氷のジキルとハイド

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作者:草猫
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読了時間目安:12分
※ポケダンマグナゲートの全ストーリーのネタバレを含みます、ご注意ください。

マグナ8周年おめでとう!!(大遅刻なのは目を瞑ってください)
 ......今でも、あの感覚は鮮明に思い出せる。
 
 心踊ったあの遠征。 大氷河の先に現れた美麗な氷の宮殿、グレッシャーパレス。
 そこでのボス戦をなんとか踏み越えた後のことだ。 先に進むと、現れたのは氷の回廊。 先に何かあるよと、こちらに語りかけてくるかのような感じだった。 気のせいだったのかもしれないけれど、先の方から風が吹くのを感じたから。
 
 「......うわぁ......凄いところだね」
 「先に何かあるかもな......進んでみるか」
 
 みんなも自分と同じようなことを思っていたらしい。 すぐ進むべきかと思ったが、自分は好奇心には抗えずまじまじとこの回廊を見回していた。 パラダイスの開拓の案に使えるだろうかとも考えながら。 これが職業病というやつなんだろうか。 見れば見るほど吸い込まれそうな美しさだったから、自分は思わず氷の柱に触れてしまった。
 その時だ。
 
 「......っ!?」
 
 思わず飛び退いてしまった。 自分は今はツタージャで草タイプだから、氷の冷たさに敏感なのだろうかと一瞬思った。 でも多分違う。 それが理由なら、多分とっくにめげている。
 今まで触れてきた氷とは、全然違った。 冷たいを通り越して痛い。 それも、どこか重みのある厳しいものだった。 こちらの心まで凍りつきそうで、自分は戦慄した。
 
 「ツタージャどうしたの? 早く行こう!」
 「あっごめん......今行く!」
 
 そうだ、待たせてしまっていたのだ。 パートナーのミジュマルのいるところに走る。 結構離れていたのもあり全力疾走したから、少し気持ちは落ち着いた。 そこから歩いていたらみんなバタバタ倒れ出して、また混乱に心が潰されかけたけれど。
 
 
 今思えば、あの感触は氷触体によるものだったのだと感じる。 実際に近づいて、失望の風を全身で浴びたから分かる。 いつアレが生まれたのかなど分からないけれど、きっとそれから漏れ出した失望の力は、グレッシャーパレスに......特にアレに近づくほど、深く深く、氷に染み込んでいたのだろう。 人間であっても、息苦しさは感じないとはいえ、そう言ったものは感じ取れてしまったのかもしれない。
 果たして誰の失望か? 分からない。 世界のポケモンのものであり、近くで言えば、宿場町やパラダイス、そしてミジュマル達の負の感情だ。
 
 ......もしかしたら、グレッシャーパレスが浮上する時には自分のものもたっぷり染み込んでいたかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ......そう、あの遠征の後、夢でムンナに呼ばれて、罠にかかって、助けるはずだったポケモンから命を狙われて。 本当に波乱万丈ともいえる数日間を自分は過ごした。 でも、逃げている間は正直あまり絶望は無かった。 寧ろ気丈でいられた。 ここで負けたら終わりだから。 死ぬにしても悔いは多過ぎる。 ......考える暇などなかったんだろうと言われると、それはそれで図星なんだけど。
 まあその気丈さが実を結んだのか、サザンドラが味方になって、ミジュマルも救うことができた。 カエン砂漠を抜ける時には、希望が溢れていた。 帰れば、仲間がいる。 仲間とみんなで氷触体に立ち向かえたら、どれだけ心強いだろう。
 もしいずれ出逢ったなら、絶対勝つ。 そんな思いだった。
 でも。
 
 
 
 
 
 豊かなパラダイスと違い、見渡すばかり砂しかない世界。
 突如急襲してきた氷触体の守護者。
 あっけなく凍らされ、砕かれ光となり消えたサザンドラ。
 ......絶望の光景だった。
 
 
 
 
 
 そして。
 
 「ツタージャっ!」
 
 そうミジュマルが叫ぶ時には、体は宙に浮いていた。 何が起きたかも分からず、薙ぎ払われたと理解したのは砂地に体を打ち付けた時だった。
 だが、キュレムは容赦などしてくれない。 素早く詰め寄られて、何度も何度も踏みつけられた。 叫ぶことすらも出来ない。 意識も朦朧として、体を動かすこともかなわない。
 
 いっそ殺してくれ、そう言いたかった。 勝てない。 キュレムには勝てない。 踏みつけられる度、氷を触れた時のあの感覚が微かに蘇った。 そして、その後微かに聞こえたキュレムの言葉。 ......そこには、一筋の光も無かった。
 
 「どう足掻こうが、未来は変えられない。運命は生まれた時から定められている。 変えてはいけないものなのだ」
 
 ......それは、そうなんだろうな。 そう思ってしまった。 自分はただの人間なのに、この世界の運命を丸ごと変えるだなんて、本来強欲が過ぎる。 ......世界の存亡がかかっていなければ、身を退けたのに。
 ああ、なんて無力なんだろう。 この世界を救うためにやってきたというのに。 サザンドラ、なんで自分にも頼んだんだ。 他の人間がどうかは知らないけど、自分はただの、何の取り柄もない普通の人間だったのに。 きっと他に適した人間だっていただろうに。 トレーナーズスクールにいた、正義感の強い学級委員とか。
......このまま、本当に世界が壊れてしまうなら、みんなは自分にどんな感情を向けただろう。
 期待したのにという失望だろうか。
......きっと、そうなんだろう。 そんな最期が、自分にはお似合いかもしれない。
 

そんな思考が、自分の心をずっと蝕み続けた。 理性がいくら止めようとしても、感情は強くそれを覆い隠す。
 そしてキュレムがいなくなった後。 もう限界で、自分は絶望のままに意識を手放した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 目覚めた時、周りにはみんながいた。
 よく自分の体を見てみると、包帯でグルグル巻きになっていた。 それほど重い傷だったんだろう。 ......それを確認した後、自分は少し無気力に空を仰いだ。 何もできない自分のせいで、この青空は近いうちに消え去るのかと。
そんな風にしているうちに、事情を知ったみんながそれぞれの思いを語り出した。
 
 「全部ダメなら すべてナシにしてイチからやり直しゃいいとか......オマエだって思ったことはあるんじゃないのか!?
 「そんな......!」
 
 みんな、諦めにも近い言葉を吐き出す。 自分は吐けなかったけど、諦めかけていたのは同じだった。 言ったらもう戻れなくなりそうで言えなかっただけだった。 一度吐いてしまったら、もう自分は救世主たる資格を失くすと思った。
 ......でも、それを隠し通すのももう、きつかった。

 ミジュマルが困惑の表情を浮かべる中、自分は口を開きかける。

 ごめんね。 ミジュマル。 ......本当にごめん。
 自分には......世界を、守れない。



 
 





 「ねぇ、みんな」

 その時だった。 ミジュマルの声が、自分の声を遮る。
それも弱々しいものじゃなくて。 ちゃんと意思を持った、芯のある声で。
 こちらに何か、大切なものを問いかけてくれる声で。

 「......ボクはなんとなく暗い今の世の中がイヤで......信頼しあえる友達がほしくて......パラダイスをつくろうと思ったんだ。そしてみんなが......仲間ができた」

 ......何の前振りだろうとも思った。 でも、すぐに確信することになった。 彼が問いかけたいものを。

 「ポケモン同士がだまし合う世の中だけど 少なくともボクは......ここにいるみんなとは 心が通じあえてると思っている。それなのに......ボク達は前を向いているはずなのに......負の意識とかのせいで みんなまでなくしてしまうのは......納得できないよ!」

 泣きそうだった。 ......なんで希望が持てるんだろう。
 これは、こんな凍りつきそうな世界の中で、未だ流れを失わない清流さながらだった。 その清流は優しくも、何故かどこか暖かくて、きっとそれが失望で冷やされた世界を融かすのだろう。
思えば不思議なものだ。 氷だって元は水なんだ。 あの冷た過ぎる氷柱だって、もともとはミジュマルが戦いで操る水だ。 ミジュマルも、あの氷のように冷え切ってしまう可能性があるのだ。 もしかしたら、心の底ではあるのかもしれない。 そんな氷が。
 ......でも、それだけではないんだよな。


 「ボクはみんなが大切だ!
ボクにとってみんなは大切な宝物なんだよ!」


 あんなにも冷たい冷気に当てられようとも。
 あんなにも背筋が凍りつく光景を見ても。
 
 
 

 それでも、キミは、諦めないんだな。





 
 
 
 








 再びグレッシャーパレス。 大結晶の塔。 自分達はキュレムと再び対峙していた。 あの時、彼が攻める側だったなら。 今度は、自分達が反撃する番だった。
 
 「言ったはずだッ!まだ世界を救う意志があるならば......その時は全力で叩き潰すとッ!!」

 それがなんだ。 例え叩き潰されようとも、救いたいんだ。 大好きだから。 隣に未来を信じている、相棒がいるから。 何度やられても、立ってみせる。
 
 「誤差が重なれば 大きな運命も変わる!奇跡という名前に変わる!!」

 そうだ、変わるんだ。 変えて「みせる」んだ。 この手で。 2匹の手で。 みんなの手で。
 
 「......さあ、キュレム。 そこを通して!!」

 ひとつ、高らかに、叫んだ。 自分の手を握りしめて、心を奮い立たせていた。





 
 


 そうだったんだ。 とても簡単なことなんだ。 確かに、絶望は消えない。 心の奥底で燻って、時が来ればもう駄目だと追い討ちをかけてくる。 あの冷たい氷のように。
でも、氷は、冷たい姿だけではないから。 水にも融解するし、はたまた目に見えない水蒸気にもなるし。......もしかしたら、優しい氷なんてのもあるかもしれない。
 そう、まさに、希望と絶望は氷のようだ。 表裏一体なんだ。 氷が冷たさの中にも、どんなものにも流転しうる可能性と美しさを秘めているように、絶望に巡り合うということは、遅かれ早かれ何かの希望に出逢うか、もしくはそれが自らの中に芽生えるということでもある。

 
 自分は、その「希望」にちゃんと出逢えた。 気づけた。 ただそれだけの話だ。

 

 キミがいたから、自分は草の剣を振るえた。
 キミがいたから......世界も、救えた。



 
 
 
 
 
 
 



 「これは」
 「フリズムです。 ミジュマルさんが渡して欲しいと」

 帰り際に、サザンドラから渡されたフリズム。 初めて大氷河に行った時、拾ったもの。 氷ということもあり、自分はそろりそろりと触ろうとする。

 「......あれ」

 氷は、冷たくなんかなかった。 優しい感覚だった。 透き通った、青い光を反射した、美しい物体。
 ......まるでミジュマル本ポケのようだった。
流石なものだなぁ。 彼の心は、フリズムさえも優しく照らすのか。
まだ中で凍っている声も聞いていないのに、愛おしく思える。 ミジュマルの最後のプレゼントというのもあってかは分からないけれど。

 ......まあ、まさかこの暖かさが全員によるものだというのは驚いたわけだけど。
この後のことについては、割愛しよう。 これはやっぱり、自らの中に留めておくべきものだ。











 あのフリズムは、今でも自分の部屋に飾ってある。 毎日埃を拭き取ったり、大事に扱っているつもりだ。 親には未だに謎の物体だなあと見られるけれど、寧ろその反応を楽しんでいる。
もうすぐ、8年ぐらい経つだろうか。 ......そうだ、久々にこのフリズムを、パラダイスに持っていってみよう。 持っていけるかは分からないけど、やってみる価値はある。
持って行って、みんなに見せて......
そして、叶うならばもう一度。 このフリズムに、声を凍らせて残してみようか。
 氷って、色々な一面がありますよね。
死ぬほど冷たかったり、時には美しかったり、触れる時にその冷たさに愛おしさを覚えることもあるでしょう。 まさに表裏一体な訳です。 冷たいけれども、その中には美しさもある。
マグナゲートは氷の色々な姿も見せてくれるような気がするんです。 鋭い冷たさを持つだろう氷触体だったり、グレッシャーパレスの荘厳な姿だったり、大結晶の塔の美しく希望を感じる姿だったり。
そんな、氷の解釈もまさに無限大に広げてくれるマグナゲートがやっぱ大好きなんだなという次第です。

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