取り残された者の戦い 〜エースバーンの憤怒〜

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作者:ションピニ
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読了時間目安:8分
バトル書き合い大会という企画に参加しようしようと思い、結局機会を逃し投稿できなかった作品です。
八つの短編を書き下ろしたのですが、このまま埃を被るのでは勿体無いと思い、本サイトで投稿することに致しました。ポケスク初心者ゆえ、不慣れな部分もありますが、どうかご容赦ください。
 「本当にごめん。みんな、自由に生きて……」
 そう言い残して、ご主人様は死んだ。
 その言葉は、私たちの心に錆びた釘を打ち込んだ。

 私たちは伝説のポケモン “ファイヤー” と戦った。ご主人様は、かの高名広し「火の鳥」を捕獲しようと目論んでいたのである。

 ────だが、失敗した。奴は余りにも強すぎたのだ。

 私たちの運命は、この戦いを切っ掛けにして、あらぬ方向へと転げ落ちようとしていた。
 未だに眼に焼き付いて離れない……。豪炎に包まれ、黒く炭化し、朽ちてゆくご主人様の凄惨せいさんな姿。
 ファイヤーは私たちを鼻先であしらい、直接ご主人様に火炎放射を浴びせたのである。

 奴はご主人様を殺した後、満足したのか、そのまま直ぐに飛び去ってしまった。ズタズタに打ちのめされた私たちは、ただ悲しみに暮れた。

 それから暫くして、私たちは枯れた褐色の落葉のように散ってしまうことになる。

 最初に姿を消したのはジュナイパーだった。次に、ヌオーが無表情で森の奥へ消えていった。キュウコンは私をじっと見つめた後、涙を一粒落として去っていった。残されたのは、私とライボルトの二体だけだった。
 私たちを繋いでいた大事な繋がりの紐は、こんなにも脆かったのか。
 切なくて、虚しくて、たまらない。

 「うあああああああっ!」
 私は今更になって、大切な人を亡くした悲しみを自覚した。灰を浴びた白い毛を逆立て、唸りを上げる。足を覆う重たい泥を振り払うかのように、前へ踏み出す。そして、私はある方向をじっとめつけた。
 満月が煌々こうこうと光る空の方。そこに並び立つ山岳のどこかに、ご主人様の仇であるファイヤーが鎮座している筈だ。
 絶対に許さない。絶対に殺してやる。奴を原型もなく、ぐちゃぐちゃの肉塊にしてやる。たとえ私が死んだとしても、奴を必ず討つ。どす黒い感情が血液のように、心の回路を巡り続けていた。

 「待てよエースバーンッ、何を考えてるんだ!」
 同じパーティメンバーだったライボルトが、私の前に立ちはだかる。

 「あのファイヤーを追いかけて殺す。じゃないと私は、私はっ。もう頭がおかしくなりそうなのよ!」
 「そんなの自殺行為だ。行かせない、君を死なせるものか」

 「そこを退いてよ……私を止めないでっ!」
 いつの間にか、私はライボルトに攻撃を仕掛けていた。それはただの八つ当たりでしかなかった。憤怒に塗りつぶされた感情の裏で、私は自分が如何に愚かしいことをしているのかを自覚している。でも、溢れ出た心火しんかは今更止めようもない。
 炎の渦がゴウゴウと地を鳴らし、ライボルトを取り囲む。

 「この分からず屋。いいよ、僕が君を守るって決めたんだ。絶対に、君を止める!」
 ライボルトから放たれたのは電撃波。絶対不可避の技である。つまりそれは、どれだけの視界不良の中でも、絶対に敵を追跡して外さない技であるということだ。
 炎の渦でライボルトは何も見えないはずだった。しかし、彼が打ち出した電撃は渦を突き破り、私を正確に貫く。

 「ぐっ!」
 私は思わず片膝をついた。
 たった一発の電撃波で、炎の渦がこうも容易くかき消されてしまうとは。ライボルトがパーティの中でも屈指の攻撃力を持っていることをすっかり失念していた。先手を打ったというアドバンテージは、一瞬にして消失。己の浅はかさに何もかもが嫌になってしまう。
 このままダラダラと正攻法でやり合っても分が悪い。私の長所はスピードだ。ならば速さで翻弄した上で、戦いを迅速に終わらせるしか手段はあるまい。

 ────ばちばちっ。

 気付けば私の頭上に黒雲が渦巻いていた。
 まずい。ライボルトは雷を落とすつもりだ。あんなモノを喰らえば、いよいよ私は動けなくなってしまう。
 今にも雷鳴が轟こうとしたその瞬間。咄嗟に、足元にあった小石を蹴り上げ、空へ放つ。小石は豪炎を纏い、黒雲に突入。直後、大きな音を立てて破裂した。
 同時に、黒雲は激烈な電光を周囲に散らして、青々と生い茂る草木を焦がす。
 幸いと云うべきだろうか。ライボルトは雷の威力を抑えていたようだ。普段の彼なら、アレよりも更に巨大な雷雲を作り出していたはず。そうであれば、私の火焔ボールごときで雲が破裂することなど無かった。

 「あなたの弱点はその優しさよ!」
 高速移動でスピードを上げ、私はライボルトの目の前に迫った。しかしライボルトはそうなることを予測していたのだろう。キバに電撃を纏わせ、私を待ち受けていたのである。
 だけど、私だってやられっぱなしじゃいられない!

 「アナタならそう来ると思った……カウンター!!」
 高速移動の直後のカウンターの構え。ご主人様を驚かせるために、喜ばせるために、こっそり練習し続けたコンボ技だ。

 本当は、こんな状況で使いたくなかったけれど────

 カミナリのキバを華麗にいなし、ライボルトの顎に強烈な蹴りを打ち込む。高速移動で加速した分、その蹴りの威力は段違いに上昇していた。

 ライボルト、貴方が私のことを想っているのは知っている。私を守りたいという想いはひしと伝わってくる。だけど、ごめん、ごめんね。こんなにワガママで本当にごめんなさい。
 私はファイヤーを倒したいんだ。ご主人様を守れなかったという罪を、『私』が償うんだ。だから────

 「君1匹だけが全部を背負うなよ!! ご主人様がいなくなったのは、君だけの責任じゃないだろうが……!」
 白目を剥いていたライボルトが掠れた声を漏らした。その言葉に、私は呼吸が苦しくなり、動きを鈍らせる。

 ────バチン、バチン。
 彼のタテガミが破裂音を鳴らした。その瞬間、巨大なエレキボールが彼の頭上に発生し、私の眼前で輝きを放つ!

 「きゃあああああああああああっ!!」
 エレキボールによる強烈な痛みと共に、私の意識はぼんやりと霞んでいく。ライボルトも同じくして、気絶していくようだった。ああ、これは多分引き分けだ。いや、ライボルトにとって、これは勝利なのか。私は結局、彼に止められてしまったのだから。

 「喜びも、罪も……全て分け合うから仲間なんだ。君は1匹じゃない。ファイヤーを倒すのも、君1匹でやるものじゃない。みんな、で……みんなで……」

 ライボルトの枯ら声が鼓膜に届く。
 目元からぶわっと涙が溢れてきた。その雫が一つ一つ、私の中の豪炎を丁寧に鎮めていくようだった。

 私はファイヤーにとてつもない憤怒を抱えていた。しかし、その憤りの根源には、ご主人様を守れなかった情けない自分への怒りも含まれていたのだろう。
 ────君は1匹じゃない。その言葉を聞いて、私の罪は少しだけ許されたような気がした。

 ふと空を見やれば、1匹のラティアスがガラスのような羽毛を輝かせて飛んでいた。ああ、とても、とても、綺麗だ。
 ……世界は、本当に残酷で、美しい。

 目を覚ましたら、彼に言おう。
 私、ファイヤーを倒しにいくのは止めるって。
 その代わり、離れ離れになった仲間をもう一度探そう。そして、みんなで、ご主人様のことを思い出しながら、この美しい世界で生き続けるんだ。多分、それが私の本当の贖罪しょくざいなんだと思う。

 エースバーンは、ライボルトの前脚をそっと握り、そして一緒に眠った。

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