森の神様と願い星

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作者:あしゃまん
読了時間目安:39分
ぴかちうさんの小説、「千年狐と願い星」(https://pokemon.sorakaze.info/shows/index/2335/)の3次創作となります。
 ──次の1000年、君には、

────

「おーいストーク、はやくはやくー!」
「ちょっと待ってよナノハ……」
 僕のかなり前でぴょんぴょん跳ねるイーブイのナノハ。ネイティである僕は小さく飛びながらそれを追いかける。
「そもそも僕、別にここに来たかった訳じゃないんだけど」
「森の神様がどんなポケモンなのか気にならないの?」
「それはなるけど……勝手にこの森に来たら怒られちゃうよ」
「もう、意気地なしなんだから。先行くよ!」
「待ってよー、はぐれたらどうするのさ」
「だからはやくー」
「はいはい」
 どうして僕は今、入るなと言われている森の中を子供2匹だけで散歩しているのだろう。いやまあ、原因は目の前を跳び回りながら歩くイーブイなんだけど、どうしてか彼女の提案はやけに魅力的というか、断りにくいというか。
 どうせ外には出かけたいし、まあいいか。そのぐらいのノリで提案に頷いて、今ここにいる。
「でも、この広い森の中でどうやって探すのさ」
「ふふん、実はね、この間もこっそり森にあたしだけで来たんだけど、その時偶然見かけちゃったの、凄く大きなポケモン! 帰りに持ってた文房具を曲がり角ごとに置いてるから、いつかは辿り着けるはずよ!」
「なるほど」
 彼女は絵が好きで、この森にはよく、絵の題材探しに来るらしい。入るなと言われているとこだというのに、勇気があるというかなんというか。
「ん、そろそろだよ。この消しゴムがあるってことは」
「はーい」
 ナノハに従って道を進む。いけないことをしているという緊張はあるけれど、ナノハを見ているとそれもどこかに行ってしまったようだった。
「ここだ」
 そこは、小さな広場のようになっていた。今まではうっそうと茂った木々に遮られていた太陽の光が眩しいぐらいに降り注ぎ、ど真ん中には2,3本、大きな木が生えている。その木陰には、白く、大きな体躯のポケモンが。
「あれは……キュウコン、かな」
「あ、起きたよ!」
 キュウコンは体を起こすと、隣の木を揺らして木の実を落とす。少し遠くから見てもわかるぐらいの出来のいい木の実に、僕たちは「おいしそう……」「うん……」と顔を見合わせる。
「いるのはわかってるのよ、そこのポケモンたち」
「えっ」
 思わず僕は跳びあがる。それで茂みから出てしまい、その姿をさらしてしまった。
「あ……」
「さて、どうしてここに来たのか、教えてもらえるかしら」
「何やってるのよストーク。ごめんなさい、あの……森の神様を前見かけて、どんなポケモンなのか気にならないかって誘ったのはあたしです」
 ナノハが茂みから広場へと出た。僕もそれに続く。
「ただ、ホントにちょっと気になっただけです。お邪魔でしたら帰ります」
「……あなたたち、知らないの?」
「え?」
 僕たちは揃って首(?)を傾げた。キュウコンは「知らないのならいいわ。この森は危ないから、早くお帰り」とだけ言う。
「あの……キュウコンさんはどうしてこんな森の中にいるんですか?」
 もう森の中なんかに暮らすポケモンはそういない。みんな街に出て、それぞれに暮らしている。ナノハの質問はだから、ある意味でまっとうだ。でも、いきなりすぎる。
「ナノハ、そういうプライベートにあんまり踏み込むなよ」
「えー、でもー」
「でももイモもない! 失礼しましたキュウコンさん」
「ええ。でも約束。ここのことは誰にも言わないこと。でなきゃ……よくないことが起こるわ」
「え……はい」
「わかりました、誰にも言いません!」
「さ、お帰り」
「あ、でもひとついいですか? あなたが森の神様ですか?」
「神様……私のことをそう呼ぶポケモンもいるらしいわね」
「ホント?! 凄い、あたしたち森の神様に会えた!」
「だね。僕もビックリだよ」
「ホントに?」
「顔に出にくいだけで、ホントに」
 だけど、不思議と嫌な気分はしなかった。怖いだとか、恐ろしいみたいな感情はなくて、どことなくこの広場の、このキュウコンさんの雰囲気とか、むしろ羽が休まる心地だ。
「あの、僕はストークといいます」
「あたしはナノハ! 今日は会えて嬉しかったです!」
「ならよかったわ。さようなら」
 キュウコンさんはニコリとほほ笑んで、僕たちに別れを告げた。優しく、けれどもう会うつもりはないことを示す、別れの言葉を。

 だけどなぜか、僕はその次の日も、その森の中へと飛んでいた。

「どうしてまた来たのかしら」
「わからないんですけど……静かに本を読むとなると、ここがいいなって思って……やっぱりお邪魔ですか?」
「静かにしている分には構わないわ」
「ありがとうございます!」
 僕は彼女のいる大木の傍に飛んでいくと、持ってきた本を開く。3本の木が適度に日差しを遮り、森の澄んだ空気がここまで流れてきて、キュウコンさんの体温はどこまでも優しく暖かくて。今まで過ごした時間の中でもトップクラスに心地いい時間だ。
「これからも、ここに来て読書してもいいですか?」
 夕方、そろそろ帰ろうという時間。僕はキュウコンさんにそう問いかける。
「わかったわ。でも、ここのことは誰にも言わないこと。いい?」
「もちろんです」
「それなら構わないわ。私の名前はフレア。ストーク君、私は何も構わないわよ」
「大丈夫です。ここにいるだけで十分なんで」
 フレアさんはそう、とだけ呟いて、それからこっちも見ずに、気を付けて帰るのよ、とだけ言った。

 それからしばらく、僕はフレアさんの所で日がな一日読書をしていた。
「今読んでる本が終わったんで、しばらくここには来ないと思います。またしばらくしたらここに来るんで」
「あらそう」
「……森の神様は、近づくものに業火の呪いを与えるという噂なんですけど、そんな呪いなんてやっぱりないですよね」
「え?」
「フレアさん、僕には何もしないから」
「何も知らないからよ」
「……?」
「知らなくていいことが、この世にはあるのよ」
「そう、ですか」
「改めてだけど、この森のことは誰にも言わないこと。約束ね」
「もちろんです」

 次に読む本の選定にかかる。レニアさんの本棚には、本当にこれを全部読んだのかと思う程、たくさんの本がある。小説に、歴史書に、科学書に。なんでもありだった。
「あらストーク、もう読み終わったの?」
「はい。次は何を読もうかなって」
「そうねぇ……あなたが面白そうだと思う本を選びなさい」
「またそれ……わかってますよ」
 ワタシラガのレニアさんは、両親をなくして行き場のなかった僕を引き取り、ここまで育ててくれた、いわゆる里親だ。
「今回の本も凄く面白かったです」
「よかったわ。あなた自身が選んだ本だから、当然ね」
 まあ、と思う。本棚の中で僕が気を惹かれた本はたいてい面白く、気を惹かれない本もたまにはと思って手に取ったけど、どうにもつまらなくて途中で断念したことがあり、レニアさんのいうことはたぶん本当なのだろう。
「……これ全部読んだの?」
「ええ。中身は忘れてもいいの。無意識の片隅に埋もれている、それだけでポケモンは満たされ、心が豊かになる。生き方のひとつの指針となる。それが幸せということなんだと思うわ。でも、「あなたはあなたの答えを見つけなさい」」
「あら」
 耳にオクタンができる程聞いた話だけど、この話は嫌いじゃない。さすがに飽きたけれど。
「わかってる。まだ見つからないけどさ、ゆっくり見つけるよ」
「うふふ。楽しみにしてるわ。あなたの答えをたぶん見届けられないのが残念だけどね。さて、本を見つけたら、ご飯にしちゃいましょうか」
「はーい」
 次に選んだ本は、大切なポケモンと永遠の別れを迎える時についての小説だ。ゆっくり読んでいこう。

「何を読んでいるの?」
「あ、小説です。愛したポケモンがもうすぐで死ぬ……その時の気持ちと行動が綴られてます」
「そう。もうすぐで死ぬ、か……」
「噂だと、あなたは誰かを待っているのだと聞きます。教えてくれなくてもいいですけど、聞いてもいいですか?」
「聞くのは構わないけど、教えないわ。でも、大切な存在なのは確かね」
「ありがとうございます。僕が読み終わったら、この本を読んでみますか?」
「遠慮するわ。私には必要ないもの。永遠(とわ)に、一緒にいるのだから」
「……そ、そうですか」
「でもありがとうね」
「いえ」
 フレアさんは、どこか遠くを見るでもなく、ただ足元を見つめてそう言った。僕はなんだかそこで、初めて体のこわばりを感じた。

 そんなことがあったからと言って、距離が縮まった訳ではない。僕たちの距離が少しでも縮まったきっかけは、あの突然の来訪者だと言えるだろう。

「はっ」
 体がこわばる。未来と過去を見ると言われる僕の種族にはよくあることらしいが、『見えてしまう』のだ。
「……なんだか、森にガラの悪いポケモンがいたような」
「どうしたのストーク、また見えた?」
「うん。ごめんナノハ、ちょっと行ってくる」
「ん、そんななんかあったの?」
「まあね……大丈夫。ちょっと僕にはおおごとだけど、そんなたいしたことじゃないから」
「わかった。じゃ、またねー」
「うん、またね」
 ナノハに別れを告げて、僕は急いで森へと向かった。
「フレアさん! この森に誰か来るかもしれない!」
「……それはどういうこと?」
「僕ネイティだから、たまにちょっと未来とかが見えるんです。ネイティオに進化しないとちゃんとは見えないんですけど……」
「それで、ここに誰かが来る未来を見た、か……ありがとうね。少し身を隠すわ。少し目を閉じていてもらえるかしら」
 僕は頷いて、目を閉じる。それから少しして、フレアさんの気配は消えた。
 しばらくそこで本を読んでいた。フレアさんの暖かさはなかったけれど、それでもこの場所は十分暖かかい。と、そこにある1匹のポケモンが現れる。
「なあ」
「なんですか?」
 顔をあげると、そこにはギモーがいた。
「……お前がこの森の神様、か?」
「いいえ」
「……この森には、願いを叶えてくれるポケモンがいるという噂なんだが、知らないか?」
「願いを? そんなの知りませんけど……」
「そうか……悪い、邪魔したな」
 そういって彼は去っていく。ガラは悪いけど、中身はそんなに悪いポケモンではなかったらしい。
 それにしても、願いを叶えるポケモンかあ。きっとそれが、フレアさんの抱えている秘密なんだろう。僕は帰りながら、そんなことを思う。フレアさんはそろそろあそこに戻っているだろうか。このことについて聞いてみてもいいんだろうか、どうなんだろう……。
「いや、でも……」
 何か知っている存在がここに近づいたら、危害を加える。そんなことを言っていた。だったら、知らないフリを通した方が……。
 その日は悶々としながら布団に潜りこむことしかできなかった。

「何か聞いたわよね」
「えっ」
 僕はビックリしてフレアさんの方を見る。
「森に誰か来た時、誰かを探してなかったかしら」
「あー……はい。でも、誰にも何にも言ってません」
「ありがとう。……あなたって、何か願い事はある?」
「願い事? ……うーん、特に思いつかないな。しいて言うなら、里親のレニアさんに恩返しをしたい、ぐらいかな」
「なるほど、かわいい願い事ね。……ところで、里親って何かしら」
「あ、あの、ホントの親じゃなくて、育ててくれた親です。僕のホントの親は、死んじゃってるから」
「なるほど。悪いことを聞いたかしら」
「いえ、今が幸せだから大丈夫です」
「ならよかった。……わかった。あなたには教えてあげましょう。私と、トワの思い出を」
「永遠の思い出?」
「トワ、それが私が待っているポケモンの名前なの」
「なるほど……」
「私も、親がいなくて1匹だった。あなたには育ててくれる親がいたらしいけど、私にはそれすらいなかった。そんな私の前に、ジラーチの、トワがやってきてくれたの」

────

「なるほど……」
「それから私は、ずっとここで待ってるの。トワが次目を覚ます時までね」
「それで、何回目なんですか?」
「次会ったら4回目ね」
「え……てことは、もう3000年近く生きてるってこと?」
「そうね。森の神様と言われてもおかしくはないかもね」
「……大変、と言っていいのか」
「別にそんなことないわ。私にはいつも、トワがいてくれるもの」
「とても大事な存在なんですね」
「大事……そうね。とてもそんな言葉では言い表せないぐらい、大切な存在よ」
「……会ってみたいな。フレアさんとトワさん、2匹のこと、なんというか、凄く気になる」
「それでどうするの?」
「僕も、友達になりたい。1回限りの友達だけど、それでもいいのなら」
「ふふ、ありがとう」
 フレアさんはそうほほ笑む。こんな話を聞かされて、こんな表情を見せられたら、仮に願いがあったとしても叶えてもらおうだなんて思えない。
「そういや、次はいつ目覚めるんですか?」
「もうすぐよ。もう、来週には目覚める頃じゃないかしら」
「えっ、そんなすぐに?!」
「まあね。これも、トワの力なのかなと思うぐらい」
「え?」
「ううん、こっちの話よ。何にせよ、聞いてくれてありがとう」
「絶対に秘密、ですね」
「ええ」
「わかってますよ」
「ありがとう」
 フレアさんはそう言って、僕のことを送り出す。

 それからしばらくは、今まで通りの時間が流れていた。そんなある日、家を出ると、ナノハが待ち伏せしていた。
「最近ストーク、どこ行ってんの? 誘おうとしても出かけてばっかでさ」
「ごめんねナノハ。ちょっといろいろ忙しくって」
「ふーん。……隠し事してるでしょ」
「え? 別に……」
「でも今日も朝からだもん。気になって早く来たけどさ。ストーク、普段こんな早起きだっけ?」
「夏は陽が長いからつい早く起きちゃうよね」
「……ふーん」
 ジト目でこっちを睨みつけてくるナノハ。僕はなんというか、早くこの疑惑が行き過ぎてくれないかなぁと祈るのみだった。
「ついてく」
「へ?」
「あたしもついてく」
「……マジ?」
「いいよね」
「まあ、いいけど……」
「決まり! 一緒に行こう!」
 心の中で、フレアさんごめん、と頭を下げていた。

「森の神様のとこで読書していたとは……あんた、意外に太いねえ」
「だってここ、凄く居心地がよくてさ」
 何も言ってないよということを必死で目くばせしながら僕はそう応対する。
「幸いいていいよって言ってくれてるから。でも、あんまりたくさんは連れてこない方がいいから、僕だけで来てたんだ」
「なるほどねえ。ま、じゃあここはやっぱりあたしたちだけの秘密ってことで! 神様、いいですか?」
「……わかったわ。絶対よ」
 フレアさんは呆れ声でそう言った。それから、ナノハはしばらく広場を駆け回っていたが、やがて退屈になったのかそれともこのうららかな気候にあてられたのか、うたたねの世界に落ちていた。
「ジラーチのことは言ってませんよ、こいつ勝手についてきただけですし」
「そういうこと。まあでも、悪い子ではなさそうね」
「それは僕が保証します。明るくて、いい奴ですよ」
「不思議ね」
「え?」
「最近はなんだか、あなたがここに来るのが楽しみなの。何をするわけでもないのにね」
「……誰かと一緒にいること自体が珍しいからじゃ」
「さあね。だけど、それと同時に申し訳ないの。トワには私しかいないのに。私も私だけにならなくちゃ」
「……そうかな。トワさんは決して、2匹ぼっちじゃないはずだと思うけど」
「え」
「……トワさんには、フレアさん以外にも友達がいたんでしょう? 二度と会うことはできなくても。そういうことが、フレアさんにもあっても」
「でも、長い時間を一緒に過ごすのは、トワに申し訳ないわ。だから、ストーク君ともこれ以上深い関係になるつもりなんてない。こうやって、一緒にいるのが関の山ね」
「……そう、ですか」
 僕は翼をすくめ、そしてナノハの方に目をやる。こんな話をしているなんてかけらも知らずにすやすや眠るナノハは、幸せそうな顔だった。

 その表情が、一瞬で塗り替えられる。
「見つけたぞ。さあ、ジラーチの居場所を教えてもらおうか」
「あっ! この間のギモー!」
「うーん……何この状況」
「ナノハっ! 大丈夫?!」
「え、なになに、何がどうなってるの?!」
「この子を離してほしければ、ジラーチの居場所を教えるんだ!」
「え、じら? どういうことー!」
 1匹だけ状況を何も知らないナノハはそう叫んでいる。僕はフレアさんの方を見ていた。
 どうすればいいんだ、この状況を。
「ジラーチ? なんのことですか?」
「とぼけるなっ! 俺はこの、『わるいてぐせ』を治してもらいたいだけなんだっ!」
「願いを叶える?!」
 ナノハはまたしてもそう叫ぶ。ギモーはそんなナノハをつかんだまま、頭を下げた。
「お願いだっ! この子を離すから、教えてくれっ!」
「な……」
 こんなポケ質のとり方、聞いたことない。僕は困惑したまま、ギモーさんに声をかける。
「あの……わるいてぐせ、とは?」
「ああ……俺の特性なんだ。盗みたくなくても盗んでしまう……おかげで周りからは、誰もいなくなっちまった……やり直したいんだ、だからっ!」
「なるほど。……願いを叶えるかは、ジラーチ次第です」
「フレアさん?!」
 僕は驚いてその顔を見る。
「ジラーチはまだ眠っています。しばらく目を覚ましません。ですから、しばらくここで暮らしなさい」
「い、いいのかっ?!」
「ええ。嘘はつきません。ですからその子を離しなさい」
「あ、ああ」
 ナノハが解放され、彼女の方へと僕は飛んでいく。
「大丈夫、ナノハ」
「うん……怖かったけど、大丈夫」
「よかったぁ」
 ギモーはよろよろとフレアさんの方へ向かっていき、それから土下座をした。
「ありがとう……ありがとう……」
 声に涙が混じっているようだ。ギモーというポケモンは土下座のフリをして攻撃することがあるらしいけれど、今はさすがにしないだろう。ナノハを離したあたり、信じていいような気がした。そもそも、脅し方もへたくそだったし、たぶん根っからの悪い奴というよりは、どうしていいかわからなくてしただけなんだと思う。
「願いを叶えると決まった訳ではないですから、頭をあげてください。それに、お礼を言うべきは私ではないはずです」
「そうだな。わかった。俺に何か手伝うことはありますか?」
「木の実を集めてくるのを手伝ってもらえるかしら」
「わかりましたっ!」
 そういうと、ギモーは駆け出していく。
「大丈夫だった? ナノハちゃん」
「はい。ありがとうございました。あの……願いを叶えるポケモンってどういうことですか?」
「……ここまで聞かれたからには、答えない訳にはいかないわね」
 フレアさんはナノハにジラーチのことを伝え、そして最後にお決まりの口止めをした。
「またギモーみたいな奴が、しかも本物の悪い奴がここに来るかもしれないからね。絶対に秘密よ」
「わかりました! その……どんな願いでも叶えてもらえるってホントですか?」
「叶えること自体はね。でも、トワが乗り気にならない願いは、私がさせません」
「へー。ま、あたしにはそんなたいした願いなんてないし、関係ないけどね」
 そういってナノハは笑う。
「だって、夢は自分で叶えるんじゃなきゃ意味がないもん! みんなと一緒にいるのは楽しいし、みんなから支えてもらってるけど、最終的には夢を叶えるのは自分だもん」
「あなたたち、本当に欲がないのね」
「ま、あたし幸せだもん」
「それなら何よりよ」
 それからしばらく、ナノハが落ち着くまで待って、僕たちは帰ることになった。ギモーさん(アクラという名前らしい)はフレアさんの傍の木のうろで寝泊まりするらしい。
「にしても、森の神様の秘密って、凄いことだったんだね」
「まあね」
「ストークは知ってたの?」
「まあ、君より少し前に。君に連れられてからしばらくずっと言ってたけど、話してくれたのは最近だよ」
「なるほどね……。ねえ、あたしたちで友達になってあげない?」
「言うと思った。僕も同じ気持ちだよ。ナノハがうつっちゃったかな」
「いいじゃん、広がる友達の輪って感じで!」
「まあね」
「これからも行こうね!」
「うん」
 僕は思わず笑顔で頷いた。ナノハもとびっきりの笑顔だ。

 それからまた数日。僕はナノハと毎日のようにフレアさんの所へ通う。アクラさんもかなり打ち解けてきたようで、フレアさんに外の世界のことをいろいろ話しているようだった。
 僕たちがいる傍で、2匹はこんな話をしていた。
「それにしても、あなたはどこでジラーチがここに来ることを知ったの?」
 フレアさんはアクラさんにそう問う。アクラさんは頭を掻いて、
「あの森にはそういう伝説がある、というのは前々から知られていることなんですよ。ただ、この森に悪しき願いを持って踏み入ったものは二度と帰ってこなかった……それ以来、ある種のタブーとして扱われています」
「そう」
「あなたですよね」
「ええそうよ。あなたは運がいいわ。そんな小さくて切実な願いを持ってここを見つけたんですもの」
「へへ……」
「さて」
 ふと、背筋が凍る。怯えながら2匹の方を振り向くが、特に何かが起こった気配は感じられなかった。
「どうかしたの、ストーク」
「ううん、なんでもない」
「ふーん」
「これは本気だって!」
 そうは言いつつ、少しだけ後ろに気を張り巡らせる。
「これからもよろしくね、アクラさん」
「はい、よろしくお願いしまっす!」
 本当に何事もなさそうだった。ただ、なんというか、少しの不穏を感じているのは否めなかった。

「あなたはエスパータイプだからもしかしたら感づいたかもしれないわね」
「はぁ……やっぱなんかしたんですか」
「ええ。他のポケモンたちから脈々と情報が続いてきた、満を持してここに入ってきたのがこのタイミングだということは、きっと相当正確に情報が受け渡されているはず。あんな小さな願いをするためだけに、そんな情報にアクセスできるとは思えないの。そもそも、私は今まで彼と暮らしてるとき、わざと木の実を持ってぶつかってみたことが何度かあるわ。全然盗まれない。だから、狙いはやっぱり、ジラーチよ。私に取り入るフリをしてるのね。そんなとこだろうと思っていたけど。だから……私の味方になってもらったわ」
「えっ……」
「戸惑うわよね。でも、仕方ないの。トワを邪悪な奴らから守らなきゃいけないから」
「まあ、そう、ですよね……」
「普段ならそれだけじゃ済ませないわ。でも……狙いは悪くても、あのギモー自体は悪い奴じゃないのかもしれない。あなたたちが素朴にいてくれたから、そう考えることができた。だから、私、心を操ってみたの。トワを守ることが自分の使命。そういう考えを植え付けた。キュウコンって凄いわね。
 ……ここはきっと、危険よ。あなたたちはもう、ここにいるべきではないわ。ナノハちゃんにも伝えてくれるかしら。ここには来るな、と」
「えっ、でも……」
「アクラを送り込んできた奴らがきっとここに襲ってくるわ。あなたたちまで危険に巻き込みたくないの」
「……フレアさんは」
「え」
「フレアさんは、危険と戦うんですか?」
「もちろん」
「……トワさんのために」
「ええ」
「……凄いですね」
「ありがと。褒めても何も出ないわよ」
「おーいストーク、そろそろ帰ろう!」
「あ、うん! フレアさん、気を付けてくださいね」
「ありがとう」

 帰り道、ナノハにフレアさんの懸念を伝える。
「もう行かない方がいいって……ねえ、いい大人に助けてって言おうよ!」
「それも駄目だよ、ジラーチなんて知られたら、いい大人でも悪くなっちゃうかもしれない」
「でもそれなら、どうすればいいの?」
「わかんないよ、わかんないけど……」
 僕たち2匹は、黙っていることしかできなかった。暗い雰囲気のまま解散し、お互いの家に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい。どうかした?」
「ううん、なんでもない……」
「そうは見えないけど、言いたくないなら言わなくても構わないわ。ただし、しっかりご飯は食べること。いいわね?」
「わかった」
 すでに用意されていたご飯を食べ進めながら、なんとかして伝えられないかと頭の中で試行錯誤していた。ジラーチに狂うレニアさんの顔は想像がつかないけれど、それでも秘密は秘密だ。
「あの、さ。どうしても秘密にしないといけないことがあって、それについては絶対に何も言わない。だから、あんまり詳しくは話せないんだけど。もし、友達が襲われていて誰にも助けを頼れない、ってことになったら、どうする?」
「ナノハちゃんが危ない目にあっているのかい?」
「ち、違うよ! レニアさんは知らない友達。でも、その子のことについて詳しくは言えない」
「なるほど……。それでストークは、その子を助けたいと思っているのかい?」
 僕はこくりと頷いた。
「誰かが狙われる理由、それはその誰かの持つ輝きが原因さね。だから、その輝きを活かして立ち向かうしかないんじゃないかい?」
「……その子が持つ、輝き……そうだ。ありがとうレニアさん!」
 レニアさんはニコリとほほ笑んだ。


 その翌日、僕は森の中へと飛び込んで、そして言った。
「トワさんに願うんです! 悪い奴を追い払ってって!」
「え、ストーク君? もう一回言ってくれるかしら」
「悪い奴を追い払ってって、トワさんに願えばいいんです」
「なるほど……それは、最後の手段としてはありね。ありがとう。……そして奇遇ね。どうやら、今日みたいなの」
 フレアさんは僕に石を見せた。淡い光を帯びている。
「やっと、1000年ぶりに、トワに会えるの……」
 恍惚とした目でその淡い光を眺めるフレアさん。
「またトワに会って、話せるの。こんなに幸せなことがあるかしら……」
「ホントですか?!」
「ええ。だから今日はごめんなさい、私1匹にしてもらえるかしら。トワとは、私だけで過ごしたいの。明日にはまた、ナノハちゃんと来てもらって構わないから」
「わかりました。それじゃあ、また明日」
 帰る途中、ナノハとすれ違い、僕は事情を説明して一緒に街へ戻った。
「今日かぁ。あたしたち、凄いタイミングよかったんだね」
「だね。明日はきっと話しにいこうね」
「もちろん!」

 翌日森へ向かうと、アクラさんはいなくなっていた。そして代わりに、見たことのないポケモンが1匹いた。
「やあ、君たちがフレアの新しい友達?」
「あの、もしかしてあなたが……」
 尋ねるナノハに、それは頷いた。
「うん、いかにも。僕がトワだよ」
「凄い! 幻のポケモンに会えちゃった!」
「うん……凄い、ホントにいるんだ」
「ありがとうね、フレアの友達になってくれて」
「どういたしまして。それからあたし、あなたとも友達になりたい!」
「僕も、この1回だけですけど、よければ友達になっていただけますか?」
「それは願い事?」
「いいえ、『頼み事』です」
「ふふ、フレアとおんなじこと言うね。フレアから聞いた?」
「まあ、はい」
「わかった。いいよ」
「やった! ありがとう!」
「ところで、アクラさんは?」
「ああ、昨日あなたに言われたのを少し改善して、悪い願いを持った奴が二度とトワに近づきませんようにってお願いしたの。そしたらどこかに行ってしまったわ」
「な、なるほど……」
 心配していた危険は、案外あっという間に去っていったらしい。何事もなくてよかった、とない胸をなでおろす。
「ストーク君、ナノハちゃん。あなたたちはそれでもトワの傍にいる、ということは本当に悪い願いを持っていないのね」
「そんなポケモンがフレアの友達になってくれて、僕嬉しいよ!」
「でも、いいの? 私だけ……」
「君の幸せは、僕の幸せの一部だ。君が悲しんでいたら、どれだけ僕が幸せだろうと悲しみが心の中に入ってくる。それはもう、どうしようもなくね。君が喜んでたら、どれだけ辛くても心の中に幸せが入ってくる。それと同じように」
「トワ……」
「まあなんにせよ、僕の頼みは聞き入れてくれたようで、よかったよ。ちゃんと友達を作ってくれた」
「……まさかホントに作ることになるとは、1000年前は思わなかったけど」
「それでも、君の命を彩ってくれる誰かがいた、こんなに嬉しいことはないよ。それじゃあ、僕からのお礼で、何か願いをひとつ叶えようか? 今すぐやると眠っちゃうから、7日目に」
「え……でも……」
「もし悪しき願いを持ったらその時点で僕には近寄れない。大丈夫。君たちならその願いを、キチンと正しく使ってくれるって信じてるから」
「……わかりました。ゆっくり考えてきます。使うべきかどうかも含めて。それに、フレアさんの寿命の願いを除くと、僕たちは2匹が使える願いはひとつです。その辺も含めて」
「そっか。あたしとストーク、2匹分の願い……か」
「うん。ま、幸いまだ後5日もあるんだし、ゆっくり考えようよ」
「だね」
「ねえ、よかったら2匹もさ、僕が寝てる間の話を聞かせてよ!」
「うん! あたしいっぱい話すことがあるんだよ!」
「僕は……読んだ本の話ならたくさんできます」
「いいねいいね。そういうの大好きだよ」

 それから数日間、トワさんとフレアさんを交えて、僕たちはたくさんの話をした。それから、ナノハと一緒にどんな願いを叶えるべきか、という話も。
 そんなある日。フレアさんとナノハが木の実を取りにいってるときだった。
「ストーク君だよね、フレアに、あの願い事の提案をしたのは」
「あ、はい」
「君は聡明そうだから。フレアのこと、どう思う?」
「え? すっごくトワさん思いで、少し行き過ぎるとこもあるけど……」
「もっと、思うことがあるんじゃない?」
「……寂しくないのかなって。1000年間も、1匹だけで、とは思いますけど」
「……僕も、そう思うんだ」
「え」
「嬉しいんだ。フレアが僕のために、何千年も生き続けてくれること。どうしてもどうしても嬉しくて、やめてなんて言えないんだ。だけど、フレアにそれが負担なんじゃないかと思うと、無意識にでも負担を強いているんじゃないかと思うと、モヤモヤしちゃって。僕にとってはたったの25日目。だけど、フレアにとってはもう3000年なんだ。モヤモヤしてはいるけど、悩める時間すらそんなにたくさんある訳じゃない。でも……フレアに無理を強いているなら、僕はいつでもやめる覚悟はできている。フレアはもう、こんなにたくさんの幸せをくれたんだ。僕はもう、終わりにしたっていい」
「……それでトワさんは、どうしたいんですか」
「わからないよ。毎年、喉元までは出るんだ。今回も、寿命を延ばしていいのって。だけど、言えない。ズルいよね」
「……わかる、なんて軽々しくは言えません。ジラーチの苦しみを共有できるポケモンなんて、ジラーチ以外にこの世にいませんもん。僕だって、未来は見えても、未来に行くことはできません。まして……強制的に未来へ連れていかれる、みたいな? そんな状況、想像はできても、きっとそれは、想像を超える」
「うん。ありがとう、軽々しくわかるだなんて言わないでくれて」
「いえいえ。でも、トワさんもフレアさんのことが大切なんですね」
「そりゃね。でも……都合よく利用してるだけなんじゃないかって、時々不安になる。ごめんね、愚痴っぽくなっちゃって。きっと僕は今年も、彼女の寿命を延ばすよ。フレアも、延ばしたいって言ってくれてるから。それを断ることはできないよ。僕だって、また次起きた時、フレアに会いたいから……」
「なるほど……。大丈夫です。嫌になったのなら、とっくに逃げだしますよ」
「……そうだね」
「ところで、自分の寿命を縮めるとか、1000年眠るルールをないことにする、っていうのはできないんですか?」
「それは、無理だ。そういう決まりだ」
「そうですか……わかりました」

 それから帰り道、ナノハにひとつの提案をした。ナノハは「それいい!」と笑ってくれた。
「これなら絶対、悪しき願いじゃないしね」
「うん」
「叶えたい願いとか、ホントにないんだね、あたしたち」
 ナノハはアハハと笑う。
「だね。ま、僕たちは普通に暮らすだけだからね。ちゃんと幸せに、時に苦しんで、寿命が来るまでを駆け抜ける。生きるってのは普通、そういうことだよ」
「いいこというね、さっすがストーク!」
「へへ、ありがとう」

 これを、トワさんに伝えると、そのお腹の目から雫が溢れていた。上の目は、かろうじてこらえているようだけれど。
「いいのかい?」
「いいんです。1000年眠る苦しみも、1000年生きる苦しみも、きっと僕たちには想像できない程に、深くて、辛い」
「だからあたしたちの願いは、友達の幸せのために使いたい。ねっ、いいでしょ!」
「……ありがとう、2匹とも」
 トワさんは、僕たち2匹を抱きしめた。僕たちはもみくちゃにされながら、みんな笑っていた。

 そしてトワの目覚める最終日。
「僕たちの願いは決まりました。トワさん」
 それを言うと、僕たち2匹はせーのと声を合わせる。
「フレアさんのこれからの1000年、ううん、これからトワさんを待つ間ずっと、たっくさんの友達ができますように!」
「え……」
 フレアさんが絶句して、それから問いかける。
「わざわざ願わなくたって、私にはトワがいてくれるから……」
「トワさんが、それじゃ納得できないんです」
「フレア、君には本当に感謝している。だけど……」
 トワさんは、フレアさんにこの前の愚痴のような話を聞かせた。
「でも私、本当に、あなたのためなら苦しくないのに」
「僕の方が、気が引けるんだ。だからこの1000年、友達を作ってほしいって言ったんだ。少しでも幸せになってほしいって」
「……でも、私ばっかりが幸せになるだなんて……」
「違う、君ばかりじゃないよ。君の幸せを起きてからたくさん聞かせて欲しい。そして1000年後の友達に、僕を合わせて欲しいんだ。今回みたいにさ。きっとその子たちは、次の1000年にはいなくなってる。だけど、それでもいいんだ。僕にはフレアがいてくれるから」
「フレアさん。僕たちは間違いなく、あなたより先にいなくなります。それは凄く、あなたにとっても悲しいことなはずです」
「だよね? あたしたち友達だもん」
「……ええ、きっと、さみしくなるわ」
「もしかしたら僕たちは、物凄く酷な願いをしているのかもしれません。あなたはきっと、できた友達の分だけ苦しみに襲われます。それでも、出会いも別れも、そういうの全部ひっくるめて、生きるってことなんです」
「……私、トワを待つのが一番大切なの。そんなたくさんの別れ、耐えきれる自信、ないわ」
 フレアさんはそう、ポツリと漏らした。
「……僕のために、苦しみを避けるために、ずっと1匹でいたんだよね?」
 フレアさんは、何も言わない。
「……そんなの、僕は願わないよ。これを受け入れてくれないのなら、僕は君の寿命を延ばさない。もし苦しかったら、次の1000年で終わりにしたっていい。フレアに……普通の幸せをあげたいんだ」
「トワは、私が見捨てたらトワはどうなるの」
「ものすごく悲しいよ。だけど、フレアに我慢を強いることも、同じぐらい悲しいんだ」
「……私は、私はトワさえいればいいのっ! そんな幸せ、いらないのっ!」
 フレアさんは逃げ出すように去っていく。
「待ってフレア!」
 トワさんがそれを追いかける。僕はナノハと顔を見合わせて、その後を追った。

「フレア」
「トワ……どうして、どうしてなの。苦しいの。お願い、私を助けて……これは願いじゃない、願いじゃないの」
「わかってる。頼み、だろう」
 フレアさんはこくりと頷いた。僕たちは茂みの影からそれを覗き込む。
「あの子たちはいい案を思いつくんだけど、もう一押し足りないんだ。それをこの前も、僕たちで補ったんだろう? 僕は昨日、あの子たちから聞いて、それから自分でも考えたんだ。フレアが自分の幸せを追いかける、その上で僕の傍にいてくれることを約束してくれたら、提案しようと思っていたんだ。
 ……友達との別れもきっと、体験するだろう。それでも、友達だけじゃない、いろんな幸せを体験して、それを全部、僕に話してほしいんだ。
 僕が提案する願いは、こうだ。『僕を待つ時間、フレアが幸せで包まれていますように』。
 そして僕の頼みはこれ。『君の幸せを、僕に分けてください』」
「トワ……」
「僕は、君に幸せになってほしいんだ。そのための手段のひとつとして、友達というのを提案した。でも、幸せの形は友達だけじゃない。次の1000年、君には幸せになってほしい。駄目、かな?」
「ううん……でも」
「幸せに待てるなら、次も、その次も幸せに待てるなら、僕を待つのが苦じゃなくなる。そしたら、もっとたくさん、僕とも幸せに暮らせる。……どう、かな?」
「あたしだけ、幸せになっていいの?」
「ううん、君の1000年が幸せなら、僕の7日はその幸せを分けてもらってもっと幸せになれる。そりゃ、嫉妬はするかもだけどね。ね、フレア。
 一緒に、幸せになろ。大好きだよ、フレア」
「うん……うん、私も、大好き、トワ。幸せになりましょう、一緒に!」
 僕はナノハと見合わせ、それからニコリと笑った。

「ありがとう、2匹とも。君たちのおかげで、僕の心残りも消えたよ。さあフレア。後は君の願いだ。これを叶えたら、また僕は、1000年眠る」
「わかった。トワ、私の寿命を1000年延ばして」
「うん。また会おうね、フレア」
「また会いましょう、トワ」
 2匹は抱き合って、それぞれに涙を流す。
「トワ! ありがとう! 次はもうあたしたちはいないけど、それでも覚えててくれる?」
「もちろん、君たち2匹にはたくさんの恩があるからね。ありがとう!」
「さよなら、トワ!」
「さようならー!」
 ジラーチの体が石に包まれる。その石が地面にポトリと落ちて、フレアさんがそれを拾い、そして元の位置に戻した。
「ありがとう、2匹とも」
「いえいえ」
「こちらこそ、貴重な体験ができました」
「それじゃ、もう夜も遅いから、私が森の外までは送ってあげる。気を付けて帰るのよ」
「はーい」

 そうして僕たちは、この森を後にした。優しい神様と願い星のいる、この森を。

────

 数年後。ネイティオに進化して未来を自由に見通せるようになった僕は、あの2匹の未来を見通そうかと少し考えて、それからやめにした。1000年後の未来は、2匹と、その時に2匹の周りにいるみんなのものだ。僕たちが勝手に覗いていいものじゃない。
「末永くお幸せに」
「ん、どうしたのストーク」
「なんでもないよ、ナノハ」

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