ほんとうはこわいポケモン図鑑~空の運び屋

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作者:jupetto
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読了時間目安:13分


 
 ペリッパーというポケモンが小さなポケモンやタマゴをあの大きな口に入れて運んでいる様から『空の配び屋』と呼ばれていることは皆々様ご存じのことかと思われます。
 近代において、人間とともに暮らすペリッパーが運送の役を担うことは決して珍しいことではありません。
 しかしながら。それはあくまでもモンスターボールの力があってこそ。
 そもそも、あの大きな口は一度にたくさんの獲物を丸呑みしたり、あるいは崖の上の巣に効率よく子供たちへの餌を運ぶためのものでして。
 もしあなた様が野生のペリッパーが小さなポケモンやタマゴを加えて飛んでいるのを見たというのでしたら、それはほぼ確実にペリッパーが生きるための餌であることでしょう。あるいは自分のタマゴを運搬していることもありましょうが。

 夢を壊すような話をして楽しいか? いえいえ。これからわたくしめが語りますのはまさに人の夢。
 どうしてペリッパーに『空の運び屋』という二つ名がつくこととなったのか? 今宵はそれをお話ししましょう。
 昔、昔のお話です。モンスターボールなど存在せず、国を支配するのは王とその子であった頃──


「おお、なんということだ! 我が息子、王子のマナフィが敵国の悪しき手によって連れ去られたとは!」
 
 王は激怒しました。必ず、王子になくてはならないあのポケモンを取り戻すと決意しました。王とは、その優れた血統と立場から時として民や臣下の心がわからなくなるもの。
 ゆえにその国では、王子の供にマナフィを与え、人と心を通わす能力を時折使うことで他者の気持ちを慮る能力を鍛えさせることにしていました。その要たるマナフィが、盗まれたというのです。マナフィは希少なポケモンで、人の心や環境に影響を受けやすいことからも一刻も早い奪還をしなければいけません。

「アテナ! アテナはいるか!」
「何なりとご用命を、王様」

 脇に剣を差した小柄な女性が、呼びかけに応じ王の前に現れました。彼女は武力における王の右腕でした。まず剣術の達人であり、何よりその時代に一人で強力なポケモンを複数従える人間はまさしく最強であったのです。この場にはいませんが水の刃で変幻自在のゲッコウガ、念の刃は縦横無尽のエルレイド、そして鋼の刃が一刀両断のギルガルド。どの一体とってもこの国に並ぶものなしの兵でした。
 状況を聞いたアテナは、王の説明にこう答えました。

「かしこまりました。それでは三日以内にマナフィを連れ戻しましょう。もしそれが叶わなければ、王子には新しいマナフィをお与えください」
「三日だと? それはいくらお前でも無理があるのではないか?」
「マナフィの性質は王もご存じの通り、私の見立てでは、三日もあの国に囚われたままではマナフィの心、何よりそれと共にある王子の心が濁ります。それだけは避けなくては」
「おおアテナよ。お前はいつも我が王家の為に無理をする。その忠心には感謝しかない」

 三日という時間が妥当なことは王にもわかっています。しかしその為にアテナにかかる負担に王は心を痛めました。しかしアテナは笑みさえ浮かべて別れを告げました。

「……それは、王様が他者の心をくみ取ることを大切にされているからですよ。それでは時間が惜しいのでこれで!」

 アテナが指笛を吹くと、窓からペリッパーが入ってきてアテナの前に着陸します。

「私の剣達に今すぐ町の門まで集まるよう伝えてください。それとあなたも、またサポートしてくださいね?」

 真剣なアテナな言葉にペリッパーはすぐさまゲッコウガ、エルレイド、ギルガルドのもとへ飛び立ちます。それを見た王は呟きました。

「しかし、いつ見てもあのペリッパーはお前のポケモンにしては凡庸だな。あれくらいなら軍の水兵の持つポケモンのほうが強そうだが」
「あの子に強さは求めていませんよ。人間には渡れない場所で私を載せて空を飛び、波に乗り、怪力で岩を押してくれればいいんです。誰かを安全に運ぶことでは誰にも負けない子ですから」
「一人で圧倒的な力を持つお前ならではだな……良い、行くがよい。そしてマナフィを連れて戻ってくるのだぞ」
「仰せの通りに」

 アテナは走り出しました。合流した剣であるポケモンと運び屋ペリッパーと共に。期限は三日。それでなくても王家の為には奪還は早いほうが良いのです。
 彼女の俊足は、一日もしないうちにマナフィを盗んだ敵の盗賊団を発見しました。
 ペリッパーには岩陰に隠れるように言い、三つの剣であるポケモンたちと共に向かいます。

「あなた達を王に仇なすものとして誅します。理由はもちろんお分かりですね?」
「……早くに追手が来るとは聞いていたが、人間一人にポケモンは四体? とんだ拍子抜けだな。はっ、やっちまえお前ら!」

 盗賊団の頭はアテナと引き連れたポケモンを見て嗤いました。盗賊の数はゆうに二十を超え、ポケモンの数もその倍近くはいるのですから無理もありません。

「──自分たちがマナフィを盗んだことを認めるのですね」

 多数の悪漢に囲まれたアテナの表情に浮かんだのは、笑み。彼女とその剣たるポケモンたちが刃を振るいました。
 王命を果たす忠臣のものでもなく、悪を前に正義を為す聖者でもなく。
 ただ、敵と判断したものを殺め、戦いを楽しむ狂気のそれでした。
 頭以外の賊とポケモンをすべて斬殺するとアテナの顔から笑顔が消えました。

「終わりですか。確かに拍子抜けですね。マナフィはどこに? 正直に答えるのなら命は取りません」
「俺たちが盗んですぐ、この仕事を依頼した奴が持って行ったさ! あいつの居場所も教える! だから許してくれ!」

 一方的な戦いの途中でマナフィがこの場にいないことにアテナは気づいていました。盗賊の頭は震えあがって答えました。マナフィの本当の居場所を。

「わかりました」

 一閃。盗賊の胸をアテナの刀が切り裂き、だまされたことに文句を言う間もなく息絶えた男を、彼女は特に感情のない目で見つめて何かを考えた後、ため息をつきます。

「……やっぱり、心の痛みなんてものは私にはわかりませんね。さて、もういいですよペリッパー。進みます」

 岩陰に隠れていたペリッパーはなるべく盗賊たちの屍を視界に入れないようにしながらアテナの後をついていきました。アテナも、彼女の剣たるポケモンたちも無表情。その心境は伺えません。だけど空に漂い始めた暗雲が、彼女の心持を示しているような気がしました。本当に盗賊を殺したことに何も感じていないのならそもそもあんな言葉は出てこない気がしたからです。
 ともかく、あの二日ほどでマナフィを王のもとへ届かなければいけない。そのことだけを考えて先を急ぎました。

 それからほとんど休みなく走り続けて半日。残り約一日半。ようやく本当の親玉のもとへたどり着いたアテナは、苦笑いで言いました。

「おかしいとは思っていました。王子の暗殺ではなくマナフィを盗むことに何の意味があるのかと。そりゃ優しい我が国王様は人の心を重んじていらっしゃいますが、あなた達にはどうでもよいことでしょうに。やっぱり、私一人を誘い出したかったのですね。この国を裏切った私を」

 さすがの移動距離に肩で息をするアテナを待ち構えていたのは、盗賊とは数も質も比べ物にならない兵士達とポケモン。
 兵士を指揮する将が、眠らせたマナフィの頭を掴んで言いました。

「ああ、こんな雑魚などどうでもよい。人の心など強き国の為には不要なものだ。お前の国を攻め落とすのに邪魔なのは裏切り者のルチカ、貴様一人!お前が裏切ったせいで十年侵攻が遅れたわ!」
「それで? 数で脅してこっちの味方になれと言うんですかね」
「笑わせるな、裏切り者に与えるのは死あるのみ! いくら貴様でも、これだけの我が兵士を相手に生きて帰ることは出来はしまい! それとも、命乞いでもしてみるか?」
「……命乞いしても殺すんだから余計な問答はやめて始めましょう。何せ時間がないので」

 アテナが、一番近くにいた兵士を念力の刃で刺して殺し合いは始まりました。この国は強さと情に揺れない冷徹さが支配する場所でアテナもそうです。あのお人よしで戦争もできるだけ避ける王とは違うし、当時はどちらかといえばこういう国のほうが多かったのでしょう。
 体力の消費は激しく、多勢に無勢。相手はそこらのごろつきとは違う軍事国家の兵士達。王の右腕たる彼女とポケモン達もみるみる内に傷が増えていき。
 それでもなお、その傷が増えるよりも彼女たちに殺される兵士の数のほうが多かった。その状況に将は業を煮やしてマナフィを放り投げました。


「今です、ペリッパー!!」


 あらかじめこの状況を予測していたアテナ達は将がマナフィから意識をそらした瞬間を狙い、飛び出したペリッパーがマナフィを加えて飛び去ります。一瞬あっけに取られた敵兵たちがペリッパーを攻撃する前に、エルレイドの念力がペリッパーとマナフィをテレポートさせました。そこまで遠くには飛ばせなくとも、兵士達の目さえ誤魔化せればペリッパーなら自力でたどり着けるとアテナは信じたのです。
 ペリッパーは、一層鋭く響き渡る剣戟の音が遠ざかっていくのを感じながらアテナと話したことを思い出しました。

「敵国の狙いは、マナフィではなく私です」
「私の強さはよく知っているはずなので、確実に殺すための戦力を用意していることでしょう」
「だから隙を見てペリッパー、あなたがマナフィを王のもとへ届けてください。少し危険な目には遭うと思いますが……ええ、私をいつも慎重に運んでくれたあなたのこと、信じてます」

 この時、ペリッパーはわかってしまいました。盗賊を殺したときアテナは盗賊のことを考えていたんじゃない。自分の死がおそらく間違いないことを悟ったうえで心の痛みがわからないと口にしたのだと。そうわかるほど、アテナの言葉は平然としていたのです。

「……きっと王は。私が死んだら悲しいと思うんですよね。それだけが嫌ですし、そんな王の言葉に背くのはもっと嫌なんです。なので、あなたとマナフィだけは必ず時間内に生きて戻ってください。王の言葉を守るために」

 そんな王がいたから、私はこれから行く国を裏切ったわけですしね。そう呟いて。有無を言わさずアテナは敵のもとへ向かったのです。
 その言葉を胸にペリッパーは飛びました。暗雲は雨を降らし雷鳴すら轟かせていましたが、こうなることを予知してペリッパーに余計な体力を使わせないために、殺されることを承知で走り続けたアテナを思えば雷を恐れて雨宿りなどしている時間はありません。マナフィが起きておびえることのないよう嘴の中にしっかり入れて安定した姿勢を保ちながら。
 大丈夫、アテナが急いだおかげでまだ時間は十分にあるはずだと自分を奮い立たせながら飛翔し続けていた時。運命のいたずらか、一本の雷がペリッパーを直撃しました。
 ただでさえ水のポケモンは電気に弱いもの。まして空を飛ぶペリッパーにとっては致命的でした。抗うすべもなく墜落します。
 それでも使命を果たすべくペリッパーは羽を動かそうとしましたが、痺れてもうキャタピーほども動きません。
 ここで倒れたら、彼女の決死の行動が無駄になる。王様も悲しむ。でもだいたい今の雷でマナフィだって瀕死になっているはず。もうお終いだ……そうペリッパーは思いました。
 しかしその時。ペリッパーのくちばしの中からアクアリングといやしの鈴の音が広がりました。どちらもペリッパーの体を包み込み、再び飛び立つだけの力を与えたのです。
 ペリッパーがその大きな嘴で守っていたがゆえに、マナフィは雷のダメージを受けずに済み。マナフィの優しさが、ペリッパーを奮い立たせたのでした。
 もうペリッパーを止めるものはありませんでした。暗雲で日差しがわからなくなっていようとも、あなたを信じるというアテナの言葉を頼りにペリッパーは王のもとにたどり着いたのです。

「おお、アテナの! そして確かにこれは王子のマナフィ……よくやった、これで王子の民の心は守られたぞ!!」

 王様は心から喜び、ペリッパーと、ここにはいないアテナ達に賛辞の言葉を贈りました。それを聞いてペリッパーは心底安心しました。自分はやり遂げた。きっとアテナも満足してくれるだろうと。

「この働きには相応しい褒章を……」

 そこから先の言葉は、もう聞こえませんでした。運び屋としての大任を終えたペリッパーは、アテナ達と時を近くして眠りについたのです。
 悲しんだ王やマナフィたちは、命を懸けて小さき命と心を守ったペリッパーを称えて『空の運び屋』としたのです。
 
 

 いかがでしたか? 優しさと夢のあるお話だと思われたか、使命と血に塗れた酷なお話と思われたか。
 ……はて、あなたはどう思うのか、ですか。
 いえいえ、わたくしめは只の語り部なれば。わたくしの感想など詮無き事。
 ただ、この物語を聞いたあなたの心が少しでも動いたのならそれが語り部の喜び──そういうことです。

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