ご笑覧あれ、あの姿を

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作者:jupetto
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読了時間目安:8分
ポケモンバトル書きあい大会にてファイヤーVSジュナイパーで投稿する作品です。

 それはある冬のこと。何日も吹雪と霰が吹きすさぶ小さな村に、一人の男がやってきた。

「今年の寒さは一等厳しく、皆様春の訪れを待ち望んでいらっしゃると聞きました。わたくしのポケモンが役に立つだろうと思い、この天気を超えてやってきたのです」

 いったい何をするつもりだ? 村長にそう聞かれると、男は目を細めて言う。

「実はわたくし、伝説のポケモンたるファイヤーを所持しておりまして。かのポケモンの逸話、知っておられますかな?」

 ファイヤーの訪れた場所には一足早く春が訪れるという話には聞き覚えがあった。だが、何故わざわざここに来たというのか。
 不信感をぬぐえなかったが、男は村人たちを広場に集めてファイヤーの逸話を語る。寒さにうんざりしていた村人たちは半信半疑ながらも男の挙動を見守っていた。
 男は紫色のボールを取り出す。

「この場に出したいのはやまやまですが、ファイヤーは強大かつ神聖なポケモン、極楽鳥ですから人に触れさせるわけにはいかず。今ボールの中にはおられません」

 もったいつけるだけつけて、ここにはいないと言い出す男。
 なんだペテンか、と村人たちが落胆しかけたその時。男は突然天を指さした。


「その威容は天からでもはっきりとわかることでしょう。それではそれでは!ご笑覧!」


 つられて目をやると吹雪が荒ぶ空高くに、爛々と炎が揺らめいていた。その中心で翼を丸めつつも確かに羽ばたいているのは、まさに火の鳥と形容すべきものだった。初めて見るポケモンだが、少なくとも並大抵の存在ではないことはわかった。
 ああ、これで村に春が訪れる。美しいものを見れた。まるでおとぎ話のようだ。そんなどよめきが村人たちの間に広がった。

「……いや待て。本当にあの伝説のファイヤーだというのなら、より分かりやすく示してもらおう」

 村長が指笛を吹く。すると針葉樹の木陰からジュナイパーが飛び出した。フードのような体毛に覆われた顔が、天空の火の鳥を見つめる。

「ほう、ポケモンを出したということは。神聖なる極楽鳥にバトルを挑まれるということですか? 村長殿」
「そうだ。春が早く来るという言葉をうのみにしては冬が終わるより先に冬備えがなくなってしまうかもしれん。村長として、確かめる責務がある。……頼むぞ、ジュナイパー」

 男の返事よりも早くジュナイパーは矢を放った。天空に吸い込まれたそれはもはや人の目に映るものではなかったが──火の鳥は、確かに声を出した。苦痛よりも、笑っているような鳴き声だった。

「実のところ、わたくしはあの極楽鳥にバトルで言うことを聞かせられる立場ではないのですが。……どうなっても知りませんぞ?」
「儂のジュナイパーは村一番の狩人だ。たとえ伝説のポケモンが相手だろうとその矢の届かぬ鳥はいない」
「ふふ、鳥を狩ることに特化した鳥とは面白い。こうなっては止めますまい。お好きになさるとよいでしょう」

 男もまたあの鳥のように笑いながら囁く。指示は出さず静観するつもりのようだった。
 ぼろが出ることを恐れているようには見えないが、村長にはどうしてもこの突然現れた男の言葉が信用できなかったのだ。
 人面獣心、そんな言葉が脳裏に浮かんで消えない。

「『影縫い』だ!」

 ジュナイパーが黒き矢を放つ。それは本来相手の動きを止め、空を飛ぶものを射落とすことに特化した技だ。再び火の鳥に命中する。しかし……なんの変化も起こらない。

「これはこれは、村長殿はよほど我が極楽鳥をお疑いのようで。天の太陽は地に陰影を落とすもの。天そのものに影などありますまい」
「影のないものを縫い留めることはできないと言いたいのか、回りくどい。『リーフブレード』!」

 今度は尖った木の枝を翼に番えるジュナイパー。小石すら射貫く精密射撃はどんな硬い体を持つ獣であろうと柔らかい関節や急所を射貫く必殺の刃となる。
 が……やはり、天空にたたずむ火の鳥はあざ笑うように一鳴きした。
 また聞いていないのかと周囲が思ったとき、しかし確かに火の鳥が放つ炎は弱まり陰った。

「効いているのに、反撃する気がないのか?」
「まさかまさか。炎に対していくら鋭い小枝を放とうとも、体に届く前に燃え尽きるのみですとも。これはどうやら……狩人殿の技が退屈すぎて極楽鳥はお眠りになってしまったようですな?」

 男はせせら笑う。村長と懇親の攻撃を放ちながら火の鳥に意に介されていない狩人ジュナイパーを。
 村人たちから、もうよいのでは。村長のジュナイパーの攻撃が通じないなど本当に伝説のファイヤーとしてか思えませんという声が上がった。だが村長の思考は逆だった。


「語るに落ちたぞペテン師。あの攻撃を受けて眠っているというのなら、それは『眠る』で体力を回復させる必要があるほどダメージを負った。違うか?」
「……ほう」


 あまりに天高くにいるためわかりにくいだけで本当は傷を負っているのだろう。だが攻撃すればファイヤーでないことが露呈してしまうのを恐れて躊躇っている。村長はそう読んだ。そして男は意外そうに固まる。

「こちらとしても、狩人として舐められたままでは気に食わんからな。隠し玉を使うぞ。『ハードプラント』だ!!」
「……何をするかと思えば、威力は高くとも天に届かぬ攻撃で我が極楽鳥に届くとでも?」

 ジュナイパーが樹木の根を操り、大地が揺らぐ。事実それは天まで伸びるわけではない。しかし、ジュナイパーの本領はどこまでも弓矢だ。
 大地を這う蔦が変形していく。しなり、曲がり、村にある大きな岩に絡み、動かし。

「これは本来村の外から外敵が攻めてきたときの用意。普通のポケモンバトルでは使うべきではないが……そこまで伝説の力を誇張するのなら受けられないとは言うまい?」
「なんと、これは、まさか!?」

 村に急遽出来上がったのは、巨大な石弓。まさしく弩級のカタパルトとなって大岩を射出した。

「さあ『火』の『鳥』が超高速の『岩』を受けて無事でいられるか、見せてもらおうか──!」

 その一撃は確かに眠る火の鳥を直撃した。男はそれから目をそらすように顔を伏せる。それを見て、化けの皮をはがしたと村長は勝利を確信するが。



【呵呵呵呵ッ。呵呵呵呵ッ。】


 火の鳥が、嗤った。体がよろめき、翼を広げる。そして広がった炎は──固まった血液のように黒く変色していく。
 男は手を広げて高らかに天に叫ぶ。

「極悪鳥よ。御目覚を!太陽すら飲み込む逆上の炎にて、地上の愚行を御照覧!!」

 その炎は村全体を染め上がるように広がっていく。ジュナイパーは『ゴーストダイブ』でやり過ごそうとしたようだが。それは普通の炎でもまして神聖なる光でもなく。心を蝕む邪道の緋だった。

「なんだ……貴様、村に何をした!!」

 村長は男に怒りを露わにする。しかし男は踵を返し、村から出ていこうとした。ジュナイパーが矢を番え止めようとするが、それを止めたのは周りの村人たちだった。真に怒りが爆発したのは彼らの方だったのだ。

「何をしたはこっちのセリフだ、ジジイ!」
「神聖なるファイヤー様を攻撃するから天罰が下ったんだ!」
「貴様はもう村長失格だ!追放だ!」

 突然の事態にジュナイパーはパニックを起こす。村長は為すすべもなく守ろうとした村人たちに集団で制裁を受けた。
 その喧騒をもはや村の外で聞くだけとなった男は、邪悪なる神鳥をあっさりボールに戻し、獣の顔で嗤う。


「ああ、春が来るなどと信じずただ珍しいものに満足していればよかったのに。真実を確かめようとするからこうなるのです。わたくし、ちゃあんと申し上げたではありませんか」

 
 どうなっても知りませんぞ、と。
 事実その男は再び村を訪れることはなく。村長が、怒りと豪雪に囚われた村人たちがどうなったのかは誰も知ることはなかったのだった。

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