きらきら

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作者:太陽
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読了時間目安:7分
「…………」

 通学路で一人の女の子が、ボロボロのすがたでなみだを流しながら歩いている。
小学4年生で、名前はミサトという。学校で毎日のようにいじめを受けており、こんな日々がいつも続いていた。
ふと、少しでも楽しいことがしたいと思い近所の公園で遊ぶことにした。

「……うん」

 ブランコをこいでいると少しずつ、1年生のころに楽しく遊んでいた感覚を思い出してきた気がする。
しばらくずっとこぎ続けていたら、ミサトの目の前に一人の男の子が立っていた。同い年くらいの年れいだろうか。

「……どうしたの?」

 ミサトは思い切って、男の子に声をかけてみた。

「…………」

 男の子はだまったままで、返事がない。

「となり、空いてるよ?」

 こくり、と男の子はうなずいた後、ブランコにすわり、キー、キーとこぎ始める。
二人でいっしょにキー、キー……。そんなことをしている間に、日がくれてきた。オレンジ色の夕焼け空がとてもきれいにうつっている。

「楽しかったね」

 また男の子はこくり、とうなずく。顔はニコニコしているのに、口には絶対に出さない男の子のことを、ミサトはおかしいと思い始め、聞いてみることにした。

「……もしかして、しゃべれないの?」

 ミサトの質問に、男の子は首をたてにふった。

「……そっか。名前くらい、聞きたかったけどな」

 ミサトがそうつぶやいたあと、男の子が落ちていた木の枝を拾い、地面にとある文字を書き始めた。
出来上がったその文字には『ノア』と書かれていた。

「……ノア君、でいいのかな」

 男の子――もといノアは笑いながらうんうん、と答える。

「わたしはミサト。よろしくね、ノア君」

 そう言った後、ミサトとノアは手をにぎり合った。

 それからミサトとノアは、毎日のように会ってはブランコをこぎながら楽しくすごしていた。
だが、その日々は長くは続かなかった。
それは、一ヶ月たったころに起きた出来事……。









「ノア君、じゃあね!」

 日がくれてもうすぐ夜になる時間。いつも通り、ミサトは大きく手をふってノアと別れた。

「今日も楽しかったな……」

 にっこりと横だん歩道を歩くミサトだったが、その横からかなりのスピードで走ってくる車が近づいてくる。

「えっ――」

 気づいた時にはすでにおそく、もうダメかもしれない。ミサトはそう思いこんでいたが……。

どんっ

と、何かに強くぶつかったような感じがした。

「……?」

 ミサトが目を開けると、そこには……。わるぎつねポケモン、ゾロアがそこに立っていた。

「え……?」

 ぼうぜんとするミサトに、ゾロアはテレパシーで話しかけた。

『ミサトちゃん、ぼくだよ。ノア』

「ノア君!?」

 そう。そのゾロアは、ノアだったのだ。一体どういうことなのだろうか。

『ぼくはずっと泣いている君のことが気になってた。だから、イリュージョンを使って人間になった。君の笑う顔が見たかったから。ぼくがしゃべれなかったのも、こうやってテレパシーでしか話せなかったから……』

「…………」

 明かされたとんでもない事実に、ミサトはおどろくばかりだった。

『でも、君の笑顔を見ているうちに、ぼくは……ミサトちゃん。君のことが、好きになっていたことに気づいたんだ。でも、人間とポケモンは結ばれてはいけないことは分かっていた。だから、いつか正体がばれる時は必ず来ると思ってた』

「ノア君……」

 ミサトの目からは、なみだがあふれていた。そして泣きながら、ゾロア……ノアのことをだきしめた。

「わたしも……ノア君のことが好きになってた。ずっといっしょにいたいと思ってた。だけど……無理だったんだね」

 なみだが止まらない。どうしていいのか分からず、ミサトはただただ泣き続けるしかなかった。

『最後に君を助けられてよかったよ。そして……ごめんね。ミサトちゃん……ありがとう。さようなら』

 ノアはミサトの手からはなれ、走り去っていった。
ノアの目からも、なみだがきらきらと光っていた――。









 10年後。20歳になったミサトはOLになっていた。

そして、職場で出会った同僚と仲良くなり交際を始め、今日が結婚式前日だった。

「とうとう明日か~。実感ないな……」

「僕も同じだよ。でもあそこでミサトのドレス姿を見るの、楽しみなんだよね」

「ふふっ。ありがと」

 二人は翌日の準備のために会場の下見に行っており、現在はそこから帰る途中だった。

「じゃあ僕、トイレに行って飲み物も買ってくるよ。何がいい?」

「オレンジジュース!」

「オッケー。じゃあ待ってて」

「行ってらっしゃい~」

 彼氏がジュースを買いに行った数分後、ミサトの耳から『とある声』が聞こえてきた。

『ミサトちゃん』

「えっ……?」

『ぼくだよ。ぼく。ノア』

「嘘……!?」

 そう。小学生の頃に一緒に遊んでいたあのノアだった。当時より少し声が低くなって聞こえる。

『10年経ったけど、覚えてもらえててよかったよ』

「ど、どこにいるの!?」

『いや、姿は見せないことにするよ。彼氏さんにも悪いしね』

「そっか…… で、どうしたの?」

『結婚するって聞いてね。お祝いしにきたんだ。おめでとう!』

「ありがとう……。でも、私はノア君と離れても、忘れたわけじゃなかった。今はこうやって彼氏と付き合ってるけど、たまにあなたのことを思い出してたよ。元気かな、って」

『それは嬉しいな。僕もミサトちゃんを忘れたことなんて一度もなかった。だからこうして、君に会いに来たんだ』

「……ノア君と一緒に過ごせたこの思い出は、本当に私にとって、夢のような時間だった。まるで、小さい頃に読んでた絵本のような……私はノア君と出会えて、変われたよ。いじめられてたことを先生に相談する勇気が出て、それからいじめがなくなって……ノア君が声をかけてくれなかったら、今頃私はこうやって元気に過ごせていたのかも分からない。だから……感謝してるよ」

『こちらこそ! ミサトちゃんに出会えて……良かった』

「私は明日、結婚する。だけど……ノア君との出来事は、一生忘れない宝物だよ」

『うん。僕もこれからミサトちゃんが彼氏さんと末永く幸せになれるように、応援してるからね』

「ありがとう! ……あっ。彼氏来ちゃった」

『そっか。じゃあ……またね』

「……またね!」

 ノアのテレパシーは聞こえなくなった。それと同時に、彼氏がやってくる。

「お待たせ~! ちょっと自販機が遠くて……どうしたの? そんなににこにこして」

「ううん。なんでもない。さっ、飲も飲も!」

 ミサトは彼氏に買ってもらったオレンジジュースの缶を開け、美味しそうに飲んだ。

(ノア君……私に素敵な夢を見せてくれて……ありがとう)

 そんなことを考えている彼女の後ろにある木の陰から、一匹のゾロアークがにっこりと微笑んでいた。
ミサトと彼氏、そしてノアのこれからの毎日はきっと、きらきらと輝き続けるのだろう。

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