世紀の大発明

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作者:けもにゃん
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読了時間目安:13分
 その日、多くの人々がある一つの発表会を前に固唾を飲んでその瞬間を今か今かと待っていた。
 ある者は煌々と照りつけるモニターの明かりの向こうを。
 またある者はその発表会の会場で。
 喧騒にも近い騒々しい会話の声をかき消すように、一つマイクを通じた緩やかで何処から来た誰でも聴き取りやすいような女性の声が場内へと響き渡り、喧騒は喝采へと姿を変えながら場内の照明と共に静かに消えてゆく。
 それは正に映画の始まる直前のような感情の高まり。
 呼吸の音だけが聞こえ、自らの心音が一番煩く感じるようなある意味で最も楽しい時間。
 そしてその胸の高鳴りに応えるように、人々の目の前にある巨大なスクリーンにマクロコスモス社のロゴが映し出され、舞台脇から姿を現した一人の男性にスポットライトが送られる。
 大歓声を前にしてその男、ローズは観衆達へ両手を大きく振って答え、静寂が訪れると共に壇上の中央へ向かって歩きだした。
「二年、この日を待ち続けていました」
 心の底から待ち望んでいたのは彼だけではない。そう答えるような拍手が沸き起こり、ローズは更に壇上の中央へと歩いてゆく。
「数年に一度、全てを変えてしまう新製品が現れます。それを一度でも成し遂げることができれば幸運です。そしてマクロコスモスは幾度もの機会に恵まれる事となりました」
 その言葉と共にスクリーンのロゴが消え、スクリーンショーが展開され始める。
「一九九六年、ポケモン通信技術が完成しましたね。その存在はポケモン世界全体を変えるほどの偉業でした」
 画面に映し出されたのは年代を感じさせる、少々年季の入った初期型のパソコン通信装置。
 人間と同じ高さ、幅の大きな装置の手元には入力用のインターフェイスがあり、今も尚そのデザインそのものを変えていない洗練されたフォルムを見せる。
 観衆達は皆、頷きながらその歴史を噛み締めているのか、また小さく拍手を送った。
「二○○六年、初代バトルサーチャー。トレーナーとはただの通過点ではなく、トレーナーとのバトル全体を変えました。そして本日、革命的な新製品を三つ発表させていただきます」
 三つというその言葉に、観衆は驚愕とも取れる声を漏らし、拍手を送る。
 ローズはその言葉を受け取っているのか、それとも観衆の興奮が収まり、自分への注目が集まるのを待ってるのか、少し時間を置いてからまた言葉を続けた。
「一つ目が、いつでもどこでも対戦を可能にする新たなバトルサーチャー」
 誰もが望んでいた新規デバイスの登場。
 それを端的に表すアイコンのような画像がスクリーンへと映し出される。
 その発表に会場は一層湧き上がり、指笛と拍手が巻き起こる。
「二つ目に、革命的ポケギア」
 通信技術の発達。
 これはトレーナーでなくとも必要なデバイスであるためか、会場の観衆は割れんばかりの拍手と歓声を送り、彼等がどれほどその情報を待ち望んでいたのかを端的に表現してくれる。
「三つ目に、画期的フレンド通信技術」
 二つ目の発表の興奮冷めやらぬまま、三つ目の発表へと移る。
 しかし通信技術というあまり具体的ではない内容だったためか、前二つの発表と比べるとあまり歓声は沸かなかった。
「そう、この三つです。常時対戦検索、バトルサーチャー。革命的ポケギア。画期的フレンド通信機器。バトルサーチャー、ポケギア、フレンド通信。バトルサーチャー、ポケギア、フレンド通信。お分かりですね?」
 くどいほど繰り返される三つの機器の呼称に、場内は少しずつそれがジョークであることを察したのか笑い声が聞こえ始めるが、いかにも意味のある間とその問い掛けに鋭い観衆は歓喜の声を上げる。
「独立した三つの機器ではなく、一つなのです」
 響く大歓声と口笛、その声に応えるかのように背景のスクリーンに映し出された映像が素早くこれまで見せた三つの機能を示した画像を表示させる。
「名前は・・・"ロトムフォン"。本日、マクロコスモスがポケギアを再発明します。これです」
 拍手を一身に受けながらローズは自分の後ろにあるスクリーンへ、大きく手を向け、自身はその映像の邪魔にならないようにまた舞台の脇へと移動した。
 ところがそこに映し出された画像は誰も知らない新しい通信機器ではなく、見覚えのある古いポケギアだった。
 場を和ませるそのジョークの効果は意外とあったのか、多くの者がそのサプライズに声を出して笑い、これから見せる後に世紀の大発明と呼ばれた存在の紹介をするに相応しい雰囲気を作り上げた。
「冗談です。一応ここに実物がありますが・・・それをお見せする前に"ロトムフォン"とは何かについて話しましょう。一般的には電話とメールとネット、そして入力デバイスで構成されていますが、しかしこれらはあまりスマートではありません。そして残念ながら使いにくいです。縦が『賢さ軸』横が『使いやすさ軸』とすると、普通のポケギアはここになります。スマートでもありませんし使いにくいです」
 ローズの言葉に合わせてスクリーンの映像が切り替わり、大きく軸のみが表示された状態の散布図が表示され、縦軸の中央下側にポケギアと書かれた丸が追加された。
「ライブキャスターは賢いがより使いにくいです。基本操作を覚えるだけでも大変ですね。皆さんもそんな物は望んでいませんよね?」
 ローズの言葉に合わせて追加されたライブキャスターの文字が刻まれた丸は横軸のほぼ同位置、そして大きく左にずれた位置に追加されてゆく。
「私達が望んでいるのは、どんな通信機器より賢くとても簡単に使える。これが"ロトムフォン"です」
 そう言ってローズが手を画面の方へ向けると、ロトムフォンと書かれた丸は縦軸からも横軸からも大きく右上にずれた位置、つまりはとても機能的で使いやすい事を意味する位置へと堂々と現れる。
 ロトムフォンへの期待からか、それともその自信を裏付けるこれまでのマクロコスモス社の功績を信じてか、多くの拍手が彼の言葉を受け入れた。
「ポケギアを再発明します。まず初めに革命的インターフェース。長年の研究と開発の成果であり、ハードとソフトの相互作用をもたらしてくれます。では何故革命が必要なのでしょうか?」
 そこまで説明しきると、画面にはこれまでに作り出された様々な通信機器が映し出され、そちらへ視線を向けるように手を動かし、そのまま言葉を続けてゆく。
「ここに四種類の通信機器があります。これらが抱える問題は下半分にあります。そう、まさにここです」
 ローズの言葉に合わせて表示されていた画面が切り替わり、これまでの通信機器として表示されていた四つの画像が全て下半分のみ映し出された。
 一目見れば言葉にせずとも分かるほどの複雑な入力装置が備わっているのが分かる。
「プラスチックで固定されたキーボードが付いていて、どのアプリでもそれを使いますね? しかしアプリによって最適なボタン配置は異なるのに、既に出荷された製品に新しいボタンを追加することはできません。ならどうしましょう? 今のままでは駄目だ。ボタンは変更できませんから。より良いアイデアが浮かんでも変えることができない。ならばどう解決しましょう? そして私達は解決しました」
 そのキーボードが如何に、多機能ではあるが使い慣れていない者に対しては多機能が故に不便であるかを雄弁に語ってゆき、その解決法までもを見つけたと付け加えた。
 そして次に切り替わった画像には、誰もがよく見かけるポケモンセンターに設置されているタイプのポケモン通信機器が映し出された。
「二十三年前に既に解決されています。ビットマップ画面に全てのインターフェイスが表示され、ポインティングデバイスとしてマウス。これらをモバイル機器に当てはめるのなら、ボタンを全て取り払って巨大な画面だけにする。そう、巨大な画面だけです」
 元々表示されていたポケギアに重ねるように表示されたのはロトムフォンのものと思われる画像。
 しかしその見た目は、どう見てもただの同サイズの大きな液晶画面だけの物体。
 それはとても携帯デバイスのようには見えない。
「さて、どう操作しましょう? どう見てもマウスは無理です。ではスタイラスペンですかね? いいえ、そんなもの誰が望むでしょう? すぐに無くしてしまいそうだ。なのでスタイラスは止めておきます」
 両手を大きく広げて画面に映るロトムフォン操作用の例に挙げたペンを紹介したが、同時にあまりにいい物ではないと否定してみせる。
 それを聞いて同意とも取れる小さな笑いが会場に聞こえた。
 そして右手を大きく掲げ、人差し指を立てて小さく振る。
「代わりに誰の傍にでもいる、皆が生まれながらにして知る人間の良きパートナー。ロトムです」
 その指の傍へと纏いつくように、一匹のロトムがジグザグと不規則且つ高速で飛来し、ロトムの特徴的とも言える不敵な笑みを見せて電子音のような鳴き声を上げた。
「新技術を開発しました。その名はロトムエンジンです。これはまるで古くからの友人のように機能してくれます。スタイラスペンも必要なく、極めて高い精度。当然ミスタッチにも反応しません。ポケモンなので複雑な指示でも理解してくれる。当然、特許も取得済みです」
 大喝采の口笛と拍手を受けながら、同時に軽いジョークも交えた言葉で締めくくり、新たなるデバイスの誕生は世界中に大きな衝撃をもたらしてくれた。




     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




 衝撃的な発表から一年半、ガラル地方から遠く離れた異国の地にて、一つのニュースが人々を沸かせていた。
「さて・・・次のニュースです。世界で六○○万台売れた、通話デバイスの人気機種がカントーに上陸です。ガラル地方のマクロコスモス社の"ロトムフォン"が、今日カントーでも発売されました」
 青年が昼食を食べながら、時間潰しに眺めていた一つのニュース番組にはそんな世間をワクワクとさせてくれるニュースが流れていた。
 ニュースキャスターの男性から映像が切り替わり、タマムシシティでも随一の大きさと品揃えを誇る大通りの様子が映し出された。
 炎天下の昼下がりのタマムシシティの大通りにいる様々な人々を近くから撮影した後、一気に離れて通りの左半分が見えるように撮された映像の中には、まるでバーゲンセールでも行っているかのような長蛇の列が出来ている。
「店の前にできた長い列。この携帯電話の販売開始を待っていました。」
 待機列にいた人々のカウントダウンと共に大きな完成が沸き起こり、午前七時の街道の夏の熱気を更に熱く燃え上がらせる。
 そして涼しげな店内では全く新しい機種、ロトムフォンを一足先に手に入れた客達が、嬉しそうにそのロトムフォンを幸運な第一号の客として紙面に載せようと待っているフラッシュ達へ向けて、同じぐらいに眩しい笑顔を向けていた。
「買ったばかりの携帯電話の使い心地を早速試します」
「こうやって画面を横に向けたら・・・すごーい! 自動で横を向きましたよ!」
「いやーもう感動です」
「徹夜して並んだ甲斐がありました」
「これもう物売るってレベルじゃねぇぞ!?」
 ニュースキャスターのナレーションに合わせて画面が切り替わり、
「ジョウト地方でも店の前に行列ができました。」
「こうした熱気の一方で、街頭では購入に慎重な人々も・・・」
「ちょっと欲しいけど、今の電話で十分かな~? っても思うんですよね」
「古い電話も覚えてない内に、新しい携帯を買ってもなかなか使いこなせないんじゃないかなぁ? って思うんですよね」
「販売を手掛けるシルフカンパニーは契約の拡大に弾みをつけたい狙いです」
「パソコンが手のひらに来た。この感動と興奮をひとりでも多くの人に提供できればいいな、という思いで・・・」
「こちらがそのロトムフォンです。表面にはご覧のとおりボタンが付いておりません。タッチパネルで操作するんです。電話はここを押しますとこのようにダイヤルが現れます。この数字にタッチして電話を掛けるわけなんですね。そして、ミラクル交換もできます。ハイ、出てきました。こちらで交換の状況がリアルタイムで確認できます。さらに・・・アプリケーションのインストールを行なえばポケモン図鑑にもなるのです。このロトムフォン、気になるお値段ですが・・・」
ロトムフォン、それはあなたの世界を革新する。
presented by MACROCOSMOS™

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