プテラとユレイドル

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作者:要石の森
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読了時間目安:32分
古の時代 とある海岸──


──ザザ~ン……。


今日も海は、元気にそのうねり声をあげ。

そして彼女も、ずっと、同じ場所に留まり続けている。



ユレイドル(……はぁ…………)



そのポケモンの名は、ユレイドル。

彼女は、“あるもの”に憧れていた──

………
……


現代においても進化前のリリーラにその名残が残っているのだが、この時代のユレイドルは、他の場所に動くことはできなかった。
……自身の持つ吸盤の所為である。

吸盤は、生涯剥がれない。
吸盤により地面の養分を吸い取り、彼女はそうして、海岸上において成長してきたのだ。

ただ、最近…思うことがある。



『空を飛びたい』



それが、彼女の抱いた、ただ一つの願いであった……。

------------------------

ユレイドル(なんで私は、よりによって、ユレイドルなんかに生まれてきたのかしら……)

自身の存在意義に思い悩んでいた。

見上げれば眼前に広がる青き大空。
あの果てしなき空間に飛び立つことができれば、現状の自分を打破できるかもしれないが……前述の通り、彼女はユレイドルである。


──ジレンマであった。


ーーーーーーーーーー



……バッサ、バッサ。



「クエーーーーッッ!!!」



場面は変わり……。
今日も“彼”は、獲物を捉え、それに襲いかかる。
生まれつき得た先天的な力。それを少し奮えば……食糧を容易く手に入れることができる。

彼の名は、プテラ。
当時の……大空の王であった。

ーーーー

ユレイドル(もしかしたら自分の子孫が移動能力を手に入れられるのかもしれない。しかし、それはまだまだ先のことであろう。……『私』は、ずっとここに留まって、一生を過ごすのだ)

ユレイドル「ハァ……」

……。

プテラ「ハァ……」

ユレイドルと同じように、大空の雄プテラも、また嘆いていたのだ。

プテラ(俺はいつまで、こんな生活を続けるのだろう?)

安住の地に落ち着きたい。しかし、腹は減る。
自分には、こんな粗暴なやり方でしか食糧を得ることができない。


彼もまた、己の生き方について……苦悩していたのである。


数日後──


プテラ(ふぅ~っ……)

彼は、つかの間の休息を傍受していた。

プテラ(一息ついたら、また獲物刈りか)

……。

プテラ(うん? なんだ、あれは……?)


ユレイドル(へば~っ……)


彼が見つけたのは、海岸でへばっていたユレイドルの姿であった……。


プテラ「おい」

ユレイドル「……」

プテラ「……おい」

ユレイドル「…………」


プテラ「「……おいぃっ!?」」


ユレイドル「…………!!」ビクッ

プテラ「お前、ポケモンだよな……? なんでそんなところで、文字通りにへばってたんだ?」

ユレイドル「……」カアァッ

プテラ「ん、どうした?」

言葉が詰まった。
他のポケモンに話しかけられることなど、初めての経験であったのだから。

プテラ「お前、そこが目だったんだな」

ユレイドル「……ぁの、その……」

プテラ「なんだぁ~っ!? 聞こえん」

ユレイドル「だから、その…………」

どうやら聞くところによると、最近 海岸付近の土が枯れていき、養分を得ることができなくなっていったのだとか。

プテラ「ふ~ん、そうだったのか。上空に巣食う俺は知らなかった」

ユレイドル「……この急激な土地の枯渇。とても予想だにしていませんでした。何か嫌な予感すらします……」

プテラ「……見てられねぇな。」

ユレイドル「すぃません……」

衰弱が激しかった。

プテラ「よし、わかった。俺が、食べる物を取ってきてやるッ!!」

ユレイドル「……えっ!?」

プテラ「お前の種族は根っこの吸盤による養分取り入れの他に、頭の吸盤での栄養摂取もできる筈だろう。試してみろ」

ユレイドル「あぁ、そうだった」ヨイショ

プテラ「……! おい待て、俺で試すんじゃないッ!!」

ユレイドル「あっ、駄目でしたか?」

プテラ「……俺、気まぐれで変な奴に関わってしまったのかもしれねぇ。まぁいい、約束したんだ。すぐ……取ってきてやるっ!」バササ

プテラは、空に飛び立つ。

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ユレイドル(……凄い)

彼女は、目を奪われた。
華麗に飛び立ち機敏な動きで獲物を捕らえるその勇姿。

私にはとてもできないものだ、と感じた。
それと同時に……一種の憧れも抱いた。

ーーー

プテラ(なんか見られてるな……)

彼は、そう思った。
怖れられるのならわかるが、その視線は憧れと羨望の意を含んでいたのだから、戸惑う。

こんな感覚、初めてだ──

………
……


とある洞窟──


「生意気じゃな」


かつての空の主、アーケオス。


自分が最古よりの天空の支配者であると言うのに、最近現れたプテラとか抜かす青臭い新参者。

偉い顔をし出し、我が領空にて好き勝手に暴れている。
単純に気に喰わない。

だが、自分は年老いた身。まともに殺り合えば負けはしないだろうが苦戦は必須であろう……と彼は考える。


……どうするべきか。



……
………


そして……。


プテラ「お~い、取ってきたぞ~」

ユレイドル「わぁっ! ……うわっ」


よくわからないもの『キイィ~ッ!』

えたいのしれないもの『ギャアァ~スッ!』


気持ちは、嬉しかった。

------------------------

ユレイドル「わぁ、案外美味しい!」

プテラ「……結局食うんだな、お前」


……その時。


オムスター「アニキ~」タタッ

カブトプス「こんな海岸にいたんですか〜」タタッ

プテラ「おう、お前たちか」


その駆け出して来たポケモンたちは、プテラの兄弟分である。

オムスター「アニキ、そこにいる緑っぽいポケモンは?」

プテラ「……あぁ、こいつはな」カクカクジカジカ

カブトプス「へぇ〜、プテラ兄貴の彼女というワケで」

プテラ「……面倒臭いから、そういうことにしておく」

プテラ「おいお前、こいつらは食べないでくれよ?」

ユレイドル「食べたくもないです」

カブトプス(なんか辛辣)

プテラ「……さて、もっと食べ物持ってくるから、ここで待っとけな」

ユレイドル「あ……ありがとう…………」

ユレイドルも、本当はプテラに申し訳なく思っていた。でもこの状況では致し方ない。
食べないと死んでしまう。しかし、その食べる物も無いのだから……必然的に彼、プテラに頼むしかないのだ。

再び大空へ消えてゆくプテラの様子を、重い首を上げながら黙視していた。

カブトプス「プテラ兄貴とは、長い付き合いなんスカ?」

ユレイドル「なんかチャラい雰囲気だね。違うよ、たった今出会ったんだ」

カブトプス「へー、あのプテラ兄貴が出会い頭のグソクムシャみたいなポケモンに心を許すなんて、あんまりないことっスよ!!」

ユレイドル「え、そ、そうなの~?」

オムスター「そっスよ。意外意外」

ユレイドル(……)

ユレイドル「……今日は良い日だ」

オムスター「え?」

ユレイドル「こうして浜辺にぽつんとしてた私に、話しかけてくれた友だちができた。『私ってなんなんだろ』って、思ってた時によ」

カブトプス「な、なんか照れるッスよ~、姉貴」

ユレイドル「姉貴?」

オムスター「そっス、プテラの兄貴が兄貴だから……ユレイドルの姉貴は姉貴って呼ぶっスッ!!」

ユレイドル「言い回しが変だけど、気持ちは伝わるよ」

カブトプス「俺らも姉貴に協力するっス! 土地の枯渇が治まるまで、俺らも姉貴に食べ物を持ってくるっス!!」

ユレイドル「み、みんな……ありがとう……!!」ヨイショ

オムスター「わわっ、何俺を食べようとしてるんスか!」

ユレイドル「えっ、いやこれはその……感謝の意を伝えたくて……」

カブトプス「アハハ。不器用なんっスね、姉貴。そこもまた、なんか兄貴に似てるような気がします」


──やがて、プテラが帰って来た。


プテラ「ふ~、疲れた」

ユレイドル「あ、あの……」

プテラ「なんだ?」

ユレイドル「あ、あ……」

プテラ「……餌が欲しいのか?」


『ありがとう』

その一言だけなのに。


ユレイドル「い、いえ、違います! ただ……」

プテラ「ただ、なんなんだ?」

ユレイドル「……!」カアァッ

プテラ(本当に、変わった奴だ)


また、言葉に詰まった。

こうして、プテラとユレイドルの友好は、持ちず持たれず続いていくことになる。

………
……



ある日──


プテラ「今日もアイツの為に、食糧を採ってこないとな」

オムスター「……兄貴」

プテラ「なんだ?」

オムスター「俺らは兄貴にかつて救われて、兄貴のことを慕っていますが、最近の兄貴にはそんな感情はもう残ってはいないのかと思ってました」

オムスター「でも姉貴の件で再確認しました。やっぱ、兄貴は偉大なポケモンです!!」

プテラ「フフ、よせよ……照れくさい」

カブトプス「アハハ……」

プテラ「……ん?」


──ザッ。


その時。
とあるポケモンが、突如、一同の前に現れたのだ。


ポケモン「ゲノゲノ~! 私は未来の化学兵器、ゲノセクトッ!! “あの方”の命により、貴様を抹殺する!!!」


カブトプス「な、なんだぁ、ヤブからボウに!? 未来? 化学兵器? あの方? さっぱり意味がわからんぞ!!?」

ゲノセクト「貴様には、用はない……。ふんっ!!」バシィッ

そう言うやゲノセクトは、突如として、カブトプスの身体を叩き飛ばす。

カブトプス「……ゲホッ!!」グラッ

プテラ「カブトプスッ!?」

ゲノセクト「どうだ? 私の力、十分に伝わったかな?」

オムスター「アワワ……」

プテラ「き、貴様……俺の友を。ゆ、許せんッ!!」

ゲノセクト「許せなかったら、どうなるというのだ? ゲノノノ……」

プテラ「うおぉぉぉぉぉぉっ!! いわ……なだれえぇぇぇっ!!」ドドドド

間髪入れず、プテラは岩礫をゲノセクトへ雪崩れ込ませる。


──シュウゥゥ……。


オムスター「や、やっぱ凄い、アニキ! これはやった……」

ゲノセクト「なにが、『やった』んだ……?」ムクッ

プテラ「……!!」

しかし、彼はプテラの攻撃を完璧なまでに防御していたのだ。

プテラ「貴様、何者だ……?」

ゲノセクト「貴様が知る必要はなかろう。精神的に動揺している貴様など、もう既に私の敵に無きだからな」

プテラ「……貴様ッ!!」

確かに彼は動揺していた。
無理もない。今までに自身の攻撃が通用しなかった相手は居なかったのだから。

ゲノセクト「……」スタンッ

プテラ「!」

なんと、突然そのゲノセクトは屈み込んだのだ。
戦闘では油断は死に繋がる。だからこそ、彼にはこの行為の意味が全くわからなかった。

今踏み込めば間違いなく勝てる。しかし、これは何かの策なのかもしれない。

迷った挙句、プテラは彼の身体に突っ込むのだが……。


……その判断が、遅かった。


ゲノセクト「気付かなかったのか?」

プテラ「……何?」

ゲノセクト「私の背中には……砲台が装着されていたことにッ!!」

プテラ「ほ、ほーだい……!?」

古代に生きるプテラには、その単語の意味がわからなかった。

プテラ(……もしや……!!)

ゲノセクト「意味がわからなくとも、流石に長年の勘が働くか! そうだ、もう発射準備は整ったッ!!」

プテラ「う、うおぉぉぉぉぉぉぉっ!?」


ゲノセクトは自身の必殺技、『テクノバスター』を放たんとしたッ!!


カブトプス「アニキッ……危ないッ!!」ドルルルッ

プテラ「お、お前……」


──ピカァッ!!


ーーーーーーーーーー
………
……


モアモア……。

攻撃の衝撃で、白煙が立ち込む中。

ゲノセクト「ほう、これは……」

ゲノセクト(あのカブトプス、まだ生きていたか。奴等を連れ、穴を掘りどこぞやへと逃げたようだな)

ゲノセクト「フン……」

ゲノセクト(面白い。いずれまた相まみえることへとなるだろう。その時こそ始末してやる。ククク……)


一方、その頃──


プテラ「あ、あぐ、げほっ……」

カブトプス「ア、アニキィ……大丈夫ですかぁ!? くそ、勢いで来たのはいいが、ここは……! そ、そうだ、ここなら!!」


──そこは、ユレイドルの海岸であった……。


カブトプス「ア、姉貴~~ッ!!」

ユレイドル「ん、どうしたの、カブトプス、オムスター。今日はプテラは一緒じゃないの?」

オムスター「それが……今すぐ来てくださいっ! あ、無理でしたね……。とにかく、今運んで来ます。兄貴が重症なんですっ!!」

ユレイドル「えっ!?」

------------------------

プテラ「う、うぅ……」

ユレイドル「! なんて酷い傷……」

オムスター「実は……」

オムスターは、彼女に一連の事情を話す。

カブトプス「何とかなりませんでしょうか。アイツが居る以上、むこうには渡れねぇ。……姉貴がもう唯一の頼み綱なんです。無理を言っていることは、重々理解しています」

ユレイドル「……プテラを救う術、無いことも無いわ」

カブトプス「えっ、なにか方法があるんですか!? 兄貴を救う、術がっ!!」

オムスター「さすが姉貴っス!!」

ユレイドル「二匹共、ちょっと黙ってて」

オムスター「は、はい」

ユレイドル「私はプテラに限りない恩がある。その恩をここで返せること、私はとても嬉しく思う」

カブトプス「姉貴?」

ユレイドル「じゃあ、行くわよ……。っ!」ボコッ

カブトプス「えっ?」

オムスター「あ、姉貴っ!?」

なんとユレイドルは、自身の吸盤を一つ、無理やりに引っ剥がしたのだ。

オムスター「姉貴、なんてことを! そんなことをしたら、姉貴がどうなるかわかってるんですかっ!?」

ユレイドル「いいから、早くプテラの口に私の吸盤を含ませてっ!!」

カブトプス「え?」

ユレイドル「私の吸盤には、今まで培ってきた栄養分が含まれている。だから、プテラにその栄養分をわけることさえできれば、彼はなんとか持ちこたえると思う!!」

オムスター「しかしこれは、姉貴にとって諸刃の剣とも言えます。姉貴は土俵に寄生して生きてきた。少しでもタイミングが遅れてしまうと、土俵から得た姉貴自身の栄養源が切れてしまうと……姉貴は死んでしまうハズっ!! なぜ、兄貴にそこまでのことを!?」
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ユレイドル「借りを返すのは建前かもね。本当は、単に嬉しかったからよ」

カブトプス「う、嬉しかった?」

ユレイドル「今は良いわ。さぁ、早くプテラに私の吸盤を!!」

オムスター「へ、へぃっ!!」


キュプ。


彼らはプテラの口に、彼女の吸盤を含ませた。


ゴキュ、ゴキュ──


カブトプス「おぉ、これは姉貴が栄養分を送り込ませてるんですね」

ユレイドル「う、うぅ……」

オムスター「あ、姉貴、大丈夫ですか?」

ユレイドル「大丈夫、慣れないことでちょっと目眩がしただけ……」


……そして。


プテラ「う、うぅっ」

オムスター「あ、兄貴っ!!」

カブトプス「よかったぁ、姉貴! 兄貴が、兄貴が目覚めましたぁっ!!」

ユレイドル「よ、良かったぁ……」グッタリ

プテラ「ここは、海岸、か。俺は、俺は負けたというのか。戦闘で敗れたこと、今まで負けたことなんか、なかったというのに……」

カブトプス「兄貴……」

ユレイドル「……悲しまないで、プテラ」

プテラ「?」

オムスター「あ、姉貴……?」


ユレイドル「──私は、ずっとあなたに憧れていた」


プテラ「……何を言い出すかと思えば、敗者への慰めのつもりか? お前」

ユレイドル「慰めなんかじゃないッ!!」

プテラ「……!」

ユレイドル「私はこの場を動くことすらできない孤独の身。先の見えきったこの先の生活、自身の存在意義、疎外感、全てにうち潰されそうで、とても怖かった。だけどそんな時に、私はあなたに出会ったのよ」

プテラ「……だから、なにが言いたいんだ!?」
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ユレイドル「あなたに出会ったことで、私の心に一筋の光が差し込んだ。私にも友だちができたという……希望の光が」

プテラ「……」

ユレイドル「あなたと話していると、心が安らいだ。あなたの大空を飛ぶ姿を眺めていると、私まで空を舞っているような感覚を覚えた。つまり、あなたは私にとって、掛け替えのないとても大切な存在なの。だから……」

プテラ「だから、戦闘で敗れ去ったからって良いとでも言いたいのかッ!?」

ユレイドル「……!」

オムスター「兄貴、なにも姉貴はそんなつもりで言ったわけじゃ」

プテラ「お前たちは黙っていろッ!!」

カブトプス「は、はいぃっ……」

ユレイドル「プテラ。私は、ただ──」

プテラ「助けてもらったことは感謝する。だが、これでお前との関係はもうご破産だなッ!!」

ユレイドル「プ、プテラ!?」

プテラ「じゃあな、今まで楽しかったぜ。もう会うこともないだろうがな……」


──バササッ……。


プテラはそう言い残し、飛び去って行った……。


ユレイドル「プ、プテラ……。どうして」

オムスター「……兄貴自身、感情の整理ができていないのかもしれません」

ユレイドル「……どういうこと……?」

カブトプス「兄貴は、こんなに他ポケモンに頼られたのは初めてなんです。俺らに対しても当初そっけなかった兄貴、その兄貴がここまで心を開くのはなかったことでした。兄貴も本当は、姉貴のことが好きで好きで堪らないはずなんです」

ユレイドル「!」

オムスター「だったら、どうして」

カブトプス「そこなんです。兄貴はきっと、昔の自分を捨て切れずにいる」


頼られている今の自分、最凶の存在なる昔の自分、どちらにも甘んじてしまっている。

どっちつかずなんです。本当に不器用なんです。


カブトプス「だから、あんな行動に出てしまった。兄貴に悪気はないんです」

ユレイドル「プテラ……」

オムスター「今は、兄貴の心が落ち着くのを待ちましょう。兄貴は戻って来る、俺たちはそう、確信しています。そうだろ、カブトプス?」

カブトプス「あ、あぁっ、そうだぜ!!」

オムスター「元気出してください、姉貴。俺たちが付いてます……」


……
………

「先程の攻撃で体力を消耗してしまった。なにか取り入れなければ、栄養を補給しなくては。……あのポケモンが良いな、ゲノゲノ──」

ーーーーーーーーーー

プテラ「……俺は、これまでどう生きてきたっけな。そして、これから一体自分をどうしたいんだ?」

プテラ(今までも、これからも、ずっと同じ様に生きていくつもりだったのに、アイツと出会ってから……。そうだ、アイツと出会ってからだッ!!)


アイツと出会ってから、俺は、俺は……『自分らしく』生きれなくなってしまったんだっ!!


プテラは苦悩していた。己の生き方に、己の有り方に。
自分を慕ってくれる兄弟分も彼女も、単なる仲間としか思ってはいない。馴れ合いを通じ、変化を恐れていたのだ。

絶対的な王者で有り続けるのか、それとも……。


風が寒くなってきた。少々地響きもしたようだ。ここ数日に渡っている。


…………………………

………
……


数日後──

カブトプス「う、うぅっ……」

プテラの元へ、傷ついたカブトプスが訪れた。

プテラ「なっ、ど、どうしたんだ、カブトプス! そのボロボロの姿は。そ、それに、その持っている傷だらけの殻は……。おい、オムスターは……オムスターはどうした!?」

カブトプス「……オムスターは死にました。“奴”に喰われてです」

プテラ「!!」

カブトプス「今から俺たちに起こった全てを話します。このままでは、兄貴が危ないんですっ!!」

……。

数時間前、カブトプスとオムスターは例のゲノセクトの襲来にあった。腹を空かせていたのである。
彼らは対抗したのだが、あえなく撃沈。オムスターは捕食され、カブトプスは命からがら逃れたのだ。

オムスターを捕食したことにより力を蓄えたゲノセクトは、今度こそプテラを仕留めるべくこちらへと向かって来るであろう。
道中更にポケモンを捕食しながら。

ーーーー

プテラ「……まさか」

カブトプス「奴は俺が喰い止めます、兄貴はここから逃げて下さい! もう、仲間を失うのは嫌なんですっ!!」

プテラ「そうだな、カブトプス。仲間を失うのは嫌なことだよな。失って初めて気付かされた。……馬鹿だよな、俺」

カブトプス「兄貴?」

プテラ「お前の気持ちは嬉しいが、俺は行かなくてはならないんだ」

カブトプス「え……?」

プテラ「カブトプス、また会おうな」

カブトプス「あ、兄貴、どこへ行くんですか? 兄貴~ッ!!」


バササッ……。


プテラは、どこぞやへ去って行ってしまった──


海岸──


ユレイドル(プテラ……)

彼女は、未だ彼のことを気にかけていた。

自分の有りのままの心情、それを語ってしまったことが彼の気を損ねてしまった。
最初から思わなければ良かった。所詮自分は一人なのだ。

後悔していた。同時に、悲しみに溢れ得ていた。


ゲノセクト「……」


そんな彼女を、物陰で狙うポケモンが一匹。


ユレイドル「ハァ……」

あの時に似たため息を、ポツリと。

全ては、元に戻るのかもしれない。プテラに出会う前の日々に。孤独だった日路へと。
だけど、自分にはそれがお似合いなのだと思う。

ユレイドル「ん……?」

……そんな矢先。

ゲノセクト「……」

ユレイドル「え、あ、あなた……誰なの…………?」


──彼女の前に、悪夢が訪れた。


ユレイドル「あ、あなたは……?」

その時。
彼女の前に、見知ったポケモンが駆け出して来た。

カブトプス「ハァ、ハァ……」

ユレイドル「え、カブトプス。あなた、このポケモンさんと知り合いなの?」

カブトプス「やはり、危惧した通りだ!」

ユレイドル「え……?」

カブトプス「兄貴は、ゲノセクトが道中に海岸を通過するのを察知したんだ。だから、きっと兄貴は姉貴の元へと飛び出した。けれど未だに兄貴はここにはやって来ていない。なにかあったとしか思えないが、だったら俺の使命はただ一つ。兄貴に変わって、姉貴をお守り……」バギャッ

ユレイドル「え……?」

ゲノセクトの攻撃により、カブトプスの身体は消し飛んだのだ。

ゲノセクト「長々と……良くわからんがうるさい奴だ。次はお前だ。お前は中々美味そうだな。お前を捕食しエネルギーを頂くぞ」

ユレイドル「え、え……!?」


──その瞬間。


「待てっ!!」


ユレイドル「え、そ、その声は……」

ゲノセクト「!」


……ガシッ!


ゲノセクト「ぐうぅ~。お前は……」

ゲノセクトを制止した、そのポケモンは。

ユレイドル「プ……プテラっ!! そ、その、担いでいるポケモンは一体……!?」

プテラ「…こいつの名はアーケオス。落ちぶれたかつての空の主さ」

アーケオス「ワ、ワシが、こんな小童にぃ……」

プテラ「かつての栄光など見る影もない。老いたお前など、俺に勝てる訳がないのだ。仕入れた情報によると、コイツは出しゃばり出た俺を始末したかったらしいな。しかし当然ながらコイツは俺には敵わない。だから、コイツはある行動に出た」

ユレイドル「あ、ある行動……?」

プテラ「1000年に一度目覚めるとされる、ジラーチの力だ」

ゲノセクト「……」

プテラ「今年はちょうどジラーチが目覚める年。そこに目を付けたアーケオスの『私の代わりにプテラを倒してくれ』という願いは、ジラーチを通し遥か未来のそこのゲノセクトと接触し、ジラーチの力で増長され、ゲノセクトを現代へと呼び寄せたのだ」

アーケオス「うぅ……」

プテラ「そのゲノセクトは未来にて何者かに改造強化され、凶悪兵器として復活を遂げた、最凶兵器だ。しかし俺は、もう、お前をナメない」

ユレイドル「そんなことが」

プテラ「来な、ゲノセクト。今度は以前のようにはいかねぇ。そこのユレイドルのために、まとめてぶっ倒してやる……」

ゲノセクト「ふん……」ウィーン

プテラ「!」

ゲノセクトは身体を折り畳み、飛行に特化したフォルムへと姿を変えた。

プテラ「なるほど、てめぇも空を飛べるって訳かッ!」

アーケオス「ゲ、ゲノセクト、そいつをやってしまえ。若造の思い上がりごと、粉々にしてしまえぇっ!!」


バサッ……!


二匹は空へと舞い上がった。闘いの火蓋が切って落とされたのだ。


プテラ「……ふん!」

ゲノセクト「……ゲノゲノ~ッ!」


両者の身体がぶつかりあい、火花が飛び散る。


プテラ「オラァッ!!」

プテラは自身の翼を打ち、竜巻を発生させるが。

ゲノセクト「ゲノゲノ~、効くか、こんなモノーーッ!!」ガシィッ

プテラ「ぐっ……」

動揺した隙を見逃さない。

ゲノセクト「ゲノ~っ!!」ドガッ

プテラ「うぉっ……」

そして、プテラはよろける。

ユレイドル「プ、プテラァ~、頑張って~っ!!」


そんな中、ユレイドルは……彼を応援していたのだ。


プテラ(ア、アイツ……)

プテラ「…おりゃあっ!!」ガシィッ

プテラは、なおゲノセクトへと突っかかる。

ユレイドル(プテラ!)

ゲノセクト「つッ……!!」

アーケオス「どうした、ゲノセクト! お前の力は……そんなものじゃないだろおぉっ!?」

ゲノセクト「そ、そうだ……。私は未来の最凶兵器。まだこんな程度でやられる筈がないのだっ!! ウオオォッ!!」ガシイッ

プテラ「……!」

二匹の攻防は、なおも続く。

ユレイドル「プテラ……」


争う二匹の姿を、ユレイドルは恐れはしなかった。ただ、奇妙な感覚が彼女には湧いていた。
『憧れ』とも言うべき感情。空を自在に舞う二匹の勇姿に、それを重ねていた。

どちらが勝とうが負けようが、彼女は運命に身を委ねる気でいたのだ。


そして、いよいよ決着の時。


ゲノセクト「テクノ……」


──その瞬間を見逃さなかった。


プテラ「いわ……なだれえぇぇっ!!」ドガガガ

ゲノセクト「なっ……!!」

アーケオス「な、どこに向かって打ってやがるんだっ!? ハハハ、プテラの野郎、耄碌しやがったなぁっ!!」

ユレイドル「いや、違う!」

アーケオス「え?」

ユレイドル「プテラは、最初から計算ずくだったのよ。見て、プテラが岩礫を打った方向をっ!!」

アーケオス「あっ!」


カポッ。


ゲノセクト「し、しまった……」

アーケオス「あぁ、ま、まさかぁっ!?」

カブトプス「そうさ、兄貴の目的は……!」


 ボ ガ ァ ン ッ !


ゲノセクト「ゲノラァ~ッ!!」

プテラ「岩礫をお前の砲台にはめ込み、テクノバスターを暴発させるのが目的! 自身の必殺技が己を穿つとはな!! そして……」ボオォォ

プテラは自身の牙に、炎を纏わせる。

ゲノセクト「や、やめろぉッ!!」

プテラ「ほのおの……」

ゲノセクト「う、うおぉぉぉぉっ!!」


ゴゴゴゴ…。


その瞬間、地面が大きく揺れ始めた。


プテラ「……キバアァッ!!」


ガシイィッ!!


ゲノセクト「ゲノガラ~ッッ!!?」


ドサァ…。


断末魔をあげ、未来の兵器 ゲノセクトは敗北を遂げた。
今ここに、勝負が決したのである。


……しかし。


ボゴォン!!


プテラ「な、なんだぁ……!?」


なんと、突如上空より……隕石が降り注いたのだ!


プテラ「……」

アーケオスは、既に息絶えていた。流れ石に当たったのである。

プテラ「あ、あいつは、どこに……。……!!」

ユレイドル「うっ、げほっ、ハァ…ハァ……」

プテラ「ユ、ユレイドルッ!!!」

大地が裂け、吸盤ごとユレイドルは放り出されてしまっていたのだ。
このままでは、長くは持たない。

プテラ「く、くそっ、どうにもならないのかっ!! だったら俺一匹が、なんとかしてや……」


──その時。


「無駄だよ……」


プテラ「!」


突如、謎の一つの声が響いた。


プテラ「お、お前は……。……そうか、お前がそうなのか」


声の主は、アーケオスの願いを聞き届けた、かのジラーチであった。


ジラーチ「この星は隕石の襲来により、大幅な地殻変動が発生し、大規模な氷河期へと突入するんだよ。これは運命。運命には逆らえないんだ。例え僕の願いでもね……」ボワンッ


そう言い残し、ジラーチは消え去っていった……。


プテラ「そうか、運命には、逆らえないのか……」

……。

プテラ「……おい、ユレイドル」

ユレイドル「え……?」

プテラ「お前を助けることは、すまない、無理だ……」

ユレイドル「プテラ……」

プテラ「そしてもう一つ、俺はお前に謝らなければならないことがあるんだ」

ユレイドル「え……?」

プテラ「あの時俺をお前が助けてくれた時、本当はとても嬉しかったんだ。カブトプスたちもまだまだ弱くて、今まで俺を助けてくれようなんて奴、他に居なかったからな」

ユレイドル「……」

プテラ「今まで俺は自分を捨てきれなかった。粗暴に本能のままに生きてきた自分を捨ててしまえば、もう俺にはなにも残らないんじゃないかって。……でも、もう、みんな居なくなった。カブトプスも、オムスターも、アーケオスも、ゲノセクトも、皆居なくなった」


だから、もう、嘘は付かない。


プテラ「ユレイドル……。お前に、最後の罪滅ぼしをさせてくれ」


ドサッ……。


ユレイドル「え……?」

彼は、ユレイドルを背中へと載せた。

プテラ「お前、言ってたよな……? 『空を飛びたい』って。その願い、叶えさせてやる。最期までな……」

ユレイドル「プテラ……」


バササッ…。


二匹は、荒れ狂う上空へと飛び立った。


ユレイドル(これが……)

プテラ「へへっ、どうだ……ユレイドル?」


生まれて初めて感じる感覚。これが、空を飛ぶことなんだ。
残された時間、この感覚を味わっていたい。


──永遠に忘れたくなどなかった。


やがて──


ユレイドル「……うっ……」

プテラ「……ユ、ユレイドル?」

ユレイドル「もう、私に残された時間は少ないようね……」

プテラ「ユレイドルッ!!」

ユレイドル「だけど、一つ言っておきたいことがあるの」

プテラ「な、なんだ……?」


ユレイドル「ありがとう」


プテラ「!」

ユレイドル「いつか、言おうとして言えなかった言葉。フフ、私は今、とても嬉しいのよ。プテラ……あなたは今、私の名前を呼んでくれている。『ユレイドル』って……」

プテラ「……」

ユレイドル「今まで頑なに“アイツ”とか“お前”って呼んでたのに、今、あなたは私のことをとても思ってくれている。それだけなのに、とても……」

プテラ「おい、ユレイドル……!!」


ユレイドル「うれ、しい……」


プテラ「おい、ユレイドル……ユレイドルッ!!!」

ユレイドル「……」


しかし、もはや、彼女の口は開くことはなかった。


ゴゴゴゴ……。


プテラ「ふっ、一時代も、これで終わりってか」

彼が見上げた先には、この星全体をも包み込もうとする巨大な隕石。
彼は、自身の生命の終わりを悟った。


ボオォォ…。


プテラ(……ああ)

一瞬にして様々な記憶が駆け巡った。

生まれた時。
やんちゃしてた幼き時。
空の主へとなるべく暴れ回った若き時。
命を助け、自身を慕ってくれた二匹のポケモン。
ふとしたきっかけで知り合ったユレイドルのこと。
ゲノセクトとの交戦。仲間の死。


そして……。


プテラ(俺は、誰かと一緒に死を迎えるなんて考えたこともなかった。死ぬ時は一匹だと思っていたからな、俺は……。だけど、もう、違う。俺には良き仲間、いや……『友だち』ができたんだ。やっとそのことに気づけた。馬鹿だよな、俺……)


……。

ありが、とう…………。


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ドゴォン…。



巨大隕石が、今、この星全体を包み込んだ。



──数年後

かつての大幅な氷河期もとうに終焉を迎え、ポケモンと当時は居なかった人間と云う種が共存していた。

人は、ポケモンをペットとしたり、仕事仲間としたり、時には戦わせながら、今日もまた良きパートナーであり続ける。

そして、ここはとある地方、とある洞窟。
この地で、数人の研究家たちがなにかを見つけたようだ。


「おい、またポケモンの化石が見つかったぞ!」

「本当だ、しかもこの化石、数体のものだな。折り重なっているぞ。何か微笑ましいな」

「よし、さっそく復元させてみようか」


時代は移れど、思いは消えず──


………
……



プテラとユレイドル  ~完~

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