【伊崎式バトル004】ファイヤー(原種)vsジュナイパー

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※伊崎式バトルとは?
……Twitterでリプをもらったポケモン同士を伊崎の文面で戦わせるという企画。作者がバトルシーンを一杯描きたいからやってる企画。
今回はジェード氏主催の「バトル書き合い大会」出展作品です。
【Battle File 004 ファイヤーvsジュナイパー】

トレーナーとして、ある程度の上級者になったと自負した俺。
遂に俺は、激レア級の「伝説のポケモン」を捕まえるべく秘境へと訪れた。

活火山の頂上付近、既に酸素も薄くなる高度の岩場。
しかし天気は快晴で、気温は自然と温かい。
それは俺がきちんと天気を予測して訪れたから……というのもあるが、厳密にはそれだけじゃない。

ここは「常春の山」の二つ名を持つ高山で、常にこういった気候なのだ。
その温暖さの根源は全て、山の主……否、『標的』の存在に他ならない。

……ほら、そんなことを考えていたら早速お出ましだ。
全身が揺らめく炎に包まれた鳥ポケモン……正式名称「ファイヤー」。
春の訪れを知らせる、空の支配者の一角だ。
その存在感の大きさは、半径100m以内にいる俺の鳥肌が指し示していた。

「ウラァ……。」
ファイヤーは全く警戒心を見せることなく、俺の方へ舞い降りてくる。
舐められているのか……?

……違う。
あの眼は俺を試そうとしている眼だ。
自らと並び立つに相応しい相手か、その身で評定しようとしているのだ。

……良いぜ。
やってやる。
俺の一番の相棒とともに、全力をぶつけてやるッ……!

ファイヤーに見守られつつ、俺はボールを投げた。
「行って来い、ジュナイパーッ!」
「るっほぉおおおうッ!」
ジュナイパー……『密林の狙撃手』とも呼ばれる、遠隔攻撃のエキスパートだ。

え、彼はくさタイプでファイヤーに不利……だって?
そんな事は俺でも分かっている。
確かに相性上は不利だ。

だがな、俺がコイツをチョイスした理由はそれだけじゃない。
……まぁ今にわかるさ。



ギラつく太陽が南中し、それが試合開始の合図となった。
「行くぞジュナイパー、『かげぬい』ッ!」
「るほおおおおおうッ!」
先手は俺らが奪い取った。
ジュナイパーはすぐさま3本の矢をつがえ、足元・脳天・左翼の付け根の3箇所を同時に狙い撃つ。

『かげぬい』は相手の身を貫くだけでなく、影をもその場に縛り付ける。
即ちどれか1つがヒットすれば、ファイヤーは機動力を大幅に失うのだ。

「……ウラァアアアアアッ!」
だがファイヤーは、それを避けることはしない。
……正面から『かえんほうしゃ』の一撃を放ち、矢を全て焼き切ってきたのだ。
首を縦にスイングした広範囲ブレス……防御手段としての隙がない。

しかもファイヤーはその勢いで飛び上がり、置き土産にもう一撃『かえんほうしゃ』を飛ばしてくる。
真上から吐き出される炎が、ジュナイパーを正確に焼きに来たのだ。
勢いが強い……おそらくこの山頂の日差しが原因だろう。

……だがその程度は対策済みだ。
「飛び込めッ、『はいよるいちげき』ッ!」
「るほおおおおおおうッ!」
ジュナイパーの姿が揺らぎ、一瞬にして消える。

そして僅かに1秒後……
ジュナイパーが陣取っていたのはファイヤーの背中だ。
まるでワープでもしたかのように、相手の間合いに飛び込んでいたのである。
「ウラッ!?」
まさかファイヤーも、高度10mの間合いを一瞬で詰められるとは思うまい。

そして現在の天候は快晴。
……舞台は整った。
今この瞬間、最大の一撃を叩き込むッ!

「そこで決めろ……『ソーラーブレード』ッ!」
「るほおおおおおおうッ!」
背後ゼロ距離……降り注ぐ日光エネルギーを装填した巨大な2つの刃が、翼の付け根を切り捨てる。
不意の一撃にて、ファイヤーは地面へと叩き落されたのだ。

「う、ウラッ………!」
小さくない図体を岩場に叩きつけられたファイヤーは、痛む全身をゆっくりと起こす。
……だが、そんな隙は俺が与えない。

「翼を縫い付けろ、『かげぬい』ッ!」
「ほおおうッ!」
放った矢は2つ。
ちょうどファイヤーの翼で生まれた影を、待ち針で刺すように拘束したのである。
これでうつ伏せのコイツは飛び上がれない。

……しかし捕獲に移るにはまだ早い。
コイツは拘束こそされているものの、ダメージ自体はまだそこまででもないからだ。
……ここから徹底的に痛めつけなくてはいけない。

「畳みかけろ……『かげぬい』!」
「るほおおおおうッ!」
すぐに矢をつがえ、本体をめがけた狙撃を行う。

……が、その矢は僅かに軌道をそれる。
そのまま遠くの山へと飛んでいってしまった。
……なるほど、どうやら風が強まってきたようだ。
湿った風が、僅かにジュナイパーの矢を歪めてしまったのである。


……ん?湿った風?


俺は違和感を感じる。
急に山の空気が変わったのだ。
僅かに視界が陰ったことを感じ、目線を上に向ける。
「なっ……!?」
先程まで雲ひとつ無かったはずの空は、いつの間にか暗雲が立ち込めている。
暗雲はまたたく間に広がっていき、やがて大粒の雨をこの地に叩きつけた。

先程までの風すら吹かぬ快晴の青空が一変、暴風を伴うひどい雨と化したのである。
「……!?」
「ほうっ!?」
そんな、ファイヤーの加護がある山でここまで急に天気が変わるものか!?

……違う!
これはファイヤー自身の意思だ!
奴のわざ『あまごい』が発動したのだ!


空が陰り、ファイヤーの足元からは『「影」と呼べる領域』が消失する。
否、その暗くなった地面全てが『影』となったのだ。
こうなってしまえば、『かげぬい』の効力は大幅に落ちる。

ファイヤーはその身の拘束を解き、再び大空へと飛び上がってしまったのだ。
奴の身を穿つ雨粒が、一瞬で水蒸気と化す。
その水蒸気はファイヤーの周囲を覆い隠し、彼を守る天然のカーテンとなったのである。

迂闊であった。
まさかほのおタイプのポケモンが、自らの有利となる天候を捨ててくるとは……!
おまけにこの天気では、ジュナイパーの狙撃も斬撃も満足に放てない。
視界も風力も、全てがこちらに不都合すぎる……ッ!

「ウラアアアアアアアッ!」
ファイヤーは上空から大きく羽ばたき、空気の塊をこちらにぶつけてくる。
ひこうタイプの最強級わざ……『ぼうふう』だ。
今そのわざはマズい……!

「るほおおうッ!?」
「じゅ、ジュナイパー!」
攻撃はジュナイパーに直撃する。
……彼は避けられなかったのだ。

そう、天候『あめ』の中で放たれる『ぼうふう』は必中。
いかなる場所にいようと、ある程度の狙いさえ付けてしまえば外すことは断じてあり得ないのだ。

こうなれば先に接近し、急所をゼロ距離で射抜くしか無い。
作戦変更、次の指示をジュナイパーへ送る。
「まずは間合いに入れッ、『はいよるいちげき』ッ!」
「るほおおおおうッ!」
身体を揺らがせ、ジュナイパーは姿を消……

……そうとしたが上手く行かない。
「ほ……ほうっ……!?」
「おいジュナイパー、何を戸惑っている!?……ん?」
俺は正面のファイヤーへと目を向けた。

異常にはすぐ気づいた。
ファイヤーの周囲に立ち込める霧が、どんどん濃くなっているのだ。
彼の体温が徐々に上がり、空気が熱される範囲が拡大しているのだろう。

それ即ち、ファイヤーの居場所はより捉えづらくなったと言うことだ。
相手の居場所が正確にわからなければ、『はいよるいちげき』は発動できない。
まさに迷彩……『春の訪れを知らせる者』は、雨をも巧みに使いこなすのだ。

霧の形が僅かにゆらぎ、風向きが変わる。
ファイヤーが『ぼうふう』の準備に入った合図だ。
しかし前述の通り、これは不可避の攻撃である。
来ると分かっていて避けれぬ攻撃は、なんと歯がゆいものである。

俺は苦肉の最善策を、ジュナイパーへ告げる。
「う……受け身だジュナイパー!伏せろッ!」
「ほ……ほうッ!」
ジュナイパーは矢羽を1つ抜き、それを地面に突き刺す。
更にすぐ身を伏せ、その場で這いずり状態となる。

やがてすぐに、多量の空気の塊がジュナイパーを殴りつける。
トレーナーの俺ですら、立っているのがやっとの風だ。
だが、ここで飛ばされてはジエンドである。
「るっ……ほおおおうッ!」
ジュナイパーは地面の矢にしがみつき、なんとか『ぼうふう』の猛攻をやり過ごそうと画策する。
「耐えろッ……ジュナイパーッ!」

そうだ……耐えるんだ!
その間に俺が打開策を講ずる……!
考えろ……これは時間との勝負だ!

相手の主力砲は『ぼうふう』と『かえんほうしゃ』。
しかし今使ってきているのは『ぼうふう』のみ。
こちらのわざは『はいよるいちげき』『かげぬい』『ソーラーブレード』、そしてあとは……

……そうか!
あるじゃないか。
この状況を覆す大きな一手が……!

俺は叫ぶ。
「……おい聞けジュナイパー!ファイヤーの羽ばたきだって、いつまでも保つわけじゃない!」
「ほうっ!?」
「風の勢いが弱まる時が必ず来る……!そこで『アレ』を仕掛けるぞッ!」
そうだ、アレは特別大きなリスクを伴う。
失敗すれば一瞬で作戦がパーになる。
……しかしもう選択肢はコレしか無いのだ。
ここで決めねば勝利は無いッ!

やがて吹き荒れる風は、僅かに勢いを落とす。
姿は見えないが、ファイヤーの翼に筋疲労が訪れたのだろう。
……よし、ここだ!

「『ハードプラント』だぁあああッ!」
「るほおおおおおおおおおおおうッ!」
ジュナイパーのすぐ正面の一点。
そこを起点として、大木が怒涛の勢いで生え始める。
そのサイズ、よもや千年級の古代樹にすら匹敵する程だ。

反則級のサイズの大木は、目の前の霧ごとファイヤーを閉じ込めた。
あまりにも巨大な攻撃だ。
これを放つには、ジュナイパー側にも凄まじい負担を与えてしまう。
次の行動に移るには、10秒以上のインターバルがある。
当たり前だが、普通ならファイヤーにそんな隙を見せることは許されない。
加えてやつの炎なら、その時間でこんな樹は焼き尽くせるだろう。


……が、実際の奴は微動だにしない。
いつまで経っても、この樹を焼こうとはしないのだ。
否、焼けないのだろう。
何故ならファイヤーは、この雨の下では満足な火力で炎を吹き出せないからだ。
それは先程から奴が「ぼうふう」しか出さないことが何よりの証左だろう。

樹からはプスプスと黒煙が上がっているが、すぐには焼きられない。
そうこうしているうちに、ジュナイパーの『ハードプラント』のインターバルは終了し、すぐさま立ち上がる。

そして遥か遠くで煙を上げる上空の樹へ、彼は弓矢を構えた。
僅か数秒後、大樹が焼け落ちる。
「ウラッ……ラァッ……!」
そこに現れたのは、必死に炎を撒き散らして疲弊したファイヤーの姿だった。

風速は既に、戦いの中で掴んでいる。
目標の姿も、視界の中に捉えている。
……これでチェックメイトだ。

「『かげぬい』ッ!」
「るほおおおおおおおおう!」
一縷の弓矢が、ファイヤーの胸を貫く。

誰の目にも明らかであった。
その一撃が、致命傷を与えたことは。

ファイヤーは羽ばたくことすらなく、力なく濡れた地面に撃墜する。
ボロボロの身体を、容赦なく雨水が濡らす。
既に炎の勢いが弱まっている証拠だ。

「……俺らの勝ちだ、ファイヤー。異論はあるか?」
「……ウラッ。」
倒れ伏したファイヤーは僅かに首を擡げ、それを横に振った。

俺は用意していたボールを、ファイヤーの額にあてがう。
すると彼の身は、ボールの中へと吸い込まれていった。
3回のアラームの後、捕獲完了のブザーが鳴る。

「よし……よろしくな、ファイヤー。お前の風、見事だったぜ。」
「るほうッ!」
先程までのライバルの仲間入りを、俺とジュナイパーは喜びあった。


晴れやかな空に掛かった、小さな虹の下で。
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