ジェードさん主催、ポケモンバトル書きあい大会エントリー作品。
そいつに出会ったのは、その時が最初で最後だった。
滅多に見つからない伝説のポケモン。ましてや、普段は姿を世界に溶かしているのだからなおさらだ。千載一遇の好機を、逃すわけにはいかない。
しかし、そいつが私を前にして取った行動は、逃げの一択だった。まだ出会って間もない、こちらが殺気を向ける前から、そいつはこちらに背を向けて去ろうとした。それだけならまだいい。そいつは笑っていた。俺の存在に気付いていながら恐怖に怯える様子もなく、歌でも一つ歌いたいような表情で。
ふざけるな。九本の尾が怒りに打ち震えた。せっかく得た機会なのだ。せめて一泡吹かせてやらなければ気が済まない。
無防備な背中に、猛吹雪が殺到した。鋭い冷気は瞬く間に竜を包み込み、その形のまま凍らせてしまった。
見たか。これが俺の力だ。できあがった氷像に、氷の礫をぶつけて叩き割った。
瞬間、世界が鮮やかに塗り替わった。
まるでぼやけた視界にルーペを当てたように、目の前を覆っていた遮光板が取り払われたように。世界はこれほどまでに鮮明だったのかと、心の底から驚く程に。光の粒が舞っている。今まで見たどんな景色よりも輝いて見えた。それがそいつの手の内だと分かってもなお、目を離すのが惜しいくらいに。
砕いた氷に駆け寄ったが、中には何もいない。まさか。確かに凍らせたはずだというのに。
よもや、俺が凍らせたのは幻だったというのか。
幻想的な光景に包まれたまま、俺はただ立ち尽くすしかなかった。
「あー、怖かった」
赤い竜はほっと息を吐いた。思えば、気を抜いて姿を現したのが間違いだったのかもしれない。いきなり襲われるなど思ってもみなかった。しかも、自分が苦手な冷気の使い手に。
口では怖かったと言いつつ、竜は笑っていた。それは彼女からすればほんの一瞬の出来事だった。しかし、窮屈な決まり事に縛られる毎日に嫌気がさして住処を飛び出した彼女にとって、久方ぶりに心躍る瞬間だった。
対戦カード
A:キュウコン(作中ではアローラの姿)vsラティアス