竜ニ成ツタモノ

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作者:みなと
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読了時間目安:14分

この作品は小説ポケモン図鑑企画の投稿作品です。

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 人間はなんと脆弱かよわい生き物だろうか

 愚かで自らの種族のことしか考えていない脆くすぐにでも崩れてしまいそうな不安定な生き物。いや、そんな事さえ考えずに生きていたように思える。それほどまで人間というものに興味をそそることなど有りはしなかった。一人の人間と出会うまでは――


 全く、今日は悪日である。
 木の実を取ろうとしたところに突如と降ってきた太ましいポケモンに木の実を全て持って行かれてしまったのだ。とは言うものの木の実を他のポケモンに取られる事など稀によくある為そこに関しては特段どうとも思ってはいない。が、惜しい事に私好みの黄色い木の実まで持っていきよった。取り逃げていった太ましき奴だが、見た目にも依らぬ俊敏な早さで黄土色の茂みの中へと走り去って行き姿を眩ましてしまった。仕方ない、今日のところは住処に備蓄してある木の実でも食すことにしよう。全く、食い意地の張ったポケモンには心底困ったものだ。

 砂地にある崖下の小さな洞穴に私の住処はある。少しばかり敷いた寝床である枯草が目印になっている。そこは私にとって何者にも邪魔されない至高の場所と言えよう。だがいつもの私の場所に見慣れぬものが鎮座していた。
 人間だ。だが稀にここに足を踏み入れる大きな人間達とは明らかに違い、とても幼く小さな容姿をした人間だった。身体を纏う白い布は砂で茶色く薄汚れており所々破けていた。
 人間、いや、人間の子よ。そこは私の住処だ。早々に立ち去るが良い。
 敵意こそ向けはしなかったが警戒心を表出し、その人間に睨みをきかせる。それに気がついたのか、気持ち良さそうに眠っていたその人間は目を覚ましこちらの方に目を向ける。
「わあ!サダイジャだー!」
 “サダイジャ”。今の私はそう呼ばれている。かつては“スナヘビ”とも呼ばれていたのだが姿形が変わり進化を得た今ではその名で呼ばれている。恐らく名前というより種族名のようなものなのだろう。人間達の中ではポケモンの中にも幾分か区別というものが存在しているらしい。だが私からして見ればポケモンはポケモンだ。それ以上でもそれ以下でもない。果せる哉、人間の思考は理解し難い。益々不思議な生き物である。
 それはさておき、目の前の人間は私に対して怖がる様子はなく、此方に対して好奇心を持った眼差しで見つめてきていた。そしてすぐさま私の側に近づき蜷局巻く身体をペタペタと触り始めてきた。
 ――ブォンッ!!
 俄に触られた衝撃に恐れ慄き、尻尾でその人間を振り払ってしまった。何せ何者かに身体を触れられるという経験自体なかったものだから咄嗟にそうしてしまった。跳ねられ地面に叩きつけられる人間。自分で振り払ってしまったと言えど心配してその人間へと近づく。
「……あ、ゴメンね。急にさわっちゃったからビックリしちゃったよね…」
 驚いた。このくらいの幼児おさなごであればあのようなことをされたら驚いて泣き喚くだろうと思っていたのだが…。何とも明敏な人間であろうか。
感心するのも束の間、徐にその人間はポケットと思わしき場所から木の実を取り出して見せた。黄色く丸みを帯びた形状、先の部分は少し尖った形をしていた。これは、私の好物である木の実ではないか!私がその木の実に興味を示している事に気が付いたのか人間は私の方に向かってそれをそっと差し出してきた。一口、木の実を頬張ってみる。やはりそうだ。私好みのほんのりと甘さが薫る木の実だ。この人間、まさか私の心を読み取ったとでも言うのであろうか。いや、それはない。恐らく偶然それを出しただけだろう。
 しかし、木の実の件は抜きにしてもこの珍妙不可思議な人間の子に少々興味が湧いてきた。人間の子も「かわいいー!」などと言いながら私が木の実を食す様子を見てくる。向こうも向こうとてこちらに対してかなり興味を持っているようだ。どうせ1匹でいつもと変わらぬ日常を過ごすことになるのだ。であれば、暫しこの人間と共に過ごすというのも悪くないだろう。
そう思っていたのも束の間、突如として人間は私の元から走り去っていった。何処かへ行ってしまうのかと思ったが、暫く駆けた後、再び此方の方へ振り向き小さな手で大きく手を振りかざした。如何やらついて来て欲しいようだ。正直面倒であったが、この人間の純粋なる笑みを一度見れば怠惰な気も不思議と消え去っていったのだった。嬉しそうに駆けて行く人間の背中を砂の大地を這い、追い求めていった。
着いた場所、そこはこの砂地の境目であった。黄色き砂の大地が広がる此処とは違い緑溢れる程の多く草木が大地を覆っていた。初めて見た訳ではないがやはり此処との自然の違いには圧巻される物がある。草木溢れる大地の向こうを人間は指差した。人間は私と此処を出て緑多き大地へと行きたいようだ。多くの人間やポケモンはこの人間のように此処のような砂の大地より動植物豊かな場所を好んで住まうだろう。しかし残念だが人間の子よ。私はこの砂地が好きなのだ。外の世界に出てみたくない、と言うと嘘になるが、この場所ほど私を心地よくしてくれる場所があるとは到底思えないのだ。これは単なる私の我儘と言えよう。分かってくれ、人間の子よ。
 人間とポケモン、お互い会話が出来る訳ではない。だが、私が出たがらない様子にその人間も私の気持ちを感じとったのかどうか定かでは無いが、すぐさま足を止めてくれた。
人間も私と共にこの地で過ごす事を決めたようであった。

 それからと言うもの、この人間と過ごす時間が大部分占める様になっていった。ある時は私好みの甘い木の実を共に採取したり、またある時は普段は見ない荘厳華麗な夜の空を共に見入ったりもした。人間と過ごす日々は私にとってとても刺激的で且つ有意義なものであった。しかし、この様な日々にも突如として終止符が打たれる運命であった事を私も、そして人間すらも知り得なかっただろう。それは木の実集めの最中に突如としてポケモンに襲われて木の実を無くしてしまいただただ虚無を味わうかの様に突然起こり得たのだった。
 崖の上を人間と共に散策していた時の事だった。私の住処がある崖の上はこの砂地全体を見渡せるほど眺めの良い場所であった。人間と共にその雄大な大地を眺めていた時だった。突如として背後から大きな翼を持つポケモンが滑空してきたのだった。驚きはしたものの襲ってくる気配はなかったため私は安心し切っていた。しかし人間の方はその滑空していったポケモンに興味津々であった。そのポケモンに追い付こうと必死になって走っていった。ふと人間の重心を支えていた片方の足が空中を踏んだ。トルクが背後にかかり重力に従い墜落して行く。咄嗟に人間の方へと尻尾を飛ばす。がっしりと尻尾が掴まれる感覚が直に届く。傾斜面で且つきめ細かな砂が大地を覆っているということもあり人間の倍の重さがあるにも関わらず徐々に斜面方向に滑り落ちて行っていた。なんとか身体を地面になんとか人間を支えている。人間の方もなんとか小さな手で尻尾を掴んでいた。此方からは見えないはしないその感覚だけはあった。徐に滑り落ちる身体を止め、人間を持ち上げようとするも自分の力だけでは重力に抗うことは出来なかった。
 不意に尻尾の感覚がなくなり、身体が宙に浮く。周りを見渡してみるも人間の姿はそこには無く自分だけが崖の上に居た。先程人間が尻尾を掴んでいた場所に目をやる。遥か下、小さく目に映るものがそこにあった。

 そこにはあの人間の姿があった。
崖を軽やかに伝いその人間の元へと向かう。しかしその人間が動く様子はなく、見たことのない黒に近いような赤色をした何かが滴っていた。この赤黒いものがなんなのか。私には分からない。けど二度とこの人間が動くことがないことだけは分かった。砂の舞う風が辺りに吹く。周りに人影もポケモンの気配も感じられなかった。今ここには私しかいないのだ。
 人間達は動かなくなった他の人間をこうやって地面に埋めていた。そしてその側に不思議な模様のような物が描かれた岩のようなものを置いていた。なぜそのようなことをしていたのかは分からない。けどこの人間のためにやらなければ…。私の中の何かが突き動かされたような感じであった。
同じように地面を掘り返しその人間を埋める。そしてそこに小さな岩を置いた。人間達はこの岩に模様のような物を描いていた。その模様がどういったものなのかわからないが、この人間が喜んでくれそうなものを描けば良いのだろうか。
 喜んでくれそうなもの、何かあっただろうか。……自分で言うのもなんだが、この人間は私のことを大変気にいっていたように思う。木の実を分け与えてくれたり、一緒に巣穴で寝込んだり――気に入ってなどいなければそこまでのことをする必要などなかったと思う。だったら、自分に模した蛇を描いてあげれば、この人間は満足してくれるかもしれない。満足、と言ってもこの人間が居ないから本当にそう思ってくれるかは分からない。けどやるしかない。今の私に出来ることはそれしかないのだ、と。
 そう思えば身体はすぐに動いた。生憎、きめ細かな砂で覆われた柔らかい地面と違い岩肌はとても硬いため尻尾の先端で描こうにも描けなかった。何か色の付いた液体か何かが有れば彫らずに描けるのだが…。そういえば、あの人間の落ちていた近くに赤黒いものがあった気がする。若干乾いてしまっていたが絵を描く分くらいは残っているだろう。
 気づけば空はピンクがかった色に染まっていた。出来上がった絵はとても自分に似ているとは思えないものだった。これであの人間は満足してくれているだろうか。分からないけど、きっと満足してくれている筈だ。そう思い込む他なかった。

 岩に寄り添いながら夜空に浮かんだ星を寂しく見つめる。光はもうそこには無く、夜の帳が下りていた。不意に小さく赤い星が横切って行った。流れ星だった。人間と共に過ごしていたにもこの様な流れ星を見た覚えがあった。その時、確かあの人間が流れ星に関する話をしていたと思う。
 ――流れ星に願いを言うと叶う、と。
 願い、か。あの時はただ自分が生きて行ければいいと思っていた。あの時もそう願った。けど今は違う。自分にもっと力があれば、自分がもっと強ければ、あの人間を助けれたかもしれないのに。自分がひ弱過ぎるあまり人間の子一人救えなかったのだ。後悔しても後悔しきれなかった。
 願い、もし叶うのなら、私にもっと力を、もっと強い力が欲しい。そして人間を守れるような強いポケモンに。それがあの人間のためにできる唯一の顔向けなのだろう。過ぎ去った流れ星に向かって私は静かに願った。



“強い、竜になりたい”




***




「ああ、クソッタレッ!!」

 本来であればこんな筈ではなかった。砂地エリアに墜落したねがいぼしを回収して本部に届ける。ただそれだけだった。だが今はどうだ。ゴーグルをしているとはいえすぐ先の景色すら見えないほど砂埃、吹き飛ばされそうなほどの突風の中を彷徨っている状況。息切れで口を開こうものなら容赦なく風に舞い散る砂埃が入り込んできやがる。他の隊員とも完全にはぐれてしまった。他の奴らは俺と違って軽装で来ていた筈だから、砂に埋もれてしまってるだろう。ある程度の装備を持参して来ていた俺だけが奇跡的に生き残っている状況なのかもしれない。
体力を絞り出しながら進むも先に広がるは一寸先も見えぬ無限に続く砂塵の嵐。風に舞い積もってゆく砂の足場に徐々に体力が奪われゆく。最早、数歩歩くことすら儘ならない状況だ。クソがッ、これだったら極地に派遣された方がましだ。
そう後悔しても今となっては遅すぎほどだ。
 ふと、足元に硬い何がぶつかったような感覚がした。石か岩か、いや、これは通信機だ。リーダーが持っていた通信機だ。これがここに落ちていると言うことは既にリーダーはこの砂嵐にやられちまったのだろう。あれ程までの軽装だったんだ。この砂嵐の中を生き残ってる方がおかしい。スピーカー横についている電源ボタンに押してみるとボタン横の赤いランプが点滅した。
「メーデーメーデーメーデー、本部、応答願います、本部、応答を――!」
俄に吹き荒れた突風に身体ごと吹き飛ばされ通信機も何処かに落ちしてしまった。立ち上がろうにもそうする気力など疾うに無かった。俺の人生もここまでか。そう思う他なかった。
視界が眩む。ふと、揺れ動く不思議なシルエットが目に映った。隊員の誰かかとも思ったが人のシルエットにしては大きすぎる。だからといって岩か何かだとも思ったがそれにしてもなおさら変だ。じゃああれは何だ?人でも無くその辺にある岩でもない、そこにあった、いや、そこにいたそれは竜のような姿をした――
「――ポ、ケ、モン……?」
 意識が遠のいて行く。けど確かにこの目で見た。あれは砂嵐でも幻覚でも心綺楼でもない。学者だった頃、古文書か何かで見たような姿をしていた。間違いない、あれがこの砂嵐を引き起こしていたのだと確信した。しかしあれは俺が、人が止められるものでは到底ない。段々と砂が身体に積もって行く。目を開けてられない程の眠気が襲ってくる。不思議と身体が浮くような感覚だ。人々が敵うはずのないそれに抵抗しようとしたところで、それは風の前の塵と同じだ。だったら、今はただ、このままその身を委ねよう。その方が楽だ――


 竜ヨ 天ヲ舞ヘ地ヲ繋ゲ
 砂ヲ吹ケ 嵐ヲ呼ベ
 地ヲ吠エロ
↓併せて読もう

細かすぎて伝わらない解説(作者TwitterのPrivatterより)

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