フールガイに乾杯を

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作者:蚊マグロ
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読了時間目安:24分
ここは、とある地方にある世界で一番クリスマスを楽しむ集落「シオラ村」
霜が降り、雪降りしきる極寒の地。 そんな寒〜い土地だからこそ、人々の心が温かい。
住民はみんな親切で、優しくて、最高にイカした人たちだ。
さて、今日はクリスマスイヴ。 
アチャモ鳴き、厚着ひしめく「シオラ村」では、きたるパーティーに備えて買い出し客で大賑わい。

「さあさあクリスマス大出血セール! 今ならオマケにポケモンクッキーがついてくるよ!」

オーナメント屋が呼び込みをしている。 オーナメントは定番のビリリダマ型から、変わり種のベトベター型まで、いろんな種類のオーナメントを売っている。
何よりこのクッキー。 店主のナゲキがこねにこねまくった生地は絶品。 クッキー目当てでオーナメントを買う人も多いのだとか。

「みなさ〜ん! 美味しいケーキはいかがですかぁ!」

あそこにいるのはケーキ屋さん。
相棒のマホイップと一緒にケーキショーをやっている。
それに加え、なんと彼女は本場カロスで修行を積んだ超一流のパティシエ。
もっと活躍できる場所もあったろうが、彼女はここを活動拠点に選んだ。
それだけ、この村には魅力があるのだ。

さて、そんな魅力に惹きつけれてこの村を訪れる来訪者は鰻登り。
しかし、それは観光客だけではない。
この盛り上がりをビジネスチャンスに変えるべくやってくる行商人の多いことやら。

「おいしいヨー、オトスパスチップスおいしいヨー。」

彼は遠くの地方からやってきた行商人だ。

「おと……なんだいそりゃ?」

「これ、穀物をペーストしてこんがりしたヤツ。 これにチーズソースをかけると……。」

味気ないチップスがとろっとろのチーズに包まれる。
これは美味しいに違いない。

「あ、食べていいのか。 では………。」

「うん! うまいな〜これ。」

「さらに、こっちのマトマソースをかけると……。」

「どれ………うん……うっ!」

「ああ! ダイジョウブ?」

「うん……辛いけどうまいな。」

クリスマスに似合わぬ地獄の炎のような色。
伝統をぶち壊すジャンクなこのお菓子だが……。

「二袋ください。 ソースはあれとそれ。」

「グラシアス! お客さんオイシイ言ってくれたからサービスします!」

「これはどうも、ありがとうございます。」

「いえいえ、メリークリスマスです!」


あのお菓子、きっとお酒に合うに違いない。
あ、お酒といえば道を曲がった先に少し洒落た店がある。
この店では厳選した素材からワインやビールなんかを作っている。
そういえばそろそろシャンメリーが

「「ちょっとパパ!」」

「うわっ! な、なんだいクイン。」

「また考え事してたでしょ。」

「アハハ……バレちゃったか。」

「クリスマスマスなのに〝うえのそら〟じゃダメ!」

「〝うわのそら〟じゃない?」

「どっちでもいいじゃん!」

親子に見えるこの二人は、今クリスマスの買い出しの途中のようだ。

「早く帰らないとママとワンパチに怒られちゃうよ!」

「わかってるよ、ちょっとその辺見ていってから帰ろう。」

そんな話をしていると、公園でポケモン達が踊っているのが目に見えた。
大きいヤツから小さいヤツまで様々なポケモンがいるが、皆、クリスマス仕様なのは変わらない。

「パパ! クリスマス隊が練習してるよ!」

「お、本当だ。 相変わらずすごいな。」

クリスマス隊は街のイベントを盛り上げるクリスマス特別部隊だ。
歌やダンスの訓練を積んだポケモン達が、冬の寒さを吹き飛ばすほどすごいパフォーマンスをしてくれる。

例えばアレ、『オーロッツ』

「オーロッ! オーロッ! オロロロ!」

「オーロッロッ!」

周りの木を一緒に動かし、力強いダンスを披露する。
たまにツリーの飾りが落ちてしまうが……まあそれもまた可愛いからいいだろう。
本番では自身らを飾り付けてダンスをするというから楽しみだ。

おや、あそこにいるのはプリンとコロトックかな?

「ぷ〜ぷ〜りん〜 ぷ〜ぷ〜 ぷ〜ぷりん〜♪」

「コロロロロロ………コロロ……コロロロロ……。」

素晴らしい演奏技術でみんなを魅了する。
今歌っているのは定番のクリスマスソング『ユキワラシの夜』

「これ学校で歌った!」

「パパも歌ったことあるぞ〜。」

その時、父親の視線が急に左を向く。
彼の首はそのまま硬直して動かない。

「パパどうしたの?」

「おい……まさかアレは………!」

目線の先にはゴリランダー、ストリンダー2匹、そしてタチフサグマ。
そう、彼らは世界一有名なポケモンバンド。 ガラルで生まれたイカした4匹組!
マキシマイザズ! 揃い踏み!

「マキシマイザズだ! 村長が言ってたゲストってマキシマイザズだったのか!」

「うが! がっがっが!」

ドラムに合わせて演奏が始まる。
重厚感のあるギター、巧みにリズムを刻むドラム、圧倒的なボーカル。
どれをとってもポケモンバンド界最高峰だ。

「すごい………生演奏を聴けるなんて……!」

   「「「パパ! 帰るって言ったよね!」」」


「あ、そうだったな………わかった、帰るよ。」

「罰としてそこでビッグピカチュウ買って。」

「いや〜あれはほら……ねぇ……。」

「パパのケチ!」

「わかったわかった! ほら、あそこで好きなお菓子なんでも買ってあげるから!」

「なんでも? やったー!」

親子の笑い声が村に響く。
そうだ、今日はクリスマスイブ。
全ては喜びの包まれる………………


はずだった。

「いらっしゃーい」

「オーナメントください。」

この辺では見ない男が店に訪れる。
恐らく金を持て余した観光客だろう。

「はいはい いくつですか。」

「もちろん、あるだけ売ってくれ。」

一瞬なにを言っているのか分からなかった。
が、この男の煌びやかな身なりを見れば、あながち冗談じゃないんじゃないかと思う。
メレシーリングをジャラジャラ鳴らし、ジムリーダー兼アーティストのアーティープロデュースのビジネスシーツを着こなす。
しかし、全て売るわけにはいかない。
なぜなら他の客が買えないからだ。

「お客さん、全部ってのはちょっと……。」

「金ならある。 金を払うのになぜ売れないんだ?」

「そりゃあ他のお客さんが買えなくなりますから……。」

「なんだ? この村にはそんなルールがあるのか?」

「いや、ないですが……。」

「じゃあ貴方が客を差別しているということになるが。」

差別?
聞き捨てならない。
店を始めて20年になるが、客を差別したことはない。

「そ、そんなことはありませんよ!」

「だったら全部売ってくれ。 金は払うと何度も言っている。」

売らねばならない。
しかし、売るわけにはかない。
そんな葛藤の中、私は黙り込んでしまった。

「はぁ……マンムー。」

「ムオオオン!」

男がマンムーを出すやいなや、さっさとオーナメントをマンムーに積み込んでしまった。

「ちょっと!」

「ここに金は置いていく、じゃあ失礼するよ。」

そう告げると、男は去っていってしまった。

「ちょ、もしかしてオーナメントもうないのか!?」

「ああ、申し訳ないが……。」


男の名は『イチカワ』、超有名財閥の御曹司だ。
活気がるとはいえ行政区分上は村。 
巨大な市場が形成されているわけではなく、住民が相互に助け合い、必要なものは村で地産地消するコンパクトで合理的なところだ。
故に、莫大な金が流れ込んでるとそれを食い止める術がない。

おや? そうこうしてるうちに次の店に行ったようだ。

「じゃあ全部もらうよ。」

「ちょっとアンタ! 待ちなさいよ!」

「金は払っただろ。」

「そーゆー問題じゃないわよ! 他の客のことも考えなさいよ!」

女将がゴーリキーに荷物を取り返すよう支持した。
ブーバーは雄叫びをあげて荷物に向こう

「チッ………メガヤンマ!」

「ヤヤヤヤーン!」

イチカワがメガヤンマを繰り出すと、メガヤンマは超スピードで周辺を飛行し始めた。

「購入制限があるなんて言ってなかったろ……!」

「全部だとは思わなかったのさ! ゴーリキーやっちゃいな!」

ゴーリキーがメガヤンマに向かって『グロウパンチ』を繰り出す。
しかし不発。 次も不発。 その次も不発。
不発不発不発不発不発不発不発不発不発不発不発…………!

「なんで当たらないのさ!」

「さあね? メガヤンマ、つばめがえし。」

「ヤヤヤヤヤヤヤ!」

つばえがえしは炸裂する。 効果はバツグンだ!

「ゴゴッ……」

「ゴーリキー!?」

「じゃあね、女将さん。」

イチカワはそのまま去っていってしまった。



◆ ◆        ◆


「ママ見て! 可愛いでしょ!」

「ええ、とってもよく似合ってるわ!」

クインが新品の防寒具を着て一回転する。
中はウールー毛、外はタマザラシ加工。
暖かく、水や雪を通さず、子供でも軽いから着ていて疲れない。

「ねえ! 遊びに行ってもいい!」

「いいわよ。 ただし、クリスマス会に間に合うようにするのよ。」

「わかった! 行ってきまーす!」

クインが勢いよく家から飛び出る。
外は白銀、グレイシア色だ。
こんな日にやることといえば………

「キャアー! アハハハハ!」

ソリに乗って遊びに行くことに決まってる!
目指すは麓の広場。
挨拶するご近所さんに目もくれず、広場を目指して全速力。

程なくして広場についた。
広場には既に沢山の子供達がいる。
みんなの目的は同じ。クリスマス会まで遊び呆けるのだ。

「みんなー!」

「あ、クインじゃねーか!」

「遅いわよ〜。」

「ごめんごめん………ハァ……ハァ……。」

「おいおい、息上がってるじゃないか。」

「急いでたから疲れちゃって……そこでココア買ってくる。」

その時、みんなが静まり返った。

「あ、その、ココアならもう売り切れちゃって……。」

「え? じゃああそこのコーンスープ」

「それもなのよね……。」

「てか、この辺のもの全部売り切れたし。」

全部売りきた?
とても信じられない。
まず買い占められるわけがない。
そもそも、なぜ買い占める必要があるのかわからない。

「なんで、なんで売り切れてるの!?」

「それは僕が全て買い占めたからさ。」

イチカワが現れた。
大きい袋を肩に乗せて……まるでサンタクロースみたいだ。
まあ、サンタはサンタでもブラックサンタだが。

「悪いおじさんだ!」

「悪い? お金を払って物を買っちゃいけないのか?」

一瞬で論破されてしまった。
もちろんこの男がしていることは決して〝いいこと〟ではないのだが、悪いことかと言われると……こう……答えづらいところがある。
すると、クインが沈黙を破り口をひらいた。

「なんでそんなことするの……。」

「なんで……知りたいなら教えてあげるよ。」

待ってましたと言わんばかりにイチカワが話し出す。

「君たちに質問だ。 ゴロンダは大きいだろうか?」

「デカイに決まってんだろ。」

「本当? ホエルオーに比べたら小さくない?」

「なっ……そうだけど。」

「でもバチュルよりは全然大きいよね。」

「何が言いてーんだよ!」

少年がイチカワに向かう。
イチカワは少年から二、三歩距離を取り「怖い怖い」とジェスチャーをして続ける。

「つまり、モノの大小は何かと比べて初めて得られるモノなんだ。 そしてそれは『幸せ』についても例外じゃない。」

「幸せ……?」

「僕がお腹いっぱいケーキを食べれれば幸せ。 しかし、君たちも食べれてたんじゃあまだまだだ。」

イチカワはおもむろに雪を掴み、丸め始める。

「君たちはケーキを食べれない…… でも僕は好きなだけ食べれる。 この方が幸せじゃないか?」

イチカワが雪玉を踏みつける。

「意味わかんねーよ!」

「つまり幸せとは希少性なんだ……わかるか?」

「わかんない………わかんないよ………」

「おいおい、泣くこたぁないだろう。」

女の子が泣き出してしまった。
その子を慰めながらクインはイチカワを見る。

「そんなことない! みんなで食べた方が幸せに決まってるもん!」

「へぇ……できるもんならそうすれば? 僕はそれを肴に美味しいケーキとお酒をいただくことにするよ。」

イチカワはゆっくりと歩いていった。

「なんなんだアイツ……。」

「今日は……もう帰ろっか。」

そうして、子供達は家路についた。
みんな俯いている。
下を、雪以外なにも見えない己の下を、下を、下を……見続けて………。

◆       ◆      ◆

「ただいま……。」

「あ……お帰りなさい……。」

珍しくママの元気がない。
ため息をつきながら冷蔵庫を眺めている。

「ママどうしたの?」

「あそこの店のグラタン、後で買おうと思ってたら売り切れてたのよ……。」

なんとママも買い占めの被害にあっていたのだ。
見渡すと、いつものクリスマスに比べて今年は装飾が控えめだ。

「ママ……わたしもココアが買えなくて……もしかしたら………。」

「クインもなの!? ハァ……なんでこんなことに……。」

このままだとクリスマスができなくなっちゃう。
美味しい料理も、綺麗な飾りも、お歌も、ダンスも、プレゼントも……。

「ママ! わたし……わたしこんなクリスマス……やだ……。」

クインが泣き出しそうになると、パパが口を開いた。

「クイン、なにもクリスマスは料理やプレゼントのためにやってるわけじゃないんだ。」

「え? そうなの?」

「そうだ。 クリスマスは大切な人や、ポケモンにありがとうを伝える日だ。 その人が今側にいても、いなくても。」

「じゃあパパはケーキ食べなくてのいいの?」

「食べたいけど、ママとクインと無事に過ごせるならそれで満足だよ。」

その時、家のチャイムが鳴った。
村長さんだ。
そうとわかると、ママが急いでドアを開く。

「えーっと……どうされました?」

「ああ、買い占めのせいで物が足りないのは知っておるじゃろ。 そこで、今日の夜広場でみんなで料理を持ち寄って合同パーティーをすることにしたんじゃ。」

「合同パーティー……。」

「無理にとは言わないけど、何か持ち寄って参加してくれると嬉しいのぉ。 これ、早めのプレゼント。」

村長はお菓子の入った袋を手渡してきた。
と、思うとそのままどこかへ行ってしまった。
恐らく次の家に向かったんだろう。

「ねえ、さっき村長さんが」

「話は聞こえてたよ。 ぜひ参加しようじゃないか。 よかったなクイン、ケーキが食べれるかもしれないぞ!」

クインが嬉しそうにに飛び跳ねてる。
合同パーティー……村長も粋なことするもんだ。
何よりマキシマイザズのライブ見れるかもしれないってところが魅力的だ!


◆      ◆      ◆



イチカワがポケモン達と共に村へ向かう。
大量の料理や、お菓子や、飾りや、プレゼントと共に。
流石にポケモン達も重そうだ。

「頑張れ! ここ登ったら村に着く!」

「村人共の貧相な姿を見ながら、買い占めた料理を楽しもう!」

そうこう言ってる間に村に着いた。

「よし、連中はどんなことしてるかな………。」

イチカワの目の前に広がったのは衝撃の光景だった。
広場いっぱいに机がおかれ、その上には少ないながら料理が置かれている。
各々が寂しい見た目ながらもツリーを持ち寄り、自慢し合っている。
子供は遊び、親は世間話に夢中。ポケモン達も楽しそうだ。

「楽しそうだな…………。」

いやいやいや、そんなわけない。
いくら残りをかき集めても量は知れている。
すぐに足りなくなるだろう。 
そうすれば自然にギスギスした空気が流れ、いずれはトラブルが起こる。

「そうなるまでは、あの寂しい机を眺めて一杯やりますか。」

おもむろにコップを取り出し、酒を注ぐ。
片手に酒、片手につまみ。

「お前達も食え! いっぱいあるぞ!」

イチカワはポケモンに料理を進める。
が、あまり食べていない。

「ハハハ! アイツらあんな薄いケーキ食ってるぞ! ほら、俺は丸ごと食えるぞ!」

「どうした……なんで料理を食べないんだ?」

「ヤヤ………。」

「ムムーン……。」

「なんだよどうしたんだよ! なにが不満なのか言ってみろ!」

「きっと楽しくないからだ、こんなことしてても。」

クインの父親がイチカワの目の前に立つ。
顔はイチカワへの憐れみに満ちている。

「なっ……! どうしてここがわかった!」

「あんな荷物の山に気づかないわけないでしょ。」

「そんなことより、パーティーに混ざらないか?」

「は?」

なにを言っているんだこの男は。
理解できない。
なぜ俺がアイツらのパーティーなんかに参加しなきゃいけないんだ。

「あ、持ち込みパーティーだから当然君にも」

「結構だ! 俺はこうしてお前らの無様な姿を眺めてる方がいいんでね!」

「………本当にそうか? 意地にならずに本心を教えてくれよ。」

「は? コレが本心だよ!」

「ポケモン達は、今の状態をあまりよく思っていないようだが……。」

「くぅ〜ん……。」

「ザザッ……。」

「んぬぅ………さっきから黙って聞いてりゃ……。」

「別に黙ってはないくないか?」

「あんま調子乗ってんじゃねーよこの野郎!」

イチカワが拳を振り下ろす。
それも顔面目掛けてだ。
しかし、とっさのところでかわし、そのままポケモンを繰り出した。

「ロゼリア、頼む!」

「ロゼッ!」

ロゼリアがイチカワに何かを吹きかける。
すると、さっきまで激昂していたのが嘘にように大人しくなった。

「………はぁ。」

「落ち着いたか?」

「はい……落ち着きました。」

「やっていることはいい事ではないが……最低限の法を守っているのを見るに、君は根は悪くなさそうだ。 余程のことがあってこんなことをしていると勝手に推測してる。」

「……………」

「だから僕はロゼリアに『アロマセラピー』を指示したんだ。」

「なにがあったか話してくれないか? 少しは助けになれるかもしれない。」

すると、イチカワがゆっくり話し出した。

「去年……俺は恋人とクリスマスを過ごす予定でした。」

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_________
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「寒っ、そりゃそうか、雪降ってるんだし。」

今日はデートの日。
今宵、このクリスマスツリーの下で彼女と待ち合わせている。
彼女とは大学で出会った。
講義中に落として筆記用具を拾って貰ったのがきっかけだ。
今ではすっかり彼女の虜だ。

「早く来ないかな〜。」

その時、俺の携帯が音をたてて震え出した。
誰からの電話か見てみると彼女からだった。

「もしもし、俺だけど。」

『あ、イチカワ君? 今どこ?』

「今集合場所のツリーの下のいるよ。」

『そう……申し訳ないんだけど、今日急に予定が入って……もちろん! 来れるには来れるんだけど、もしかしたら来れないかもしれないから……その時は帰ってていいからね!』

「ん……わかった。 でもまだ待ってるから慌てないでね。」

『うん! ありがとうイチカワ君!』

電話が切れた。
彼女も忙しんだな。
そういえば、親の病気でお金がいるからバイトしてるんだっけ。
この前手術代払ってあげたけど、まだ治ってないのかな……。
将来は義理に親になる人なんだから、大切にしたいと思っている。



遅いな……。




もう日付を回っちゃったよ。





寒いなぁ……お腹空いたなぁ………。


ん? あれは……キリア?
間違いない! あれは俺がプレゼントしたコートだ。

「おーい! キリア………。」

ん? 隣にいるのは誰だ?
あれは……シュンじゃないか。 ミスタータマムシのジュン。
なんでアイツがキリアと一緒に居るんだ?


「いやー寒いね、キリアちゃん。」

「でもシュンと一緒なら平気。」

「ハハ、うれしいな。」

なに楽しそうに話してるんだ。
コイツら何してんの?

「おい、二人で何してんの?」

「え、まだ帰ってなかったの……。」

「あれ? もうアイツはいないからここ来ても平気って言ったじゃん。」

「私だってそう思ってたわよ! まさか6時間以上待ち続けたの!?」

「マジかよ、信じらんね〜。」

「信じられないのはこっちだよ!!」

怒りのあまり叫んでしまった。
寒さも、空腹も忘れて、ただひたすらに絶望と怒りに押し殺されそうになった。

「なんで他の男と一緒にいるんだよ! なにが不満だったんだよ! なんでなんでなんで」

「はいはい落ち着いて〜。 キリアちゃんはさ、前から君と別れたかったらしいよ。」

嘘だ。
あんなに俺のそばで笑ってくれたのに。
今までの日々はなんだったの?

「だって……あなたといてもつまらないんだもの……。」

「じゃあなんで俺がプレゼントあげた時はニコニコしてたんだよ! 返せよ、つまんなかったんだったらさあ!!」

「おいおいw 渡しといて返せって、それは男らしくないなぁ。」

「貴方みたいにお金持ちで優しい人なんていくらでもいるわ。 でも、シュンは貴方や他の人にはないものを持ってる。気づいたら私はもうそれの虜で、シュンに惹かれてたの。」

「聞こえはいいけど浮気ってことだよな。」

「浮気はされる側にも問題があるよ。 君には彼女を留まらせるだけの魅力がなかったのさ。 自業自得だよ。」

「それよりシュン、早く行こーよ。 このあと何されるかわかんないし。」

「そうだな、じゃあ僕たちはコレで失礼するよ。」

「…………………。」

俯いたまな、僕は泣いた。
顔を上げた時、二人はイルミネーションの中に吸い込まれ、俺の前から姿を消していた。

「そうか………俺が悪かったのか………。」





「幸せになるためには………ナンバーワンであり……オンリーワンじゃなきゃ………



                                 ダメなんだ。」




______
____________
_________________



「このクリスマスの精算をつけたくて……気づいたら……。」

「その日の思い出が転じてクリスマスへの恨みになってしまったんだな。 だが、他者を落とし、自信を満たす歪んだ幸せに固執することでもなにも解決しない。」

「じゃあ、俺はどうすれば……。」

「だから一緒にパーティーに行くんだよ。」

「え?」

なにを言っているんだ。
俺はこの村に散々迷惑をかけたクソ野郎だ。
歓迎されるわけがない。

「まさか、俺が許されるわけ……。」

「いいよな、クイン。」

さっきの女の子が俺の前に現れた。

「いいよ! でもいっぱい意地悪した罰として………。」

「罰として……。」

「あそこにあるお菓子全部ちょうだい!」

「え? それだけ? だったらお安い御用だよ。」

「嘘だ! 無理に決まってる!」

「マンムー聞いてたか! 下まで運ぶぞ!」

「マンマンムー!」

マンムーが嬉しそうに荷物を運ぶ。
下では村人達が手を振っている。

「おーい! 料理手に入ったか〜!」

「ああ! でもコイツをパーティーに入れるのが条件だぞー。」

「まさか、許されるわけないだろ……。」

さっきの女の子ならまだしも、ここにいるのはいい歳をした大人。
すんなりどうぞと言うわけがない。

「このたわけ!」

ほらやっぱり。







「大歓迎に決まってるじゃろ!」

え? なんでこの村の奴らみんな笑ってるの?
暖かさを通り越してむしろ怖い。

「コレがこの村だ。 世界一のクリスマスの名前は伊達じゃないのさ。」

『村人の皆さん! 大変長らくお待たせしました! マキシマイザズの登場です!』

「あ、マキシマイザズのライブが始まる! 君、早く見に行こう!」

「パパ待ってよ! もっとゆっくり歩いて〜。」

親子はさっさと行ってしまった。

クリスマス……俺は自分一人が幸せならそれでいいと思ってた。
でもそうじゃなかったみたいだ。
わざと周りを不幸にしたっていいことなんてない。
少なくとも、俺にはそれは合ってない。

今までの自分を呪いそうになった。
これからの事に不安を抱いた。
彼らの対応に疑問を持った。
でも、どんなことがあったとしても、あのツリーは高く、真っ直ぐ、そびえ立っている。

「いこうか、メガヤンマ。」

「ヤヤーン!」

楽しいこと。
悲しいこと。
苦しいこと。
今までいっぱいあって、これからもいっぱいある。
俺は愚かで。
とても無力で。
胸を張っていられるかわからない。

そんな俺でも、グラスに注がれた酒には抗わない。
自分を律している。 後ろめたさもある。
でも、差し出されたグラスにグラスを合わさずにはいられない。



だって、今日はクリスマスイヴなんだから。

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