母の愛は肉を焼き 想う心は骨を喰う

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作者:襾石ノ杜
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読了時間目安:32分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

──アローラ地方 オハナタウン──


【……番組の途中ですが、臨時ニュースをお知らせします。つい先ほど、メレメレ島のマハロ山道において、身元不明の白骨死体が発見されました】


ホシ「怖いねー、お兄ちゃん」

カキ「あぁ、寒気がするな。……こんな暑い中でも」


アローラは年中暑苦しい地方。
7月に入ったとは言え、他の地方のように急激に気温が変わるわけでもない。

……しかしそれでも初夏というのは、個人的に、どことなく特別な印象を受ける。
夏祭りがあるし、スクールは夏休み。夏の宿題もてんこ盛り。こんな風に、夏が付くものは数え切れない。


【第一発見者のしまキング ハラさんの話によりますと、山道の土が盛り上がっており、妙な違和感を覚え掘り起こしたとのことで──】


こんな事件が起きるのも、夏にやたら多い気がするな。只々、物騒だ。


ホシ「あー、せっかくアニメ見てたのにー……。流れちゃうよ、お兄ちゃん」

カキ「大丈夫だよ。どんな時もアニメやってる局もあるし」

ホシ「ん? ……お兄ちゃん、なにしてるの」

カキ「少し……な」

ホシ「……あ、そうだった。お兄ちゃん“も”、ってわけだよね!」

カキ「……いっとくけど、今のニュースと俺は、なーーーん……にも関係ないからな!」

ホシ「てか、あったらイヤだよ……」

俺の趣味は、ポケモンの骨の収集なのだ。
もっと言えば、骨格標本の作成である。

ガラガラ『~♪』

カキ「行くぞ、ガラガラ……」

元はといえば、コイツ(ガラガラ)のためだったのだが、いつしか俺自身も、骨を集める魅力に目覚めてしまったのだ。

決して危ない趣味じゃない。俺は危ない奴じゃない。
家族の皆ですら理解してくれないが、金もかからないし、悪い趣味では決してないぞ。
言い訳じゃない。

ホシ「でも……骨のコレクション、案外いいのかも……」

カキ(え)

カキ「……どうした? そんなこと言うなんて、珍しい……」

ホシ「実はさ──」

****

カキ「自由研究、か……」

ホシ「うん、夏の間、なにかを集めよっかなって」

カキ「……まず、友だちに引かれると思うぞ。ここは手軽に、虫ポケモンの標本でも買って来たらどうだ」

ホシ「そんなズル、イヤッ! アタシは、自分の力でやり遂げたいの!!」

カキ「で、仲良いむしとりしょうねんもいないもんだから、俺がしていることの真似をしようと?」

ホシ「ぅ……真似じゃないもん……アタシに、骨の集め方を教えて! で、自分でやるから!!」

カキ「ホシ……女の子がさぁ……」

ホシ「 い い か ら ! ! 」

カキ「…………わかったよ」

女の子がそんな骨を集めるのは、止めた方がいいと思うんだけどな。

カキ「──まず、ポケモンが現れるところに行くんだ。大抵死骸はそこで見つけることができる。当たり前だが。で、洗浄、解体作業というわけだ」

ホシ「えっ、せんじょー、かいたい……?」

カキ「……流石にそれは俺が主体にやるが。とりあえず、死骸を見つけに行こう……」

とはいえ、今は夕方。
目立たないように、怪しまれないように、こっそりと一連の作業をやっていこうか。


──ヴェラ火山公園──


ホシ「……ここさ、お兄ちゃんがいっつも躍ってるところじゃん」

カキ「ただ踊っている訳じゃないぞ。キャプテンとして、持てる技能の向上のため日々修行に明け暮れているんだ」

ホシ「お兄ちゃんさ、堅苦しいよね。ガラガラたちと毎日ボーンダンスしてるんだってことでいいじゃん。でもなんかそう言うとプーたろうみたい」

カキ「あのな、ちゃんと家のこともやってるぞ!」

ホシ「……フフ、冗談だよ。ウチの稼ぎ頭は、実質お兄ちゃんだからね」

カキ「……。まあいいや。よし、そろそろ、始めるか──」


ガサコソ…


ホシ「! お兄ちゃん、死骸死骸!! 生きの良い死んだばかりの死骸、さっそく見つけたよっ!!!」

カキ「もうちょっと、言い回しさぁ……」

すると。


???「………お主ら、なにをやっておるのじゃ?」


二人「!」


……声の主は、とある老婆だった。


老婆「こんなところでポケモンさんの死体集めとは、みたところ……お主らは兄妹じゃが……」

カキ「は、はい」

老婆「あまり良い趣味ではないじゃろう。兄として、妹にこんなことを教えるとは、教育がなっとらんじゃないのか?」

ホシ「……うぅ」

カキ「…………失礼、ですが」

老婆「ん、なんじゃね?」

カキ「俺はただ、ポケモンの死骸を集め、標本を作っているわけでもありません。……守り神への、そして、そのポケモンへの命の感謝を忘れずに、このようなことをしているというわけです。………だから、危ないヤツじゃあない」

老婆「なるほどな、確かに一理ある。もしお主がモノハギや死姦目的でこういったことをしているのであれば、とっちめるところじゃったが──」

カキ「すみません、誤解を招き……。ところで、あなたは?」

ホシ「そーそー。おばあちゃん、誰?」

老婆「……名乗ろうか。ワシの名前はココロと言う。……それだけの老婆じゃ。面白くもなんともないじゃろう?」

ホシ「そうだね」

カキ「こ、こら、ホシ! ……こ、ここへは、散歩かなにかで?」

ココロ「散歩かなにかじゃ。知っての通り、最近物騒でのぉ。パトロールも兼ねておるのじゃよ。ホッホッホ!」

ホシ(……あれ、このおばあちゃん)


──目が、笑ってない。


ココロ「……おじょうちゃん」

ホシ「は、はいっ!?」

カキ「どうした、改まって」

ココロ「いや……可愛い顔してるのぉ、と。まるで昔のワシみたいじゃあ。ホッホッホッ!! 兄妹仲も、良さそうじゃのお」

ホシ「は、はぁ……」


ココロ「…………気をつけなされよ」


カキ&ホシ「?」


……やがて、ココロと名乗る老婆は何処へともなく去って行く。


カキ「そろそろ日が暮れる。帰ろうか、オハナタウンに」

ホシ「う、うん……」

ホシ(………)


──数時間後


カキ「水で洗い流しながら、ハブラシでこするんだ。後は、この針金で固定して──」

ホシ「うっぷ……」

カキ「どうした」

ホシ「気持ち……悪くなっちゃった」

カキ「だから、やめといた方がいいと言ったじゃないか」

ホシ「……言ってなかったよ」

カキ「あれ、言わなかったか……」

****


【完成:ブーバーの骨格標本】


カキ「うーん、惚れ惚れする出来だ」

ホシ「……なんていうか。………キレイな、骨だね。上手く、言えないけど。アタシ、骨って聞くと怖いイメージしかなかったよ。それが宿題に役立つだなんて……」

カキ「世の中、なにが役立つかわからないってだよな。俺も自分の趣味を活かすことができて嬉しいよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
………
……



──見つけた。


次の獲物にピッタリだ……幸福そうな、仲睦まじい兄妹。
カキとホシと言ったか。
引き裂かれる姿を、狂乱する表情を、是非見てみたい。

我の欲求を満たすためにも。“コレクション”を増やすためにも。

???(……)

まずは。そのためには。“囮”が、必要か。



ククッ。



──『骨喰い』の名にかけて、必ずや。




……
………


──数日後


ホシ「ねー、お兄ちゃん」

カキ「なんだ、もしかしてあの標本に不満があるのか?」

ホシ「……逆なの。スクールの先生にこんなの作ったよ。って写真添付したらさ、『こんなリアルな作品は皆が怖がるでしょ!』って……」

カキ「融通効かない先生だな、クラスメートの良い勉強になると思うんだが」

ホシ「……他に題材になりそうなモノ、探して来るよ……ハァ」

カキ「うーん、俺は今日、あいにくキャプテンとしての仕事があるから一緒に行けないが……気を付けろよ。最近は、なにが起こるかわからないからな」

ホシ「この前の骨事件だね……うん、わかったよ」

そして、ホシは去って行く。

カキ「さて、火山に行くか──」


……その時。


ピンポーン…


カキ(……インターホン? 誰だろうか)


ガチャ。


カキ「はい……」

???「フフフ……」

カキ「……? あなたは?」

家の前には、見知らぬ男が立っている。

???「……初めまして、カキ君。私は個人探偵の……おっと! 通称で失礼するが……“イケメン”と申す者だ」

カキ「はぁ……」

イケメン「探偵がなんの用だ、とお思いか? いや、君は既に察しがついているハズなのだよ……」

カキ「この前、火山で死骸漁りをしたことですか?」

イケメン「あっ、そうそうそれだ! 詳しく話を聞かせてもらおうかね……」

カキ(どうやらこの人、俺があの骨事件の関係者だと思っているようだ)


──数分後


イケメン「そういうわけか。いやいやすまなかった。君たちが死体を埋めているのではないかと思ってね。目撃者もいたわけだし……」

カキ「! もしかしてそれは……ココロと言うお婆さんではなかったですか?」

イケメン(……)

イケメン「いや、君の友人の女の子だよ。確か緑髪だったかな。『カキ君は悪い人じゃないんです! きっと魔が差したんです!!』って必死に弁明していたよ」

その女の子は、カキのクラスメートだ。

カキ(アイツ、か。そそっかしいところあるからな……ハァ)

イケメン「とにかく、君への疑いは晴れたよ。私は引き続き、聞き込み調査に戻るとする。時間を取らせて、いやはや済まなかった」

カキ「俺も骨事件には迷惑してるんですよ。自分の趣味に没頭できなくなりますからね」

イケメン「……おっと、もう少し失礼しても良いかね。話は変わるが、その……骨を見せてもらいたい」

カキ「はい?」

イケメン「裏付けというか……本当に、そのコレクションのために死骸を集めていたのかどうか。確認をさせてもらいたいのだ」

カキ「良いですが。減るもんでもない」

俺は、標本のコレクション部屋にイケメンを案内する。

イケメン「ほう、壮観だ! これほどまでに収集するとは」

カキ「なんか、照れます。褒めてもらえるなんて、初めてのことです」


イケメン「……素晴らしい」


カキ「……??」

カキ(この人も、骨の愛好家なのか?)

イケメン「わかった、今度こそお暇する。ではね……」


……君とは、またどこかで会えそうな気がするよ。



── 一方 ジェードジャングル ──

ホシ(こういったところなら、なにか見つかるかも……。って、お兄ちゃんが言ってた。でも、なにも見つからない……)

……ガサ。

ホシ「ん?」


コラッタ『グギャーーッ!!!』ダダッ


ホシ「うわっ!?」

ホシ(物陰に……コラッタ!? ビックリした……。ん?)


ホシはどうやら、その物陰より、“なにか”を発見したようだ。


ホシ「なんだろう、“ここ”……? あと、なんで今のポケモン、『あんな』ものを……?」ガサガサ

ホシ、物陰の奥へと進んで行く。

……だがその先に凄惨な光景が広がっているということを、彼女は知る術もなかったのだ──


──数時間後 カキの自宅


カキ「ホシの奴、遅いな……」

と、俺が思い始めた頃。


「お 兄 ち ゃ ん ! !」ダダッ


カキ「!」


絶叫と共に、ホシが火山 山頂へと駆け上がって来たのだ。


カキ「どうしたんだ、ホシ。顔色が……。それに、凄いぞ、汗……。一旦落ち着け」

ホシ「いいから来てッ、ジャングルに、今すぐ……。ほ、骨が、骨……が………」

カキ「骨……?」

カキ(……まさかッ!?)


──あの事件をすぐに連想し、悪寒が走る。

  そして、見事なまでにその嫌な予感は的中したのだ。


****


【事件現場 ジェードジャングル(18:40)】


……木陰より発見されたのは、一部が白骨化した遺体。

身元はホームレスのものであると判明。
所々、ポケモンに食い荒らされた跡が残っている。

第一発見者は地元にすむ少女(9)。ポケモンが死肉を漁っている場面を目撃。不審に思い木陰を探索したところ、事件発覚に繋がった。

“骨事件”との関連性は不明。
アローラ警察は引き続き、事件の解明に向け調査を行う。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
………
……


カキ「ホシ……」

ホシ「……」ガタガタ

カキ(無理もない。ポケモンの骨とはワケが違うんだ。人骨……なんだから……)

その時。

ココロ「おやおや、また大変な事件が起こったようだね……」

ホシ「!」

カキ「ココロ……お婆さん……」

ココロ「ホッホッホッ。ワシはただの野次馬だよ。そう、ただの……ね……」

しかしココロ婆の表情は、声色に対して虚ろ気だ。

カキ「……ココロさん、“それ”は?」

ココロ「おや、これ……かい?」

ココロ婆は、とあるモノを手にしている。

ホシ「……は、花……?」


……それは、一束の花だった。


ココロ「この事件の被害者への、弔いの品じゃよ。というのはウソで、たまたま持っていたのじゃ。ワシとて、ココロを痛めておる。どうしようもない、他にな……」

カキ「……ココロお婆さん」

ココロ「ん、なんじゃね?」

カキ「……その花、菊の花ですね。アローラでは珍しい……わざわざ、このために?」

ココロ「さぁ、ワシの家にあったものじゃよ。……ではな、お若いの。二度あることはなんとやらで、また何らかの形で会えるかもな……」

****


──数日後


ホシ「お兄ちゃんが一緒に来てくれて、よかったよ。警察の取り調べ……全部お兄ちゃんが答えてくれたようなものだもん」

カキ「ホシ、お前があくまでも第一発見者だ。俺はただ、力添えしただけだよ」

ホシ(……お兄ちゃん)

ホシ「あ、そうだ……。アタシ、新しい宿題の題材を見つけたんだ」

カキ「ん、よかったじゃないか」

ホシ「……恥ずかしいから、まだ見せれないけどね」

カキ「……? まだ未完成ってことか?」

ホシ「……うん。そーいうこと。完成するまで、待ってて!」

カキ「なにか知らないけど、今度は女の子っぽいモノであることを願うよ」

ホシ「……へへ」

カキ(?)

ホシは、なぜか赤面している。

そんなこんだで、しばらく事件らしいものも起きなかった。

日常は、平穏に静かにただ、過ぎていった……。



が。



****


──数週間後

カキ「……アイツが、三日も?」

緑髪のカキのクラスメートが、行方知れずになっているのだ。
クラスメートの父親が、カキに尋ねる。

「いつもあのコが行くジャングルにもいないし……。カキ君なら、なにか心当たりがあるんじゃないかと思ってね……」

カキ「いえ……知りません。ジャングルにはこの前行きましたが、それは別件で……」

「……そう、かね……」

カキ(アイツ……一体、どこに?)

しかし事態は、俺たちの想像を遥かに超える程に、最悪極まりないものとなるのだ。


──その夜


そのクラスメートの家宛に、一つの『ダンボール』箱が届く。


………。


クラスメートの両親が病院に搬送されたのは……翌日のこと、だった………。


****


カキ「……!!」


今回の第一発見者は、俺だった。


早朝であるのにそこら中電気が付きっぱなしだったことを不思議に感じ訪ねたところ、その『ダンボール箱』を発見した。

…『ダンボール箱』の中身は。

……ゴナゴナに砕けた白い“何か”と、一本のビデオテープ。
ビデオテープは既に箱から取り出され再生機器にセットされていた。恐らくは、クラスメートの両親がセットしたのだろう。


──もう、色々と察しは付く。


カキ(なんて、ことだ……)


ビデオの映像を確認する。
悲しむよりも先に、嘔吐しかけてしまう自分が情けない。


そしてビデオには、マジックで何やら殴り書きされていたのだ。
その文面は……。



『『骨喰の手に堕ちて
  可憐な少女は天に墜ちる』』



そのビデオは、警察の手に渡った。

………
……


『ふぐっ……もごぉっ……!!』


被害者である少女が口と四肢を塞がれ、唸っている。


???『……』


犯人は、黒いマスクと衣類を身に着けており。性別は不明。
カッターナイフを手に持つその犯人は。


──ザクッ。


『……う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ーーーーつっ!!!!』


少女の鼻を、えぐり取った。


犯人『……』


──ズクッ、ヌ゛チャッッ!!!


『……がぁぁ゛゛っ………』


犯人はナイフを少女の身体に向け、めった打ちにした。

少女の身体から流血が飛び散り、赤黒い臓物が見え隠れする。


『……や、め゛………』


ぷシャッ。


『……む゛ーーーっ!!!!』


犯人、ハサミで少女の両眼球を刳り取る。
少女は、恐怖のあまりか息も絶え絶えだ。

『……た、す、け……て…………』

犯人『……このビデオテープの容量が足りなくなってきたか。幸運か、不幸か』


犯人『そろそろ、殺すか』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


警察「……クソッ。案の定、音声を加工しているか……」

犯人『……』


『……カキ……助け…て………』


警察「カキ? 第一発見者の少年じゃないか……」



犯人『……うるさいんだよぉぉッ!!!』ドガッ



警察「!?」

犯人、少女の顔面を殴る。

犯人『都合よく誰かが助けてくれるだなんて、そんな都合の良すぎる希望はもたない方が絶対にいいんだよ! このアバズレがッ、ビッチ野郎が、ああ殺してやるッ、燃やしてやるさっ!!!』ドガッ

『あぐひ……べ…………』


警察(……舌を、切られている……)


そして犯人、少女への暴行を済ませると。
黒い『棺桶』に、生きたまま、少女の身体を納めたのだ。


──警察がビデオを観ていると。


「……邪魔をする」ガチャッ

警察「……むっ、あなたは……? 勝手に入って来られちゃぁ……」

イケメン「個人探偵の“イケメン”と申す者だ。まぁ挨拶は置いておこう。この事件、私が協力を仰ぐ他になかろう」

警察「あ、あなたが……。あの、有名な!?」

イケメン「それよりこの箱……黒い『棺桶』。そして、この後の顛末は……」


ボオォォ……。


警察「!!!」


『!? 熱ッ、誰か助け……誰 か  ッ ! ! !』


……棺桶より聞こえるその声が、彼女の最後の言葉となった。彼女が暴行を受けた部屋には……焼却炉が備えられていたのである。

…………白い“何か”の詳細は、これで語るまでもないだろう。


****


──少女の故郷 コニコシティ


今現在この街は、深い哀しみと、行きようもない闇に包まれていた。


ホシ「どうして……こん、な……」

カキ(……“骨事件”。こう身近に迫るまでは……心の中に、他人事だろうという気持ちが微かにあった。しかし……)

ホシ「……怖いよ、お兄ちゃん」

カキ「…………ホシ」

ホシ「アタシ、犯人の目星が付いているような気がするの」

カキ「……」

カキ「ココロ婆さんか」

ホシ「! お兄ちゃんも、同じことを……?」

カキ「あぁ。俺は『言葉』が気になっていた。ココロ婆。彼女が口にした訳ではないが、その『言葉』一つがどうしても……今まで、気になっていたんだ」

ホシ「お兄ちゃん……?」

カキ「ホシ。お前のことは………」



──俺が……護る。



カキ「これからは、常に一緒に行動するんだ。そして、もう一度彼女に会おう。……『言葉』の真意を問い正すんだ!!」


──数日後


「………………」


ココロ(なんという、ことを……私は──)

???「悔やんだところで……あなたが殺したという事実は何ら揺らぎませんし、それに、彼女は戻っては来ませんよ」

ココロ「!」

カキ「……そう、俺です。よくここがわかったなと言いたげな顔をしていますが………『菊の花』。これでもう、おわかりでしょう」

ホシ「ココロ婆さん……あなたが!!」

ココロ「……」

カキ「この際ゆっくりで良いですよ。その代わり、言葉選びはお気をつけて。
……なぜ、なぜ………アイツ……をッ………!?」


冷静に努めるつもりでいたが、俺の言葉は少々震えてしまっているようだ。


ココロ「……。最初に、これだけは言っておくぞよ………」

ホシ「なによ……早く罪を認めて、この……殺人鬼ッッ!!!」

ココロ「『あなたを愛しています』」

カキ「……」

ココロ「お主は見抜いたようじゃが……これは赤いキクの花言葉。そして……ワシの本心でもある」

ホシ「わけわかんない。赤いキクって、あなたが捧げた花じゃないの! なにが、愛していますよ!!」

カキ「そう。弔いの花言葉に、身内ならともかく。赤の他人に愛していますは……」

ココロ「おかしいじゃろう。だからお主らは、ワシを疑った。猟奇的なる殺人鬼は、ワシではないかと……それだけの根拠でな」

カキ(そう。これだけでは、根拠に乏しい。だからこそ、この老婆を問い詰めに来たのだが……)

ココロ「……ここは、アローラで赤の花が咲く花園。赤いキクも、わずかだがこの場所に生えている……また、それだけの根拠じゃ……ワシがこの場所に居るだろうというな……」

カキ(すらすらと、まるで自分から……これは自供なのか?)

ココロ「しかし、合格じゃ。ワシが与えた数少ない手掛かりから、ここまで導き出せるとは、お主らを見込んだだけはあった………」

カキ「……ちょっと待って欲しい。……見込んだ、とは?」

ココロ「もう、単刀直入に話そう。この一連の事件の犯人は……ワシでは……」



???「そう、俺だカキ君。そして……裏切り者のお袋も一緒、か………」



カキ「!!?」


──声の、主は。



イケメン「……」



カキ「……イケメン……さん……?」

イケメン「君たちの推理、いやはや。この『骨喰い』でさえも傑作だ、と感じるものであったよ。……拙さがやや優るがね」

ココロ「……お前ッ!!」

イケメン「おやおや、ココロお母さん。実の息子に対しそんな表情をするもんじゃあない。あなただって、共謀者なのだから……」

ホシ「……え、まさか。あなたが、ココロさんではなくて、あなたが………」

イケメン「お母さんよ。なぜこの子どもたちに、断片的にヒントを与え続けたのだ? そのお陰であなたに疑いがかかってしまうことは、実に明白だったというのに」

ココロ「……ワシが、“罪”を犯したからじゃ……」

イケメン「罪? まぁ、イイ………」バチッ

ホシ(……この音は?)


カキ「ホシ、ココロさん逃げろッ! ヤツは……スタンガンを隠し持っているッ!!」


ホシ「!!」

ココロ「……」



 バ チ ュ ッ … … 。



………
……



──数分後


カキ(……)


……どうやら、しばらく気を失っていたようだ。



「……ワシの夫は」

カキ「……ココロ、さん?」

カキ(!)


気がつくと、俺たちがいたのは……今は公式には使われていないであろう、古びた火葬場の一室だった。


ココロ「この火葬場の持ち主で、葬儀屋だった……」

ホシ「よかった、お兄ちゃん……目が覚めたんだね。……ココロさんの話、聞いてあげて──」


****


息子は、決して生まれついての邪悪などではない。


肉を焼き骨を喰らうあんな殺人鬼に……ワシら夫婦が育て上げてしまったのじゃ。
息子には、素質があった。
決して目覚めさせてはならない、残忍なる素質が……。


ココロ(……あれは、何年前のことになるだろうか)


前述の通り、ワシら一族は代々葬儀屋を営む。しかし、大手の企業の参入により、それだけではやっていけなくなってしまった。

……そして夫は、裏の稼業に手を染める。
もう一つ語るが、アローラではホームレスの増加が社会問題となっていての。
当時は今以上、そこら中に死体が転がる始末。

観光業をアピールするアローラにおいて、実に深刻な問題。しかし翌年以降、アローラの死体の数は『なぜか』減少していったのだ。

カキ「……なぜ?」

ココロ「なにを意味するのか。そう……ワシら弱小の葬儀屋が、死体を燃やし、ホームレスの問題を隠蔽したのだ……」

ホシ「!!?」

骨喰い「……汚れ物は、なにも」

カキ「! 骨喰い!!?」


殺人鬼『骨喰い』は語る。


骨喰い「目につかぬところで処理すれば良い。そしてお母さん、その悪どい稼業に幼い私を巻き込んだね……いやはや、感謝しているよ」

ココロ「息子よ、お前は私を憎むべきなのに……感謝など」

骨喰い「感謝しているよ。お陰で私は、こうして自分のコレクションを創り上げることができたのだ──」

………
……



──数年前


お母さん。どうして急に、こんなにお金がもらえたの?

お金さん。この人青ざめてるよ。きゅうきゅうしゃ呼ばないと……。


お母さん。
 なんでそんな風に、らんぼうにその人を扱うの?


  人じゃないの? この人。
   シタイ……シタイって、なに……?



──死って、何?



****

『もっと、知りたかった』

これに尽きる。
だから私は、母親に死体の後処理を任されようとも、母親を恨むことはなく、軽蔑することもなく、彼女を変わらず愛し続けた。

……毎日毎日、『ヤバい』死体を燃やし続ける。

恐怖などはなく、次第に私は、やがて興味を抱き始めた。


『『見ず知らずの人でここまでになるのだから、愛するモノを燃やせば、一体どれほどの快感を得ることができるのだろうか……?』』


かつて父親だった男は、私を咎めた。


「お前……なにを…やってるんだ……? そのポケモンは……お前の大事なポケモンじゃなかったのか………?」


ボオォォ……。


「お父さん……僕、とっても楽しくて、ゾクゾクとしているんだよ……」


だけど。
楽しい瞬間は。

愛するモノが燃やされ、骨と化す時。

過ぎ去ってしまえば。また燃やすしかないのだ。

過ぎ去ってしまえば。苦悩が募る──。ムリだ、耐えられない!!


……次のモノを、早く壊さなくては。


「お父さん、僕を咎めるなんて、もう……見限ったよ………。それに、“ちょうどよかった”……」

「やめろ……」



 … … ボ ゴ ォ ッ … … 。



『父親』亡き後、私と母親は共に失踪を遂げる。

私は顔も戸籍も変え、表の顔 イケメンと名乗り、裏の顔は殺人鬼『骨喰い』として、次々と人を殺め続けた。

表向きは探偵であり、警察とも通じている。だからこそ、私の犯した罪は永劫に発覚などしないのだ。

****

骨喰い「出てこい、我がパートナー!」


…ボォンッ。


クワガノン『クワ……グワァ………』

ココロ「ワ、ワシと共に法の裁きを受けよう、息子よ。それがワシの最終な目標だったのじゃよ。裏切りなどではない……お前のためなのだ」

骨喰い「最初に、そこの子ども二人」

カキ「!」

骨喰い、聴く耳をもたない。

ホシ「ぐっ……」

骨喰い「次にアンタだ。元・母親よ。愛する価値も失っては、悦びも半減してしまったよ……」

ココロ「……お前の行為は、代替、だ」

骨喰い「?」

ココロ「お前の愛する対象がいなくなってしまった後、お前は一人苦しんだ」

骨喰い「なにを……」

ココロ「しかしお前が次に目をつけたのは。それは……他者だ。他者と他者が結び愛し合っている姿。それを引き裂くことにより、お前は次なる悦びを見出すことに成功した」

骨喰い「……その通り。だからあのホームレスの死体も、名を忘れたが緑髪の娘も、全ては下準備」

ココロ「……」

カキ「下……準備……?」

骨喰い「愛情とは、実に揺らぎやすいものだ。ちょいとの衝撃ですぐに綻ぶ。お前たち二人の結束を深め、それを崩すために利用したのだ。そのためだけの、命。くだらない人生だったな。アハハ……」

ホシ「……私たちを怖がらせるためだけに、ホームレスを……アタシたちの友だちを、殺したっていうの!!?」

骨喰い「……あの娘の『残骸』。どうだったかい?」

カキ「ふざけるな! どうもクソもあるわけがないだろう!?」

骨喰い「なんだ、てっきり君には素質があるかなと思っていたのだが。私はねぇ、可愛い子の殺した骨を見ると、さいっっこうぅに興奮するんだがね……」

カキ「……!」

ホシ(こわ………い……)

骨喰い「さて、長話も終わりとしよう。クワガノンとは。二人の首を……斬れ!!」

クワガノン『グワァーーッ!!』

二人「!!!」

ココロ「……シンリ………」

骨喰い「喜ぶがいい! お前たち三人が、燃やされ私の最後のコレクションとなるのだからなぁ……」


骨喰い「………ん?」



《……ソンナニホネガ……スキナノ?》



カキ(このポケモンは……いやッ……アナタはッッ!!)


壺の中に小人が入ったような姿の、そのポケモンは。


カプ・テテフ『テフーーーッ!!!』バリィンッ


ホシ「アーカラの守り神様、カプ・テテフッ!?」


カプ・テテフが天井を突き破り、突如として現れたのだ。


骨喰い「たかが一島の守り神がッ、この私の崇高なる目的の邪魔をしにやって来たというかッ!! やれッ、クワガノン!!!」

クワガノン『ギャギャギャァンースッ!!!』


…しかし。


 パ ラ パ ラ … …。


クワガノン『グギャゲェギャーーーッ!!?』グチャッ

一同「!!?」


……鱗粉のようななにかをバラ撒かれたクワガノンは、一瞬にして肉団子状に捻り潰されてしまったのだ。


カプ・テテフ『……ツマラナイ。モットタノシマセテ。
モット……コワシ…タイ………♪』

骨喰い「ひっ……」

カキ(格が……違う………。さすが、守り神!!)

プ・テテフ『トキニ……キミ……。コレクションヲ……アツメテルソーダネ』


骨喰い「あ、あぁ……」ガクガク


カプ・テテフ『………ナリナヨ』


骨喰い「?」

カキ「守り神様……?」



『キミジシンガ、サイゴノコレクションニ……ネ♪』



ココロ「!!」


ボオォォォ……。


骨喰い「ぐ……ぐわぁぁぁぁあぁぁぎゃるぁぁーーーっ!!?」

カキ「!」


突如として骨喰いの身体が、漆黒の炎に包み込まれたのだ。


ココロ「ッ!!」

カキ(文献で読んだことがある……。悪しき者を処すための炎……これは、カプの罰ッ!!)

骨喰い「……オォ、、ォォ? オォォ……ォォオ………」

ココロ「止めてくれ守り神! コヤツは法を以て償われてくれ!! それが、ワシの母親としての悲願じゃっ……」


カプ・テテフ『……ダマラナイト、オマエモ、コロスヨ?』


ココロ「……!!」ビリビリッ

カキ「無邪気ながらに残酷な守り神様に逆らう術など、最早無し。しかし、それにしても……」

カキ(この炎……なんて……)




──美しいんだ……。




「オォォ、ォォーーッ、御ッッッーーーーーーッッ!!!」ボオォォッ


骨喰いの身体が、次第に骨と化し、そして……。



ドシャッ………。



ココロ「……そんな……」


崩れて、逝った──


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
………
……


全てが終わった後、カプ・テテフは、去り際にこんな言葉を残した。



『ソシツアルヨ、カキクン。サッキノコヤ、アタシミタイナ、ネ』



カキ「……」


俺は、大事なモノを失いたくなんてない。
ましてや、自分から壊すなんてこと、絶対に嫌だ。


ココロ「……悪意は、決してなくならない」

ホシ「ココロさん……なにを、言いたいんだ?」

ココロ「第二第三の息子が現れる、いつか、必ず……」

悪を視た者は、悪に魅せられ、実を熟す。
逃れられない。感染とも言い締めて良い。


……私のように、永劫に苦しみ続けるのだ。


ココロ(……ワシが、“最初”だったのだから──)


──数時間後


ホシ「どこかに行っちゃったね、ココロさん」

カキ「自首をするのか、逃げたのか、それとも……。いずれにしろ、もう彼女とは会えないだろうな」 

ホシ「……」

カキ「……俺は、骨を集めることを止めるよ。もう……集められない」

ホシ「………」

カキ「おいホシ。ボーッとするのはわかる。しかし今は前を向く時だ。後ろを振り返るなとは言わないが、辛くなるばっかりだぞ」

ホシ「うん、そうだね……」


こうして骨事件は人々の記憶からひっそりと忘れられ。しかし強く刻み込まれ。

…また日常が、戻って行ったのである。


****


──ある日


ホシ「……」


ホシは、何枚もの写真を手に抱えている。


ホシ(お兄ちゃんの頑張っている写真。言えずじまいだったけど、これが、私の最高のコレクション♪)


ホシ「………」


……なんだろう、この気持ち。



「……………」




「………………………」




愛すべき、モノ────





………
……



ボォォォ………。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なにかの燃える、音がした……。



****

母の愛は肉を焼き 想う心は骨を喰う - 完 -

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