ぽけすく十五周年おめでとう!

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作者:坑/48095
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読了時間目安:7分
 ビデオ通話の向こうはエジプトだった。
 まさに豪華絢爛、まるで何かのお祝いのような装飾の施された、途方もなく広々とした部屋。実際にはお祝いでなくてもそこは常に宝物だらけでおめでたく煌びやかなのだろう。ようするに異国の金持ち屋敷である。そんな部屋の果てに見えた外の景色は屋外プールで、そして更に遠くの背景には黄金色の砂漠が広がっていた。エジプトとの時差は七時間なので、あちらは朝、こちらは夕方の手前だ。
「ユウスケ! 十五周年おめでとう!」
 エジプトの友人エサム(彼自身もまた、とてもおめでたい少年である)が画面の向こうで手をたたいた。
「お、おめでとう。……で、いいのかな?」
 僕たちがこんな挨拶をするのはいまひとつ可笑しい気もする。エサムのお尻の下でメタグロスも挨拶したのが聞こえた。ところでそれは椅子にするには硬そうだ。メタグロスの声に、こちらのリリーラもぱさぱさと頭を揺らした。
 ポケモン小説スクエアがめでたく十五周年を迎えたのだ。この数え方に合わせると新入りの僕らはたったの一歳くらいで、だから実感はあまりないのだけど。

 ハジツゲタウンからミナモシティ、そしてここトクサネシティまではるばるやってきたという蓮君と京太君は、砂浜を跳ね回るホエルコを追いかけ回している。彼ら以上に、保護者みたく連れ立っていた浩介さん、玲司さんという二人の大人が、ホエルコに騎乗して子供みたいに遊び転げている。上に乗られたホエルコもそうでないホエルコもざっと十五匹ほどが競い合うように激しく跳び交っている。酔いそうだし、落ちそうだ。
「エジプトにホエルコはいる?」トクサネの砂浜から僕は聞いてみる。
「見たことないよ。ナイルならいるかも」
「川にはいないんじゃないかな、流石に」
 だけどエジプトのことだから、何があっても不思議じゃないような気もする。砂の海にホエルオーの島が浮かんでいたって驚かない。いや十分に驚くとは思うけど、なんだかんだで納得してしまうんだろう。なんたって、エジプトなのだから。
「ナイルリバー! エジプト観光もいいんじゃない!」
 僕らの通話が聞こえたのだろう。僕と同じくホエールウォッチングをしていた近くのおばあさんの二人組が反応した。
「あんな暑いところに行ったらミイラになってしまうわ」
「今更よ今更! 今だってほとんど同じようなもんじゃないの!」
「こんなところで大声で高齢者ギャグ言わないでちょうだい、もう」
 騒がしくしちゃってごめんなさいねと片方のおばあさんがはにかんだ。

「もう……だめだ……」
 ホエルコでさんざん暴れ馬体験して疲弊しきった玲司さんが砂浜にぐったりと転がった。
「大丈夫ですか」
 彼らがトクサネシティに到着したときもやはりこの玲司さんが船酔いしていて、たまたま近くを通りかかった僕が介抱を手伝ったのだった。それからしばらくも経たないうちにこれである。
「あーあーあー」
 浩介さんがしなやかな体躯にも関わらず玲司さんを軽々と抱き上げると、その弾みで彼のかけていたサングラスが落ちた。
「こいつホテル連れてくんであいつらのこと見ててもらっても?」
 僕が頷くと浩介さんはついていくと言い出した少年二人を制して、男一人抱えていることなど感じさせない颯爽さで去っていった。見た目にそぐわぬ怪力と、何よりあのサングラスを外した顔。ポケモンコンテストの有名人、大羽浩介その人だった。

 エサムがお〜いと呼ぶ声で気づいた。それまでホエルコを見せていたカメラがあらぬほうに向いていた。
「大丈夫?」
「ん、ああ、うん」
 遊び疲れて海に帰るホエルコや、ちょっと休憩というふうに砂浜の上でお腹を見せて転がるホエルコ。とりあえずホエルコの上下するふかふかのお腹を映してみる。
「だれと話してるの?」
 大羽浩介に置いていかれた蓮君と京太君がこちらにやってきた。エサムがアッサラーム(こんにちは)と声を張った。
「エジプトの友達、エサムって言うんだ」
「えじぷとぉ?」
 二人が顔を見合わせる。あまりに遠い国の名前に、僕が冗談を言っていると思ったのだろう。僕だって時々そう思う。
 インカメラにして、手を振るエサムを彼らにも見せる。すげーほんものだー(本物?)とか、ほんとにエジプト人? とか、そのメタグロス生きてる? とか言っている。それに反応したメタグロスがエサムを乗せたまま浮遊して見せた。それでエサムが空飛ぶ絨毯に乗っている人みたいな按配になって可笑しかった。
「ユウスケのリリーラもエジプト人だよ」
 エサムがそんなことを言う。確かにリリーラははるばるエジプトから来た化石で、間違ってはいないけどすごく妙な感じがしてまた笑えた。
「エジプトって、あれだ! ピラミッド!」
「スフィンクス!」
 蓮君と京太君が言い合う。冗談みたいに離れた土地の、冗談みたいな昔の、まったく冗談としか思えない巨大建造物。遠巻きとはいえこの目で見てきたのに、それでも実在していることを時々疑ってしまうのだ。
「そうだ! 知ってた? ポケスクが十五周年なんだよ!」エサムが言う。
「ぽけすく? へー!」
「十五周年!」
 ぽけすくというのが何者か理解しているか怪しいところだけど、すげーと感心する二人。
「十五周年おめでとう!」
「ぽけすく十五周年おめでとう!」
「おめでとう!」
 エサムに続き蓮君も京太君も口々に言うので僕もつられた。頭の端で別のことを考えながら。
 七時間も時差があるくらい離れた土地があって、そのくらい世界は広くて。ピラミッドやスフィンクスが過ごしてきた歴史は何千年もあって、リリーラはその更に太古の昔を生きていて、それらと比べると十五年というのはきっと一瞬で。
 広大な時間のほんの一瞬に居合わせること、その記念日を一緒に言祝ぐことができるという歓びは何より貴重な宝物だなと思った。
 いえーい! いつのまにか京太君がリリーラを抱え上げていた。お祝いに使うクラッカーに見えなくもない格好でリリーラも触手をぱしぱし鳴らしている。
 ポケモン小説スクエア、十五周年おめでとうございます!
 前の二人に感化されました。(春さん、きとらさん、すばらしかったです!)
 この話の登場人物は、ポケスクに投稿している『エジプトから来た化石』『無数の星の中で』『70歳からのバトルフロンティア』(これはまだポケスクに投稿していなかったことに後から気づきました)より。
 ご興味があったらぜひ(なんとダイレクトマーケティング)!

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