リモートドッキリ!

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作者:竜王
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読了時間目安:6分
 さてはてムウマはとても退屈だ。可愛らしいほっぺたを膨らませて一生懸命に悩んだ。季節はそろそろ秋と冬の間隙、つまりハロウィンが目前に迫っている。商人にとってこの時期がかぼちゃとコスプレの売り時ならば、ムウマにとってはこの時期が絶好の驚かせ日和である。いつもはあんまりイタズラすると怒るマスターもこの日ばかりは大目に見てくれるのだ。
 しかし今年はそんなわけにもいかない。どうも強力なウイルスが世界を蔓延しているらしく、祭りという祭りが中止になったのだ。マスターの目を盗んで街に出ようとしてもそもそも人がいない。特に夜中はいつもに増して人がいない。
 おまけにマスターはせっかく家で仕事をすることになったのだが、忙しいのか全くムウマに構ってくれないのだ。朝早く起きて、夜遅くまでパソコンとずっとにらめっこしている。しかも見つめている相手は部長という名のどこにでもいるようなおじさんだったのでムウマは余計面白くなかった。せっかく驚かしてもぼんやりとしていて全然反応してくれないのだ。面白くない、面白くない、面白くない。むうとほっぺたを膨らませてムウマは部屋中を飛び回る。何か、何かないのだろうか。人を驚かせるか、それともマスターが遊んでくれるようになる方法はないのか。
 そこでムウマははたと思いついた。マスターが一生懸命見つめているパソコンを使えば、何かイタズラができるはずではないか! さっそくムウマはマスターの手持ちであるポリゴンにお願いした。パソコン関係の仕事をしているマスターは、何かとポリゴンに頼っているのだ。
 最初こそポリゴンは角ばった体を懸命に捻って嫌であることをアピールした。ムウマに付き合わされたら何をさせられるかわからないのだ。しかし、ムウマは自分が可愛いことを理解していた。電子の海で普段誰とも接することなく孤独に生きているポリゴンなど、ウインクひとつで悩殺できるのだ。目をうるうると潤ませると、ころっとポリゴンは落とされた。しめしめとムウマは笑う。かくて、計画は完成された。







 マンションのとある一室。部長はパソコンを見つめていた。何やら未知のウイルスが世界に蔓延しているということで会社は原則通勤禁止ということで、基本的にはパソコンを用いた作業をしていたのだ。しかし年齢もはや五十、インターネットなるものが登場して数十年が経とうとしているが、上司はいまだにパソコンの電源の付け方すらおぼつかないのだ。今日も今日とて一本の指だけでキーボードをタッチしていたのだ。
 すると、ふと部下からメールが来ていることを示すアイコンが出てくる。動作がもっさりしたパソコンでクリックすると、そこには本文のないメールに一つのファイル。

「トリックオアトリート.exe?」

 部長は首を捻る。妙なタイトルのメールが届いたものだ。とりあえず、部長はポケギアで部下を呼び出す。数秒後にコールは繋がり、もしもしという眠そうな声が聞こえてきた。

「君、私に何かメールを送ったかね?」

「メール……? はて、送っていませんけど」

 画面の向こうで部下が首を傾げる。部長も訝しんで腕を組む。一応、怪しいのでこのメールをゴミ箱に送ろうとするが、マウスの操作すら下手な上司は間違えてファイルをクリックした。してしまった。

「むーーーーう!!!」

 きいんとつんざくような叫び声がスピーカーから響き渡った。びっくりして上司がのけぞると、画面には飛び回るムウマが現れる。

「わ、わ、わ!」

 想像もしていない事態に部長は腰を抜かして倒れる。画面いっぱいに楽しそうに踊るムウマと、エラーメッセージがたくさん表示されていた。実は、ムウマはポリゴンの技術によってコンピューターウイルスのようなものに変換してもらっていたのだ。

「部長! どうしましたか! 部長!」

 ポケギアの向こうから聞こえてくる焦ったような声も部長の耳には入らない。

「違う、私は何もやっていないんだ! ムウマが!」

 部長は顔を真っ青にしながらうわごとのように答える。慌ててこの変な表示を消そうとキーボードを叩くが、ボリュームの上げ下げすらまともにできない部長にそんなことができるわけもない。
 そして、自分とマスターの仲を邪魔をしている(とムウマが勝手に思い込んでいる)部長を視認し、ムウマはきっと画面越しに睨みつける。

「むーう!」

 この世のものとは思えない恐ろしい声をムウマは響かせる。“おどろかす”というなかなかに心臓に悪い技をくらい、部長は泡を吹いてばったりと倒れた。








 数時間後、何か事件が起こったのかと思って部長の家に飛び込んだマスターと、部長の息子が念のためにと入れておいたウイルスバスターであるポリゴン2によって事態はなんとか収束した。ムウマは好き勝手にパソコンの中で暴れまわっていたが、マスターの怒鳴り声とポリゴン2のサイケこうせんを喰らい気絶。そしてマスターの指示に従い、ポリゴンによってムウマの体を元に戻した。
 当然、ムウマはこってりマスターに叱られた。そしてポリゴンも巻き添えを喰らうようにして怒られた。結局、二匹にはおやつ抜きの罰が与えられ、ムウマは大泣きしたそうな。
 幸いにもムウマが食べたファイルはポリゴン2によって復旧され大事には至らなかった。温厚な部長はムウマのイタズラを快く許してくれ、そして手持ちポケモンと構ってやれと有給を取得するようにも勧めてきたのだ。
 そんなわけでハロウィン当日。久しぶりに遊んでもらえたムウマはご満悦で部屋の中を飛び回る。そして、マスターが腕を振るって作ってくれた料理を美味しく食べていた。

「こらムウマ、ほっぺたにかぼちゃが付いているぞ」

「むうむう!」

 付いた食べ物を取ろうとしたマスターの手をかわし、ムウマはイタズラっぽい笑みを浮かべてくるりんと舞った。その可愛らしい仕草はこう言っているようにも見えた。

 ーートリック・オア・トリート!

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