烈火雪月の砌

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作者:ジェード
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読了時間目安:35分
「微笑みの怪盗」×「吹雪が嗤う」コラボ小説。吹雪は2章時点を参照、拙作は本編終了2年後を想定しています。微笑みの怪盗は読まなくても楽しめるようにしてあるつもりです。
 ヌクレア地方の大都市に構えた、国際警察・ウラヌシティ支部。
 常駐する二人の捜査官のうち、一人は。その報せを聞いて、冷や汗を大量に出していた。へっぴり腰は直らず、息子程度にも年が開いた部下に振り回されること、年中無休。カイドウ警部補。
「その、いやあ、まさか……“コードネーム付き”のお二人がいらっしゃるなんて。光栄と言いますか、私共々が、誠に不甲斐ないと申しますか。はは」
 国際警察内でも、細かく階級は区分される。青白い警部補の指す“コードネーム付き”とは、国の境を気にせずに捜査できる、いわばエリートの証。
「あ? 上層からのお達しの通りだぜ。この件は、コードネームなしの下級捜査官に、試験採用の特別捜査官には荷が重い。それだけの話だ」
 目の前に居る二人は、本部よりヌクレアに派遣された。実績と能力を評価されている、実質の上官なのである。
 隣に居る、少女にしか見えない少年捜査官は、どうにもご立腹の様子。
「ちょっと! こんなに若くてチャーミングで優秀な、しかも常駐の僕を差し置いて、ヌクレアの情勢に介入って! どういうことですか警部補!」
「シナノくん、この方は上司だよ。それも、何度も昇進を返上した、要は凄い人なんだ。そんなに口を荒らげちゃダメだよシナノくぅん!」
 オレンジ髪の少年は、隣の頼りない警部補へといきり立つが。生憎、目の前にいる緋色の髪を束ねた、長身の上官は、何とも気迫しかない。直接噛み付く気は起こらなかった。
「先輩の言葉の通りですよ、シナノ特別捜査官。我々は、本部命令により、臨時捜査に派遣された。この件は、既にあたし達の管轄です」
 冷たく告げたのは、長身の隣。冷徹な印象を受ける、青い瞳のグレースーツの補佐官。彼女もまた、コードネームを持つ国際警察官。悔しいだろうが、シナノは二人に社会的立場で完全に負けている。いつかの四天王の時のように、啖呵を切るなどは、出来なかった。
「つーわけで、後は任されてな。あとガキんちょは、カルシウム足りてねーから、モーモーミルク飲んで早く寝るんだな」
 背の高い、女捜査官は去り際に吐き捨てる。何か聞こえた気がしても、まるで取り合わない。次には慣れ親しんだシガレットを手に、「あんな子供を採用とか、上層はマジで腐ってやがる」と、本部の愚痴を吐くのは、彼女らしい。
 コードネーム:レミントンは、補佐官である、コードネーム:ロザリオを連れ。砂漠に出来た都市群・ヌクレア地方へと、本部命令にて訪れていた。





 乾いた砂漠の中で、とある権力者が作り上げたという、大都市・ウラヌシティ。雑多に賑やかす飲食店の並びから抜けて、粗暴な少女は、今日もヌクレアの街を往く。
「フキさん、リリーさんから招集があったと、ボクは食事中もずっと言いましたからね!」
「しょうがねぇだろ、腹が減っては戦は出来ぬってな。まーたあの似非ロリ委員長サマは、アタシに面倒事押し付けたいらしい」
 成人5人前には相当する、ハンバーガーをペロリと腹に入れた少女。和風たなびかせ、背負うは錆すらない真剣の入った鞘。
 彼女の名はフキ。ヌクレアが誇る四天王が一人であり、見た目通りの振る舞いから、付いた名は“狂犬”。
 彼女の周りを忙しなく、弱気な見た目の少年、付き人のオレアは駆けた。付き合いの長い委員長の待つ、リーグ本部に向かう最中でも、彼女は急ぐ気を見せない。付き人オレア曰く、四天王のフキには、リーグ委員長直々のお呼び出しがあったという。内容は彼にも知らされておらず、しかし彼女の様子から、緊急性のみは伝わっていた。
 受付にいつも通り怯えられ、不機嫌をぶら下げたフキが向かう先。ロビーには、見慣れた彼女が座る。
「よぉ、アタシを呼び出して何だよリリー。それほど絶品で、垂涎止まらん美味しい案件なんだろうな」
 フキが話しかけたのは、変わらずにドールの様相をした、小さな幼なじみ。しかし、その向かいには、リリーの倍はありそうな背丈の高い女が、どっかりと座り込んでいる。
「ふ、フキ君! ちょっと、先方がいらっしゃるのに、君って奴は! あ……すみません。彼女が、私のお抱えの四天王、でして」
「別にいいよ。っぱ、私もかたっ苦しいのは苦手でな。ふーん、お前さんがヌクレアの狂犬?」
 悠々と煙草に火を付ける、黒スーツの女。隣には、いかにも勤勉実直を掲げた、グレースーツの若い女も。フキをも超える長身と眼帯の彼女に、オレアは縮み上がっていた。
「ええええ、背、でっかあ! フキさん以上なんて」
「あ? サツかよ。アタシの免許でも取り上げに来たのか」
 彼女の野生の勘は正しく、二人は遠方カロスより招かれた国際警察官。緋色髪の女は「そんなに暇じゃねーよ」と、この四天王の言葉を軽くいなす。怪訝な目を向けた真面目そうな方は、小さなため息のみを示した。
 こほん、と小さなリーグ委員長は、出来るだけの威厳を取り出して、話を戻す。
「フキ君とオレア君。君たちには、この方々の南部捜査の護衛と調査協力に、行ってきて欲しい。お二人は……国際警察の“コードネーム:レミントン”に、“コードネーム:ロザリオ”。くれぐれも粗相はしないでくれたまえよ!」
 異論の声を上げようとした四天王に、手持ちのユキハミは引っ付く。彼女は天真爛漫なマスコットに抵抗するが、その隙にとリリーは二人を追い出そうとした。そのまま、なあなあで彼女達はリーグ本部から押し出されていた。
「つーわけで、宜しく。狂犬とやら。私やロゼまで噛むなよ?」
「ったく、何でアタシがサツの世話なんか……安心しな、お国の犬よりは研ぎ澄まされてるし、お手くらいなら出来る利口だからよぉ」
「おう。そいつは良いや。犬同士仲良くやろうぜ」
「ふ、ふふフキさん! その辺にしましょうよ!」
 移動車を取りに行った補佐官を見届け、レミントンは軽く少女の肩を叩いた。言葉は不機嫌そうなフキだが、自分に全く萎縮しない彼女に、少しばかり安心を抱く。二人の語気の荒い女に、付き人オレアは何処か似たものを感じては、一応は止めに入っていた。
 そのまま、委員長より流された形で、少女フキとオレアは、二人の国際警察官。その仕事の手伝いへと、ヌクレアリーグから駆り出されたのである。




 舗装すらない砂漠にて、大型車はひたすらに砂塵を上げている。時々、窓より覗く群生サボテンに、野生のビブラーバやマラカッチ。小さなオアシスには、疲れ果てた旅人がちらほらと集まる。
 それ以外には、映画の同じフィルムを回してるかの如く。乾いた大地に、雲ひとつない空。そんな、つまらない荒野の風景が続いていく。
「アストルム・バーバトスの行いは、都市郡を産むと共に功罪をも呼び寄せた。貴女もよく知る、マフィア組織『ビジャープ・ファミリー』を代表する反社会組織とかね」
 運転手の黒髪サイドヘアーの女、コードネーム:ロザリオは揺れに揺れる車内に、少々苛立ちながら説明していた。後部座席にはユキハミを載せた四天王に、気もそぞろな、小さな付き人の少年。
「おい、エリートらしく子洒落たポリ公。アタシの義姉……リリーの悪口言おうってなら、まとめて三枚おろしにしてやるが」
「我々が派遣されたのは、貴女が勝手にその幹部の一人を潰したから、なんですが。フキ・バーバトス」
 言い合う二名に、助手席に居た、眼帯の上官が止めに入る。「いいから、さっさと概要を説明してやれ」煙草のケースだけ持って、暇を持て余す彼女が促す。
「ええ……先輩すみません。で、『ビジャープ・ファミリー』の収入源に、ポケモンの化石の密輸と、石油の違法輸出がある疑惑がかけられてまして。私達は、その化石と油田の有無の調査・取り押さえを任された、という訳です」
 フキが関わったあのマフィアグループ。現在は内部抗争にて半壊状態であり、一部の逮捕者から国際警察にまで、情報は回っていた。
 砂漠の地に眠る資材としては、非常に価値が高いだけに、場合によってはヌクレアを巻き込む戦争の火種になる。それを避けるのも、彼女ら国際警察官の役目。
「ま、そういうこってな。最悪の場合は、マフィア組織との戦いになる。それは危険だからと、先方からお前さんを連れて行けと。一応、断ったんだがな」
 悲鳴すら上げられない、哀れな付き人オレア。理由を聞こうが、隣の四天王は胡座をかいたまま、後部に置かれた愛刀を気にして、一言。
「要は、“コイツ”で全員まとめてぶった斬っちまえばいいんだろ。話が長ぇよお役所仕事」
 グレースーツの彼女は、今度は取り合わず。冷たい蒼色の瞳で、刀を撫でたフキを一瞥した。
「荒野の中で、“スポット”と呼ばれる場所を、順々に回ります。夜は交代で安全を確保しますから、そのおつもりで」
 テントにキャンパーの道具一式。彼女らがトランクに入れた荷物に、怯えつつも納得したオレア。そんな彼に、先ほどから冷徹な印象の彼女は、話しかける。
「あ、そして……オレアさん」
「はひぃ!?」
 フキとレミントン、両名はあまりに情けない返事に、笑いを誘われる。明らかにフキとは違う声色で、ロザリオは話を続けた。
「えー、貴方は不安でしょうが。地質調査のみに協力して下さい。民間人を巻き込むのは、我々も問題視されますから」
 ほっと胸を撫で下ろす眼鏡の少年。一通りの説明を経て、丁度、大型車は運転の休憩に止まる。窓を開けてシガレットを取り出すレミントンに、ロザリオは外に行くように言う。
「暫し、昼休憩にしましょう。あー、疲れた」
 バゲットと水筒を取り出すロザリオは、後方の二人にそう告げて、背筋を伸ばしていると。さも当然かのように持つ、サッカーボールほどのライスボールが、目に飛び込んできた。
 四天王フキ、圧巻の早食いを見せる。頭にいるユキハミも主人同様であった。聞く暇すらなく、彼女は手についた米粒を取っては、食べていたのだ。絶句を通り越し、呆然としていたロザリオは思う。
「絶対これから先、もっと疲れる……」
 彼女は自分の発言を、一人で静かに訂正していた。





 少し間を置いた、岩石砂漠の捜査隊の面々は、岩隆の集まりへと踏み出す。海原以上の日差しから身体を守る為、銘々にサングラスとローブを着ている。
「うわぁ……改めて、すっごい岩石ぐっ!?」
 そう言いかけた、少年オレアは突然、言葉を放り投げた。ぐんぐんと沈む足元は、ナックラーの棲む蟻地獄の象徴。情けない悲鳴を上げかけたところで、彼を持ち上げる力が働いた。
「おい、危ねーから、確認もせずにあんまうろつくなよ。砂漠の奴らは飢えてるからな」
 眼鏡をかけ直す、オレアを持ち上げて地上に戻したのは、鋭い目付きのバシャーモ。コードネーム:レミントンが連れている相棒である。
 彼女らがいる、岩石砂漠の一つは。遺跡かと云うほどの広さを見せる。即ち、野生ポケモンには絶好の住処。四天王フキとは違い、ひ弱な彼にはレミントンの部下と、そのエルレイドが付き添う。
「にしても、クソ暑ちぃな。アタシらを干物にでもしようってのか」
「貯蓄が尽きるか、あたし達が干からびるか、って戦いですね」
「おい、何分涼しい顔してらっしゃるが、普通に考えたら無理だろコレ。エリートポリ公さんは、頭まで茹だっちまったか」
 フキの隣にいるヒヒダルマも、同意するかのようだ。“こおりタイプ”には辛い気候に加え、畑すら作れそうな一帯。彼女の言いたいことが分かったのか、ロザリオはややため息がちに、彼女らに説明する。
「いえ。全てを捜索する訳ではなく、我々は“幻影の塔”と、俗に呼ばれるスポットを捜しに来ています」
 幻影の塔。ファンタジーめいた名前に、四天王の少女は「はあ?」と声をだしたが。彼女の後ろに縮こまるような、付き人の少年は興味を示す。
「それって……幻みたいな砂漠の塔がある、って云う、都市伝説のですか?」
「ええ、いかにも。ホウエンで観測されたきりらしいのですが、ポケモンの化石が存在する場所ですね。幾つかの研究者により、ヌクレアの砂漠地帯も条件が合致するようです」
 化石を手に入れた途端に、その塔は瓦解して跡すら残らないという。話を聞いた少女フキは、きな臭い話に少し怪訝を示すものの。内心では不思議な砂漠の塔とやらに、興味が湧いていた。
「しっかたねーなおい! 化石でも刺青野郎共でも、アタシが全部ひっぺがしてやるよ」
 やる気を出したへそ出しの彼女と、ヒヒダルマが後を追うように、走り出す。進行方向にいたノクタス達をタコ殴りにし、何事もないかのように奥へと向かった。
「ありゃ、狂犬より暴れ馬じゃん?」
 彼女の勢いに、笑うレミントン。肩に帰還したファイアローより、この一帯の報告を軽く受けていた。
 涼寒い夜が迫るまでの時間、本日はこの岩隆群の捜索に。氷の四天王と炎の国際警察官は、互いに別れていった。





 一日目の捜索が終わる頃には、照りつける太陽もその姿を隠し。代わりに果てしなく光源のない荒野に、満天の星空は広がりを見せる。焚き火の灯りがちらちらと照らし、腰を下ろす和装の少女は、欠伸混じりにテント前を見張っていた。
 乾いた草木に、強く靡く冷風。時折こちらを見ている怯えたサボネアに、メグロコ達。彼らから今宵、テント内のオレア達を守るのは、フキの当番である。
「よっ、お疲れさん。身体冷えるだろ?」
 退屈な見張り作業に飽きていた彼女に、温めてきたコーヒーマグカップと、差し入れにジャーマンポテトを持った、コードネーム:レミントンが話しかけていた。
「お、サツの癖に気が利くじゃねえか。もうアタシらに噛み付く奴らはボコっちまったしで、眠たくて仕方ねえ」
「だろうな。と思ってたから、私と眠気覚ましってのはどうだ? お前さん、若くして四天王なんて身分だし、色々積もる話もあるだろう」
 フキよりも背丈の高い女は、隣に座り込んだ。「あー、寒い」とアーミージャケットをしきりに擦り、悠々と煙草に火を付ける。目線はフキの持つ刀。柄の先には、小さな鈴とユキハミのストラップが揺れていた。
「んだよ、アタシからすりゃ、おめーの眼帯の方が、気になって仕方ねえ。四天王つっても、新参だし、面倒ごとは全部リリーに押し付けてるからな」
「……リリー・バーバトスか。義姉だろう? 本来の家族はどうした」
 黒い無地の眼帯を、指で触っていたレミントンだが。家族の話に触れた途端に、あの売り文句に買い文句だった、彼女は黙り込む。
 沈黙。それは追求と肯定の拒否。国際警察という職業柄、何度もそういった人間は見てきた。故に、レミントンはとりあえず、自分の話をすることにした。
「まあ、いいぜ。悪かったな、私の話もしないでさ。眼帯の下は別に普通だけど」
 と言って見せたのは、凄惨な火傷の跡。この左目だけが、痛々しい見た目になるということは。それは即ち、誰かに意図的な暴行を加えられた、という意味になる。
 あのヌクレア地方を生き抜いたフキは、見たところで動揺はしない。しかし、目の前の女は、何度も死線を潜り抜けてきたのだろう。その事実をにわかに感じ取っていた。
「これを見せてると、一般人は怯えちまうからな。義眼を埋めるという手もあったが……幸い、右眼の視力は常人以上だしで、このままだな」
 焚き火は、時折崩れて火の粉を散らす。散った燐光が、緋色髪の女を照らす。燃える篝火の如く。
「おいサツ……お前やっぱ、あのシナノってチビや、隣に居た小綺麗なポリ公とは、明らかに匂いが違うだろ。本当にカタギか?」
「レミントンだっての。あと、アイツは私の部下のロザリオ。いい加減覚えろ。あ、私は“レミー”でもいいよ」
 レミントンがジャーマンポテトの紙皿を渡すと、機嫌を良くしたフキは食らいつく。「んじゃあ、レミーって呼ぶ」と、一応は名前を認識したらしい。
 彼女は、そのまま隣にて、紙皿いっぱいあったポテトの山を食べるフキを見ては、さめざめと微笑んでいた。先ほどロザリオから聞いた話の通りであり、可笑しくも、またどことない郷愁もあった。
「うわ、ロゼが言ってたことマジじゃん。すげー食いっぷり。昔いたアイツ並みだな」
「生きてりゃ腹が減るんだから、仕方ねえだろ。なあユキハミ?」
「はみみ!」
 いつの間にやら、フキの膝には小さな虫ポケモン。ユキハミが、美味しい匂いを嗅ぎつけてそこに居た。ロザリオの話から、それなりの量を用意したレミントンだったが。彼女らの底知れない胃袋には、笑うしかない。
「そろそろ交代するよ。砂漠の朝日を拝むってのも、たまにはいいもんだ」
 そう言って、レミントンはフキと入れ替わりの見張りに入る。やっと解放されては、欠伸が止まらないフキに、「朝起きねーと置いてくからな!」という忠告を添えて。
「分かった分かったって、アタシをあんまガキ扱いすっと痛い目見んぞ……レミー!」
 眼帯の女は、後ろ手に煙草を持って、彼女を一瞥した。物珍しい人間を眺める、野生ポケモンらへと。今度は、彼女とバシャーモが睨みを効かせていた。





 翌日。朝日昇る砂漠の荒野は、本日も快晴。寒冷なる風は肌を切り裂き、乾いた空気が身体に水を求めさせる。
「さっむ! あー、やだやだ。早いとこカロスに帰ろ……」
 誰よりも早くテントから、朝食の準備をする女が一人。コードネーム:ロザリオは、軽くまとめた黒髪を靡かせ、エルレイドやハピナスと共に、フライパンに卵とベーコンをセットしていく。
 シャワーなど浴びれるはずもなく。ダウンコートを肌身に、石焼きベーコンエッグを作っていると。しばらくして、彼女に続く早起きが誘われてきた。
「お、おおはようございます! ロザリオさん」
「どうも、オレアさん。おはようございます。お皿代わりにパンですけど……食べます?」
 熱々のパンに、はみ出るように載せられたベーコンエッグ。オレアはぎこちなく受け取り、足元の岩に転びそうなところをエルレイドに助けられた。
「おいひいでふ!」
「それは……良かったです。で、あの四天王は起きて来ないようですが」
 ロザリオが目を遣る、テント内には。アイマスクにて座って仮眠するレミントンに、シュラフにすら収まらない、大胆過ぎるとんでもない寝相姿の女が一人。頭には、すやすやと眠るユキハミ。
 しばらくは時間があるので、また噛みつかれるのも面倒と考え、ロザリオはとりあえずオレアと朝食を共にする。同じくベーコンエッグのパンを頬張る彼女に、ハピナスはゆっくりと、ミックスオレを飲んでいた。そんな休憩時のロザリオが、オレアへと投げかける。
「そういえばオレアさんは、お姉さんでもいらっしゃるのですか?」
「えっ! は、はい。お姉ちゃんと、妹が一人ずつ。えっと、どうして分かったんでしょうか……?」
 コーヒーに、ミルクと砂糖をたっぷりを加えたロザリオは答える。
「今……『お姉ちゃんは元気かなあ』と考えてらっしゃったから。ご家族と仲がいいのかな、と」
「え、ええ!? ま、まさにさっき考えてましたけど」
 コーヒーの入ったマグカップを転げ落としそうになり、くすりとグレースーツの彼女は笑っていた。今までお役所の人間でしかなかった彼女が、初めて自然体に見えた。
「ロザリオさんは、エスパーか何かですか!?」
「まあ、なんでしょう。サイキッカーってことにしておきますか」
 なかなかの意地悪っぷりだが、悪気はなかったと彼女は軽く付け加えていた。しかし、その話題から、オレアは彼女に寧ろ質問する。
「ロザリオさんにも、お兄さんやお姉さんが居たんですか?」
 彼女は微弱ながら、反応していた。主に、“お兄さん”という言葉にだ。特に抑揚もなく頷くと、再び話し始める。
「私にも兄が……居ましたよ。でも、本当に兄さんと慕えたのは、たった一人だった」
 どことなく遠くを見ているロザリオに、ハピナスは寂しそうに寄り添う。オレアは、彼女の踏み入ってはいけない領域だったと、激しく後悔していた。
「すすすみません!! そんな、あわ訳アリだとは思っ、ずみまぜん!」
「別にいいですけどね。多分、あたしのことを深く知ると、貴方もあたしを嫌いになってしまうので」
 自嘲気味だが、さらりとした一言。食事を終えた彼女は例の爆睡四天王を起こしに、テント内に足を向けたが。意外にも、呼び止めたのはオレアの方だった。
「……あの、何か辛いことがあったら! 僕なら、話くらいなら、その、聞きますから」
 少しばかり、瞬きするロザリオ。思い当たるお人好しの青年や、寛大な上司が重なる。暫し、何処かが痛むような感覚が落ちてくる。
「はあ、考えておきます」
 次には、ロザリオから言葉はなかった。代わりに聞こえたのは、渋々命令されたエルレイドより、『かわらわり』を喰らったフキの「痛ってーな、こんちくしょーが!」という、目覚めの叫びであった。
 それは、隣に座って仮眠する上司すら、結果的に起こしてしまい。「はみー!」ともちもちの物体がレミントンにくっつき、転倒する女上司。
 一同の砂漠探索、二日目は波乱からの開幕である。





 広大な岩石砂漠の捜索には、ポケモン達の力が必須だった。大空からはファイアローが、地上は一体以上は傍に連れたトレーナー達が担う。
 宝探しか何かと勘違いしているであろう、フキは特に気合いが入っていた。目を爛々と輝かせ、近づく野生ポケモンは殴り倒す。一日目と同じように動いていた面々だが、この日にファイアローが捉えた情報は違っていた。
「全員、今の場所でステイ! ロゼ、私のファイアローが違う報告をしている。詳しく分かるか?」
 大声で勧告したコードネーム:レミントン。その声にオレアはビビりあがっていたが、ロザリオはファイアローに駆け寄る。彼女のエルレイドがファイアローより、何かを聞いたようだった。
「エルレイドより伝聞ですが。この先、南東500メートルほど先。何人かの人間が出入りする、大きな塔が存在するそうです」
「分かった、仕事のターンらしいな」
 国際警察官二名は、いとも容易くファイアローより報告を受け取っていた。オレアが瞬きばかりするのも無理ない。コードネーム:ロザリオは、エルレイドを通してファイアローの言葉すら、理解したというように受け取れる。
「丁度いいじゃねえの。あのゴロツキ共が居るんだってなら、アタシらがぶち転がしゃいいんだろ」
「間違っちゃないが……慎重にな?」
 意気揚々と、拳をかち合わせるヒヒダルマ。レミントンは「あんまりやり過ぎると、上が煩いから」と、過去のデータから、暴れまくっていた彼女を牽制していた。
「オレアさん、貴方はエルレイドの後ろに」
「は、はいぃ!」
 フキを先頭に、レミントンが続く。オレアの護衛を兼ねたロザリオが、二人の後に続く。腰元には、ホルスター。スーツ姿の二名は、共にマフィア組織との戦闘を視野に入れていた。

 唯一、能天気な彼女が踏み入れたのは。砂漠の中に立つ塔。とても自然物とは思えぬ、建造物の形を成している。
 勘で動くフキの後ろにて、人の音を探るバシャーモとレミントン。上階に続く通路を、戦闘が得意な二人に、一旦任せることになった。

 二人とは少し離れ、入り口のあった地上一階。入り組んだ十字路を進んだ先。やたらと広い空間を、ロザリオ達は発見する。自然と、オレアに尋ねていた。
「オレアさん、この壁面。何やら文字があるようですが」
 彼女らの探す“幻影の塔”よりも、遺跡に見える文字列群。ロザリオは、これらが“アンノーン文字”であることに気がついた。地面に意味深長に並ぶ穴は、アルファベットの“H”に酷似している。
 僅かなヒントを頼りに、オレアは記憶の底に眠る知識から、ゆっくりと文字を読み解いていく。その姿は学者そのもの。ロザリオは、若くしてここまでの博識は大したものだと考えていた。
「えーと……この塔に眠る者、五柱の一対、岩の番人……ば、番人!?」
 岩の番人。そして、アンノーン文字とこの七つの点の配置。ロザリオは、とあるポケモンの封印場所だと、はっきり理解していた。
「嘘でしょ、ってことはここ……」
 驚愕しながらも、連絡線を持つロザリオと、未だ見ぬ遺跡に、探究心が芽生えるオレアだったが。彼らに近づくのは、その番人でもなかった。

「よお、嬢ちゃんに、ガキんちょ。ありがとなあ? わざわざここの秘密を紐解いてくれてよ」
 マフィア組織・ビジャープファミリー。その残党と思しき、柄の悪いサングラスの男が数名。エルレイドが敵意を認識し、相手のスカタンクやハブネークを睨みつける。
「はあ。良かったです。あたしの悪運が強くて、手間が省ける……!」
 発勁を構えたエルレイドに、ボールに手を伸ばすロザリオ。後ろには、蒼白した眼鏡の少年。安心させるように、エルレイドは少年へ微笑む。
「おいおい、なかなか強気で可愛い女じゃねーか兄い!」
「ああ、だがな弟よ。嬢ちゃんに構う暇はねえ。さっさとここの“番人”とやらも頂くぞ」
 彼らの手には、既に粗雑に取り除かれただろう。この砂漠の塔の一部が覗く。戦って、捕縛する他ない被疑者だった。
 エルレイドが素早く動き、命令なしの『インファイト』を彼らに、まとめて浴びせようとした――その時。

 不意打ち気味に、マフィア達に氷の柱は降り注ぐ。味方に配慮し、微妙に軸をズラされた『つららおとし』。唖然とする男の一人に、兄貴と呼ばれた方は勘づいた。
「おい待て、上からぶげらっ!?」
 兄貴と呼ばれた方が、サングラスごと吹っ飛んでいく。ハブネークにスカタンクは、とっくに巨大な氷柱へと成り果てていた。
「あ? 何か言ったか? わりぃ、小さい声で聞こえなかったわ。弱い奴ほどよく吠えるのによぉ」
 男の返り血を浴びた、ガラルヒヒダルマ。フキが大胆に地上に降り立つと、まとめて血が流れる同じ服装の男達と、凍傷の目立つポケモンが、堆く重なる。
 辛うじて、動こうとする弟分の足元に、刺さるは銃弾。そして、目の前に降り立つ、眼前に『ブレイズキック』を構えたメガバシャーモ。少しでも動けば、髪の毛ごと燃えてしまいそうだった。
「何だよ……最近暇してっから、レミーちゃん、もっとお前さん達をサンドバッグにしたかったぜ」
 返り血を浴びた四天王フキと、コードネーム:レミントン。圧巻の残党狩りの成果だった。臨戦態勢だったエルレイドに、補佐官のロザリオは安堵と呆れを含む、そんな溜息を吐く。

 メガバシャーモとヒヒダルマに睨まれ、汗水に塗れた男は捕縛されていく。手持ち全てを没収され、兄貴とやらの山に、見事加わってしまった。
 フキとレミントンが捕らえた男達は、狙い通りにこの場所に眠る化石の数点と、石版らしき塊を所有していた。自らのポリゴン2に調べてもらう最中、ロザリオは口を開く。
「この程度、あたしだってやれましたよ。それで……さっきの連絡ですけど」
 オレアの解読により発覚した、この場所の詳細。それを上司・レミントンへと伝えたかった、コードネーム:ロザリオだったが。
 突如として、砂漠の塔は地鳴りを上げる。崩れていく様相もなく、ただただ砂埃は舞う。
「今度は、ななな何ですかぁ!? 」
「落ち着けオレア。何故か、上から崩れては来ねえ……代わりに、匂うな」
 オレアが悲鳴を上げていると、フキは敵意を野生の勘で、感じ取っていた。今までの有象無象とは違う、危機感がひた走る。ロザリオは先ほどの七つの点が、激しく点滅することに気が付く。
 奥底から感じる、大いなる者の気配。それは、復活の兆しに、違いなかった。

「全員退いて下さい! ここは、岩の祠……“レジロック”の眠る場所です!」

 反射的に、ロザリオはエルレイドへとオレアの『テレポート』を命令する。心配する顔を主人へ向けたが、エルレイドは少年を背負い消え去る。彼女の命令を優先した。
 ほぼ同時に、目覚める古のポケモン。機械的な意思は、不気味にいきり立つ。フキやレミントン、残った三人を囲う『ストーンエッジ』。それぞれ違う岩石にて、造られたという身体は唸りを上げる。
「んだアレ、只者じゃねえな」
「気をつけろフキ。そいつはレジロック。“レジギガス”が生み出したという、伝説が残るポケモンだ。どうやら、私らに住処とこの一帯を荒らされた、と思ってるらしい」
 とんだ災難な場所を、探し当ててしまった。そう思ったレミントンはロザリオと目配せするが、“テレパシー”の使えるロザリオですら、このレジロックと和解する術は見つからない。
 そればかりか、退路は巧妙に塞がれ、戦闘は避けられないだろう。
「じゃあよ、答えは簡単……アタシらがぶっ倒してお前の頭冷やしてやるよ」
 『ストーンエッジ』の岩隆を足場に、レジロックへ向かうはヒヒダルマ。ありったけの『つららおとし』が、脳天に降り注ぐ。
「物理的にな!」
 鞘を向けて決めたフキに、むざむざと凍りつくレジロック。岩の身体はバラバラに散り、そのまま鎮まるかに見えた。だが、しかし。
「はあ!? コイツ再生しやがった!」
 何と、自身が放った岩石。『ストーンエッジ』や遺跡の岩すらもかき集め。レジロックは再起動する。堅牢な身体は健在。かすり傷すら、受けていなかった。
「マズイな。お前の一撃で、完全におかんむり来てんぞ」
「先輩! 次の一撃はやばいです!」
 不規則に繰り出される『ストーンエッジ』に、ロザリオは二手目の警告をする。その言葉は正しく。狙うはフキとヒヒダルマ。『ロックオン』にて合わせた照準は、足元がおぼつかない彼女らを、無慈悲にも狙う。
 フキとヒヒダルマを完璧に捉える、強大な電気の束。閃光迸る攻撃は、フキでなくても命に関わる攻撃だと分かる。
「……間に合え、『マルチアタック』!」
 その時、『でんじほう』をあてがったレジロックの足元を掬う、一匹のポケモン。ロザリオより投げられた“ウォーターメモリ”を空中で受け取り、白いたてがみは、青く変色する。
 ポケモン――シルヴァディの強力な穿撃が、重鈍な岩の身体に炸裂。重心のバランスを崩し、『でんじほう』は、フキのまとめ髪を掠めては、弾けた。
 パラパラと砕ける岩肌に、フキは早まる鼓動を感じる。悪そうに笑うと、ロザリオとよく知らぬポケモンへ、一言。
「やるじゃねえか。ポリ公、アタシは貸しを作るのは大嫌いなんだ。だったら……やる事は一つだよな! レミーに、ヒヒダルマ!!」
 呼応するように、雄叫び上げるヒヒダルマ。白い身体は燃え盛る。“ダルマモード”の発動を見てか、呆れ気味なレミントンは続く。
「おいおい、私がサポートに回るって。それ、よっぽどだかんな! 」
「あたしも初めて見たかも……」
 ヒヒダルマを狙う、再び正確無比な『ストーンエッジ』。小さな地響きは連なり、彼女らの足場は定まらない。
「『コーチング』! 頼むぞバシャーモ!」
 しかし、メガバシャーモの『コーチング』により、防御と攻撃を上げた面々は、辛うじて倒れない。
 止まない岩の攻撃の嵐だが、ヒヒダルマは着々と『ストーンエッジ』を氷漬けにしていく。螺旋階段のように聳える、岩を含む氷柱。
 それらを足場に、加速を極めたバシャーモは、上空からレジロックに近づき行く。
「『とびひざげり』! ロゼ!」
「わかってますよ、シルヴァディ!」
 高さを最大限までに活かした、『とびひざげり』がレジロックを狙う。『いわなだれ』による石壁を展開しようとするが、攻撃の隙を突くのは、ロザリオのシルヴァディ。
 鋭い『ブレイククロー』は、鉄壁のレジロックの防御すら下げて、脳天直下の『とびひざげり』を成功させる。態勢を崩し、動けなくなるレジロック。反動にて、上空に退避したバシャーモは、再び高く足を振り上げていた。
「今だ、決めろよ狂犬!」
 凍結した岩の階段。そして、メガバシャーモの豪脚すら、ヒヒダルマは足場にする。そのまま、蹴りを食らわすかのように。メガバシャーモはヒヒダルマをレジロックへと振り落とす。

「おう! そのデケー大将首、アタシらが貰い受ける!ヒヒダルマ『フレアドライブ』!」

 かかと落としにて、レジロックへ飛び込むヒヒダルマは流星の如く。飛来する岩石を全て凍結させ、内部の炎は燃えたぎる。
 氷と炎。共存し得ない二つの力を振るい――ヒヒダルマ渾身の大打撃は、岩の守護者を燃やし尽くす勢いのままにレジロックを包んだ。

 唸る、小さな地響き。遺跡は悲鳴を上げるように一部、崩落を見せた。
 しかし、悠然と立っていたのは氷の王。四天王の燃え滾る熱い相棒であった。
「アタシは、燃えるハートの氷四天王。乾いた砂漠の主サマには、ちとキツかったようだな」
「なーにカッコつけてんだ、おめー。コイツぶっ倒しちまったから、レミーちゃんはこれから大変だぜ?」
「るせぇ。戦闘不能にしたんだから、これで万事解決だろうがよ」
 言い合う、氷の女と炎の女。対極に見える存在だが、どことなく似たものをロザリオは感じていた。実際、レミントンは共闘したことが、少し嬉しそうでもある。
「類は友を呼ぶって、こういうことなのね……」
 崩れてきた瓦礫から立ち上がり、兄の手持ちであったシルヴァディを見つめる。その涼しい表情は、元来のトレーナーによく似ているような気がした。





 ヌクレア地方のとあるホテルの一室。久しいシャワーや寝具の存在に、身を弾ませるコードネーム:ロザリオとその上司レミントン。
 アンバーに輝く麦酒を飲む彼女。この度の任務の報告を打ちつつ、室内着姿のロザリオに話しかける。
「砂漠は寒かったな。しばらく来ることもないから、何だか寂しいってモンよ」
「あたしはもう懲り懲りですよ。砂が入りまくりで凄かったんですから。昼間は暑いし、夜は寒冷で……」
 そう喋りながらだが、数時間前に別れた、とある四天王を思い出すロザリオ。彼女もまた、砂漠ようにカラッとしていて、冷たいかと思いきや仁義には厚い人間であったから。
 ヌクレアの繁華街を見下ろしながら、人間の複雑性と砂漠に似た彼女を、何処か重ねていた。
「まあ、そう言うなよ。砂漠の夜空は綺麗だったぜ。それに……思い出だけは買えないからな」
 「そうですね」と、涼やかな彼女は、少しだけにこやかに頷く。レミントンのスマホロトムが、ちりんちりんと音を添える。
 それは、誰かの刀と同じ。リーグの土産売り場で見つけた、ユキハミ付きのストラップだった。


――END――

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