取り残された者の戦い 〜ライボルトの憂鬱〜
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分
バトル書き合い大会という企画用に書いていた8つの短編のうちの一つです。
ポケスク初心者ゆえ、不慣れな部分はありますが、ご容赦ください。
ポケスク初心者ゆえ、不慣れな部分はありますが、ご容赦ください。
「本当にごめん。みんな、自由に生きて……」
そう言い残して、ご主人様は死んだ。
その言葉は、僕たちにとって、まさに呪いだった。
僕らはご主人様の命により、伝説のポケモン『ファイヤー』と戦った。全ては、かの伝説の火の鳥を捕獲し、新たな仲間として迎え入れるためだ。
だけれど、ファイヤーの眼中に僕らはいなかった。奴はあろうことか、僕たちの猛攻を軽くいなすと、ご主人様に攻撃を加えたのである。
ご主人様が炎に包まれていく姿を、僕らはただ見ていることしかできなかった。絶望ばかりが心を染めていく光景だった。
取り残された僕たちは、ただ呆然と立ち尽くす。僕はボロボロと涙をこぼし続けた。
ご主人様はもういないのか。僕たちはこれからどうしたらいいのか。完結しない思考がぐるぐると渦を描く。
ファイヤーはそんな僕たちを一瞥 した後、ボソリと一言、「また罪を繰り返すのか……」と呟いて去った。あの言葉にはどんな意味があったのか。今となっては知る由もない。
しばらくの間、パーティ内で言葉が交わされることはなかった。やがて、仲間のジュナイパーとヌオー、そしてキュウコンが無言で立ち去っていった。僕は声を上げようとした。駄目だ、みんなの心がバラバラに散ってしまう。止めないと。この嫌な流れを止めないと。
でも、僕の喉からは「うあっ、うぁっ」という余りに滑稽で情けない嗚咽しか漏れ出なかった。不可解なことに、身体も全く動かない。脳が全身に信号を送ることを拒否しているかのようだ。
行かないでくれ。それを言いたいだけなのに、どうして言葉がこんなにも出てこないんだ。
悲しみばかりが溢れ出て、視界はただ狭くなる。早く嫌な感情を振り払いたいというのに、どうして僕の心はこんなにも弱く、脆いのだろう。
「うああああああああっ」
隣でエースバーンが叫んだ。
彼女も、僕の大切な仲間の1匹だ。
彼女の鋭い目は、とある山をじっと睨みつけていた。僕は瞬時に理解する。あの山には、ご主人様を滅ぼした憎きファイヤーがいる。
手に取るように分かる。彼女の感情が。彼女の堪えきれない怒りが。だからこそ、僕は彼女を止めないといけない。
そうしないと、彼女がどこか遠く離れた場所に行ってしまう。彼女は彼女じゃないドロドロした悍 ましい何かに変わってしまう。
心を覆い隠していた哀しみの感情は危機感へと変容し、いつの間にか僕を突き動かしていた。
「待てよエースバーンッ、何を考えてるんだ!」
僕は唇を噛み締め、前脚で目元の涙を拭い、エースバーンの前に立った。
「あのファイヤーを追いかけて殺す。じゃないと私は、私はっ。もう頭がおかしくなりそうなのよ!」
彼女が言う。その声は悲痛に満ちていた。
「そんなの自殺行為だ。行かせないぞ、君を死なせるものか」
「そこを退いてよ、私を止めないで!」
エースバーンは歪みきった表情をこちらに向け、僕に炎の渦を仕掛けた。タテガミがジリリと音を立てて焦げる。それは文字通り、彼女の怒りを真正面から受け止めているかのような辛さだった。
炎が僕の視界を狭める。僕の動きを止める。このままだと僕はエースバーンを逃がしてしまう。そんなの、絶対に駄目に決まってる。
僕はタテガミに電気を溜めながら、喉が張り裂けんばかりに雄叫びをあげた。
「この分からず屋。いいよ、僕が君を守るって決めたんだ。絶対に君を止める!」
渦の中でエースバーンの場所はすっかり見えなくなっていた。しかし、電撃波はそういう状況だからこその技である。
電撃波が必中なのは、相手を追尾するという特性を兼ね備えているから。つまり視界不良の中でも電撃波を使えば、エースバーンの位置を強制的に特定することができるのだ。
────そうだ。このことを教えてくれたのも、ご主人様だった。
脳裏に過ぎるご主人様の朗らかな笑顔。ふと気が付けば、僕が打ち出した雷撃は炎の渦を突き破り、エースバーンを正確に貫いていた。
「ぐっ!」
エースバーンが片膝をつく。どうやら急所に当たってしまったらしい。心がぎゅうっと締め付けられる。苦しい。苦しすぎる。
こんな愚かしい戦い、早く終わらせたい。『雷』を落として、彼女をすぐにでも戦闘不能にするべきだ。
でも、本気の『雷』は駄目だ。彼女の命に関わらない程度のダメージに抑えたい。僕はいつもより少し小さめの黒雲を生み出し、技の準備を始めた。
しかし、戦いを終わらせようと焦りすぎたのが良くなかった。雷を落とすには時間が多少なりともかかってしまう。ハイリターンにはハイリスクが伴うのが世の常だ。
エースバーンはその隙を見逃さなかった。彼女は突然小石を蹴り上げたかと思うと、小石は一瞬にして火炎を纏い、黒雲へ突入。そのまま破裂させたのである。これはエースバーンの十八番。火焔ボールだった。
雲に溜まっていたエネルギーも一気に周囲へ放電され、僕の技は不発に終わる。
何をやっているんだ僕は!
エースバーンが強いのは分かっていたことじゃないか。さっさと戦いを終わらせられる相手じゃない。落ち着け。落ち着け。彼女はおそらくスピードを活かした技でくるはずだ。
これまで彼女と一緒に経験してきた旅の思い出が蘇ってくる。ああ、僕は彼女が何をしてくるか分かってしまう。だって、彼女は僕の大切な仲間で、大好きなポケモンなのだから!!
僕はキバに強力な電気を溜めた。予測通りならエースバーンは高速移動を使い、圧倒的な素早さで翻弄してくるはずだ。
その予想は大当たりだった。彼女はスピードを上げ、僕の目の前に迫ってきた。今だ、カミナリのキバで喰らいつけ!!
「アナタならそう来ると思ったッ。カウンター!!」
瞬間、カミナリのキバは回避され、僕の顎に強烈な衝撃が走る。意識が急激に薄れていく。
【高速移動+カウンター】なんてコンボ、僕は知らないぞ……!?
駄目だ駄目だ駄目だ。気絶するな!
ライボルト!
僕はエースバーンを止めるんだろ!
彼女は1匹じゃない!
僕たちはパーティだったんだ!
だったら助け合わなきゃ駄目じゃないか!!
ご主人様は言った。「自由に生きて」と。だったらその言葉に従おう。僕はたとえ、どれだけ傷つこうとも仲間を救う!!
「君1匹だけが全部を背負うなよ。ご主人様がいなくなったのは、君だけの責任じゃないだろうが……!」
────僕のこの言葉は、ちゃんと彼女に届いているんだろうか。
◆
そこからの記憶は朧げにしか残ってない。
僕はタテガミに残っていた電気エネルギーを使って、エレキボールを作り出した。そして、最後の力を振り絞り、それを何とかエースバーンにぶつけた。
ぶつけたのは技だけじゃない。僕の思いも丸ごとだ。僕は反射的に彼女に何かを言った。不甲斐ないことに、僕が何を言葉にしたのか。自分でもよく分からなかったけれども。
結果だけを言うと、僕はエースバーンに負けた。僕の意識が次第に闇へ融けゆく中、彼女は堂々と僕の目の前に立っていたのである。
……本当に強い。彼女はやっぱり、チームのエースなんだ。何だか、とっても誇らしい気持ちだ。
完全に気絶してしまう直前、僕はふと空を見上げた。紺色が広がる夜空に、綺麗な何かが月光を反射しながら飛んでいた。それはまるで、どこかの寺院で見た天使の絵のような煌めきだった。
……世界って、とても残酷だけれど、本当に美しい。
目を覚ましたら、彼女を追いかけなきゃ。
復讐したいという気持ちは痛いほどに分かる。
だけれど、まずは、離れ離れになった仲間を探しに行くべきだ。そして、みんなで一緒に生きなきゃ駄目だ。いなくなったご主人様を忘れないように。それが僕らの贖罪。この美しい世界で生きるための、義務だ。
ふと、僕の前脚に暖かい何かが触れた気がした。僕はそれがとても、心地良かった。
そう言い残して、ご主人様は死んだ。
その言葉は、僕たちにとって、まさに呪いだった。
僕らはご主人様の命により、伝説のポケモン『ファイヤー』と戦った。全ては、かの伝説の火の鳥を捕獲し、新たな仲間として迎え入れるためだ。
だけれど、ファイヤーの眼中に僕らはいなかった。奴はあろうことか、僕たちの猛攻を軽くいなすと、ご主人様に攻撃を加えたのである。
ご主人様が炎に包まれていく姿を、僕らはただ見ていることしかできなかった。絶望ばかりが心を染めていく光景だった。
取り残された僕たちは、ただ呆然と立ち尽くす。僕はボロボロと涙をこぼし続けた。
ご主人様はもういないのか。僕たちはこれからどうしたらいいのか。完結しない思考がぐるぐると渦を描く。
ファイヤーはそんな僕たちを
しばらくの間、パーティ内で言葉が交わされることはなかった。やがて、仲間のジュナイパーとヌオー、そしてキュウコンが無言で立ち去っていった。僕は声を上げようとした。駄目だ、みんなの心がバラバラに散ってしまう。止めないと。この嫌な流れを止めないと。
でも、僕の喉からは「うあっ、うぁっ」という余りに滑稽で情けない嗚咽しか漏れ出なかった。不可解なことに、身体も全く動かない。脳が全身に信号を送ることを拒否しているかのようだ。
行かないでくれ。それを言いたいだけなのに、どうして言葉がこんなにも出てこないんだ。
悲しみばかりが溢れ出て、視界はただ狭くなる。早く嫌な感情を振り払いたいというのに、どうして僕の心はこんなにも弱く、脆いのだろう。
「うああああああああっ」
隣でエースバーンが叫んだ。
彼女も、僕の大切な仲間の1匹だ。
彼女の鋭い目は、とある山をじっと睨みつけていた。僕は瞬時に理解する。あの山には、ご主人様を滅ぼした憎きファイヤーがいる。
手に取るように分かる。彼女の感情が。彼女の堪えきれない怒りが。だからこそ、僕は彼女を止めないといけない。
そうしないと、彼女がどこか遠く離れた場所に行ってしまう。彼女は彼女じゃないドロドロした
心を覆い隠していた哀しみの感情は危機感へと変容し、いつの間にか僕を突き動かしていた。
「待てよエースバーンッ、何を考えてるんだ!」
僕は唇を噛み締め、前脚で目元の涙を拭い、エースバーンの前に立った。
「あのファイヤーを追いかけて殺す。じゃないと私は、私はっ。もう頭がおかしくなりそうなのよ!」
彼女が言う。その声は悲痛に満ちていた。
「そんなの自殺行為だ。行かせないぞ、君を死なせるものか」
「そこを退いてよ、私を止めないで!」
エースバーンは歪みきった表情をこちらに向け、僕に炎の渦を仕掛けた。タテガミがジリリと音を立てて焦げる。それは文字通り、彼女の怒りを真正面から受け止めているかのような辛さだった。
炎が僕の視界を狭める。僕の動きを止める。このままだと僕はエースバーンを逃がしてしまう。そんなの、絶対に駄目に決まってる。
僕はタテガミに電気を溜めながら、喉が張り裂けんばかりに雄叫びをあげた。
「この分からず屋。いいよ、僕が君を守るって決めたんだ。絶対に君を止める!」
渦の中でエースバーンの場所はすっかり見えなくなっていた。しかし、電撃波はそういう状況だからこその技である。
電撃波が必中なのは、相手を追尾するという特性を兼ね備えているから。つまり視界不良の中でも電撃波を使えば、エースバーンの位置を強制的に特定することができるのだ。
────そうだ。このことを教えてくれたのも、ご主人様だった。
脳裏に過ぎるご主人様の朗らかな笑顔。ふと気が付けば、僕が打ち出した雷撃は炎の渦を突き破り、エースバーンを正確に貫いていた。
「ぐっ!」
エースバーンが片膝をつく。どうやら急所に当たってしまったらしい。心がぎゅうっと締め付けられる。苦しい。苦しすぎる。
こんな愚かしい戦い、早く終わらせたい。『雷』を落として、彼女をすぐにでも戦闘不能にするべきだ。
でも、本気の『雷』は駄目だ。彼女の命に関わらない程度のダメージに抑えたい。僕はいつもより少し小さめの黒雲を生み出し、技の準備を始めた。
しかし、戦いを終わらせようと焦りすぎたのが良くなかった。雷を落とすには時間が多少なりともかかってしまう。ハイリターンにはハイリスクが伴うのが世の常だ。
エースバーンはその隙を見逃さなかった。彼女は突然小石を蹴り上げたかと思うと、小石は一瞬にして火炎を纏い、黒雲へ突入。そのまま破裂させたのである。これはエースバーンの十八番。火焔ボールだった。
雲に溜まっていたエネルギーも一気に周囲へ放電され、僕の技は不発に終わる。
何をやっているんだ僕は!
エースバーンが強いのは分かっていたことじゃないか。さっさと戦いを終わらせられる相手じゃない。落ち着け。落ち着け。彼女はおそらくスピードを活かした技でくるはずだ。
これまで彼女と一緒に経験してきた旅の思い出が蘇ってくる。ああ、僕は彼女が何をしてくるか分かってしまう。だって、彼女は僕の大切な仲間で、大好きなポケモンなのだから!!
僕はキバに強力な電気を溜めた。予測通りならエースバーンは高速移動を使い、圧倒的な素早さで翻弄してくるはずだ。
その予想は大当たりだった。彼女はスピードを上げ、僕の目の前に迫ってきた。今だ、カミナリのキバで喰らいつけ!!
「アナタならそう来ると思ったッ。カウンター!!」
瞬間、カミナリのキバは回避され、僕の顎に強烈な衝撃が走る。意識が急激に薄れていく。
【高速移動+カウンター】なんてコンボ、僕は知らないぞ……!?
駄目だ駄目だ駄目だ。気絶するな!
ライボルト!
僕はエースバーンを止めるんだろ!
彼女は1匹じゃない!
僕たちはパーティだったんだ!
だったら助け合わなきゃ駄目じゃないか!!
ご主人様は言った。「自由に生きて」と。だったらその言葉に従おう。僕はたとえ、どれだけ傷つこうとも仲間を救う!!
「君1匹だけが全部を背負うなよ。ご主人様がいなくなったのは、君だけの責任じゃないだろうが……!」
────僕のこの言葉は、ちゃんと彼女に届いているんだろうか。
◆
そこからの記憶は朧げにしか残ってない。
僕はタテガミに残っていた電気エネルギーを使って、エレキボールを作り出した。そして、最後の力を振り絞り、それを何とかエースバーンにぶつけた。
ぶつけたのは技だけじゃない。僕の思いも丸ごとだ。僕は反射的に彼女に何かを言った。不甲斐ないことに、僕が何を言葉にしたのか。自分でもよく分からなかったけれども。
結果だけを言うと、僕はエースバーンに負けた。僕の意識が次第に闇へ融けゆく中、彼女は堂々と僕の目の前に立っていたのである。
……本当に強い。彼女はやっぱり、チームのエースなんだ。何だか、とっても誇らしい気持ちだ。
完全に気絶してしまう直前、僕はふと空を見上げた。紺色が広がる夜空に、綺麗な何かが月光を反射しながら飛んでいた。それはまるで、どこかの寺院で見た天使の絵のような煌めきだった。
……世界って、とても残酷だけれど、本当に美しい。
目を覚ましたら、彼女を追いかけなきゃ。
復讐したいという気持ちは痛いほどに分かる。
だけれど、まずは、離れ離れになった仲間を探しに行くべきだ。そして、みんなで一緒に生きなきゃ駄目だ。いなくなったご主人様を忘れないように。それが僕らの贖罪。この美しい世界で生きるための、義務だ。
ふと、僕の前脚に暖かい何かが触れた気がした。僕はそれがとても、心地良かった。
感想の読み込みに失敗しました。
この作品は感想が書かれていません。