ほどもゑざむらい(ヌオーVSフタチマル)

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ジェードさん主催の『ポケモンバトル書きあい大会』に参加させていただきました。テーマC、ヌオーvsフタチマルです!
 真っ直ぐと伸びた髷の、いかにも気風が良さそうな青年が、雪の中、木目入りの球を片手に屋敷へ押し入った。目つきの涼しい、凛と光る意志が感じられる若武者である。その名を一首 二太刀丸(ひとくびふたちまる)。十九、二十ほどになろうか、未だ頬に赤みの残る美青年だった。所はイッシュ地方ホドモエシティの前身、その中心地にある大きな屋敷。彼は代官である悪美有 井角之助(わるびあるいかくのすけ)の悪行――上様に奉納する品物を作っていたか弱い町娘の父親を痛めつけ、それをわが物としようとしたこと――を知るや否や、上に伺いも立てずおっとり刀でここにやってきたのだ。そんな二太刀丸は今、冬の寒さもお構いなしに、裸足でちゃきちゃきと屋敷の廊下を駆けている。

「なんと生意気な!」
 広い屋敷の縁側で、侵入者を確認した小太りの男が叫ぶ。肌はぎらぎらと照り、着物にはいたるところに金の菱形模様があしらわれている。これが悪代官でなくてなんだ、と言いたくなるような服装をしていた。彼こそ悪代官、悪美有井角之助その人であった。
「この儂の屋敷に攻め入るとは不届き千万!斬れ斬れ、者ども、打ちのめしてしまえーい」
 貫禄ある叫びに気圧されて、二太刀丸はややひるんだ。代官の手下が次々にとびかかってくる。
 しかし、彼はここぞとばかりに木目入りの球を投げた。内より出で来るはフタチマル。幼いころから剣の腕を磨き、競い合った相棒だった。フタチマルはホタチをパッと外すと、すれ違いざまフシデとズルッグの首元に『シェルブレード』を一撃する。その光景に代官は歯噛みした。
「ぐぬぬぬ……わしがとどめを刺す!貴様らはそれまで体力を削っておけい」
「しかし代官様、あの若者は……」と手下の一人が言う。
「知らぬ、知らぬ!ばか者め、詮議もまだ行われておらぬのだ。あれは言わばアン・オフィシャルな討ち入り。英雄の子孫がなんじゃ、ここで討ち捨ててしまっても問題にはならぬわい。ここまで来て負けられるものか。わかったらさっさといてまえーい!」
 袖を振り回し、代官が木の玉の中より解き放ったのはワルビアル。鋭く一鳴きした隙間からは、白く光る牙が覗く。
「ははーっ」
 巻き込まれてはたまらぬ、と手下は二太刀丸のもとへ向かっていった。

 それから四半刻ほど過ぎたであろうか。
「ええい。斬り捨てい、やってしまえ」と喚きながらも、井角之助は剣戟の響きが近づいて来るのを感じていた。フタチマルは舞うように、ホタチで敵を屠っていく。二太刀丸も同様に、的確な指示でずんずんと井角之助の方へ歩を進めていた。
 障子を突き破って『シェルブレード』を食らわせ、振り向きざま背後のハトーボーを斬り、コマタナの刃を受け止め『リベンジ』で吹き飛ばす。
 今、用心棒の霧喜算(きりきざん)もやられた。
 二つの足音が徐々に近づき、とうとう二太刀丸と井角之助が向き合った。
「ここまでだ、悪美有井角之助」
「……きさまのような若造に、わしの夢が阻まれてたまるかーっ。ワルビアル、『かみくだく』じゃい!!」
 井角之助は必死の形相で庭に躍り出ると、そのまま反撃に出た。狙いはなんと二太刀丸。
「フタチマル、『シェルブレード』だっ」と二太刀丸が指示を飛ばす。襲撃者をキッと見据え、その迫力にワルビアルがたじろいだ。肝の座った青年であった。
 ワルビアルの死角からフタチマルが飛び出してくる。ワルビアルに水の刃が迫る。が、そこはワルビアルもさる者で、咄嗟に標的を変えた。
 カーン、とどこからか拍子木の音が響き、シルエットだけになったフタチマルとワルビアルが交錯する。
 フタチマルは体をくるりと一回転させるも、膝をついた。
「よおし」と井角之助。
 しかし、ワルビアルの顔に苦痛の色が現れた。グエ、とうめくや、宙をかきむしり、のたうち回って、最後に見得を切るようにした後、その体はゆっくりと地面に向かって倒れていく。
「ばかな」と井角之助。「『いかく』で攻撃が下がっておるはずじゃ」
「自分のポケモンも、相手のポケモンも把握していないのがお前の弱点だ」と二太刀丸が言った。フタチマルが懐から何かを取り出す。
「『しろいハーブ』。お前があの子のお父さんから奪った品物だよ」

「さあ、大人しくするがいい」
 井角之助は唸った。多少回復したフタチマルが、後ろから『シェルブレード』の構えで迫っている。もう逃げることはできない。
熟慮の末、「かくなる上は、殺せ」と代官が言った時、腰につけてあったもう一つの木の球から何かが出てきた。
 それはヌオーであった。
「なぜヌオーが……?」と二太刀丸がつぶやく。
 ヌオーは主人の危機と見るや居てもたってもいられず、飛び出してきたのである。ヌオーは少し躊躇した後、『マッドショット』をフタチマルに向けて放った。とても弱弱しいものだった。
 当然、軽く『マッドショット』を避けたフタチマル。ぺちん、とヌオーをはたくと、ヌオーはすぐさま昏倒した。
「ヌオー……」
 一方、井角之助は幼少期のことを思い出していた。
 沼地で遊んでいたときに出会ったウパーを、父に頼み込んで飼うことにした。清廉潔白を良しとする父は、ウパーのことをよく思わなかった。泥というのが悪かったのだろうか。
 だが、必死の説得で父も折れて、仲よく遊び、自分が成人する頃にはヌオーになっていた。
 そんな折、政敵の策により井角之助の父が失脚したのだった。いつしかヌオーを外に出す機会は減り、井角之助はどんなことにも手を染めるようになっていた。一体どこで道を間違ったのだろうか、と井角之助は思った。
 倒れたヌオーを見ながら、二太刀丸がゆっくりと口を開いた。
「ポケモンに罪はない。あなたが心を入れ替えれば、このヌオーも、また付いてきてくれるだろう」
 くずおれた悪代官の目尻から、涙が一筋、はらりと溢れた。彼らを中心に見据えながら、視線はそのまま天へと昇っていく。広大な海が視界に入った。
 ホドモエには、おぼろに雪が舞っていた。
 もう冬である。



◇◇◇
 一発撮り。稀代の名作映画になる、と監督が万感の思いを込めてクランクアップの宣言をした後のことであった。上のごときエンディング案からは想像できないだろうが、実際にこの映画はものすごく面白かった。これはもう、事実としてそうなのである。だから、いくら上のシーンが面白くなさそうでも、このことは誰にも覆せない。
 さて、ベテラン役者のヌオーが所用ありと言った顔ですたすたとホドモエスタジオを抜けようとした際、「お待ちください」と声を掛けられた。
 振り向くと、そこにはフタチマルが立っていた。ヌオーは、昔気質なんだよなあ、と苦笑しながら声をかける。
「おおーう。フタチマルさんやないのお。撮影お疲れさまあ」
「お疲れ様です。お見事な演技でしたが、やっぱり普段はコガネ弁が抜けませんね」
 ヌオーはジョウト出身なのだった。
「そりゃあ、こっちのほうがキュートだからさ。フタチマルさんは生粋のイッシュっ子だし、しかもチャンピオンのダイケンキの息子さんだから。コガネ弁くらいの個性は欲しくてねえ」
「それを言うのは勘弁してくださいよ」フタチマルも苦笑した。チャンピオンが全幅の信頼を寄せるパートナー、ダイケンキ。彼はそんなポケモンの息子なのであった。
「そうだねえ。それで、今日はどうしたの」
 気を取り直して、ヌオーが聞く。
「どうしたってほどのことでもないんですが、ちょっと、ヌオーさんとぜひバトルさせていただきたくて」
 そう言うとフタチマルは頬を恥ずかしげにかいた。
「バトルねえ。別にいいけど、そりゃどういう風の吹き回しで」
「いいんですか」
 フタチマルの顔がぱあっと明るくなった。
「実は昔から不思議だったんです。こんなに強い方が、どうしてこんな役ばかりやっているんだろうって」
「まあ、見た目だよねえ。さっきのさ、ワルビアルさんだって真面目ですごい優しかったでしょう。だからバトルが苦手で、あそこまで強くなるのに苦労したみたいよ」
 ヌオーはワルビアルが振舞ってくれた木の実ジュースのことを思い出しながら言った。
「それは分かります。でも、不思議なんです」
「でも、ってなんだい」
 物わかりのいいフタチマルが何を不思議に思ったのか、ヌオーには分からなかった。
「そのお、言いにくいんですが」
 フタチマルは口ごもった。ちょっと様子が普段とは違う。
「何でも言ってくれていいのよ」
 それでは、と前置きして、フタチマルが言った。
「ヌオーさんは、あまりに強すぎる」
「あー……ははは、それはほら、ねえ」
 そんなことないんだがなあ、と、ヌオーは言わなかった。

 しんしんと雪が降り積もる6ばんどうろの川べりに、ヌオーがちょこんと座っていた。傍から見ればのどかな光景だが、その周辺にはポケモン一匹いなかった。血の気の多いバスラオも、今日ばかりはわざわざ川を遡らねばならない。
 背後から、「お待たせしました」と言う声がした。
「ああ、私もさっき来たところだから」
 ヌオーは川面から目を上げて、フタチマルの方を向いた。見れば頭に真っ赤なハチマキ。
「気合入ってるねえ」
「もちろんです!」
 フタチマルはハチマキをぎゅっと締めながら言った。
「どうぞよろしくお願いします」
 そんな焦らんでもなあ、とヌオーが呟いた。
「ま、気楽にやろか」
 落ちていた小石を拾い上げる。
「これが川に落ちた瞬間から試合開始でいいかい」
 フタチマルがうなずくのを確認して、ヌオーは右腕をぶんと振り上げた。
 公平を期すため、小石ははるか高くまで上がった。それが水面に触れ、音がするか否かのタイミングでフタチマルが駆け出した。ホタチに手をかける。先手必勝の『シェルブレード』だ。
 だが、ふっと妙な寒気がした。フタチマルは足元を見る。
 ヌオーが放つ『ストーンエッジ』の石柱が、素晴らしい勢いで地からせり上がりつつあった。

 フタチマルの頭脳は今までにない勢いで回転していた。重心を前に出し、ホタチを構えなおして、足元に添えた。焦って迎え撃ったりはしない。それができる威力ではないと分かっているからだ。
 石柱が突き上がると同時に、『シェルブレード』でできた足場が傾きながら吹き飛んだ。フタチマルはその勢いを受け、ヌオーの方へ一気にすっ飛んでいった。
「さすがのセンスだなあ。チャンピオンの血族ってのはみんなコレなのかね」
 ヌオーは、感心したように、のろのろと言った。もちろん、普通ならばこんな事を言っている暇はない。フタチマルが足元のホタチを手に、ヌオーの喉元へその刃を突きつけに来るだろうからだ。
 しかし、そうはならなかった。
「うわあ!」
 フタチマルはうめいた。
「いちおうコレであることに賭けて『マッドショット』を撃ったんだから、感謝しなきゃダメだけども。才能の差って嫌だね」
 ヌオーは、地面にたたきつけられたフタチマルの方を一瞥しながら言った。顔にはべったりと泥がへばりついている。『ストーンエッジ』に隠れるようにして放った『マッドショット』が、宙を飛んでいたフタチマルの顔面にクリーン・ヒットした、という訳だった。
 フタチマルは立ち上がったが、その足取りはだいぶ危なっかしい。
「大丈夫かい」とヌオーが言う。早くも決着がつきそうだった。

 フタチマルはその声を聴きながら、頭を支える糸が切れたようにうつむいていた。感覚的には、もうすぐダイケンキに進化できると思っていた。親のようになるためには血の滲むような努力を重ねなければならないのは分かっていたが、それでも、ダイケンキになれば何かが変わるだろう、と。しかし現実はどうだ。自分は今、ヌオーの『マッドショット』を一撃喰らっただけで倒れかけている。
「おっと」
 足取りがふらついた。すばやさが下がっているのも分かっている。だが、体から湧き上がる力が、すばやさの低下を理由にこのふらつきを肯定するのを拒んでいた。
「……ヌオーさんは偉大すぎる」
 『げきりゅう』だ。自分は今、明白に、苦境に陥っているのだ。役者のほんのジャブによって。
「おーい、大丈夫かい」
 再び偉大なる声がした。視界の端で真っ赤なハチマキが揺れた。体が燃えるように熱い。
「大丈夫じゃなさそうだな」
 その表情を見た途端、ヌオーの全身が凍てついたようになった。

 楽しい!それが最初に浮かんだ感情だった。
 この苦境において、フタチマルは体から光を放ちながら獰猛な笑みを浮かべていた。ヌオーは瞬きの後、再び『ストーンエッジ』を放った。石柱はことごとく砕かれる。手加減はさしてしていない。それが、『シェルブレード』の一撃で砕かれた。
「いやいやウソでしょ」
 口から飛ばした『マッドショット』が斬り払われた。
「こりゃ、いよいよ嫌になっちゃうな。カメラの前ならどんな天才の相手でもしなきゃいけないのが、経験だけはある役者のつらいところだ」
 ぶつくさと呟きながら、ヌオーは再び『ストーンエッジ』を放った。ただし、今度は砕けた側から『マッドショット』が飛んでくるオマケ付きだ。
岩の欠片が散らばり、泥の塊がそれを飲み込んでフタチマルに迫った。
 次の瞬間には、その塊がそのままこちらに向かってきていた。
「ほう」
 ヌオーは目を丸くした。
「『ハイドロポンプ』を覚えてるのか。わざわざ、わざレコードを輸入してるのかね。わざだけに」
 『ストーンエッジ』が立ち並び、防波堤を作った。岩と岩がぶつかり、擦れる音がした。ヌオーはそこからのそのそと離れていき、口をあんぐりと開けてフタチマルが岩を砕くのを待つ。そこに『マッドショット』を浴びせようという算段だった。
「ちょいと大人気ないが、こっちもそうやすやすと逆転されたら困るんだ」
 ヌオーはもごもごと口を動かした。しかし、いつまで経ってもフタチマルが来る様子は無い。暇を持て余したので、防波堤の橋まで行って顔を出しかけたりした。ヌオーの中で、流石にバトルに使う間ではないという結論が出た。
「どうしたもんかな」
 防波堤の上からぬっと顔を出して、ヌオーは慄然となった。激流の『ハイドロポンプ』が、眼前に迫っていた。ずいぶん力を溜めていたに違いない。
「こりゃあかんわ」
 ヌオーはいつになくくりくりと開いた目で、窮地の若いエネルギーの爆発を眺めつつ思った。

 激流の後で、ヌオーがむくりと起き上がった。ところどころに擦り傷は作っているようだったが、これといって目立った外傷はない。根こそぎにされた辺りを見回して、青い影の方へ歩き出す。足取りに以前と変わった様子はない。『げきりゅう』が発動しているとはいえ、あの『ハイドロポンプ』にヌオーを戦闘不能にするほどの威力はなかったのだろうか。
「『まもる』使ったってのに久々に目回しちゃったよ。フタチマル君は凄いやな……」
 いや。あの『ハイドロポンプ』には、ヌオーを戦闘不能にしうるだけの威力があった。ただし、ヌオーは今回『まもる』を使っていた、というのが事の真相である。
「おお、いたね、いたね。フタチマル君だ」
 ヌオーの足元を見ると、大きな角に白いひげを蓄えたポケモンが目を回していた。
「ははは、いや、ダイケンキ君って呼んだ方がいいのかな」
「お好きにどうぞ」
 目を擦りながらダイケンキが言った。
「それにしても、今回は完敗でした」
「そんなことないだろう。引き分けだよ、引き分け」
 なぜですか、とダイケンキが言う。ヌオーは笑いながら答えた。
「そりゃ、取りたい画は『ヌオーVSフタチマル』だからね。ダイケンキに進化した後に倒れたってことは、ヌオーvsフタチマルの決着はついてないってことになる」
「取りたい画?」
 ヌオーがぬぼっ、と鳴くと木陰から、カメラを片手に井角之助を演じていたベテラン俳優が出てきた。
「主人を守るために戦うヌオーと、正義を貫くために戦うフタチマル。こんなオチも面白いと思う、ってことを言ってね。そしたらカメラ回そうか、って」
 ダイケンキは露骨に顔をしかめた。
「僕は真剣勝負のつもりだったんですけど!」
「ははは、それは私もだよ。それぐらいで撮った方が迫力が出る。でも、流石に『どくどく』は使わなかったけどねえ」
 寝返りを打ちながら、納得いかないなあ、とダイケンキが愚痴をこぼした。
「私たちは役者だからね。さて、監督は私が君にやられるシーンをご所望らしい。撮りに行こうか」
 二太刀丸役の若手が、ダイケンキにかいふくのくすりを吹きかけた。ダイケンキはしぶしぶ立ち上がって歩き始める。ヌオーが笑った。
「なあに、これが終わったら今度こそ本気で相手をしよう。今度は決着をつけようじゃないの」
 ダイケンキは改めて、この方にはまだ敵わないなあ、と思った。
 実際はこの発言の最中に、ヌオーの背中を冷汗がだらだらと伝い、どうにかうやむやにできないかと考えていたということも明記しておこう。ヌオーの『まもる』が一秒でも遅れていたら勝敗は分からなかったのだ。そんなことを隠して、二人と二匹は進んでいった。
 幸い、ホドモエにはまだ雪が降っている。もう1シーン撮るには、困らないように思えた。

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