はじまりのたいよう

しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
 
作者:竜田もち
ログインするとお気に入り登録や積読登録ができます
読了時間目安:6分
キモリがニンゲンと出会い、太陽に憧れる話。
暗黒の未来でのお話。
 物心がついたときには、オレは一匹だった。一匹であることが当たり前であった。何も知らなかった。

 オレがいたのは森だった。歩くたびに地形が変わる森だが、なぜか木の根本につくった住処だけは変わらなかった。食べ物を探して彷徨う。何か口に入れなければ死んでしまう。オレが何度も歩き続けるのは、死にたくないからだ。

 オレ以外のポケモンもこの森には住んでいる。しかし、互いに言葉を交わす事はない。目の前にいるのは敵だ。最善は、目を盗み食べ物を回収して住処に戻る事。そして最悪は、敵に倒されることだ。
 気絶した場合、どういうわけか目が覚めると住処の近くに倒れている。なんとかして住処に貯めてある食べ物を口にすれば、傷は癒える。そしてまた食べ物を求め、同じ日々を繰り返すのだ。


 そんな日常が壊れた。


 その日は目覚めた場所が悪かった。食べ物を探す途中のことだ。大きなポケモンに強烈な一撃を受け、気絶してしまった。目が覚めたのは、いつもより住処に遠い場所だった。痛む体を引きずる。住処の近くで他のポケモンに会ったことは無いが、もしもということがあるかもしれない。
 体中がいたい。集中が切れていたのか、足元の木の根に気づかなかった。どさ、と前に倒れる。もう力が入らない。

 ああ、これまでか。思えば、何をこだわっていたのか。分からない。オレは今まで何をしていたのか。食べ物を集めて、口に入れただけだろう。分からない。何も、分からなかった。とても眠い。瞼が、落ちて。

「君、大丈夫かい!?」

 音に反応して、見上げる。コイツが、オレにとどめをさすのか。最後に顔だけでも覚えていてやろうか。……いや待て、今、何と言った?

「ああ、その傷じゃあ喋れないか。ちょっときついかもしれないけど、体制直して、と」

 ブツブツと言いながら、オレを抱え込む。いや、コイツ、何だ。オレの住処の食べ物をねらっているのか? 第一に、ここに、言葉を交わせるヤツなんて、いたのか!?

「ほら、さっき拾ったオレンのみ、食べなよ」

 本当に、何なんだ! コイツは!

 この日、オレは初めて誰かと言葉を交わした。


 話を聞くとコイツは、ニンゲンというらしい。
 迷子と言っていた。訳がわからない。オレが話せることに驚いていた。オレも他のポケモンと話した事は無い。食べ物を奪うのではなく、与えることに驚いた。

「ここに来るまでは、もっと緑の森にいたんだ」
「みどりの?」

 ここ以外に森なんてあったのか。オレは何も知らない。そういえばさっきも、元気になるきのみをオレンのみだと言って、渡してきたのだった。

「さっきまでいたビエンの森。職業柄、写真撮ること多いからさ。この場所、見覚えある?」
「しゃしん」

 ほら、と言って差し出されたのは、小さな絵だった。なんだ、これは。この場所と違う、見たことがない場所が閉じ込められていた。

「ああ、知らないか。新緑が映えて綺麗だろう。君の体と同じ色だ」
「いろ……?」
「そう、色。ここは白と黒しかないだろう。そのおかげで、傷ついた君を見つけることができたよ。君は普通の色してたから。こういうの、有彩色って言うんだっけ」

 じっと写真と呼ばれるモノを見つめていると、この絵の場所がオレと同じ色だと言った。そうか、この他と違うのは色といい、オレの体は新緑と呼ぶのか。

 オレが生きてきた森では、動くものだけが色づいていた。色というのは、生きている証だとも思っていた。この絵、写真に映る場所は全てが生きていた。この場所なら、すぐにでも死んでしまいそうな小さなポケモンも、写真の中では笑っていた。

 こんな、美しい場所が残っていたのか。

「それ、気に入ったんだね。……よかったら、その写真あげるよ。また撮ればいいしね。」
「いいのか!?」

 顔を上げると、ニンゲンは気の緩んだ顔でオレを見ていた。


 オレはニンゲンが出した写真をたくさん見た。写真は見たことのない場所ばかりで、これは何だと聞けばニンゲンは答えてくれた。
 山から見る朝日、夕陽で赤く染まる海、青い空に架かる虹。どうしてこんなにもキラキラしているのか。難しい話は分からなかった。

「太陽が色を生むんだよ」
「たいよう?」
「そう、とても遠い場所にあって、この星を照らしているんだ。眩しくて、暖かくて。きっと、君も好きになる」

 この森にいるままじゃ出会えなかった、色に溢れた世界。

「オレも、みたい」
「それじゃあ、見に行こうよ!」

 ぽろりとこぼれた言葉に、ニンゲンは返した。ニンゲンの瞳は、この森と同じ黒い色をしているのに、キラキラして見えた。それがなぜか、写真にある太陽のように思えた。

「まずはこの森を出るんだ。それから旅をして、この世界の太陽を見に行こう」

 ニンゲンがオレに手を差し伸べる。
 この手を取れば、オレはこの森を出ることになる。体の真ん中からドキドキが広がる。けれどもこれは未知への恐怖ではなく、未来への憧れだった。

「一緒に行こう、キモリ! 君が思うよりずっと、世界は輝きに満ちている!」

 オレは手を握り返す。重なったニンゲンの手はとても暖かった。
スクエア様では初投稿です。よろしくお願いします!

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想

感想の読み込みに失敗しました。

 この作品は感想が書かれていません。