邪悪の神鳥、烙印の矢

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 【 伝説の とりポケモンの 1匹。ファイヤーが 姿を 見せると 春が 訪れると 言われている。】
  図鑑説明より


ジェードさん主催の「ポケモンバトル書きあい大会」エントリー作品
ファイヤーVSジュナイパーです。
 邪悪なあの鳥を除かなければならない。

「ひどい有様だ」
 一人の騎士が二匹のポケモンを連れて山道を登っていた。騎士はその権威を示すキラキラに磨かれた立派な鎧を着込み、その鎧には多くの十字架の刻印がされていた。彼こそが十字を掲げる聖教会に剣を捧げた聖騎士であり、この地に邪神がいると聞いて聖教会より派遣されてきた。
 普通の山であればそこに木が生い茂り森となっているはずなのだが、この山は木がほとんど生えておらず、背の低い草と岩しかない殺風景が広がっている。
「あの邪悪の仕業だ、あれがこの山の森を焼き払い、我が『主』より与えられし恵みの森を、死の山へと変えてしまったのだ」
 なお、この山は大昔に噴火してできた休火山で、溶岩由来の土には太い根を張ることができず、地質的に太い幹を持つ木が生えることはない。これがこの山のもともとの姿である。
 そうして山を登ること一刻、彼はとうとう目的のポケモンを見つけた。

 邪悪なる神鳥 後の世では『ファイヤー』と呼ばれることになるポケモンだ。

 それは麓の民が建てたであろう聖壇の上で翼を休めており、民が用意したと見られる少し腐りかけた供物の食べ残しもあった。ここに居座り、こうして民から作物を搾取して腹を肥やしているのだ。
 麓の民は、偉大なる我が『主』への信仰をないがしろにして、隠れてこの邪悪な鳥を崇拝している。聞けば「春呼びの神鳥さまを祀らなければ冬は残ってしまい、春はやってきません。そうなれば我々は飢えて死んでしまいます。どうかこれだけは奪わないでくださいませ」と言う。
「まったく下らぬ」
 かわいそうに、あの邪神に心を乱されて操られてしまっているのだ。
 神は一つ、偉大なる我が『主』を生み出したもののみ。
 それを守らねば終末の裁きの時に救いを得ることができない。
 偉大なる我が『主』のためにも、あのような邪悪なる鳥は消えてもらわなればならない。


「聞け、我の名はトラオヴァーク。聖教会より命を受けし聖騎士。私はお前の正体を知っている、神を騙り民を惑わし、豊穣を奪って搾取する者よ、偉大なる我が『主』の御名において命ずる。悪魔よ滅びよ、地獄へと帰れ」
「…………」
「……リィ」

 聖騎士は剣を抜いて名乗り口上を唱える。ちなみにトラオヴァークは偽名である、戦う相手への名乗りは騎士道の流儀だが、悪魔は相手の名を掌握して術を行使すると言われるので、ここでは必ず偽名を名乗る習わしだ。
「…………???」
 ファイヤーは何を言っているのか分からない顔をしながら、光り輝く鋼の鎧を身に着けた人間の雄と、その隣に控えて口を閉じて無表情でたたずむ寡黙な樹梟の射手、人間の足元から怯えた顔でこちらを見つめる丸く青い水鼠を見つめる。
 雨が降り始めた。

「葉矢を放て! 邪悪な魔鳥よ、去れ!!」
 それが合図となり、樹梟の射手――ジュナイパーは音もなく飛び立つ。
 ジュナイパーは翼を翻し、自らの翼と蔓で出来た弓で、鋭利な刃物に硬化させた葉を矢じりにした無数の自前の[はっぱカッター]の矢を射放つ、その矢はファイヤーの翼に触れる瞬間に燃え尽きた。
「やはり草葉は全く届かない、あの炎はまやかしではないか」
 いままでに見たことも戦ったこともない敵を前にして、聖騎士は相手の属性とその強さを見極める。雨が降り始めても衰えることのない炎の揺らめき、もしかしたらあの翼は見せかけの幻である可能性はあった。
 だが本当に燃えているようで、この雨の中にも関わらず衰えることなく燃やせるということは、その炎の温度は極めて高く、今後の草を用いた攻撃は一切通らないとみて間違いないだろう。

 一方のファイヤーはまず静かに相手をにらみつけて、状況の分析をおこなう。
 樹梟からは強い覇気を感じ、よく鍛えられているが、丸く青い水鼠(マリル)からは感じ取れない。おそらく水鼠は[あまごい]を使って、この場の天候を常に雨にとどめ置くために連れているだけなのだろう、樹梟を黙らせればこの場から去るとみられる。
 そして向けられた敵意を振り払うべく、戦闘態勢へと移行する。翼を大きくはばたき炎を噴射する。[かえんほうしゃ]だ。

「銀矢だ、射放て」
 火炎放射の軌道を軽々と見切りながら避けるジュナイパーは、滞空しながら翼に収納してある銀の矢を掴むと、空中で回転しながら弓を引いて、広範囲に渡って次々と放つ。
 ファイヤーはそのうち二本を避けることができず、翼に刺さった矢はすぐに燃やしてしまおうとするが、燃えない。
「無駄だ、その矢は特別製でな」
 『ぎんのハリ』を用いて作った、人造の金属製の矢だ。
 ジュナイパー自らが生成した矢に比べると扱いは悪くなるが、威力は段違いになる。

 しかし、ファイヤーが力を入れて火力を上げると銀の矢は一瞬で解けて無くなった。
「なにっ?!」

 その後の攻撃もジュナイパーは熟練された動きでひらりと躱してしまう。ならば、と翼を大きく扇いでファイヤーは[ぼうふう]を発動させる。線や面の攻撃ならばこのジュナイパーならば楽に回避できるだろう、
 しかし暴風は全体に影響を及ぼす回避不可ワザだ。防御をしてダメージを防ぐことはできるが、ふき飛ばされることは避けられない。
 荒れ狂う暴風に滞空するジュナイパーは吹き流されてしまった。

 そして、再び[かえんほうしゃ]を放つ 狙う先は聖騎士。
 手練れの樹梟よりもトレーナーへの直接攻撃をして終わらせた方が簡単そうだったからだ。

 暴風の風圧に耐えるべく柄に入れた剣を地面に突き刺して耐える聖騎士。
 その聖騎士への火炎放射をそばにいた水鼠がかばって、その身で代わりに受ける。
「リ、リ、リイイイイ!!!」
 予想以上の熱さに悲鳴を上げるマリル。
 天候が雨に加えて、炎に対して極めて強い耐性を持つはずのマリルでも無効化しきれない火力を持つ炎。このような炎を人間の身が受けたら死は免れない。

 これこそが神と崇められる『春呼びの神鳥』ファイヤーの、神なる炎。

 体勢を立て直して戻ってきたジュナイパーが、隙をついて後ろから銀矢を当てる。
 すかさずファイヤーは回避不可能の[ぼうふう]を放って、再び薙ぎ払おうとした。
 この目ざわりな樹梟をどかして、ほとんど動かない人間に向かって攻撃を加え続ければ勝利は目の前だった。
「虚ろに、潜れ!」
 しかし、一度見た同じワザを二度受けることはない。避けても守っても無駄ならば、透過するのみ。
 その刹那、ジュナイパーの存在がいなくなる。隣の次元に一時的に移動して、この次元空間で起こったすべての事象から回避したのだ。
 そして[ゴーストダイブ]で再びその場に現れて、銀矢を射て、当てる。

 先ほどから体が重い。
 動きが鈍くなっているのは辺りの空気が湿っているから悪いのだと、ファイヤーは判断して[にほんばれ]を使う。雲が一気に開けて陽光が辺りを照らし出す。
 そして、ねっぷうを起こそうとした、その瞬間
「……!」
 ジュナイパーの[かげうち]の矢が命中し、体勢は崩れ、その熱風のワザの発動を無効にした。すぐさまマリルの[あまごい]が発動し、その場に再び大雨が降り始める。




 そうした攻防を続けているうちに。突然、ファイヤーの翼の動きが鈍り、地面に吸い付くようにして落下した。
「ファッ!?!?」
 それはまるで、地面に縫い付けられているかのようだった。
「やっと効果を発揮したか」
 追い打ちと言わんばかりに数本の矢がファイヤーの体とその地面の影を含めて降り注ぐと、地面に這いつくばるようにしてその動きは完全に止まった。

 ――[かげぬい]
 ワザを受けた相手をその場に縫い合わせる。

 その束縛ワザを射る矢に込めて発動させて、何度も何度も重ね掛けさせていった。
 一回一回では動きを封じるまではいかないが、これだけのたくさんの矢を命中させれば効果は蓄積して強い呪縛となる。

「フオオオオッ!!!」
 ブチブチブチッと音を立てるように、ファイヤーは地面に縫い合わされていた影を、力任せに引きちぎる。
 何と野蛮で荒々しい、並の相手であれば腕一つ上げられないはずの呪縛を破るとは、あまりにでたらめな力だ。
「っ! 早すぎる、だがっ」

 聖騎士にはそれは想定内だった。この相手が、これしきで動きを封じきることはできまい。だが、呪縛が続いて動きが鈍った今こそ、この矢を放つことができる。聖騎士は次の指示をジュナイパーに下していた。

「重矢装填っ! 強弓で翼を、ちおとせ」

 地に足をついたジュナイパーは弓のツルの張りを引き絞り、背中に背負っていた、岩のような硬さと重さを持つ一本の矢を構えると、呼吸を整えて渾身の力で弓を引いて、射る、空中に浮遊するファイヤーを、[うちおとす]。

「ファァアアアアアア!!!!」

 重い矢は狙いをつけるのが難しく、地上で十分な引く時間を用意できないと射ることができないが、今であればその隙も作れる。影縫いで動きが鈍っていたファイヤーの翼の急所に命中して、再び地に落ちる。
 ファイヤーは悲鳴を上げた。傷んだ翼は機能を失い、さすがに少し間は飛行することができなくなるだろう。


 しかし、まだ足りない。

 ここまでは一時的に動きを封じているだけであり、与えたダメージ自体はまだ少ない。
 形無きものを封じる、影縫いの効果でファイヤーの身を包んでいた炎の揺らめきは失われて静止していた。今ならばその身に触れても焼かれることはないだろう。

「仕上げと行こう。烙印だ」
 それを聞いたジュナイパーは聖騎士の目を見て黙って頷き、何かを持って振り払うような奇妙な踊りを始める。これは戦いの踊り[つるぎのまい]。その踊りを続けたままゆっくりと浮遊して上空へと[そらをとぶ]。

 ファイヤーも完全に身体が縫い合わせてしまい、一切の身動きが取れないながらも必死に防御の体勢に入る。
 ジュナイパーは上空で宙返りした後、真下の地に伏せた標的に狙いを定め、それを目掛けて一気に急降下する。


 ――多彩な矢を使いこなす弓引きジュナイパーの最終奥義。
 ――それは自分自身が『矢』になることだった。


 超威力の突撃ワザ[ブレイブバード]の急降下は、重力によって加速し、さらなる速さを得る――。

「烙印の矢」

 それを受けた相手にいえない傷跡――烙印を残すことから名づけられたこの奥義。
 地面に伏せていたファイヤーはその衝撃を逃がすことができず、その身でそのワザの威力をすべて受けることになった。
 不死鳥のごとき肉体を誇るファイヤーも、この攻撃は耐えきれず、体力をすべて失って気を失った。
 急降下ブレイブバードの反動でフラついている状態ではあったが、最後に立っていたのは聖騎士のジュナイパーだった。







「さあ、見よ。これは天におわします我らの『主』より賜りし聖水だ。聖なるものを癒し、邪悪なるなるものを焼くとされる」
 聖騎士は、十字架の刻印がされた神聖な硝子瓶の蓋を開き、中に入った冷たい真水を倒れているファイヤーにかける。水は焼けたような音を立てて蒸発し、ファイヤーの体がちょっと冷える。
「おおっ! やはり、邪悪なる悪魔であったか! 忌まわしき邪神をこれより神の実ヴォングリに封印する」
 聖騎士は袋から空のボールを取り出して、身動きが取れない弱らせたファイヤーをボールの中に閉じ込めて捕獲を完了させた。



 * * * * * * * *


 捕獲されたファイヤーは教皇の元に届けられ、ポケモンの力を削ぎ落としワザを使えなくさせる素材で出来た枷を何重にも装着させた上で無力化された。
 教皇は悪魔を見事討ち果たした聖騎士の活躍をほめたたえて、褒賞を与えた。
 そして邪悪の烙印を押されたファイヤーは、神として祀っていた麓の民の村に送られて、その村の広場に生きたまま吊るし上げて晒し物にされた。
「さあ、見よ。これがそなた達が『春呼びの神鳥』として崇めていた哀れな鳥獣である」
 司教は村人に、この哀れな鳥獣に石を投げるように命じた。

 何も知らない子供たちは楽しそうに石を投げた。
 年寄りたちは見えないように隠れて涙を流して嘆いた。
「ああ、なんということだ、もうこの村に春は来ない」

 哀れな鳥獣は、生きたまま翼の羽を毟られ、皮を剥がれ、肉を削がれた。
 しかし、強大な生命力ゆえにすぐには死に至らず、生き続けることになり。
 語るに堪えない酷い辱めを受けながら、7日目でついに死に絶えた。


 やがて神を失った村にも冬がやってきた。
 そして、次に春はやってきた。


 * * * * * * * *


  ああ忌まわしき、忌まわしき者よ。
  許すまじ、例えこの身は滅びようと、この炎は消えようと。
  このもえあがるいかりは無くならぬ。
  そうだ、我が再び蘇りし時は汝らが呼ぶ邪悪になってやる。
  汝らが望みし邪悪な、もえあがるいかりで焼き尽くしてやる。


 * * * * * * * *


 当時、各地に勢力を伸ばしたその聖なる教えは、侵略地の民に改宗を迫り、異教徒を弾圧した
 異教の群像崇拝を禁止し、邪神像は徹底的に破壊し、異教の神を描いた絵は黒く塗りつぶした。

 それは現地の民が神として崇めるポケモンたちも例外でなかった。
 教会は敬虔で信仰に厚く腕の立つ聖騎士を派遣し、そこに住む伝説のポケモンを捕獲した。
 そしてそれを吊るし上げて、それを崇めていた民自身に殺させた。
 いままで自分たちが崇めていたモノは、神でもなんでもなく、ただの害獣であり、人の心を弄ぶ悪魔である。
 ゆえに、真の正しき教えを持つ人間の前には無力であり捕獲できる。そして獣であるから殺すことができるのだ。と知らしめた。

 その教えによって数百もの信仰が途絶えて、数多くの神は殺された。
 ある神は残虐な人を見限り、冷酷であろうと欲した。
 ある神は人から逃れるため、健脚であろうと欲した。
 ある神は人に望まれて自ら、邪悪であろうと欲した。



あとがき

・地元に愛される神様を巡る、中世あたりの歴史モノです。
・邪悪なポケモンと書いてありますが、炎飛行の原種ファイヤーです。じゃあくポケモンのファイヤーがガラルで見かけることになるのはこれ以後のことらしいです。
・騙し討ちや複数体で戦う卑怯なことはせず、名乗った上で騎士らしく1対1での決闘です。
・さすがに雨くらいは降らさないと勝てそうな気がしないので、天候固定用の置物として聖教会らしいフェアリータイプのマリルを配置。
・最後のとどめはZワザの予定でしたが、時代設定的に無理がありますし、他の方の作品との差別化を考えて急降下ブレイブバードにしました。

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