ランクルス療法

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作者:蚊マグロ
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読了時間目安:8分
タマムシ大学医療ポケモン学部
准教授:ミトローボ

※緊急に執筆した論文につき、少々雑な部分があるが許して欲しい。

タマムシ大学病院には毎日多くの患者が訪れる。
その中でも、近年心の問題で当院を訪れる人が増加している。
心の治療は、文字通り患者によって適切な治療法が全く異なり、未だ有効な治療法が確立されていないのが現状である。
そもそも、治療するものなのかどうかの判断も難しい。(当院では患者が希望すれば治療を行う方針を取っている。)

さて、前述してはみたものの、実はポケモンを使った心の治療がないわけではないのだ。
今から30年ほど前に「ワンパチ療法」というものが確立されている。
ワンパチやコリンクなどの電気タイプのポケモンの電気を直接脳に流し、患者に必要な感情や器官を動かす命令を与えるという、現代医学では到底考えられない治療法だ。

もちろん、この治療には様々な問題があり、26年前に事故が発生したことでお蔵入りとなった。

しかし、そんな中私はポケモンを利用した心のケアについて長年研究していた。
そして、ついに実用化するに至ったのがこの「ランクルス療法」である。

ランクルス療法は「ランクルスと患者の意識を一時的にネットワークで接続する」といういたってシンプルな方法で行われる。
意識を接続すると聞くと危険そうに聞こえるが、ランクルスは温厚で知能も高いポケモンなのでその心配はない。
患者は、精神世界の中でランクルスと会うことになる。
ここでは、患者Bの事例を紹介しよう。


ーーーーーーーーーー【以下患者Bが語った精神世界の様子】ーーーーーーーーーーーーー

まず真っ暗な場所に立ってたんです。 そしたら、なんか目の前にランクルスが出てきて、急に喋り始めたんですよ。

「楽しい?」って。

当時は仕事のストレスでとても楽しいなんて言える状況じゃなかったんで、「楽しくない」って言ったら、突然ブワーっと視界が明るくなって、気づいたらいつもの街にいたんです。
そしたら、パンのいい匂いがしてきて、この時財布なんて持ってないはずなんですけど何故か財布を持っていて……それで、クリームパンかいました。
それで、クリームパンを堪能したんですけど、そしたら急に会社の椅子に座ってて、上司に怒られるんですよ。
もうやだなーって思った時に、目の前で上司がラフレシアに頭突っ込んでるんです。
あのセクハラ野郎の無様な姿を見れてスッキリしましたw
そしたら、

「まだまだ。」

って声が聞こえたと思ったら、なんか私公園に立ってるんです。
で、目の前にはなんとあのズミさんがいるんです! 興奮しません!?
もう握手しまくりですよ!
そしたらランクルスが

「これが望み?」

って聞いてきたんですよ。
いや、自分でも不思議なんだけど、「もっと身長高いと思ってた。」って言ったら……高くなったんですよ、ズミさんの身長。

その後はもう口で表せないような幸せを味わいましたね。
それで、しばらく支援現実に戻りました。
今はその職場を辞めて、別の会社で働きながらズミさんの追っかけやってます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


他にも様々な患者の体験談を聞いたが、全てに一貫することは「現実を一度受け入れさせ、その後これでもかと理想を見せる。」というものだった。

その後、この治療法で私は年間最優秀賞医学賞を受賞し、永世名誉教授に就任。
この先の素晴らしい人生を歩む予定だった。


しかし、問題はここからだった。


それから3年後、ある企業から案件が来た。
それは、「VRゲーム開発のためにランクルスを貸して欲しい」というものだった。
勿論、最初は断ったのだが、あまりにもしつこいので、私の監督のもと協力することにした。
そもそも、この治療法を行うには高度に訓練されたランクルスが必要であり、無免許の人間がこの治療法を行うことは禁止されている。
カラマネロ療法と同様に、高難易度の治療法なのだ。

そもそも医療技術なので、そう簡単に外部の人間に研究させたくはないのだが、上からの圧力もあって致し方なかった。
その頃から、患者に異常が見られるようになった。

最初は患者が少しワガママになるだけだったが、時が経つにつれて怒りっぽくなっていったり、支離滅裂な言動を繰り返すようになったり、最終的にはなにも喋らなくなってしまった。
私は、これらの症状を危険視して共同開発を一度打ち切るつもりだったが、上からの返事はNO。
その結果、患者の73%に上記の症状が見られるようになった。


数ヶ月後、異常の原因がわかった。 理由は治療時間の不正な延長、並びに治療内容の書き換えであった。
ランクルスにはあらかじめどんなものを見せるかプログラムが書き込まれているのだが、一部のランクルスではそれが書き換えられていた。
それに伴い、かけられていた時間制限も解除されていた。

私は急いでランクルスの回収を命じた。
が、時すでに遅し。 回収しきれたのはランクルスの半分にも満たなかった。
既に患者のほとんどがランクルスに依存しており、ランクルスの見せる幻映なしには生命活動が行えなくなっていたのだ。

世界中で同様の現象がおこり、経済が回らなくなっていた。
もはや誰に責任を追求すればいいかわからない。
医院長も、ゲーム会社の社長も、患者も、今はみんな都合のいい夢の中。

この事態を一刻も早く解決するべく、私は新技術の開発を急いだ。
そして、一ヶ月の時を経てついに完成した。
その技術とは、「ランクルスのネットワーク化」だ。
正解中のランクルスに同時にサイコエネルギーを照射して、命令を打ち消すのが目的だ。
しかし一ヶ月の時が空いている。 ただ消すだけではリスキーだ。
そこで、私一年分の仮の記憶を作り出し、それを上書きすることにした。
つまり、ランクルス療法の存在を忘れさせるのだ。

某月初頭、作戦は決行された。
私のランクルスに命じ、世界中にサイコエネルギーを照射する。
すると、徐々に……徐々に起き上がる人が現れ始めた。
被照射者は次々と何事もなかったかのように活動を再開する。
これも全て人間が動かないでいる間ポケモン達が掃除や食料の確保などを頑張ってくれたおかげだ。
そして翌日未明、作戦は終了した。



私はアローラに発ち、知り合いの研究者の元を訪ねた。
ウルトラホールを貸してもらうためだ。
私は、このランクルス療法を完全にこの世から消してしまうつもりだった。
しかし、私は消せなかった。
自分の研究者成果をなんとかして残したかったのだ。
そこで、ウルトラホールに遺棄するという暴挙に出てしまったのだ。
傲慢な私を許して欲しい。



もしウルトラホールの外でこの書面……いや、紙の状態で届いているかわからないが、とにかく、この論文を見つける者がいるなら、どうかこの技術を正しく使って欲しい。
愚かな我々の世界の人類のようには使わないで欲しい。


このことをよく覚えておいてくれ……私からのお願いだ▼

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