極星

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作者:ioncrystal
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読了時間目安:5分
 …生きた心地がしない。
人間の歩幅で前方五歩を森の闇夜を割るように二日は奔って、ついのついにバテを隠し切れなくなったダクマに三度目か林檎を投げ渡す。
王が偶々豊かになり、打算から与えることが出来る側に立った者だとするなら、一体これはどちらになるのだろうか。
もちろんヒトツキもリザードンの目にも、孤島のロッジを発った時ほどの好奇の目の輝きはない。
生まれたてのマネネだけが楽しそうにダクマの崩れ出した走行フォームを忠実に真似ていた。
マスタード師匠から課された「厳しい」修行は、何の皮肉か現チャンピオンダンデの最たる苦手分野だった。
なので今、やけくそのように足を進めていても、ダンデが足を棒にすることはなかった。慣れていたから。
…生きた心地がしなかった。
「というかここ、まどろみの森だよな?」
なにそれ、とダクマ含め多くの手持ちが振り返って首を傾げた。ダクマが林檎をキャッチして、丸焼くでまるで人間の子供のようにシャクシャクとそれへ貪り付いて、
こちらに目を大きくして飛び付いて来た。
こんな時もヤツの尻尾の火のちりちりとした音は笑えるぐらいに変わっていなくて、ただ音のある昼でもよく聞こえるようにはなった。
もし、もしこの身が子供達の憧れとなれているなら、彼らはそこに何を見ているのだろうか。
ただ戦えればいい、とも、実は少し違う。ダンデ自身が、それを望んではない。
無論現実は異なっている。
チャレンジャーの多くは怖気てしまい、心躍らせる類いの戦いなど、キバナを除けば長く経験していなかった。
複雑で入り組んだ現実を、信頼や、絆や、誰もが分かる形に回収していくこと。
楽しい役目だと思う。もちろんだから、大切な仕事だと思う。
…生きた心地がしない。
考えずに歩むのには慣れていたから、考え事が多いのは悪い兆しと知っていた。そもそも何で海越えてるんだよオレ。
少しばかり、ネズとの会話を思い出す。理事長の真意を理解して欲しくて。
「悪い人じゃないよ。むしろすっげぇいい奴なんだ。」
頑なな態度に腹は立たなかったけれど、言葉を尽くしても意見を同じくすることはついになかった。
 こぐま座のポラリスは北極星。行くべき道を指し示す者。
静かに覚悟を固めると、リザードンに道案内を改めて頼んだ。なつかしい、と心の片隅で思ってしまう己を見つめる。
彼なら、自宅までは連れ帰ってくれるだろう。

「えっ、いやどういうこと?」
ばったりと会った幼馴染が困惑しているのに言葉を継ごうとして、師匠ーーもう師匠とは呼べまいがーーから電話が鳴る。
…きっとオレと来ないのが最適解だ。
そんなことを考えることこそが戦士への侮辱なのだと頭でこそ理解していても、一度作られた心のスキマには水が沁み入るように溝が広がっていってしまう。
「町や道 洞窟 家の中など至る所を調べてヒントを集め、ダンデちん自身が成長すること。
それこそが、『鎧の孤島』を旅する最も大きな目的です。と、ワシははじめにそう言ったよな?ダクマとの散歩で、ダンデちんは何を見つけたのかい?」
「…いえ、ダクマは送り返します。育ててくれたマスタードさんに。」
「ポケモンの生命は、もともとポケモンのものだよ。たとえ今向き合うことができなくとも、ちゃんと愛してた昨日まではなかったことにならない。ワシちゃん、そう信じちゃってるからね。」
それほど楽観主義に生まれついた訳ではなかったから、ストイックでなさそうな好々爺としていくら生きて来ても、マスタードには予感された。
ウーラオスは完璧なチャンピオン・ダンデのスタメンにはならないと。
それでも、ここで彼にダクマを託したことでさえ、いつか巡りめぐって、誰かの得る冠になるまいか。
まるで希望だ。だから、まさに夢想だ。
そういえば結局今回は、霧の一つも見なかった。
修行をリタイアした彼は、結局ダクマを連れて行くことになって、ソニアは結局気を利かせてしまう。
「ダンデ君は、さ、お腹空いてないの?」
「…頼む。」
きっと、気の利いた食レポのひとつもかけられないのだろうと予感しながらも。
前作「王道」と同じく、考察はこだちさんに一部依ります。

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