小さな太陽のハロウィンマジック!

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作者:草猫
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読了時間目安:24分
 この短編は、拙作「ポケモン輝きの探検隊 〜太陽の奇跡〜」準拠のハロウィンの話となります。
 第40話辺りをベースとしていますが、本編との時系列との明らかな繋がりはありません。 そこはご了承下さい。
 ハロウィン。 それは秋の夜に行われる行事である。 死者の魂が帰ってくるやら色々な言い伝えがあるが、正直現代では風化しているところがあるかもしれない。 今の時代のハロウィンは仮装、お菓子、そして少しの悪戯を添えて......といった感じになっている。 無論、とある2匹の探検隊も例外ではなかった。
 ただ1つを、除いて。
 


 
 
 
 
 ある日のことだった。 探検隊ソレイユ......ユズとキラリがいつも通り『とんがり帽子山』というダンジョンで依頼をこなした後。 物資に余裕があったのもあり、2匹は最上階まで向かうことにした。そして無事最上階まで到達したのだが、そこにはツタのカーテンで覆われた脇道があった。 そしてユズはチコリータという草タイプの特権を生かし、そのカーテンをすぐに開くこととなった。 これはキラリの要望によるものだ。 初めて見るものに対してチラーミィ特有の長い灰色のもふもふ尻尾が昂り、ぶんぶんと揺れていたのだ。

 脇道内に入ってみたところ、敵ポケモンも普通にいた。 ......いや、普通というのは語弊があるかもしれない。 なんせとても強いのだ。 敵と出会えばしのぎの枝。 またまた出会えばしのぎの枝。 そんなことを繰り返しながら、2匹は脇道の奥へと進んでいった。 そして脇道最深部になんとな辿り着いた時、2匹は驚くべきものに出会った。
 
 そこには金色と銀色に輝く、奇妙ながらも美しい2本の枝があったのである!
 
 キラリは金色、ユズは銀色の方を手に取る。 正直それだけでは何も起きなかったが、またまたそこに敵ポケモンが現れてしまった。 ぎゃあと恐れをなした2匹が何をしたと思うだろうか?
 
 枝を、振ってしまった。
 普通ならなんて馬鹿な行動だろうかと笑うだろう。 枝系の道具は使い捨て。 そしてこの枝は合計2本しか無い上に、同時に使用してしまった。 こんな無駄なことがあるものだろうか。 ああそうだろうそう思うだろう!!
 ところがどっこい!!
 
 
 
 ......敵ポケモンはまず遠くへと吹っ飛び、痺れて動けなくなり、そしてそこから彼を爆発が襲った。 これには耐えられるはずもなく、敵ポケモンはその場からいなくなる。 文にしても信じられない光景だろう。

 まさかの一発で倒せてしまったという事実に2匹は驚愕した。 しかも、何故か枝が消えていないのだ。 変わらず金と銀の輝きを放ったまま。 何がなんだか分からないまま、2匹はあなぬけの玉でダンジョンを脱出することにした。
 その日の帰り道。 2匹は歩きながらあの枝について話し合った。 その結果、「ダンジョン名」、「普段の枝じゃあり得ない高火力」、「それにも関わらず消えない」......というところから、2匹はこの2本の枝を魔法の杖と断定することとなった。 2匹は凄いものを持って帰ってしまったと慌てふためいた。 そしてこの日の日付は10月31日。 ちょうどハロウィンの日であった......。
 
 ......え、前置きが長い? まあそれはハロウィンに免じて許してもらおうとしよう。 ハロウィンは、いつもと違うことが起きてもおかしくないのだから。 ユズとキラリが偶然手に入れた、2本の魔法の杖も然り。
 これは、図らずも小さな魔法使いになってしまった、太陽の探検隊のハロウィンの珍道中である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「るんたるんたるーん♪」
 「キラリ、嬉しそうだね......」
 「そりゃそうだよ! こーんな魔法の杖手に入れちゃってさ! えー、何しようかなぁ、夢が膨らむなぁ〜!」
 「ほうほう......でもどう使えばいいのかなぁ、別に欲しいものは無いし......」
 「いやあるよ! 仮装グッズ!」
 「仮装?」
 「だって今日ハロウィンだよ! ハロウィンといえば仮装! トリックオアトリートでお菓子を奪取!」
 「は、はろうぃん......?」
 
 ユズに浮かぶのは疑問符ばかり。 はろうぃんとはなんだ。 美味しい食べ物か。 いや、お菓子を奪取と言っているとなると、もしかしたらお菓子を賭けた異種格闘技大会......。
 
 「ちっがーーう!!」
 
 ユズの中に浮かびかけた修羅場をキラリが薙ぎ払った。
 
 「そういやハロウィン知らないのかぁ......うーん、そうだね、簡単に説明するとだね......まず、仮装をします」
 「うん」
 「そんで街を練り歩いて、道ゆく大人に『トリックオアトリート! お菓子くれなきゃいたずらするぞ!』と言います」
 「うんうん」
 「お菓子をくれたらそれでよし、くれなかったらこちらから軽いいたずらをやります......はいこれ全容!」
 「ぜ、全容......?」
 
 あまりにも適当に思えるキラリの説明。 もしかしたら本当にこれだけなのかもしれないので口には出せなかったが、正直本来のものとの齟齬を感じずにはいられなかった。 だがキラリは構いやしない。
 
 「そゆこと! じゃあまずは仮装からかなぁ......どうすりゃいいんだろ」
 「杖にお願いすればなんとかなるかな......?」
 「それだ! そんじゃ......」
 
 こほんと1つ咳払い。 その後、キラリは少しわざとらしく魔法の杖を振った。 なお、本ポケはとてもノリノリである。
 
 「......魔法の杖よ、私達を仮装させて!」
 
 ぶんと振られたキラリの杖から光が漏れる。 それは瞬く間に2匹の体を包み込み、文字通り仮装させてくれた。 しかも魔法使いの帽子とマントという、今の2匹にぴったりなチョイス。
 
 「うわあ! いいじゃんいいじゃん!」
 「......凄いなぁ......」
 
 喜びの声、感心の声が真っ先に出てくる2匹。 仮装による気分の高揚のままに、キラリは家のドアを開いた。
 
 「えっ、急にどうしたの......」
 「なーに言ってんの! 魔法使いといえば月夜に決まってるじゃん! レッツお菓子奪取!!」
 「えっ、ちょっと待って!」
 
 どうしていいのか分からず、ユズはてってけ走っていくキラリを追いかけていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ハロウィンで沸くオニユリタウン。 いくつかの家の前にはジャックオランタンも飾られており、それは子供達のはしゃぎ声を少々不気味に、でも暖かい目で眺めていた。 そんな街を闘歩するユズとキラリ。 キラリは子供のように杖をぶんぶん振っていた。
 
 「だーれに魔法をかけようかなーっと」
 「うーん......まずどんな魔法使うかなんだよなぁ」
 「気軽にやっちゃおうよ、こんな機会滅多に無いし......お、あの2匹組は」
 「ん? ......あ!」
 
 2匹の目線の先にあったのは、ポニータの鮮やかなパステルカラーの立髪と、ロコンの白いふわふわした尻尾。 いい意味でとても目立つそれらに向かい、ユズとキラリは駆けだした。
 
 「おーい! イリータ、オロルー!」
 「......あら、あなた達」
 「こんばんは......かな?」
 「こんばんはだね、ユズ、キラリ。 ......君達はハロウィンかい? 仮装似合うね」
 「ありがとオロル! 2匹は? 依頼終わったとこ?」
 「ええ。 でもハロウィンは行かないわよ。 明日の依頼の準備もあるし、遊んでるわけには」
 「えええもったいない!」
 「まあ仕方ないよ......依頼も疎かには出来ないし、仮装の準備もしてないし」
 「依頼疎かにする事はないと思うけどなぁ......逆にこういうのも気分転換になりそうなのに」
 
 残念がるキラリを横目に、ユズは少し考えた後に1つ閃く。
 
 「......そうだ!」
 「? どうしたのよユズ......?」
 「今から仮装出来るんだったら、参加できるんだよね? 時間も省ける」
 「まあ、それはそうだけど......」
 「よし、なら任せて。 ......ま、魔法の杖よ、イリータとオロルを仮装させて!」
 
 キラリと比べ少し言葉がぎこちないが、魔法は問題なく発動したようだ。 光は2匹を包み込み......光が晴れた後、イリータはお姫様、オロルは王子様のようないでたちになっていた。 ユズ達の時と同じく、杖は2匹にぴったりな仮装を選んでくれたのだ。

 「お、お姫様の仮装......?」
 「......へぇ、凄いじゃん君達、本当の魔法使いになっちゃうなんて!」
 「えへへ......あ、ありがとう。 今日偶然ダンジョンで杖見つけて」
 「ふうん......興味深いものがあるじゃない。 メカニズムがどうかなのかはわからないから後で私もじっくり見させてもらいたいけど......今日ぐらいは確かに楽しむのもいいかもね」
 「やったぁ! お互い楽しもう!」
 「まあライバルという関係を乱すつもりはないから。 お菓子の数で勝負といこうじゃない」
 「望むところだー!」
 
 燃え上がる2匹に気圧されたのか、ユズとオロルは何故か隅で小声で話す。

 「......イリータノリノリじゃない?」
 「......表には出してなかったけど、ハロウィン行きたそうだったからね......体の弱さのこともあって昔は中々行ける機会無かったらしいけど、依頼の方が大事だって無理矢理自分を納得させてたのかも。 ......だからまあ、本当にありがとうね」
 「お礼言われることじゃないよ。 まあ勝負も仕掛けられちゃったことだし......お互い頑張ろう」
 「勿論! 持ちきれないくらい貰ってみせるよ」

 キラリとイリータの間にあるのが見え見えの闘志なら、こちらは静かに隠れながらも燃えている闘志だろう。 勝負を取り付けたというのもあり、これ以上ゆっくり話す暇は無かった。 ばいばいと別れの言葉を告げる。 離れていく中で、2匹は妙にやる気を感じるイリータの背中をどこか可愛らしく感じた。 最初に出会った時とは雲泥の差だ、と笑みを抑えられない。 ......まあ、これも彼女の本来の姿なのだろう。


 
 
 
 
 
 
 そこから、2匹は着々とお菓子を集めて行った。 大人達は結構皆寛大で、トリックという言葉も言い終わらないうちにはいどうぞとお菓子を差し出してくる。 なんという平和な世界だろう。 魔法の杖も宝の持ち腐れになりかけていた。
 
 「ん、ユズ、あれって......」
 「? ......あ、ケイジュさん!」
 
 そんな中、2匹はのんびりと佇むインテレオン......ケイジュの姿を見た。 別に仮装をするわけでもなく、のんびりと椅子に座ってたたずんでいる。 自分達の姿を見せるのもいいかもしれないと思い、2匹は今度はそちらに足を向けた。
 
 そして勿論、ハロウィンならではの言葉も忘れない。 忘れるわけがない。

 「ケイジュさんー! トリックオアトリート! お菓子くださいなー!」
 「おお、ユズさん、キラリさん......あなた達も仮装ですか」
 「魔法使いの仮装でして......ケイジュさんは仮装しないんですか?」
 「私は一応大人なので、あげる立場ですからねぇ......。 というわけでどうぞ。 さっき買ったキャンディですが」
 「ありがとうございます......ん? キラリ?」

 キラリの顔は、少し不機嫌そうだった。 ケイジュは何かあったのかと少し慌てて聞く。
 
 「ど、どうしました? キャンディ嫌いとか」
 「いや大好きだけども......なんか平和だなぁって。 ハロウィンといえばいたずらっていうのもあるしいたずらもちょびっとしたいんだよなぁ......せっかく魔法の杖もあるし、色々やりたいんだけど。 でも断るようなポケモンなんて」
 「いるじゃないですか」
 「え?」
 「絶対にお菓子なんか渡さないしなんなら持ってないし、こういう喧騒から距離を置きそうな悪戯しがいのあるポケモン。 あなた達ならご存知なのでは?」

 不敵な笑みを浮かべて言うケイジュ。 2匹は首を傾げて考えた。 ......するとキラリは思いついたようで、「あっ」と間抜けな声がするりと出てくる。
 
 「......思いつきましたか。 まあ気が向いたら存分にやってくるがいいですよ」
 「そうだね......いたずらするとするなら......あれだっ!」
 「ええ、本当にやるの......? というかケイジュさんも、いたずらって勧めちゃっていいものなの?」
 「まあ他のポケモンになら躊躇はしますが......正直私は彼が大嫌いなので。 寧ろ悪戯を喰らえばいい」
 「は、はぁ......」
 
 そう嬉々として言い放つケイジュに対して、ユズは少し動揺する。 かなり腹黒いところもあるのだろうか......? まあそれはそれで彼のポケモン味を感じられるのだが。
 そんな中、やっと本格的なハロウィンらしいことができると盛り上がるキラリは、一足先に歩き出そうとしていた。
 
 「ありがとケイジュさん行ってみる! 多分宿屋にいるよね!」
 「恐らくそうです、ご武運を〜」
 「......いいのかなぁ」
 
 そう言いつつもユズもキラリについていく他はない。 ケイジュはそんなユズの心情も知らず、ひらひらと優しく手を振っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ユズ、察しはつくよね? 相手がジュリさんだって」
 「もちろん。 ......というかいたずらするといっても何するの?」
 「案は浮かんだ! ジュリさんってジュナイパーでしょ? 羽あるでしょ?」
 「う、うん」
 
 キラリは不敵な笑みのまま続ける。
 
 「ジュリさんと入れ替わってみたら彼の羽で飛べるんじゃないかなぁーって」
 「でも許可......」
 「こんな時には魔法の言葉がある!」

 ああ、これはもう止まらない。 キラリがよく見せる頑固さは、よくも悪くもとても固いのだ。 多分、ユズでも止められない。
 
 (ジュリさん、先に謝ります......ごめんなさい)
 
 誰にも聞かれていないのにも関わらず、ユズは謝罪の言葉を唱えた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ジュリさーん、トリックオアトリート!! おかしちょ」
 「断る」
 
 ......宿屋のドアを開けた直後の第一声がこれだった。 一瞬の出来事に硬直しかけるが、キラリは気を取り直して杖を構えた。

 「ふふっふ......そう言うと思った! いたずら執行! 魔法の杖よ、私とジュリさん入れ替わらせろ〜!」
 「はっ!?」
 「あっキラリ待って......」

 ユズの声は一足遅かった。 待ってましたと言わんばかりに、魔法の杖がぴかーと輝き出す。 その眩さに、3匹は思わず目を塞いでしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ......少し経っただろうか。
 恐る恐る目を開けてみるキラリだったが、やはりそこには違和感があった。 目線があまりにも高い。 体の感覚がいつもと違う。 極め付けとしては、自分の体をまじまじと見てみた時の光景。
 
 「これって......」
 
 いつもとは違う挙動に対して「成功した」......とユズは口を開きかけたが、隣のポケモンの顔がさーっと青ざめるのを見て何も言えなくなってしまった。


 「......は、はああああああっ!?」

 沈黙を破る叫び。 キラリのいつもの声がちょっぴり低く感じる。 少し吊り目になったチラーミィ......恐らく中身はジュリだが......は、ユズの服を鷲掴みにする。 普段のキラリからは絶対出ない言葉を至近距離で浴びせられる。 怒りの形相で。

 「待ておい貴様ら何をした今すぐ吐けっ!!戻せっ!!」
 「ご、ごめんなさい! 私も一応止めたんだけど、聞かなくて......キラリの気が済んだら多分戻るから......」
 「気が済むって......」
 
 ジュリは中身がキラリのジュナイパーを睨み付ける。 流石に長時間では絶対に殺されると悟り、キラリは早々に目的を果たそうとする。

 「うっ......ごめんなさいジュリさん!! 1回だけ!1回だけだから!!」
 「何がだ......もういい、怒る気力も失せる」

 ふいっとそっぽを向いてしまう。 正直チラーミィの体でそれをやられてもかわいい他ないのだが......ユズは口をつぐんだ。
 キラリはそんなことも気にせず、窓を開けて構える。
 
 「それでは......レッツ、フライっ!!」
  
 
 
 
 結果としては......高く飛ぶ、というのは全然出来ていなかった。 低空飛行で素早く飛ぶくらいならやれるのだが、夢見ていたような光景にはならない。
 わいのわいのやってる中で全てを察したのか、ジュリは冷めた目でキラリに告げる。

 「......おいチラーミィ。 俺の体を返せ。 何を勘違いしていたかは知らんが、俺は[そらをとぶ]は覚えないんだ。 そういうこともちゃんと確認しろよ......大迷惑だ今すぐ戻せ」
 「うぐっ......ごめんなさい......杖、お願い」
 
 反省したのか、速やかに体を元に戻す。 おてんば魔法使いの行進にブレーキがかかった瞬間だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「うーん、飛びたかったなぁ......」
 「仕方ないよ、流石にあれは度が過ぎてたからね......当然の報いってやつかも」
 「だよねぇ......慎重にやります」
 
 少ししょぼんとするキラリ。 反省している様子は見るだけで伝わってくるので、ユズはその頭を葉っぱで撫でてやる。
 その時、背後から声がした。
 
 「ほほう、随分可愛らしい魔法使いじゃねーの」
 「ん......あ、レオンおじさん......それドラキュア? 普通に似合わない」
 「普通に似合わないは酷くね?? せめて普通にイケメンだろ」
 「それはないかなぁ」
 
 ずばりと返されてしまったレオンは、うなだれて少し落ち込む。 ずーんという効果音がよく似合った。
 
 「お前ら、正直者なのはいいんだけどもう少し大人の気遣いってやつ覚えような......」
 
 そう言うなり、レオンは今度は杖の方に意識を向けてきた。
 
 「......気を取り直して。 それ魔法の杖か? なかなか仮装凝ってるじゃん」
 「あっこれ実は本物で......」
 「へー、凄いじゃんか。 ダンジョンとかで拾ったとか?」
 「そんなとこー」
 「そりゃグッドなタイミングで来たなぁ......そうだ!」
 
 レオンが一つ提案をしてきた。 ワクワクに満ちた顔は、どこか無邪気さがある。
 
 「......流星群とか降らせられるか? ハロウィンの夜の流星群とかロマンあるだろ」
 「ええ!? ドラゴンタイプの究極技なのに!?」
 「うーん無理かぁ......まあでも、何かしらはっちゃけてやってみるのもいいんじゃないか? 勿論、誰かを喜ばせるような内容で。
 せっかくの魔法だろ? いい方向で使ってみないと損だろ」
 
 2匹ははっとする。 確かに、魔法の使い道はいたずらだけではないのだ。 みんなを喜ばせられるかもしれないし、ジュリに対してのお詫びにもなるかもしれないし。
 2匹は同時に閃いた。 ......最初にお尋ね者を追いかけた時のような、気持ちがシンクロする感覚だった。
 そして同時に頷き、レオンの方へ向き直る。
 
 「おじさん、あの......!」
 「なんだ?」
 
 ユズは勇気を振り絞り言う。

 「お願いしたいことがあって」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「あーーっ! 空に何かあるぞー!!」
 
 レオンは思い切り空に向かい叫ぶ。 これこそがユズがお願いしたい内容だった。 棒読みだったし、注目されるしでレオンは恥ずかしいことこの上ない。 しかし、彼の恥ずかしさはすぐに解消されることとなる。
 
 「ママ、あれ見てー!」
 「? 流れ星?」
 
 空を横切る1本の線。 それが幾度も重なれば、勘のいい者はすぐに気づく。 街には少し違う騒めきが溢れた。 内容を知らないレオンも、何が始まるのかと興味深々だ。
 その頃、空の上では。
 
 「......ユズ、気づかれてないよね?」
 「大丈夫、闇にちゃんと隠れてる」
 
 杖で出してみた魔法のほうきにまたがった2匹は、空を高く飛んでいたのだ。 ......最初からこうすればキラリの望みは叶ったんじゃないかとユズは思ったが、言わないことにしておいた。 今は、「ハロウィンにみんなに幸せを与える魔法使い」になるべく、頑張るべき時なのだから。
 空に、キラリの[スピードスター]を操り星座を描くという方法で!
 
 
 「なら良かった......魔法使いは姿を見られないものだもん」
 「そうなの?」
 「そうなの! ......じゃあ、やろう!」
 「うん!」
 
 2匹は一度てんでバラバラに分かれた。 そしてキラリが大量の[スピードスター]をばら撒き、それを魔法の力で一定の形に固定する。 時にはかぼちゃ、時にはお化け、時には少し難易度を上げてフランケンシュタイン。
 ポケモン達の目はそれに惹かれ、意識が吸い込まれていく。
 
 「イリータ、あれって」
 「技......いや、それとは違うかしら」
 「......魔法みたい、ですね」
 「......あいつら......」
 「ふうん......これがあいつらのやり方ねぇ、面白いじゃねぇの」
 
 少し違う面持ちで眺める、「魔法使いの正体」を知る5匹も、他のポケモンと変わらずその光景に目を奪われていた。
 
 
 集中していて2匹は暫く気づかずいたが、街には歓声が溢れていた。 「まほうつかいだー!」と空を指差し叫ぶ子供もいた。 その魔法使いが、まさかいつも同じ街にいるポケモンだとは思わないだろうけど。
 
 そして、2匹はもう一度集い、杖に最大限の力を込めた。 キラリの杖の光が薄桃色、ユズの杖の光が水色になり、杖の先から出た光は一点に収束していく。 そして、ある程度大きくなったところで......
 タイミングを見て、その光を思う存分ばら撒く!!
 
 「......[星の花火]っ!!」
 
 空に、鮮やかな大輪の花が咲いた。街全体を包み込む勢いの花だった。 ハロウィンという趣旨からは少し逸れるかもしれないとしても......
 ただただ美しい。 そんな光景だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 流石にこれは疲れたようで、ユズとキラリは静かに地上に降りる。 降りたところにも拍手と歓声が響いていて、2匹はぐっとガッツポーズをした。 きらびやかに空を照らした、ハロウィンに現れる魔法使い。 ......なんとロマンが溢れることだろう。
 
 
 これで、「ハロウィンに魔法使いになってやりたいこと」は全て消化した。 2匹はそんな風に思った。 そうなるほど力を振り絞ったし、疲れたし......何より、冷たい風を切って空を泳ぎ、星達をあらゆる形へと組み替える。 それ自体がとてもとても......清々しいものだったのだから。
 
 それに、謎だらけの魔法使いとして、ハロウィンを終えるのもまた一興だろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ぶわああ疲れたあ!」
 
 家にそのまま戻り、キラリは玄関に倒れる。
 
 「確かに疲れたよね......今日はこのまま寝ちゃおう。 多分お菓子勝負負けちゃうけど......」
 「あっそうだお菓子! ......でも、まあいいか......今回は。 お菓子以上に甘い思い出ゲットしたし!」
 「そうだね......! 苦いものもあったけど」
 「だあああケイジュさん許すまじ!」
 「いやキラリの責任もあるでしょ......私もだけどさ」
 
 杖をリビングの机に置くキラリ。 まるで家族の一員のようにその杖を撫でていた。 「頑張ったねぇ」と言いながら。 キラリの優しさは杖にまで及ぶのか。

 

 とはいえ、ユズもキラリの気持ちはわかった。 どこか愛おしく感じるのだ。 今夜の濃い思い出が、この一身に詰まっている気がして。 どこかほんのりと暖かみがある杖を握り、ユズはふっと呟く。
魔法かと言われると違うけれど、それでも、杖に何かしら願掛けするのもいいかもしれない......そう思ったのだ。
 
 
 
 ......来年も、こんな賑やかなハロウィンになりますように。
 
 
 
 静かに願ったからだろうが、杖は強くは光らなかった。だけどほんのりと、ユズの手にある銀色の杖は、優しいオレンジの光を放った。 まるで、来年新たに生まれるジャックオランタンの、子供を見つめる温かい瞳を予感させるような。

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