ココロノシズク

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作者:立花愛瑠
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読了時間目安:10分
春うらら並びにナツハヤテ、沢山の閲覧誠にありがとうございます。励みになります。今回はいつもよりちょっと長め、女の子とラティアスがテーマのお話です。心行くまでお楽しみください。
“清き心の持ち主の元に、水の都の守り神姿現す”
これは、古くから私の住む地域で言い伝えられてきた伝説だ。しかし伝承の神が実際に姿を現したという記録はここ千年の中で”一度”たりとも無い。その為、周りの人間は皆ただのおとぎ話だと馬鹿にして信じている者は誰一人居ない。
でも、私は違う。今も、かつて言い伝えの神が祀られていたとされる銅像に祈りを捧げに行くところだ。片手には供物のマラサダを携えて森の中を小走りに駆けていく。
銅像があるのは、うっすらと木漏れ日が差し込む森の中程の小空間。最初に来た時は苔だらけの銅像を一生懸命綺麗にしたっけ。
今ではすっかり見慣れた空間に到着した私は、空になったバスケットを持ってきた新しいものと取り換え、銅像に付着した埃を軽く掃って、祈る態勢に入る。
「あぁ、守り神様。どうか姿を現して下さい。世間は貴方の存在を否定する者ばかりです。本日も大好物のマラサダをお持ちしました。例えどれだけの月日が経とうとも私は祈ることを辞めません。どうか私に祝福を授けてください。」
「おぉ、敬虔な信徒よ・・・なんちゃって!!やあ、君が崇めている”神”だよ。ところで今日は何味のマラサダを持ってきてくれたんだい。というか食べていい?」
想定外の出来事に銅像を見つめたまま固まっている私を尻目に、普通に現れた自称神は満面の笑みで供物を頬張る。
「人間はさぁ、面倒くさいんだよねー。神様神様って崇めるくせに、都合が悪くなれば居なかったことにしようとして、本当にウンザリ。(モグモグ)」
ようやく、事態を飲み込み始めた私は勇気を出して声をかけてみる。
「あのー・・・多分私が崇めている神様って別の人だと思うんですけど、知り合いだったりしませんかね?」
「なんと、失礼な!私こそ水の都の守り神”ラティアス”だ!ほらほら・・・
こーやってポケモンの姿になったり人の姿になったりできるんだ!!どう信じてくれた?」
神様だって性格がある訳だし何より第一印象だけで相手を判断するのは良くない。そう考えを纏めた私はもう少し話をしてみることにした。
「はい。失礼な口をきいてしまいごめんなさい、神様。いつも私が暮らす街を陰から見守って下さっていたと知りとても感謝しています。」
「んー?僕は基本都で仲間と暮らしているから、こっちの世界に来るのは君がマラサダを持ってきてくれた時くらいかな。でも、見て回っているのはせいぜい君のお家の周りくらいだから守り神っていうより、守護霊って感じかな。あっはっはっは!!」
前言撤回。もの言いたげな視線を送る私をよそに一人笑い転げる”自称神”。私は怒りたくなる気持ちを信心でぐっと抑えて話を続ける。
「先の話にも出てきましたが、言い伝えにある水の都というのは本当に実在するのですか?」
「うん、あるよー。お得意の光の屈折を利用して出入口を隠している訳。時々勘が鋭いポケモンが迷い込んでくることはあるけど、人間は絶対見つけられないはずだよ。現にこちらから招き入れた人間以外が都に入ったことは、一度もないよ。そうだ、長年のマラサダのお礼もしたいし連れてってあげるよ、都。」
「はい!是非連れて行ってください!!」
そう私が返事をするのに、思考する時間は必要無かった。先ほどまでの怒りなどどこへやら、そこには純粋な好奇心だけが残っていた。
「ひょいっと。こうして僕の羽で包み込めば透明人間誰にも出入りを見られる心配は無いね。それじゃあ目を瞑っていてね。3・2・1・・・GO!!」
物凄い風圧を肌に感じた。あまりに一瞬のことだったので果たしてどのように移動したのかは分からない。
「はい到着。もう目を開けてもいいよ。ようこそ、水の都【クローシス=メメド】へ!!」
その光景は正しく“地上の楽園”と表現するに相応しい。無数のラティアスが飛び交い、極めて透明度の高い水が水路を悠々と流れ、花々はその水の恩恵を最大限に受けて、今まで見たことがないほど鮮やかに咲き誇っている。突然の来訪者に驚いている様子は無い。
「さあさあ、そこの席に座って。水の都産のバラを使ったロズレイティー御馳走するからね。」
そう言って飛び去ると、やがて何分も経たぬうちに乾燥させられたバラ(茶葉)が入った瓶とお菓子が入ったバスケットを両手に携えて戻ってきた。
「どうぞ、淹れたてを召し上がれ。お菓子も好きなの食べていいからね。」
鼻を抜けて、肺の奥まで入り込んでくる高級な香り。香りが強いからと言って決して嫌な気分になるわけではなく、寧ろバラの香りに包み込まれたような心地よさを覚える。
「普段は紅茶を好んで飲むのですが、ハーブティーも良いものですね。角が立ちすぎないようにバラだけではなく様々な植物をブレンドしているところに拘りを感じます。クッキーも焼き加減が丁度よくてとても美味しいです。」
「ご名答。喜んでもらえてなによりだよ。そういえばあのマラサダも君が自分で揚げたものなのかい?」
その問いに対してこくりと頷いて見せる。それを見た彼女はそうかそうかと満足げな表情を浮かべる。
「そういえば言い忘れていたけど、僕はファンネロって言うんだ。仲間からはファンファンって呼ばれてるんだ。」
「こちらこそ、申し遅れました。私はアリス・ハイリーン。アリスと呼んで下さい。」
律義に丁重に挨拶をする私を、まあまあと手で制しファンネロは言葉を続ける。
「ティータイムも程々にして次は、街を案内してあげるよ。アリス、準備が出来たら僕の背に掴まって。空の旅に出発だよ、振り落とされないようにしっかり掴まってね!!」
私は、言われたとおりにファンネロの背にぎゅっとしがみ付く。腕がすっぽりと、ふわふわの羽毛にうずまる。うなじからはほんのり薔薇の香りがする。
「よーし、それじゃ行くよー、レッツゴー!!」
掛け声とともに少しずつ高度を上昇させていき、やがて薔薇の園が小さく見えるくらいの高さまで到達するとフライトを開始した。
「遠目から見ても一番ポケモンがいるあそこがこの街の大通り。生活に必要な物が全てここで揃うよ。とは言っても僕たちは人間と違って服を着て生活したり、アクセサリーを身に付けたりする習慣が無いから、食べ物のやりとりが殆どかな。貨幣も存在しないから取引は基本的に物々交換で成り立っているんだよ。」
「なるほど。人間とともに暮らすポケモンがいれば、人と関わることなく自らの手で文明を築くポケモンもいる。とても考えさせられますね…」
「そうだねぇ、どっちが幸せか比べるのはナンセンスかもね。アリスは相変わらず真面目ちゃんだね。その話は置いておいてほらほら、あそこひと際ポケモンが集まっているでしょう?大通り一の人気店、生はちみつ専門店”ミツハニ堂”さ。土地柄この街は、ハーブティーや紅茶が好きなポケモンが多くてね。応用が利く食材としてはちみつがとても人気なんだ。勿論鮮度抜群、味も一級品だよ。中々手に入らないからまた今度御馳走してあげるよ。」
私が投げかけた哲学的な問いは、ファンネロにとってあまり興味があるものではなかったようで華麗に流される。マラサダの話もそうだが、どうやら彼女は食べ物には目が無いらしい。
「街案内なんて意気込んだけど、実はもう紹介する場所がないんだよね…。文明を築いて暮らそうなんて考えるのは僕たちラティアスやラティオスくらいで、他のポケモンは山だったり海だったり森だったり、各々が定住することなく自然界で自由気ままに暮らしているからね。街を気に入って居付いてくれるミツハニーのようなポケモンも中にはいるけどね。」
申し訳なさそうな表情を浮かべる彼女だったが、その口調から察するに今のこぢんまりとした生活を割と気に入っているようだ。
「いえいえ、十分堪能させて頂きました。あと、大変申し上げにくいのですが、家で父と母が私の帰りを待っているはずなのでそろそろ帰らなくては行けません。」
表情を見るに帰りのことをすっかり忘れていたようだ。すると彼女は、ふと何かを思い出したかのように羽毛の中から何かを取り出した。
「土産といってはなんだけど、プレゼントがあるんだ。これは”こころのしずく”っていう不思議な宝石でね。これを持っていると、私たちが近くにいるかどうか分かるようになるの。心を許した相手に友好の証として渡す風習があるんだ。ネックレスになっているからデザイン性も抜群!!気に入ってもらえると嬉しいな。」
受け取った宝石はまばゆい輝きを放っていた。どうやらそれが近くにいるという合図らしい。
「ありがとうございます、大切にします。いつも神に見守られているということを自覚しより一層自身の言動に注意を払って日々の生活を送りたいなと思います。」
すると、この発言を聞いた彼女は突如腹を抱えてゲラゲラと笑いだす。困惑の表情を浮かべる私に彼女はすかさずフォローに入る。
「いやー、最後の最後まで、本当に君らしい答えだなと思って。ごめんごめん、馬鹿にしている訳では無いんだ。喜んでもらえたという解釈でいいんだよね?」
私はうんうんと肯定の意味を込めて二回首を縦に振る。すうと、彼女は胸を撫でおろし安堵の表情を浮かべる。意外と彼女は繊細な性格をしているのかもしれない。
「それじゃあ、本当にここでお別れだね。来た時と同じ、僕が元居た場所へ送り届けるから目を瞑って心の中で三つ数えてね。いくよ、3…2…1…OUT!!」
ゆっくりと閉じていた眼を開く。私は見慣れた銅像がある、森の中の小広間に戻ってきていた。
しかし、いつもと違うものが二つ。一つはまばゆい輝きを放つネックレス、もう一つは銅像の口元に付着したマラサダの食べかす。
私は慣れた手つきで、銅像に付着した汚れを拭い、空になったバスケットを回収して、スキップをして我が家へ帰るのであった。
ご覧いただきありがとうございます。読了報告とても励みになっております。次回もお楽しみに。

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