「あたし、色違いのポケモンが欲しいの!」
物語は、彼女の一声により始まった。
* * *
オレの名前はトオル。ポケモントレーナー。
って言っても、ついこの間10歳になったばかりの駆け出しなんだけどね。
「ピカピーカ!」
オレの肩に乗ってるこいつは、相棒のメスのピカチュウ。
名前は――。
「ごきげんよう、トオル!」
っと、この声は。
「ジュリ、どうしたんだ?」
茶色い前髪を真ん中で2つに分け、後ろ髪をツインテールに結い、フリフリのレースが付いたピンク色の襟付きワンピースを着こなす彼女は。
そう、オレの幼なじみ、ジュリだ。
「ふふーん、貴方に頼みがあって来たの」
「お前が頼みなんて珍しいな。どうかしたのか?」
「あたし、色違いのポケモンが欲しいの!」
「へ?」
つい、素っ頓狂な声が口から出てしまった。
「い、色違いのポケモン!?」
「そうよ。あたし、色違いのポケモンと一緒に旅に出るの」
「え、ってことは、最初のパートナーを色違いのポケモンにするってことか?」
「そういうこと!」
なんともまあ大変なことを。
色違いのポケモンが出てくる確率なんて、限りなく0に近いのに……。
「で、頼みって?」
「ここまで聞いて分からないの? 貴方に色違いのポケモンを捕まえてほしいのよ!」
「えっ、オレが!? なんでオレなんだよ! お前が捕まえればいいじゃんか!」
「あたし、ポケモン持ってないもの」
あっ、そうか。だからポケモンを持っているオレのところに来たんだな……。
「ってことで、行くわよー!」
「って今からかよ!」
「え、駄目かしら?」
「……別に、いいけど……」
こうして、彼女に連れられ、色違いポケモン探しが始まったのでした。
「ピィカ!」
「あら、カチューシャちゃん! ごきげんよう」
「ピーカピカ!」
そうだ、ジュリに遮られて言えなかったんだ。こいつはオレの相棒のカチューシャだ。
「ねえねえ! また聞かせてよ、カチューシャちゃんとの出会い!」
「またかよ、まあいいぞ」
ちょうどいい。ジュリもこう言ってる事だし、オレとカチューシャの出会いを語ろうか。
* * *
『トオル、新しい家族が増えるわよ』
『かぞくー?』
約5年前。当時5歳のオレの元に、母さんから「家族が増える」と言い渡された。
どういうことだろうと思うオレに、母さんはあるものを差し出した。それは……。
『ポケモンのタマゴよ! 親戚から頂いたの』
タマゴ。しかも、中にポケモンが入っている。
"この中でポケモンが生きている"と分かるあたたかさをタマゴを持つ手で感じ、当時のオレはワクワクしたことを覚えている。
『ポケモン! うちにポケモンがきたー!!』
『そうよ。タマゴから出てくるのが楽しみね!』
『うんっ!』
それから数日後。オレはタマゴをもらってからというもの、それを肌身離さず持っていた。
すると、その時。タマゴにピキッとヒビが入って……!
『ピチューッ!』
タマゴから、ピチューがうまれた!
ポケモンがタマゴから生まれる瞬間を目撃したオレは、溢れる思いでいっぱいだった。
『お母さん! タマゴからポケモンがうまれたよーっ!』
オレはピチューを抱きかかえたまま、母さんの方へ駆け寄った。
それにびっくりしたのか、ピチューはオレの腕からスルッと抜けて出ていってしまった。
『あっ、まってー!』
ピチューはそのままダッシュし、そのままオレの姉ちゃんの机の上に跳び乗った。
『ピチュ?』
そして、ピチューはあるものに目を留める。
それが、カチューシャだった。
『ピチュ! ピチュピーチュ!』
黄緑色のものに、ピンク色の花をモチーフとしたアクセサリーがついたカチューシャ。
ピチューはすぐそれを手に取り、ぴょんぴょんと舞い上がった。
『あら、ピチュー。それが気に入ったの?』
気がつくと、オレの後ろに騒ぎを聞き付けた母さんと姉ちゃんが立っていた。
『ピチューッ!!』
ピチューは、カチューシャを気に入ったのか肌身離さず持っている。
『お姉ちゃん。これ、ピチューにあげてもいい?』
『いいよ! ピチューちゃんこんなに気に入ってるし!』
『ありがとう! そうだ、このピチューの名前、"カチューシャ"にしよう!』
『いいね! ぴったり!』
こうして、こいつの名前はカチューシャとなったんだ。
そのあと、オレはカチューシャをかわいがり、懐いたカチューシャはピカチュウに進化して、オレの相棒になった。もちろん、相棒になった今も頭にカチューシャを付けている。
* * *
「いや~、いい話だったぁ~」
「なんで泣いてるんだよ……」
「なんか感動しちゃって!」
「いや、何十回もしてるだろ、この話……」
「いいでしょ別に~。それにしても、いいなぁカチューシャちゃん! あたしもパートナーにかわいい名前つけてあげよっと!」
「で、お前の旅立ちはいつなんだ?」
「10日後の10月10日よ!」
「10日後!? なんでもっと早く言わないんだよ!」
「思い立ったのが今日だからよ」
ジュリは気まぐれなやつだな、ほんと……。
ちなみに旅立ちっていうのは、博士から図鑑をもらってポケモントレーナーとなり、図鑑埋めの旅に出ること。10歳の誕生日の日に出るんだ。
つまり、ジュリは10日後の10月10日に10歳になるってこと。
「まあいい、わかった。付き合ってやるから。ポケモンはなんでもいいのか?」
「かわいい子がいい!」
「はあ……わかったわかった」
こいつのわがままにはうんざりだけど、なんかいつも付き合ってやっちゃうんだよなぁ……。
「この寝癖、直したらどうなの~?」
「これはくせっ毛だ!!」
オレの黒いのくせっ毛を、ツンツンと触ってくるジュリ。……やっぱムカつくなぁ~!
まあいい、色違いポケモン探しなんてすぐ諦めるだろ。
そう思いながら、オレは走るジュリのあとを追いかけた。
こうして始まった色違いのポケモン探し。オレたちは、近くの森へとやってきた。
森にはたくさんのポケモンたちがいる。……って言っても、やっぱり色違いのポケモンなんてそんな簡単に見つかるはずはなく……。
「どこよ~! 色違いのポケモンちゃ~ん!!」
ヤケになって叫ぶジュリ。
「そりゃ、簡単に見つかるわけないだろ?」
「もう疲れたぁ~!」
ほら、やっぱりジュリのことだからすぐ諦めた。そう思ったのだが。
「……でも、私のパートナー、探すんだもん」
「まだ、探すのか?」
「……当然でしょ! ほら、行くわよ!」
「お、おう」
色々な物事にすぐ飽きるジュリにしては、珍しいなと思った。……それだけ本気ということだろうか。
今いる場所から離れ、違う草むらへと向かおうとしたその時。
「君たち、今、"色違いのポケモン"って言ったかい?」
「言ったけれど……なにかしら?」
オレたちの元に、青みがかった髪色をした、クールな雰囲気な細身の少年が声をかけてきた。
「俺はテンマ。色違いのポケモンを探し求めている」
彼はテンマというらしい。
「……何の用ですか?」
オレが、彼……テンマに向かってこう訊く。すると、テンマはこう答えた。
「君たちも色違いのポケモンを探しているのか?」
「そうですけど……何か?」
質問に対して質問を返され、少しムッとしたが、そうだと答えた。そう答えた瞬間、テンマの表情がガラッと変わった。鋭い目付きをオレたちに向け、こう言った。
「じゃあ、見過ごしては置けないな。色違いのポケモンをゲットするのは、俺だけでいいんだ……ッ!」
と、テンマはいきなりボールを投げ、ポケモンを繰り出してきた。
紫色で2つ頭があり、ガスを撒き散らしているこのポケモンは……マタドガスか。
「ドクロ、"ヘドロばくだん"!」
いきなり攻撃が飛んでくる。危ないっ!!
「カチューシャ、"10まんボルト"!」
オレはとっさにカチューシャに指示をし、カチューシャの得意技"10まんボルト"で、マタドガス……ドクロというらしい、の"ヘドロばくだん"を打ち消そうとした。……が。
「ピカァッ……!!」
相手は思っていたより強く、"10まんボルト"が押され、カチューシャは"ヘドロばくだん"を喰らってしまった。
「カチューシャッ!!」
オレはすぐさまカチューシャの元へ駆け寄る。ぐったりと倒れているカチューシャを抱きかかえて、顔色をうかがうと、苦しそうな顔をしていた。運悪く、カチューシャは毒状態になってしまっていた。
「カチューシャ、大丈夫か!?」
「ピ……カァ……」
一応意識はあるようだ。でも、早くポケモンセンターに連れていかなきゃ……!
「何するのよ!!」
ジュリがテンマに向かって叫ぶ。すると……。
「邪魔者には消えてもらいたくてね」
「なっ……!」
"邪魔者"。テンマはオレたちに向かってそう言った。
「ひどいわよ! いきなり攻撃してきて、邪魔者扱いなんて……っ!」
「君たちに構ってる暇はない。ドクロ、"えんまく"」
ドクロの"えんまく"により、辺りが煙で包まれる。
「待てっ……!」
オレはテンマに向かってこう叫ぶ。が、叫んだ拍子に煙を吸い込んでしまい、ゲホッゲホッと咳き込んでしまった。
煙が晴れた頃には、テンマとドクロはその場から消えていた……。
テンテンテテテン♪
「お預かりしたポケモンは元気になりましたよ!」
「ありがとうございます……!」
オレたちはあの後、すぐさまポケモンセンターに向かった。
「大丈夫か、カチューシャ?」
「ピカ、ピカチュウ!」
すぐに連れていった事もあって、カチューシャはもうすっかり元気になったようだ。ポケモンセンター様様だ。
「にしても、何よあのテンマって奴!! ひどすぎるわ!」
「うん……ほんとなんなんだろうな」
ジュリは、テンマにブチ切れていた。もちろん、オレも相棒のカチューシャが傷つけられ、邪魔者扱いされ、黙ってはおけない。
「カチューシャちゃんも元気になったことだし、またさっきの森に行かない? 奴ももしかしたらいるかもしれないし!」
「そうだな……!」
こうして、オレたちはまたあの森に出向くことにした。
「何よこれ!!」
「森にヘドロがたくさん……あいつの仕業だな……!」
森に戻ってきてみると、辺りにはたくさんのヘドロが撒き散らされていた。そのせいか、草むらにもポケモンは見当たらない。
あいつ……オレたちの邪魔をしてきやがったな……!
「どうしよう……別の場所を探すか?」
「そうするしかなさそうね……」
引き返して、別の場所に行こうとしたその時。
「こらぁ! 森になんてことしやがる!!」
いきなり、知らないおじさんがオレたちに凄い形相で迫ってきた。
「お前らだな!? 森にこんなにヘドロを撒いたのは!!」
「えっ!?」
このおじさん、オレたちがこれをやったと勘違いしてる……!
「違います! これは他の人がやったもので……!」
「騙されねぇぞ! カチューシャをつけたピカチュウを乗せた少年とツインテールの少女がやったって聞いたんだからな!」
まさかあいつ、オレたちに濡れ衣を着せたな……! 「騙されない」って、あいつに騙されてますよ、おじさん……。
「あたしたちはやってません!」
「そうです! 第一、ヘドロを撒けるポケモン持ってませんし!!」
「言い訳はいい! この森を元のとおりにするんだ! ……ほら、とっととやれ!!」
「そんな……」
勘違いしたおじさんのせいで、森を掃除させられる羽目になった。こんなことしてる場合じゃないのに……。
「うう……何であたしがこんなこと……」
「あいつ、許せない……!」
逃げ出そうにも、森の入口でおじさんが見張っているため出来そうにない。しぶしぶ、オレたちは掃除をした。
「終わったぁー……」
「二度とこんなことするなよ!」
「だからあたしたちじゃないって……!」
おじさんは聞く耳をもたず、森から出ていってしまった。
掃除が終わった頃には、もう日が暮れていて夜になっていた。今日探すのはもう無理そうだ。
「仕方ない、また明日探しに来よう」
「そうね……」
日が変わって色違いのポケモン探し2日目。オレたちはまた森にやってきた。
流石に、今日もヘドロが撒かれているということは無かった。昨日の出来事で諦めたと思われたのだろうか。
「昨日は邪魔が入っちゃったけど、今日こそは探すわよ……!」
「ああ!」
テンマは、違う場所に行ったのだろうか。森をぐるっと回っても、見かけることは無かった。
草むらにもポケモンは戻ってきていて、色々なポケモンを見かけた。が、やはり色違いのポケモンはいない。
「ねえトオル。色違いのポケモンは"ひかる"のよ!」
ジュリはそう言った。確かにオレも、色違いのポケモンを見つけた時、光が出るということを聞いたことがある。
「ひかるポケモン、探すわよ……!!」
ジュリの目が燃えているように輝く。本気なんだな……。
オレもそんなジュリを手伝おうと、色違いのポケモン探しを続けた。
探し続けていたら、いつの間にか日が暮れていた。昨日とは違って、ずっと探し続けていたのに、見つからない。……いや、そりゃそうか。限りなく0に近い事をやっているんだもんな……。
「じゃ、また明日!」
「ああ」
それでも、ジュリはまだ諦めないみたいだ。
こうして、同じような日を何日も繰り返した。そして、とうとう今日が最終日。出発の前日、10月9日になってしまった。
ジュリの元気も、だんだんとなくなっていった。でも、探すのは諦めていない。ここまで諦めないのは本当に珍しい。
そんなジュリに応えるように、オレも熱心に探した。……が。
今日も、もうそろそろ日が暮れるような夕方になってしまった。オレの中に焦りが現れ始める。
気づけば、軽い気持ちで始めた色違いのポケモン探しに、必死になっていた。
と、隣にいたジュリが、いきなり探す手を止めた。
そして、オレの方を向いてこう言う。
「もう、いいわ……諦めましょ」
下がった眉に潤んだ目。そんな表情をしながら、ジュリはオレにこう告げた。
「申し訳ないわ。貴方にもこんなに苦労かけて。最後に誰でもいいからポケモンを捕まえてほしい、その子で旅に出るから……」
「諦めるもんか!」
オレは、こう叫んでいた。目の前には、目を丸くするジュリ。
「お前のパートナー、探すんだろ?」
「……うんっ……!」
目に涙を浮かばせて、こくこくと頷くジュリ。
その時だった。
奥の方の草むらで、何やら光のようなものが見える。
「なあ、ジュリ。あれ……」
「行ってみましょ!」
オレたちはすぐさま光に向かって駆け寄る。すると、そこに居たのは……!
通常の緑色とは違う、金色に輝くキャタピーだった。
「……いた、本当にいた、色違いのポケモン……!」
「つ、捕まえなきゃ!」
肩に乗っていたカチューシャがオレから飛び降り、キャタピーの方へと向かう。
それに驚いたキャタピーが逃げようとした。……逃げる前に捕まえなきゃ!!
「カチューシャ、"10まんボルト"!」
「ピ~カ~チュゥゥゥウウウッ!!」
カチューシャの技は、見事キャタピーに命中し、キャタピーはその場に倒れる。
「いっけ~! モンスターボールッ!」
オレは、その隙にキャタピーに向かって、モンスターボールを投げた。
1回、2回、3回、と揺れ……カチッと音が鳴る。ということは……!
「ゲット……したの……?」
「ああ、色違いのポケモン、ゲットだ!」
「やったああああっ!!」
オレたち、やった。色違いのポケモンを捕まえたんだ……!
オレたちは、手を取り合って喜んだ。
オレは、地面に落ちている、キャタピーの入ったモンスターボールを手に取り、ジュリに渡す。
「ほら、お前のパートナーだ」
「トオル……ありがとう!」
ジュリは、ニコッと微笑んだ。
そのあとオレたちはポケモンセンターに向かって、キャタピーの回復をした。その時、ジョーイさんに色違いということを驚かれた。まあ、そうだろうな。
「出てきて、タピオカちゃん!」
ジュリがボールからキャタピーを出す。……って、タピオカ?
「タピオカってなんだよ」
「色違いのキャタピーちゃんの名前よ? かわいいでしょ?」
「いや、センス……まあお前が気に入ってるならいいか」
「タピオカちゃん、これからよろしくね!」
キャタピー……タピオカは、ジュリの声に答え、元気よく鳴いた。
次の日。ジュリの旅立ちの日だ。
「おはよう、トオル。ついにあたしの旅立ちの日よ!」
「良かったな、ジュリ」
「ええ!」
まずオレたちは、博士にジュリの図鑑をもらいに行くことにした。
「キミが今日旅に出るジュリだね。あれ、キミは……」
「この間図鑑をもらったトオルです。ジュリのパートナーのポケモンを一緒に探してて」
「なるほど。トオルは優しいんだね」
「ええ、そうなの!」
え、と思った。普段オレのことを小馬鹿にするジュリが、素直にオレのことを褒めるなんて……。
「そうだ、それなら、2人で一緒に旅に出るのはどうかな?」
博士が、オレたちにこう提案した。
「……いいわね! ね、いいでしょトオル?」
「お、おう……いいけど」
「決まりね!」
流れで一緒に旅することになってしまった。ジュリ、オレと旅するなんて嫌がりそうだと思ったのにな。
まあ、オレ的には仲間はいた方が心強いかな。
博士から図鑑をもらい、旅への一歩を踏み出したジュリ。
と、前を走るジュリがふいに駆ける足を止め、くるりとオレの方を振り返る。そして、こう言った。
「トオル、ポケモンバトルしましょ!」
目と目があったらポケモンバトル。
よし、受けて立とう!
「望むところだ!」
近くにあった原っぱで、向かい合うオレたち。お互いに目を合わせ、ゴクリと息を飲み……。
「「ゆけっ!」」
一斉にポケモンを出し合った。
「2人とも、準備はいいかな?」
「はい!」「ええ!」
審判は、博士がやってくれることになった。
お互いの準備ができたか確認し、よしと頷く博士。
「それでは……バトル、スタートッ!!」
「カチューシャ、"でんこうせっか"!」
「え、ええと……"たいあたり"!」
技を出し合うカチューシャとタピオカ。互いに身体でぶつかり合い、跳ね返る。ズザザ、と地面と擦れ合い、やがて止まった。
「な、なかなかやるわね!」
「そっちこそ!」
バトルをしたことのないジュリにしては、結構やる方だと思う。まあ、オレもバトル経験はほぼ0なんだけどね。
「いくぞ、カチューシャ。"あまえる"!」
「ピカ! ……ピカチュ♡」
オレはカチューシャに"あまえる"の指示を出した。するとカチューシャは、タピオカに向かってかわいらしいポーズをとる。それに対しタピオカはどうしていいのかわからない、といった顔をしている。
「タピオカちゃん! "むしくい"よ!」
ジュリが"むしくい"の指示を出すも、"あまえる"のせいでタピオカが攻撃をためらっているようだ。"あまえる"の効果は相手の攻撃力を下げること。かわいらしい仕草を見て、攻撃する気が起きなくなってしまうのだろう。
それでもタピオカは攻撃せねば、とカチューシャに"むしくい"をした。が、その威力は普段のものより低い。
「くっ……なら、これよ! "いとをはく"!」
「避けろ、カチューシャ!」
ジュリがタピオカに"いとをはく"の指示を出した。とっさに避けろと言ったものの、タピオカの糸にカチューシャは捕えられてしまう。
そのまま糸でグルグル巻きにされるカチューシャ。
「くっ……」
「ふふふ、あたしの勝ちかしら?」
「まだだ! カチューシャ、"10まんボルト"!」
身体が捕えられていても、電撃なら出せる!
オレの指示を受け、カチューシャはタピオカに向け"10まんボルト"を繰り出す。
「よ、避けてっ……!」
ジュリが叫ぶも、間に合わず。タピオカは、カチューシャの電撃をもろに食らった。
「……キャタピー、戦闘不能。よって勝者、トオル!」
「よっしゃー!」
「ピカーッ!」
この勝負、オレたちの勝ちだ!
と、その時。
「ど、どうしたの!? タピオカちゃん!
なんと、光り輝くタピオカの身体。……光が収まると、そこにはキャタピーではなく、オレンジ色のトランセルがいた。
「これは、進化だ!」
「えっ!? タピオカちゃん、もう進化したの!?」
驚くジュリ。正直、オレもびっくりだ。
「キャタピー族は進化が早いんだ」
「なるほど……」
博士が、そう説明してくれた。
「進化おめでとう、タピオカ、ジュリ!」
「……ありがとう!」
進化を喜ぶジュリ。満面の笑みを浮かべていた。
「"10まんボルト"、強すぎよ……勝利おめでとう」
「へへっ、ありがと!」
タピオカの進化を見届けたあと。ジュリがバトルの勝利を褒めてくれた。
「悔しいわ~。どこであんな強い技覚えたのよ?」
「それはね、カチューシャのタマゴをくれた親戚からわざマシンを頂いたんだ」
「なるほど、わざマシン!」
そう。カチューシャが、なんで"10まんボルト"を覚えてるかって、それはわざマシンのおかげなんだ。
「オレたちの自慢の技なんだ。なっ、カチューシャ?」
「ピッカァ!」
オレの呼びかけに応え、カチューシャが元気よく鳴いてくれた。
「それじゃあ、行ってきます!」
「ああ、気をつけるんだよ!」
「はーい!」
博士に別れを告げ、バトルを経たオレたちは旅へと出ることにした。
知らない道をしばらく歩き続ける俺たち。と、ぴょんぴょんとジュリのあとをついてきていたタピオカが、急に立ち止まった。
「タピオカちゃん、どうしたの?」
タピオカは、ある一点をじーっと見つめている。そのある一点というのは……カチューシャのほう?
「ピーカ?」
「カチューシャちゃんが気になるの?」
「…………」
ただカチューシャの方を見てるだけじゃない……? タピオカが向いている方を見てみると、その先にとまったのはカチューシャの、頭につけているカチューシャだった。そしてその先、おそらくタピオカが気になっているのは、カチューシャについた花のアクセサリー。
「タピオカ、この花が気になるのか?」
こくこくと頷く(身体を上下にさせている)タピオカ。
「タピオカちゃん、お花が好きなのね!」
にっこりと微笑むタピオカ。それをジュリはかわいい子ね~と撫でた。
……正直、色違いのポケモンが見つかって、それがキャタピーだとわかった時、ジュリの反応が怖かった。「こんな子かわいくない」なんて言うと思っていたのだが、ジュリはキャタピーやトランセルのタピオカのことをかわいがっている。ジュリはどんなポケモンのことも好きなんだなぁ、と感じた。
「さあ、タピオカちゃん、いくわよ!」
ジュリの言葉に身体を上下させ、タピオカはまたぴょんぴょんと歩き出した。
さあ、旅の続きへ出よう!
オレたちは、なんだかんだあって最初の道路を抜けた。
そして、オレたちの住む町とは違う、知らない町へとたどり着いた。
「わぁーっ!」
「新しい町! 旅って感じだな!」
「ええ!」
知らない町に、感動するオレたち。すると。
「ん? お前たちは……」
「え?」
見知らぬおじさんが声をかけてきた。いや、このおじさんは、この前オレたちにテンマの罪を擦り付けたおじさんだ!
「あっ! あのおじさん!」
「この町に何の用だ?」
「旅をしてて、たどり着いたんです」
「……そうか」
オレたちの方をじっとみるおじさん。
「ど、どうされました……?」
「いや、前の森を荒らしたの、お前たちじゃないんじゃと思い始めてな……」
あれが濡れ衣だとわかってくれたのだろうか。
「やっと分かってくれましたか!」
「ずっと言ってたでしょ!?」
「やっぱりお前たちじゃないのか……すまなかった」
ぺこりと頭を下げ、謝ってくるおじさん。
「わかってくださればいいんですよ。でも、どうして濡れ衣だってわかったんですか?」
「いや、実はな。同じような被害が他の場所でもあってな。お前たちは今ここへ来たんだろ?」
「はい、そうです」
うなずくオレとジュリ。
「じゃあ、お前たちじゃないなって。この先でも被害が出てるんだ。でも、この先へ行くにはこの町を通らにゃいけない。で、おれはお前たちを今まで見てない」
「なるほど……」
「だから、他のやつがやったんだ。おれはこの町で警察をしててな。あの時は森にいたが、普段はこの街で見張りをしてるんだ。だから見逃すはずがねえ」
なるほどな。おじさんは警察だったのか。とりあえず、オレたちが無罪ということが伝わってよかった。
「テンマってやつよ! あたしたちも邪魔されたの!」
「マタドガスを連れた、青みがかった髪をしたクールな感じの少年です」
オレたちは、テンマについておじさんに伝えた。
「なるほど。情報ありがとう、探してみる」
「オレたちも手伝います!」
「それは助かる!」
「あたしも、邪魔されて黙っていられないからね!」
「2人とも、ありがとう!」
こうして、オレたちはテンマを捜索することになった。
オレたちはこの町を出て、その先の道路へと向かった。
「テンマは、色違いのポケモンを探してるんです」
「たぶん、その為にはどんな手を使ってもいいって思ってる奴よ!」
「なるほどな……」
おじさんに、テンマについて説明した。そして、続けてオレが言う。
「ただ、ひとつ問題があって」
「問題とはなんだ?」
「テンマは、かなりの実力の持ち主なんです。オレの相棒がコテンパンにされて……」
そう、もしテンマを見つけたとしても、オレたちじゃ敵わないんじゃないか、と。すると、おじさんはふっふっふ、と言ったように笑い出す。
「ど、どうしたんですか……?」
「おれを舐めるんじゃねえぞ! ポケモンバトルの実力はかな~りある!」
「ほんとですか!?」
「ああ!」
と言って、おじさんはモンスターボールからポケモンを出した。
「ブル!」
「ラァイ!」
「おれの自慢のポケモンだ!」
と言って出したのは、グランブルとライボルト。
「おれはな、こいつらで何人もの悪党をやっつけてきたんだ! なっ!」
おじさんの言葉に続き、グランブルとライボルトは雄叫びを上げた。
「だから、バトルは任せとけ!」
「ありがとうございます!」
オレたちは、道路を歩いていった。すると。
「これ……ヘドロだ!」
「まだ柔らかいな……近くにいるかもしれねえ」
「ほんと!?」
「探しているのは俺の事かい?」
と、奥の方から聞こえる声は……顔を上げると、そこに居たのはテンマとパートナーのマタドガス、ドクロだった。
「お前がテンマか! 森や道路を荒らした罪で逮捕するぞ!」
「おっと、警察の方かい? 俺は色違いのポケモンを探すのに忙しくてねぇ……って、ん……?」
テンマがジュリの後ろに隠れている、あるものを見つける。それは……ジュリのパートナー、タピオカだった。
「そ、そのトランセル……! 色違いだとっ!?」
「そうよ! あのあと、あたしたちは見つけたのよ!」
「ッ、貴様ら……! なんで貴様らのところに色違いのポケモンが!」
テンマは怒り狂い、いきなりオレたちの方へ向かってきた。
「ドクロ、"えんまく"!」
「待てっ!!」
ドクロが"えんまく"をし、辺りが煙で包まれ見えなくなる。
しばらくして、煙が晴れたあと……。
「タピオカちゃんがいない!!」
「なんだって!?」
そこには、タピオカの姿はなかった。
「くそっ、あいつに誘拐されたか……すまない、守ってやれなくて」
謝るおじさん。それに対し、沈黙するジュリ。そりゃ、パートナーのポケモンが誘拐されたらつらいだろう。慰めようとした、その時。
「……探すわよ」
ジュリが声を上げた。続けて、叫んだ。
「絶対取り戻すんだからっ!!」
ジュリは顔を上げ、決意を固めるように叫んだ。
「……ああ!」
オレもそれに応える。絶対、タピオカを取り戻そう!
* * *
遂に、念願の色違いのポケモンだ! ずっと憧れていた、色違い!!
あいつらに先にゲットされていたのが癪に障るが、仕方ない。
「これからよろしくな!」
嫌がる様子を見せる、オレンジ色のトランセル。まあいい、これから慣れていけばいいのだから。
* * *
オレたちは必死になって、色々な場所を探すが、テンマとタピオカは見つからない。なんだか、最初に色違いのポケモンを探していた頃を思い出す。
「チッ、今日は日が暮れるな。あの町に戻って、泊まっていきな」
「はい……」
悔しそうな表情を見せるジュリ。オレも心が痛む。
* * *
次の日。この色違いのポケモンを俺好みに仕立て上げてやろうとした時の事だった。
「い、いない……?」
なんと、トランセルがいないのだ。くそっ、寝ていた隙に逃げられたか……!
「くっそおおおおお!!」
せっかく手に入れた色違いのポケモンが! 探さなければっ……!
* * *
夜が明けて、捜索を開始するオレたち。おじさんとともに様々な場所を訪れるも、見つからない。
そして、昼頃、捜索をしている時だった。
「て、テンマ!」
なんと、道にいるテンマを見つけたのだ!
「タピオカ……トランセルを返せ!」
オレは、テンマに向かって叫んだ。
「俺は知らない! 逃げられたんだ!」
「なんですって!?」
タピオカは逃げ出したらしい。となると、今タピオカはどこに……?
「……ッ!」
と、いきなり駆け出すジュリ。どこかあてがあるのだろうか。
「ジュリっ!」
オレもジュリのあとを追った。
ジュリが向かった先は。花畑……?
そうか! タピオカは花が好きだから……!
「タピオカちゃ~んっ!! いたら返事して~っ!」
タピオカに向かって呼びかけるジュリ。すると。
遠くの方から、おそらくタピオカのものと思われる声が……!
オレたちは、すぐさまそこへ向かう。すると。
この花畑のポケモンだろうか、に攻撃されるタピオカがいた。
「タピオカちゃんっ!?」
色が違うことで虐められているのだろうか。助けなきゃ……!
オレがカチューシャに指示を出そうとした時。
「タピオカちゃんッ!」
「ジュリ!?」
ジュリが、生身でポケモンたちの方へ向かっていった。
「タピオカちゃんに攻撃しないでっ!」
タピオカを抱きかかえ、周りのポケモンからの攻撃を自らが喰らうジュリ。って、助けないと……!
「カチューシャ、"10まん……」
と言いかけ我に返る。今攻撃したら、ジュリも攻撃を受けてしまう……! どうしよう、と困ったその時。
ジュリが抱きかかえているタピオカが、いきなり光り出した。これは……!
「た、タピオカちゃん……?」
「フリィッ!!」
ブォンッ! と、風が起こる。ジュリの腕から現れたのは、バタフリーだった。そのまま、バタフリーとなったタピオカは、ジュリには当たらないように、周りのポケモンへ"かぜおこし"の攻撃をする。すると、周りのポケモンは一目散に逃げていった。
事が終わり、へたりと倒れるジュリ。
「ジュリ、大丈夫か!?」
ジュリの顔を覗き込むと、目には涙が浮かんでいる。そりゃポケモンたちに襲われ怖かっただろう、と思ったのだが……。
「タピオカちゃんがバタフリーに進化したぁっ! 嬉しい~っ!」
なんと、タピオカの進化への嬉し泣きだった。ジュリがタピオカをぎゅっと抱きしめる。
「タピオカちゃんおめでとう~っ!」
「フリィ!」
とにかく、ジュリも傷はあるものの致命傷ではないようだし、タピオカも見つかったし、良かった。
この後、ジュリとタピオカは傷の手当を受けた。テンマは、おじさんに連れられて行った。
「なんで俺が報われない……!」
「お前は小汚い手を使わず、真正面から向かうんだ。いいな?」
「くっ……」
テンマも、これから更生して、良い心を取り戻してほしいな。
* * *
ジュリもタピオカも元気になり、また新たなスタート! 旅を再開することにした。
「「ありがとうございました~!」」
おじさんに別れを告げ、オレたちは町を出た。
「トオル」
「ん、どうした?」
歩いている途中、ジュリに声をかけられる。
「色々……ありがとね」
「どうしたんだよ、いきなり」
「……な、なんでもないわっ!」
「そ、そうか……」
……何だったんだろう。まあ、いいや。
ここ数日で、ジュリは変わったと思う。パートナーのために身体を張るなんて、前までのジュリだったらやってなかったはず。
オレも、頑張らなきゃな。
「ジュリ、これからもよろしくな!」
オレは、ジュリにこう言った。
「もちろんよっ!」
ジュリは、笑みを浮かべ、オレに応えた。
「よっしゃー! 行くぞーっ!!」
「待ちなさいよーっ!」
走り出すオレを追いかけるジュリ。これから先、色んなことが起こると思うけど、オレとジュリ、カチューシャとタピオカ、そしてこの先出会う新たな仲間で乗り越えていきたいと思う。
行っくぞ~っ! オレたちの旅はこれからだ!!