無能と雑魚

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作者:抹茶
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読了時間目安:5分
俺は生まれた時から、雑魚と呼ばれ続けていた。
『当たり』の力である『フェアリースキン』を手に入れた同族達はトレーナーに連れられて、戦って力をつけて行く。
ただただ周りよりモテるだけ、『メロメロボディ』の俺は、女に付き纏われながら一人で生きてきた。
同族達は声を使った戦闘が得意だったが、俺は声では戦えなかった。
ムーンフォース_日本語に直すと月の力_を使おうとしても、俺は夜が苦手だったため、あまり使いこなせなかった。

ーーー

今日は初めて見るヤツがいた。
瞳は琥珀色に輝いていた、女のリーフィアだった。
彼女は俺に気づくとまず、訳のわからない一言。
「声、聴かせて」
静かで、少し掠れた声だった。
「なんだそれ。なんか話せばいいのか?」
「じゃあそれでいいよ。お話ししよう」
俺は普段、不幸なハーレム状態だったので、誰かと一対一で話すのは新鮮だった。
静かに海を眺めながら、語り合う。そんなことは、少なくとも進化してからは初めてだった。
「俺の声なんかでいいのか?同族達にはもっと声で戦うヤツがいるんだけどな」
「だめ。そんな暴力的な声は好きじゃないから。戦う為の声は、お腹から出る騒音」
「そ…そうなのか」
「あ、勝手な気持ちをぶつけちゃってごめんね」
別にいいんだ。そんなことは、ない。
声で戦えない、どころか普通に戦うこともできない俺が認められたような気がして、嬉しい。
俺は、こいつ以外のヤツとは会いたくなくなった。
「勝手に俺に虜になってるヤツらと比べれば、自覚しているし、自分の気持ちをしっかり認識できているからな」
毎日の日課に、安らぎが加わった。

ーーー

彼女は、次第に苛められ始めた。
辺りで一番の人気者を独り占めしているのだから。
自意識過剰とか言われそうだが、事実だから仕方ない。
今日も彼女に会いに行ったら、その場面に出くわしてしまった。
一方的に殴る複数人の女と、殴られるリーフィア。
痛みで、苦しみで、声も上がらないようだった。
助けてやらないと。本能的にそう感じた。
俺が救いたいと思ったヤツは、こいつが初めてだ。
「ったく、構ってほしいからって、人を傷つけてんじゃねぇよ。」
俺がそう言うと、ヤツらは俺に矛先を向けた。
嫌われたならもうどうでもいいのか。
一発目から腹に直撃した。何発も何発も叩かれるうちに、身体の感覚が鈍ってきて、それと同時に身体が言う事を聞かなくなってきた。それでも俺は、必死で彼女を護ろうとした。護れたかどうかは、怪しいが。

目が覚めた時、彼女は隣で眠っていた。
幸い息はしているようだったが、傷は深く、かなり痛々しかった。
そして、そんな状況に追い打ちをかけるかのように雨が降り出した。
さすがに、こうなったら、俺の巣に行くしかない。
これは連れ込んでるんじゃなくて人助けだからな。
そう思って、痛む身体で彼女を運んだ。

数時間で、彼女は目を覚ました。
「大丈夫か?傷だらけだぞ」
「これくらいなら、まぁ光合成で治せるからね」
「ならよかった」
回復技が当然のように使えるなんて、便利で羨ましい。
俺の技は、いきなり使おうとすると、倫理的な問題がある。
キッスで体力を吸い取るなんてな。
「疲れちゃったよね、ごめんね」
彼女も疲れているからだろうか、普段以上に掠れた声で、彼女は言った。
「今から寝るから、帰っていいぞ」
「私のせいだから、君が治るまで待つ」
「なんでお前のせいなんだよ」
自分のことまで、彼女には背負わせたくない。
「俺がお前を護れなかったんだ。雑魚だから、初めて、護るべき存在だったのに」
「じゃぁ、雑魚って言葉をプラスに考えようよ」
「は?」
相変わらず、理解できない。
雑魚は、俺を馬鹿にしているだけなのではないか。
ふざけてやがる。
「無能、じゃなくて雑魚。無能は能が無だから、ただの役立たず。でも、雑魚って事は、そのレベルの能はあるんだから。無能、0は何倍しても0のまんま。でも、雑魚は、限りなく0に近くても、0じゃないから。何百倍、何千倍…もしかしたら、無量大数よりもはるかに大きな数で掛け合わせないといけなくても、いずれ1になれる。雑魚は、原石だから」
今まで、彼女にはいろいろなことがあったのだろう。彼女は、明らかに俺よりも人生経験が豊富だ。
雑魚は、原石か。
なかなか深い言葉だ。
雑魚が原石だとすれば、彼女はそれを磨く職人だ。

ーーー

次こそは、彼女を護らなければ。
自分という、雑魚という原石を、磨いてみることにした。
俺は彼女と違い「職人」ではないから、もしかしたらうまく磨けないかもしれない。
そんな時は、職人に、話を聞いてもらうのがいいかもしれない。

今まで感じたことのなかった感情は、彼女と会う度に、俺を殺しにかかるように高鳴った。
これが、本当の恋なのか。
欲望ではなく、心による恋というものを、初めて見た。
欲望の恋なのか、心の恋なのか。

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