ダンス・マカブル
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初投稿です。気が向けば題名変えて連載するかも。
ずっとずっと傍にいたいと思っていた。初めて顔を合わせたその日から。私を、私として扱ってくれるその人の傍にいたいと。でも私は“おにんぎょう”だったからその人と一緒にはなれなかった。
でもある日、ただの“おにんぎょう”だった私をあの人の優しい手がお外へ連れ出していってくれた。私はその人のことが大好き。だから私はずっとその人の傍に居る。優しい優しい、旦那様。
オーレでの活躍が知れ渡った後、レオはミレイに内緒でこっそりとオーレ地方を出ることに決めた。
シャドーを壊滅に追い込んだとはいえ、彼らによって人工的に作り替えられ心を閉ざした兵器ポケモン――通称ダークポケモンが地方外に“輸出”された痕跡を見つけたからには徹底的に潰さねば、レオの気が済まないのだ。
更に言えばレオは元々お尋ね者。ポケモン強盗集団、スナッチ団のエーススナッチャーとして悪名を轟かせていた過去がある。つまりはレオによってポケモンを奪われ、そのポケモンがダークポケモンに改造されてしまったトレーナーがいる訳で。
現在パイラタウンの警察署にある指名手配書にはスナッチ団リーダーのヘルゴンザがひときわ目を引くような形で張られている。しかしその横で時間経過とともに寂れ破れて掠れきった手配書も確かにあり、それがレオだ。
ミレイは泣くだろうが、お尋ね者と一緒にいて彼女までお尋ね者にされては困る。レオと違ってミレイにはオーレ地方で家があり、家族があり、そして何よりミレイは根っから“表”で生まれ育った人間だ。レオと、そしてレオがポケモン以上に優先する女性のように闇で生きてきた人間ではない。
「寂しくなるなァ」
「いずれはオーレに戻ってくるのか? 英雄様」
レオに気安く声を掛けるのは、寂れたスタンドにたむろしているライダーのウイリーと、スタンドの店主だ。
オーレをシャドーの脅威から救ったレオは、過去を知らない住民たちからオーレの英雄だと騒がれている。
「ハッ。冗談よせ。こんな薄汚れた英雄がいるかよ。せめて表の人間なら諸手を振って喜べたんだろうが……生憎と俺は根っからの悪党でね。賞賛の声が煩わしくてしょうがねえよ」
「強がりだなテメエはよ」
悪い顔をして蔑むように口角を上げるレオのそれが本音を隠したものであることは付き合いがそこそこ長いウイリーや店主にはお見通しだった。
ウイリーがチラリとソファ席に腰掛ける女性を盗み見る。
レオの相棒の一匹、エーフィを良い匂いのするアロマか何かでマッサージを施し、ブラッシングをしている。レオと話している店主やウイリーには一切の興味を示さず、時折エーフィやブラッキーと話しているかのような素振りを見せるその女性。
名前はアリエス。レオが初めてスタンドに訪れた時から傍に寄り添い、その時から店主やウイリーには目もくれずに話しかけても無視。かと思えばレオには甘えるようにすり寄っていたところも見ているし、声だって聞いたこともある。
レオに聞いたところによると、極度の人間不信でレオ以外には心を閉ざしているのだそうだ。
オーレを出る最大の理由は彼女にあるのだと二人とも理解していた。
「ウイリー。悪いが俺のバイクを預かっておいてくれねえか。パイラのギンザルやシルバに任すのは不安だし、ミレイにはアレは扱えねえし。だからといってオーレ特有のホバリング特化型バイクは悪目立ちする。置物にするには勿体なさ過ぎる代物だしな」
「ああいいぜ。いつでも戻ったらすぐに乗りこなせるよう整備は怠らねえよ?」
「戻る時はねえかもしれんがな。まあいい、用はそれだけだ。もうすぐに出るから二度と会えないだろうとは思うがな。アリエス、行くぜ」
どうやら本当にすぐにでも出立するらしく、アイオポート行きの乗り合いバスの時刻を調べていた。レオのバイクはここに置いていくのか停まったままだ。
「フェナス行きのバスがもう来るはずだ。それに乗ってフェナスまで、そっからアイオポートだから少し長旅だな」
「平気よレオ。さあ二人とも、もう終わり。あとは船の上でしてあげるわ」
軽く伸びをする二匹をボールに仕舞ったレオの、小型スナッチマシンが装着されていない右腕に抱きつくアリエス。今度は何処に行くの? とニコニコする彼女は先程まで無感動に無表情でいた女性と同じとはまるで思えない。
「とりあえずは行くべき場所は決まってる。船は午後に出るから少し時間は空くが、そこで適当に食料を見繕わねえとだな」
「ん。私はレオと一緒なら何処でも着いてく」
「ああ」
また会うことはないと思うが、と前置きをしてからレオは「またな」と言い残し、スタンドを出た。寂れたスタンドの前に停まった乗り合いバスには人が乗っていない。いつもは車やバイクに乗れない高齢者や子供が乗っていることも多く、それを横目にバイクを走らせているレオにとっては非日常感が増した。
スタンドから近くのフェナスシティにはものの十数分で到着した。乗り換えてアイオポート行きのバスに揺られること数時間。途中でアゲトビレッジにも寄ったがミレイの姿は見えない。
そもそもこっちからの方がポートには近かったのだが、レオがミレイを苦手としていることやアリエスがそもそもミレイを認識していないためにミレイもアリエスを苦手としていることもあり、更に別れの際にごねられると面倒くさいという理由も含めて少し遠いがフェナスシティ発のバスを利用したというわけだ。
「座りすぎてケツおかしい……アリエス大丈夫か?」
「なんかむずむずする……」
「クッション敷いてあンのにあれ綿入ってねェだろ」
「レオ~……」
流石に長い間座り続けておかしなことになったらしい。ぴぃ、と半泣きのアリエスを抱き上げて尻をちょっと揉みつつアイオポート周辺を散策するレオ。
新鮮な果物や日持ちする携帯食料なんかを買い込み、やがて目的の船の乗船時間になって、日が暮れる頃には海上に。
「ねえレオ。ポケモンいっぱい、いるといいねえ」
「ああ。ちょっくら顔も見ておきたい奴もいるしな」
「だぁれ? ポケモン?」
「……アリエス。シャワー浴びて今日はもう寝るぞ。この船、高速船だからな。明日の昼だかには目的地だ」
「うん!」
潮風に吹かれるアリエスは露骨に話題を反らしたことにも気付かずに嬉しそうな顔をして頷いた。レオには分かっている。アリエスにとってこの世界にはレオとポケモンしかいないことを。
心も体もめちゃくちゃにされ、彼女にはレオとポケモン以外見えないことを。
薄く微笑んだレオに飛びついてくるアリエスを抱き留め、さりげなく他の人にぶつからないようにリードしつつ部屋へと戻る。
目的地はガラル地方。一時期面倒を見ていた同年代の子供がジムリーダーを務めているという街、ナックルシティ。それを彼女に伝えたところで、何に会うのか、何を見に行くのか理解は出来ないだろうからレオは伝えなかった。
砂嵐の吹かない海上が少しだけ物足りなく感じたのは、レオの気のせいである。
でもある日、ただの“おにんぎょう”だった私をあの人の優しい手がお外へ連れ出していってくれた。私はその人のことが大好き。だから私はずっとその人の傍に居る。優しい優しい、旦那様。
オーレでの活躍が知れ渡った後、レオはミレイに内緒でこっそりとオーレ地方を出ることに決めた。
シャドーを壊滅に追い込んだとはいえ、彼らによって人工的に作り替えられ心を閉ざした兵器ポケモン――通称ダークポケモンが地方外に“輸出”された痕跡を見つけたからには徹底的に潰さねば、レオの気が済まないのだ。
更に言えばレオは元々お尋ね者。ポケモン強盗集団、スナッチ団のエーススナッチャーとして悪名を轟かせていた過去がある。つまりはレオによってポケモンを奪われ、そのポケモンがダークポケモンに改造されてしまったトレーナーがいる訳で。
現在パイラタウンの警察署にある指名手配書にはスナッチ団リーダーのヘルゴンザがひときわ目を引くような形で張られている。しかしその横で時間経過とともに寂れ破れて掠れきった手配書も確かにあり、それがレオだ。
ミレイは泣くだろうが、お尋ね者と一緒にいて彼女までお尋ね者にされては困る。レオと違ってミレイにはオーレ地方で家があり、家族があり、そして何よりミレイは根っから“表”で生まれ育った人間だ。レオと、そしてレオがポケモン以上に優先する女性のように闇で生きてきた人間ではない。
「寂しくなるなァ」
「いずれはオーレに戻ってくるのか? 英雄様」
レオに気安く声を掛けるのは、寂れたスタンドにたむろしているライダーのウイリーと、スタンドの店主だ。
オーレをシャドーの脅威から救ったレオは、過去を知らない住民たちからオーレの英雄だと騒がれている。
「ハッ。冗談よせ。こんな薄汚れた英雄がいるかよ。せめて表の人間なら諸手を振って喜べたんだろうが……生憎と俺は根っからの悪党でね。賞賛の声が煩わしくてしょうがねえよ」
「強がりだなテメエはよ」
悪い顔をして蔑むように口角を上げるレオのそれが本音を隠したものであることは付き合いがそこそこ長いウイリーや店主にはお見通しだった。
ウイリーがチラリとソファ席に腰掛ける女性を盗み見る。
レオの相棒の一匹、エーフィを良い匂いのするアロマか何かでマッサージを施し、ブラッシングをしている。レオと話している店主やウイリーには一切の興味を示さず、時折エーフィやブラッキーと話しているかのような素振りを見せるその女性。
名前はアリエス。レオが初めてスタンドに訪れた時から傍に寄り添い、その時から店主やウイリーには目もくれずに話しかけても無視。かと思えばレオには甘えるようにすり寄っていたところも見ているし、声だって聞いたこともある。
レオに聞いたところによると、極度の人間不信でレオ以外には心を閉ざしているのだそうだ。
オーレを出る最大の理由は彼女にあるのだと二人とも理解していた。
「ウイリー。悪いが俺のバイクを預かっておいてくれねえか。パイラのギンザルやシルバに任すのは不安だし、ミレイにはアレは扱えねえし。だからといってオーレ特有のホバリング特化型バイクは悪目立ちする。置物にするには勿体なさ過ぎる代物だしな」
「ああいいぜ。いつでも戻ったらすぐに乗りこなせるよう整備は怠らねえよ?」
「戻る時はねえかもしれんがな。まあいい、用はそれだけだ。もうすぐに出るから二度と会えないだろうとは思うがな。アリエス、行くぜ」
どうやら本当にすぐにでも出立するらしく、アイオポート行きの乗り合いバスの時刻を調べていた。レオのバイクはここに置いていくのか停まったままだ。
「フェナス行きのバスがもう来るはずだ。それに乗ってフェナスまで、そっからアイオポートだから少し長旅だな」
「平気よレオ。さあ二人とも、もう終わり。あとは船の上でしてあげるわ」
軽く伸びをする二匹をボールに仕舞ったレオの、小型スナッチマシンが装着されていない右腕に抱きつくアリエス。今度は何処に行くの? とニコニコする彼女は先程まで無感動に無表情でいた女性と同じとはまるで思えない。
「とりあえずは行くべき場所は決まってる。船は午後に出るから少し時間は空くが、そこで適当に食料を見繕わねえとだな」
「ん。私はレオと一緒なら何処でも着いてく」
「ああ」
また会うことはないと思うが、と前置きをしてからレオは「またな」と言い残し、スタンドを出た。寂れたスタンドの前に停まった乗り合いバスには人が乗っていない。いつもは車やバイクに乗れない高齢者や子供が乗っていることも多く、それを横目にバイクを走らせているレオにとっては非日常感が増した。
スタンドから近くのフェナスシティにはものの十数分で到着した。乗り換えてアイオポート行きのバスに揺られること数時間。途中でアゲトビレッジにも寄ったがミレイの姿は見えない。
そもそもこっちからの方がポートには近かったのだが、レオがミレイを苦手としていることやアリエスがそもそもミレイを認識していないためにミレイもアリエスを苦手としていることもあり、更に別れの際にごねられると面倒くさいという理由も含めて少し遠いがフェナスシティ発のバスを利用したというわけだ。
「座りすぎてケツおかしい……アリエス大丈夫か?」
「なんかむずむずする……」
「クッション敷いてあンのにあれ綿入ってねェだろ」
「レオ~……」
流石に長い間座り続けておかしなことになったらしい。ぴぃ、と半泣きのアリエスを抱き上げて尻をちょっと揉みつつアイオポート周辺を散策するレオ。
新鮮な果物や日持ちする携帯食料なんかを買い込み、やがて目的の船の乗船時間になって、日が暮れる頃には海上に。
「ねえレオ。ポケモンいっぱい、いるといいねえ」
「ああ。ちょっくら顔も見ておきたい奴もいるしな」
「だぁれ? ポケモン?」
「……アリエス。シャワー浴びて今日はもう寝るぞ。この船、高速船だからな。明日の昼だかには目的地だ」
「うん!」
潮風に吹かれるアリエスは露骨に話題を反らしたことにも気付かずに嬉しそうな顔をして頷いた。レオには分かっている。アリエスにとってこの世界にはレオとポケモンしかいないことを。
心も体もめちゃくちゃにされ、彼女にはレオとポケモン以外見えないことを。
薄く微笑んだレオに飛びついてくるアリエスを抱き留め、さりげなく他の人にぶつからないようにリードしつつ部屋へと戻る。
目的地はガラル地方。一時期面倒を見ていた同年代の子供がジムリーダーを務めているという街、ナックルシティ。それを彼女に伝えたところで、何に会うのか、何を見に行くのか理解は出来ないだろうからレオは伝えなかった。
砂嵐の吹かない海上が少しだけ物足りなく感じたのは、レオの気のせいである。
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