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作者:ジェード
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 一面には、空より広い暗黒。そして、キコキコキコとペダルを駆動させる音。
「右に96歩、次は下に576歩……」
 自慢のブルーポケッチを見て、ひたすらに暗いデバッグフロアを自転車で彷徨う少年。彼は、シンオウ地方、フタバタウン出身のコウキという。
 彼は、なんと殿堂入りを果たしたトレーナーだ。8つのジムバッジを集め、四天王の扉の前で『なみのり』をし、時空が歪んだ末にチャンピオンとなった、ゴッド・オブ・スーパートレーナーなのだ。これには、シロナちゃんお口あんぐりである。
「下に48……ここで、レポート!」
 このコウキ少年、こんな四天王の部屋よりも謎空間で、何をしているかと言うと、またしても時空の壁を突き破っていた。彼は懲りることなく、世界の禁忌を侵してまで、幻のポケモンダークライを手に入れようとしていたのだ。
「あとはぶつかるまで漕ぐ! 漕ぐ!!」
 ポケッチのカウンターは、動かなくなっていた。しかし、コウキ少年は右へ右へと、自転車を動かした。
「あれ……? そろそろ、ぶつかるはずじゃ」
 コウキ少年の目論みとは裏腹に、暗黒は晴れていく。果てしなかった黒の裾に、地平線が現れた。何か間違えたらしい、と帰ろうとするコウキ少年。しかし、左下には謎のモンスターボールマークが渦巻いていた。つまり、ローディング中なのだ。
「え、ちょ……何これ!?」
 気が付けば、コウキの周りは見知らぬ田舎道になっていた。人も車もポケモンもいない。広がるのは、ため息つくほどに続いている田園と、青色の高い建物が一つ。ポケモンセンターや、フレンドリィショップ等も見つからない。
「やあ、†Kouki0418†!」
「誰だこのおっさん!?」
 困惑するコウキに、ホログラム越しに話しかけてきたのは、やんちゃそうなナイスミドル。いつの間にか少年が持っていた端末から、軽快な笑顔を飛ばしていた。
 違和感があった。コウキの知る人間や大人の博士らよりも、なんかずっとシワがあったり、髭が細かいからだった。何故か少年の手には、その博士を映し出す薄い謎の箱もあった。
「てか、†Kouki0418†ってボクの黒歴史時代のハンネじゃん! 恥ずかしい!!」
「まあ……誰しもそういう時はあるからね! 私はウィロー博士だ。よろしく!†Kouki0418†!」
「いちいちダガーやめて!」
 この情報量の多さに揉まれるうちに、コウキ少年はちょっとずつ状況を把握していた。なんだ、別の地方に来てしまったのか、という具合に。いきなり博士が話しかけてくるのは、監視されてるようで怖かったが。ともかく、このウィロー博士という人に聞けばどうにかはなるだろう、と。
「あの博士、ここってどんな地方なんでしょう? ボク、シンオウから気がついたら来てしまったようで」
 顎ひげを弄る博士は、陽気な風貌を変えずに話していた。それが、全く彼の思考を宇宙ニャースにするとも知らずに。
「地方? 君は今、北海道 釧路市にいるようだね! まずは、ポケストップを見つけたら、回してみよう!」
「ん、んん???」
 コウキには漢字が読めぬ。コウキは、フタバタウンの少年である。笛を吹き、罰金ボーイと遊んで暮らしてきた。けれども混沌に対しては、人一倍敏感であった。
 そう邪智暴虐の君主に激怒する暇もなく、目につく青く丸い看板があったので、近づいてみる少年。
「あ、なんだ、よかったあ……」
 安堵したが、あったのは見慣れたお得な掲示板。ではなく、そこにあったのは、簡素な見慣れない文字の羅列。そして写真だ。
『釧路駅の熊さん』
 苦笑と沈黙。そして、滑り落ちたウィロー博士の映る端末。生唾を飲み込んでから、転げ落ちるように一言。
「……やっぱり異世界転生だああああああああああああああぁぁぁあ!!!!??!?」
「えっ君いきなり叫んで……大丈夫? こわ」
 その時、電子世界の釧路市には、少年の轟きと軽く引いた博士の本音が、響いたとか響いてないとか。





 ボクは、コウキ。最年少シンオウ・チャンピオンだ。謎のおじさん、ウィロー博士の取引現場を偶然見てしまい、気がつくと、知らない世界ホッカイドウ・クシロにやって来てしまった! とっさの判断で†Kouki0418†と名乗り、同じく一命を取り留めたビーダルの灰ば
『やあ†Kouki0418†! フィールドリサーチは順調かな?』
「帰りたいです」
 あれから、色々とギャップを感じつつもボクは元気だ。
 何故か、無戦闘でボールに捕獲されるポケモン達。何故か、半分のわざをボッシュートされたボクの手持ち達。ポケモンだけで構成されたポケモンジム。怪獣映画か?ってくらい大きい、レイドのポケモン。たまになんかいる、友達のヒビキ君がつぶしたって言ってたロケット団。(しかも、あんなビビットカラーのやばい人達だっけ?)
 色々と驚くことはある。でも一番はやっぱりこれだ。
『そうだ、この前送ってくれたポケモン達をありがとう†Kouki0418†! アメを転送したから、有効活用してくれたまえ』
「……」
 そう、“何故か”ポケモンを転送すると、それぞれ違うアメにして返してくれるのだ。ここではポケモンを育てるには、そのアメを使うらしい。しかも、この前は108匹ものゴーストポケモンを要求された。ミカルゲは、罪人の魂が繋がれて云々のポケモン……つまり。
『調査ありがとう! 君のおかげで、ミカルゲと出会えるようになったみたいだ!』
「錬成術じゃん完全に」
 そう、悪の組織のおじさんと、ボクは戦っていた。アカギとかいう目の死んだおじさんより、よっぽど凶悪なこのウィロー博士。この人の元で、従順であるフリをしていたのだ。何故かと言うと、もしや帰れるのかも……? という希望が、実は芽生えて来たからだ!
「まずは、おんみょーんを捕まえるか」
 慣れた手つきで、ボールを持った手首をアホみたいにクルクル回す。すると、どうだ! 完全にカーブボールが物理法則を無視して、ミカルゲの前に固定されたぞ! そのまま、ポイッと投げてやるとExcellent!! Foooo!!
 こうしてポケモンを捕まえると、何故かアメが手に入る。怖い。ちなみに、ビーダルはビッパのアメをむしゃむしゃ食っていた。『たんじゅん』すげぇ。ま、まあいいか……ミカルゲって珍しいし。何故かボクの図鑑には、発見すらされてなかったんだよね。そうだ、ついでにナナカマド博士にも、あっ。
「帰りたい……シンオウ! あまいみつの木! 音が鳴るジムバッジ! 腕破壊料理ポフィン!! トラップで移動するちかつうろ!!!」
 帰りたい。ようやく、この世界に慣れてきたとはいえ、自転車に乗ると『速度を落としてください』なんて言われる世界は嫌だ。ジムにムクホークを置くと、数分でカイリキー軍団が訪れる世界なんて嫌だ。なんで、どうして?? しかも、無表情に笑うお兄さんやお姉さんトレーナーばかりなのだ。なんで? いやいや、ゲンガーリュックでごまかしてるけど、相棒ディアルガって殺意が! 抑えられてないよ!?!?
「かくなる上は……」
 ゴクリ、と見つめるボク。(とずっと相棒だったビーダル)。その先にあるのは、タマゴ孵化装置に似ているけれど、違う。これは、転送装置。わざわざ最初から、デカいリュックに入っていたのだ。
「うおおおおぉ!!! ビーダル『かいりき』だあああ!!!こじ開けろおぉぉ……!!!!」
 俺自身が転送されるってことだ!
 バチバチとヤバそうな音が聞こえると、視界が白くなっていく。手も足も。感覚が薄れていって、いつしかボクは、この世界そのものだったんじゃないかって。そんな浮遊感と俯瞰を手にしていた。バリボリ聞こえていたのは、ビーダルの噛み砕く音だった。紛らわしい!
 全く考えてなかったけど、死んだらどうしよ。
 ジュン、ヒカリ先輩、育て屋のじいちゃん、ママ……今はきっと爽やかな音楽が流れてるんだ。心配かけてたら、ごめんなさい。ボクが次元の壁を突き破ったから……。





「……あれ」
 目が覚めると、ボクとビーダルは見慣れない綺麗な街にいた。緑が綺麗な、田舎町だろうか。スボミーがいて、なんか見た事ない白いメリープが地面を転がっていて。あはは、素敵。え?
「マサル! 待たせたな……ってどちら様なんだ?」
 褐色でやんちゃそうな。ボクよりはちょっと背の高い男の子が話しかけてきた。な、なんか……嫌な予感がする。
「フタバタウンのコウキ……君は?」
「フタバタウン!? とんでもなく外国から、旅行に来たんだな! おれはホップ! チャンピオンのダンデはおれのアニキなんだぜ!」
 え、あ、あれ……。チャンピオン? ダンデ? シロナさんは? カントーのワタルさんは? ていうか外国だって? あは、あはは。頭痛が痛いや。
「ホップクン……ダンデ? ダンデイズチャンポン?オ、オオウ、ウーイエ……ココハ ドコデスカ?」
「急に片言になってどうしたんだ……? ここはガラルのハロンタウンだけど、道に迷ったなら、駅まで送ってくぞ!」
 拝啓、ナナカマド博士。ボクはもう二度と自転車を悪用しないと誓います。レポートにめちゃくちゃな内容も書きません。バトルファクトリーで『かげぶんしん』『どくどく』クレセリアに運負けしても怒りません。ビーダルのエサは高級ポフィンにします。ですので、慣れ親しんだ、故郷フタバタウンに帰りたいです。ボクとビーダルが連帯責任を負って土下座します。ごめんなさい。
「でも怒るんだろうな……あの頑固博士」
「……? 怒られたら、おれも一緒に謝ってやるからな、元気出せよコウキ!」


 ──数週間後、フタバタウンには顔色のすこぶる悪い少年と、不思議な“モンスターボールマーク”が付いたビーダルが帰ってきたという。
 やりのはしらでは、ディアルガが時間を安定させ、パルキアはぱるぱるぅ! と鳴き、ダークライは、変わらずに対立派閥への介入をさせられていた。
 よい子は、ゲームをかいぞうしたり、セーブデータをいじったりせず、たのしくプレイしようね!

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