい女の子の方がなんと年上の二十歳超えだった。

「まったく、私が仕事でこの街に来てること忘れないでよ? “護衛”のフキちゃん」
「へーへー、委員長様の身柄はしっかり守らせて頂きますよ。んで、何の仕事できたんだっけ」
「忘れないでよもう、この街で開かれる水上レース、その来賓に招かれたの。それもなんと特等席!」

 彼女ら二人がやってきた目的は、ナギサタウンで開催されるこの町目玉のお祭り騒ぎ。
 そう、『ナギサ水上スキー大会』である。
 この町がモデルにした水の都アルトマーレと同じく、葉脈のように広がる水路を活かして、水上最速を決める大会だ。
 アルトマーレと違うのは、ここが古都ではない事を利用し、大きく緩いカーブと幅広の運河で、ポケモン・騎手同士の激しいぶつかり合いが見れる点。
 技のアルトマーレ、力のナギサと言われるように、大会の見所は大きく異なっていた。

「にしても、よくお前みたいなチンチクリンが呼ばれたよな。もっと厳しいオッサンとか呼ぶもんじゃねえの?」
「おんなじ新興の街のよしみじゃない? あとナギサはヌクレアの品質が良い硅砂が欲しい、ウチは海産加工食品が欲しいっていう下心もあるだろうけどね」
「確かにうちは内陸気味だもんな。それにしてもリリーお前、そんなこと喋ってると賢く見えるな」
「これでもリーグの委員長ですっ!」

 ぷんすこ、と擬音が見えて来そうな程に頬を膨らませ、背の高いフキを見上げる姿は子供そのものだった。
 齢よわい21でのリーグ委員長就任、それには並々ならぬ努力が隠されているのもまた事実。
 麗らかな朝の日差しと陽気なブラスバンドの音色を背負い、少女らはギャイギャイと言い合いながら、大会の会場を目指す。そんな道中、建物の影からコロコロとこの街の名物たちが現れた。

「たまっ!」
「たんまっ!」
「たーまっ!」
「たまたまたまたま……」

 町の美味しそうな匂いに釣られたのか、建物の影から三匹の野良タマザラシが姿を現す。町の中でもご当地アイドルのような扱いを受けており、密かなる人気を博している存在だ。
 彼らはフキが持つ魚の串をキラキラと曇りのなき眼差しで見つめ、じゅるりと涎を垂らした。

「あ? 人様の飯が食いてえたぁ太え奴らだな。町のアイドルを養うのも楽じゃないってか?」
「はみーっ! はみっ! はみっ!」
「たまたまたまたま……」

 そんなタマザラシ達を威嚇するのはフキの頭上に置かれたユキハミ。主人の取り分は自身の取り分。腹ペコはみ虫は、食事がポッと出のまん丸たちに奪われる訳にはいかないのである。
 祭りの路地の一角でタマとハミは互いに威嚇しあい、フキは面倒くさそうに頭をポリポリと掻いた。

「まったく……ハミちゃんも誰に似たんだか」
「さぁな。元からこんな感じのひっつき虫じゃなかったか?」
「はいはい。タマザラシくん、君たちのご飯はボクが買ってあげるよ。おじさーん、お魚の串三つくださーい」
「まいどー!」
「たまたまたまたま……」

 リリーは手近な店の魚串をタマザラシの個体分買うと、ぎゅぐるおっ、とお腹を鳴らすタマザラシ達のもとへすぐに帰っていく。
 流石のリリーも屈んで魚串をタマザラシ達に差し出すと、三匹はガツガツと各々が串をペロリとすぐに平らげた。
 負けじとユキハミもフキの串を、主人の目を盗んでがっついていく。

「んでもおかしいな……商店街の婆さんに聞いた話だと、タマザラシは四匹だって話だが……、ああいいか」
「おーいフキちゃん、そんなところで顰めっ面してないでこっち来なよ! 水路のポケモン達凄いよ!」
「元からこういう顔だバカ」
「たまたまたまたま……」


 リリーは少しはしゃいだ様子で手招きすると、そこは町のコースの中でも見どころの一つである、大きく緩やかなカーブの部分。
 川縁まで身を乗り出したリリーは、レース前の調子合わせを行なっているポケモン達を見て目を輝かせていた。

「おーい、そんなに身を乗り出したら危ねえぞー」
「あははっ、そんな本当の子供じゃあるまいし、落っこちる訳ないじゃん!」
「たまたまたまたま……たまっ!」

 まさにそのとき。どんっ、とリリーの薄いお尻に柔らかい球体が衝突する。
 それは、小さなタマザラシ。この町のタマザラシ四人衆の、最後の一匹だった。お寝坊さんなこのタマザラシは仲間を追いかけ、そして遠目に他三人が魚串を貰うのを目撃。
 自身も魚串をもらうべく、リリーを今度は追跡し、そして今、ここでぶつかった。
 あとはまるでピタゴラ装置のようにリリーが前のめりに倒れ、向かう先は川の水面。

「っあのチビ言わんこっちゃない! おいリリー!」

 それを見たフキはすぐさま駆け出し手を伸ばす。もちろんリリーも手を伸ばすが、現実は非情なり。ナギサの水路の時期が悪かった。

「ラァァァァアアアァァァァ!!!」
「へぶっ!?」

 非常に張りのあるソプラノの高音。歌いながら爆走するアシレーヌにぶつかり、そのまま川の向こうへ攫われていく。
 咄嗟にフキが掴んだのは、リリーのモンスターボール。事態はより悪化した。
 フキは走れば間に合う、そう思ったが、やはり今日は祭りの日。多くの観光客がいる中では、その人たちを巻き込んでしまう可能性があるため、その恵まれすぎた身体能力を活かせない。

「あぁもう! ユキハミ! お前もさっき盗み食いした魚串分の仕事はしてもらうからな!」
「はみっ!?」

 フキは素早くユキハミをむんずと掴むと、町の建物の外壁を駆ける。町の住居の壁面を斜めに駆け上がり、3階相当の高さまで辿り着くと、ユキハミをリリー目掛けて投げつけた。

「はみみーっ!?」
「なんかあったらお前が守ってやれよっ!」

 見事なまでの偏差投球。しっかりリリーの顔面にもちぃっ、とユキハミが辿り着くのを見届けて、フキは地面へと引っ張られ始めた。



はみみ!



 あと1時間ほどで開会式が始まる。町中が祭りの気分に沸き立っており、立ち並ぶ露店で足を止める人も多い。祭りの本番に向けて人々の期待感が徐々に膨れ上がってきているのをリクは肌で感じていた。主要水路が大会により使えないため、観光客も含めて水路脇の道は人でいっぱいだ。

「うぐ……通せ……通して……ぷはっ!」
「たまま!」

 大きな人の波から逃れ、小さな橋の上で息をついた。遅れてタマザラシが転がりついてくる。彼女にとってナギサは故郷だけあって迷うこともなく、人混みも慣れたものだ。

「たま! たまま!」
「落ちるぞ」
「たまー」

 タマザラシが橋の端まで転がり、水路を覗き込む。抱き上げると、べべべべっ! と小さな手足で抵抗された。

「いてぇ!」
「たまっ!」

 ぴょいと手から逃れ、再び端まで転がっていく。先ほどと同じ場所までたどり着くと、ちょっと覗き込んだだけで反対側へと転がっていった。足下をくぐり抜けるタマザラシに通行人がひっくり返りそうになっている。何かを追いかけるような動作に不思議に思い、リクは並んで橋の下を覗いた。
 金色の髪が水路に広がっている。緩い水の流れに従い小柄な女の子が流れていく。その頭部にはユキハミが涙目で掴まっている。
 そのまま見送りそうになったが水路にタマザラシが飛び込んだ直後、リクも反射的に追いかけた。
 水柱が二本あがり、見ていた通行人によって子供二人+αが引き上げられた。通行人や露店の大人達が世話を焼き、ようやく人心地ついたリリーがお茶を啜る。

「うう……まったく酷い目にあった。ああ、ありがとう」
「はみょ……」

 膝にはユキハミが乗っておりポフィンを囓っている。リクも同じくお茶をもらい、冷えた体を擦っていた。二人とも服が水浸しになってしまったので近所の世話好きな人が貸してくれた子供服を着ている。サイズがあっておらずぶかぶかだが着れないこともない。そのままここで保護者を待てと提案されたが、リリーは首を横に振った。

「逆だよ。フキちゃ……くんの方を早く見つけないと何をしでかすか……ぺくちっ!」
「大丈夫かよ。顔真っ青だぞ」
「これはフキくんが暴れないか心配で青くなってるんだ。君もありがとう、助かった」

 リリーはリクよりも小さかったが、言葉には有無を言わさぬ何かがあった。心配する大人達を置いて、毛布を返して立ち上がる。リクがタマザラシと一緒に追いかけ、小さな背中を叩いた。

「お前の探してる奴ってどんなん?」
「一緒に探してくれるのかい?」
「はみ?」
「一人よりも二人の方が心強いだろ」
「たまー!」

 タマザラシが飛び跳ねた。リリーが目を瞬き、形の良い小さな唇が弧を描く。ユキハミも頭上でもちもちと同意した。

「はみんみ!」
「ありがとう! そう言ってくれると助かるよ! 主に体力的な意味でね……」



たまま!



 道すがら、リリーが連れの特徴を説明した。
 露出の高い和服を着た身長170㎝を超える女。水色の瞳をしており、同色の髪に白いメッシュが入っている。
 なお目つきが悪く口も悪く手も早く、でかい刀を軽々と振り回す。

「そんだけ目立つ特徴があるならすぐ見つかるだろ」
「と、思うんだけどね。これが意外に見つからないんだな。すぐに地元の人に馴染んじゃうから」

 ぽりぽりと二人で紅ショウガを囓りながら歩く。抱えられているユキハミとタマザラシは口の端に青のりがついている。紅ショウガは苦手らしい。

「そこの僕ちゃん、お嬢ちゃん」

 露店からの呼び声に振り向くと、スキンヘッドのおっさんが手招きしていた。店先には綿飴がぎっしり吊されており、どれも可愛いポケモンがプリントされている。可愛らしい店に厳つい店主という甘辛ミックスな露店である。おっさんは綿飴を一つ手に取り、ぽんぽんと軽さを強調するように叩いた。

「綿飴はどうだい。チルタリスの羽根より軽くて柔らかくて甘いよ。何食べてるのか分かんないけど綿飴も美味し……いやホントに何食べてんの君たち」
「焼きそばの赤い奴」「紅ショウガだね」

 リクとリリーが同時に答えた。
 おっさんは真顔になると、そっと綿飴を二袋手にとった。アローラキュウコンとハハコモリがそれぞれプリントされている。眉を八の字下げて悲しい瞳で綿飴を差し出す。

「甘くて、柔らかいよ……」

 財布も流されたリリーの代わりに、リクがタマザラシを下ろして財布を引っ張り出した。焼きそば(5秒で二匹の腹に収まった)に焼きトウモロコシ(ユキハミがまるっと頬張り、芯も食べようとしてたので取り上げた)にポケモン飴細工(タマザラシを模った飴をタマザラシがかみ砕いた)に……そろそろお小遣いが厳しい気配がする。難しい顔で唸るリクに、おっさんが首を横に振った。

「いいよ、お代は」
「でも」
「良いんだ……」
「リクくん、好意は素直に受け取るものだよ。ありがたく頂戴しておこう」

 リリーが二つ受け取ってお礼を告げ、ハハコモリのプリントされた綿飴を差し出した。リクは財布をポケットにしまい、ありがとう、とおっさんに礼を言う。おっさんは目頭を押さえると、ついでと言わんばかりに二枚のチケットも差し出した。「これは?」リリーが尋ねるとおっさんが説明した。友人も露店を出しており、そこのタダ券だと。リクが視線で「どうする?」とリリーに問いかける。リリーは顎に手を当てて思案し、チケットを受け取った。リクへウインクする。

「言ったでしょ。好意は素直に受け取るものだって」



はみみ!



「どうせフキくんがどこにいるかも分からないんだ。ちょっと道草したってバレないし、バチも当たらない。……んぅ~! 甘くて美味しい!」

 リリーは千切った綿菓子を口に放り込み、幸せそうに解ける甘さを味わった。水路の端で足をぶらつかせる。その隣ではユキハミが綿菓子をもちもちと食べている。タマザラシは綿飴の袋に顔を突っ込み、リクは更にその隣で水路を見下ろしていた。
 ナギサの水路には古い行き止まりのものもある。その一つを利用し、仕切った水路には大量のシビシラスが泳ぎ回っていた。子供から大人まで特性の網を持った参加者達がシビシラス掬いに興じている。
「あっちあっち!」「あ゛ー!」「網が破れた!」「こわいこわいこわい!」「青いシビシラスが! ほんとに見たんだってー!」
 店主はタイムウォッチを片手に笑っている。制限時間内に規定の数量以上のシビシラスを捕獲すると豪華景品が出るのだ。逆に一度も捕まらなかったシビシラスにはポフィンが配られる。数十匹のシビシラスは店主の手持ちだ。タダ券のシビシラス掬いが予想よりアグレッシブだったので、二人は観戦に留めている。

「デスクに張りつけって、親に宿題出されてんの?」
「仕事だよ、悲しいことにね」
「ふーん。大変だな」

 自分よりずっと年下に見える少女の口から〝仕事〟という言葉が出ることに、リクは現実感がなかった。それよりもシビシラス掬いに湧いている水路の方がよほど現実味がある。タマザラシが綿菓子の袋から顔を出し、うずうずと体を左右に振っていた。

「オレもシビシラス掬いしてくる!」
「たまっ!」
「あっ待ちたまえ!」

 タマザラシとリク、二つ水柱があがった。ばしゃばしゃと借りた服を水浸しにして店主へ駆け寄っていくリクを見て、リリーは伸ばした手を下げた。

「ったく。やれやれ……まぁ、タダ券も使わないともったいないしね」
「はみょ」
「それにしても、フキちゃんは本当にどこにいるのやら」

 タマザラシの残して行った袋は食べかけだ。リクとタマザラシは網を片手にシビシラスを追いかけている。リリーは肩を竦めると袋の口を縛り、自身の袋から綿飴を千切ってユキハミに与えた。
 不意に、水路の客がにわかに騒ぎ出した。
「シビシラスが進化したぞー!」「ぎゃー!」「逃げろ!」「だから本当に青い奴がいたんだって!」「格好いいぜー!」「シビビールはアタシが掬うわ!」「馬鹿逃げろ!」
 リリーが振り向くと水路の中で真っ黒なフォルムのシビビールが暴れ泳いでいた。シビビールは突然体の大きさが変化したことに驚いているようで、慣れない違和感に混乱している。リリーはこんな時にミミロップがいれば、と歯噛みする。自身を助けようとしたフキにも文句は言えず、やり場のない無力感が木霊した。

「ああもうっこんなときにフキちゃんがいれば……っ!」
『ピンポンパンポーン。迷子のお知らせです』
「は?」

 わーぎゃーとシビビールにシビシラスにどっから紛れ込んだか分からないヨワシを混ぜた騒ぎの中、突然の放送を聞いていたのはリリーだけだった。

『ヌクレア地方ウラヌシティよりお越しの、リリぴがーがガガッ! ちょっとフキさんちょい待ちってリリー! リリーちゃん委員長どこいんだよ! 探してんだぞっ! だから分かったってバカヤローまじで見つかんねーしだからこっちも探してんだってあーもー最終手段だけど仕方ない! みんな! 金髪に金の目のちまい女の子を全員本部まで連れてきて! ホンモノ連れてきた子にはナギサ名物パイをプレゼントッ! はいはいフキさん大人しく待ってねこら暴れない――』

 ぶつっ。
 放送が終わると、その場はしんと静まり返っていた。リリーの背筋に悪寒が走る。先ほどまで暴れ回っていたシビビールやシビシラス、ヨワシに客達までもがリリーをじっと見つめていた。表の水路からわーとかぎゃーとかうちの子がー! とか悲鳴が聞こえてくる。
 リリーは立ち上がり、ユキハミを抱いて後ずさり始めた。

「いやぁ……ボクは……はは……リ、リクっ! ユキハミにタマちゃん! 逃げるぞ!」
「リリー!」
「たまー!」

 シビシラス達がリリーのいる際へ殺到した。ビチビチビチとシビシラスの上にシビシラスが乗り上げシビビールが踊りくねりながら迫ってくる。リリーを追いかけようとしたリクとタマザラシがシビシラスの群れにひかれた。
 リク達の無事を半泣きで願いつつリリーはユキハミと駆け出した。主要水路との接続面に差し掛かった刹那、水面から飛び出したフローゼルがリリーを掻っ攫う。「うわっ!?」視界が傾き水中へと引き込まれ、フローゼルに引きずられる視界に並走する水ポケモン達が映り込む。戦利品を横取りしようとメノクラゲが触手を伸ばし、弾いたフローゼルの隙をついてゴルダックが滑り込む。岩に衝突。前方不注意のゴルダックを尻目にトドグラーがリリーを攫う。
 そんなこんなで争奪戦が繰り広げられる中、リリーとユキハミは呼吸困難で意識を手放した。



たまま!



 リクとタマザラシが荒れ狂う水ポケモン達から逃れ、本部にヘロヘロでたどり着いたのは、昼過ぎのことだった。水浸しになった服はとっくに乾いている。
 大会本部はゴールと一緒に港にある。大会本部と書かれた大きなテントの下に金髪の後ろ姿を発見した。

「リ……リリー……」
「……リク? 無事だったのか!?」
「死んだみたいに言うなよ……」

 がっくりとリクが倒れそうになった。タマザラシがユキハミのところまで転がっていき、誰かの足にぶつかった。
 ユキハミは誰かの頭に乗っかっていた。

「たま? たままー……たまっ!」

 タマザラシは見上げたが、見上げすぎてひっくり返ってしまった。タマザラシがひょい持ち上げられ、身の丈170㎝越えの水色の瞳がリクとタマザラシ、両方を睥睨する。

「ユキハミにリリーちゃん委員長よォ、知り合いか?」
「うわッ目つき悪!」
「おう喧嘩なら買うぞコラ」

 柄の悪い大女にリクはリリーを背中に庇って身構えた。タマザラシは小さい手足をばたばたさせている。全身の毛を逆立てつつ、ちょっと無理勝てないかもと退け腰気味のリクをリリーがつついた。

「あーコホン。リクくん。紹介が遅れたが、彼女はフキ。話していたボクの連れだよ。そしてフキちゃ……くん。こちらリクくん。迷子の君を探す手伝いをしてもらっていた」
「過去を改竄するんじゃねぇ! 迷子はテメエだこのどチビ!」
「ほにゃああああああああ」

 フキが頭をぐりぐりとすると、リリーはうめき声をあげた。騒ぎを聞きつけた主催兼ナギサジムリーダーのホトリが、テントの奥から顔を出した。

「やっリク君。楽しんでるかい? ゲストのリリーちゃんとどこで知り合ったの?」
「ゲスト?」
「そうそう。ヌクレア地方リーグ委員長のリリーちゃん」
「委員長?」

 リクの目がすすーっとホトリからリリーへ移動する。どう見ても、どうひいき目に見ても、8歳か9歳くらいにしか見えない。ホトリは混乱するリクに追加情報を伝えた。

「こう見えて御年21歳。妙齢の女性だよ青少年」

 彼らがそんな話をしている内に、大会は十分な盛り上がりを見せた。結局リクは大会の表彰式まで本部で見届け、女性三人の歓談に加わった。
 リリーたちは明日にはヌクレア地方に帰るらしい。リクがホウエン地方出身だと聞くと「どうしてこの地方に?」とリリーが尋ねた。

「どうしてって……あれ、どうしてだっけ」

 思い出せない。フキが呆れた様子で言った。

「おいおい、ボケるにゃまだ早いぜ。見たとこ観光じゃねぇか?」
「うーん……うん。そうだった気がする」
「だろ。やっぱボケてんだよ」
 ポンポンとフキがリクの頭を叩いた。リクの足下からタマザラシが見上げ、「たまっ!」となでなでを要求する。羨ましくなったらしい。

「飯はやらねーぞ」
「たま?」

 通じなかったようだ。
スヤピーヌさんの「吹雪が嗤う」は毎週日曜更新です。フキさんとリリーちゃん以外にも、ウユリさんや女装少年のシナノくんが登場するスタイリッシュやくざアクション(スヤピさん談)です。オススメです(・ω・*)

スヤピーヌさんから一言
「はみみ(ありがとうございました)」

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